Act.9-385 ペドレリーア大陸・ラスパーツィ大陸臨時班派遣再始動〜スクライブギルド編〜 File.4 scene.7
<三人称全知視点>
アンブローズ男爵領にはスタンピードを発生させるような土壌はない。
しかし、迷宮も魔物の住む森もないこのアンブローズ男爵領に突如として魔物の軍勢が現れ、一つの村が蹂躙された。
その後、魔物による被害拡大を恐れたアンブローズ男爵はすぐさま領軍を派遣すると、領軍の活躍により魔物達は瞬く間に全滅し、アンブローズ男爵領は再び平穏を取り戻すこととなった。
……あまりにもでき過ぎた話だ。スザンナはかつてを振り返り、あの村の蹂躙事件が闇の魔法を求めたアンブローズ男爵が闇の魔法の会得と引き換えに村を生贄に差し出した結果なのではないかと予想していた。
確かに、そう考えれば辻褄は合う。『這い寄る混沌の蛇』にとって呪われた地と呼ばれるこの廃村は重要施設を置くに打ってつけの場所だったのだろう。
しかし、ここで一つの疑問が浮上する。
一つの村を滅ぼしてしまうほどのスタンピードを生じさせるほどの魔物が果たしてどこから生じたのだろうか? もし、自然発生したとなればあまりにも『這い寄る混沌の蛇』とアンブローズ男爵にとって都合が良過ぎる話だ。
その答えがスザンナにはずっと分からなかった。
「……この村を滅ぼしたスタンピードは貴様の仕業か、ペラギア」
「流石の頭の回転ですわね。ええ、その通り――私がアンブローズ男爵と取引を行い、配下の魔物達で大蹂躙を引き起こしました」
純白の氷爪熊や氷魔の達眼などブライトネス王国国内では見かけない魔物が僅かに混じっているものの、基本的にはブライトネス王国国内でも見かける平均的な魔物達だ。
特筆すべき戦力も特にいる訳ではない。今のヴェモンハルト達であれば突破は容易だろう。
しかし、それはヴェモンハルト達ほど戦闘能力を持つ者達に限った話だ。戦闘の経験がない村人達がこの圧倒的な数の暴力に襲われれば抵抗する間も無く蹂躙されてしまうだろう。
「――先に魔物達を討伐してしまった方が良さそうですね。火焔爆矢」
ペラギア攻略の鍵は彼女の魔物を殲滅することにあると純白の氷爪熊と氷魔の達眼の力で「クリムゾン・プロージョン」が無効化された瞬間に悟ったジェルメーヌは誰よりも早く魔物の討伐……と、施設破壊に動き出した。
エイフィリプ時代から得意としている命中と同時に爆発する炎の矢を放つ火属性魔法を次々と発動し、魔物の群れと印刷機を破壊していく。
「――ッ! あの女を止めなさいッ!」
ペラギアはジェルメーヌを止めようと魔物達を嗾けるも、ジェルメーヌは見気と紙躱を駆使して巧みに攻撃を躱していくためジェルメーヌによる被害は拡大するばかりだ。
「真なる凍結」
「骨喰の焔華・焔球よ〜!」
「魔導武装。――さあ、エレガントに切り伏せてあげよう! 分子裁断!」
「酸性雨……酸性槍」
「クマの廻撃」
「高速錬金術式――武装硬化」
「叢雨忍術・篠突く手裏剣」
しかし、ここでアゴーギク達がジェルメーヌに僅かに遅れて魔物達の討伐を開始する。
【ブライトネス王家の裏の杖】の面々の参戦で形勢は一気に逆転し、魔物達は瞬く間に数を減らしていった。
「――ッ! 流石に多種族同盟の精鋭には通用しないということですか。……仕方がありませんわね。全員は倒せなくてもヴェモンハルトとスザンナ――二人は確実に落として見せます! 純白の氷爪熊! 氷魔の達眼! 全力で援護なさい! 『絶望者の反転』――反転の光散爆!!」
今の戦力で【ブライトネス王家の裏の杖】とジェルメーヌを全滅に追い込むことが不可能と察したペラギアは刺し違える覚悟を決めてヴェモンハルトとスザンナに狙いを定めた。
絶望を与えて闇堕ちさせる特殊な能力『絶望堕ち』の技術を応用して属性を反転させる『絶望者の反転』を用いて自身の有する光属性の魔力を反転させたペラギアはヴェモンハルトとスザンナの目の前に黒い光の塊を出現させ、一気に炸裂させる。
ヴェモンハルトとスザンナは咄嗟に武装闘気を纏って防御を固めるも完全に防ぎ切ることはできずにダメージを負う。
「絶望の散光条!」
ペラギアはヴェモンハルト達がダメージを負ったのを目視して攻撃が通用することを確信、間髪入れずに無数の闇に染まった光条を放つ。
しかし、先ほどの攻撃でペラギアの攻撃パターンを掴んだヴェモンハルトとスザンナは見気と紙躱を使って無数の光条を躱し、一気にペラギアと距離を詰める。
「「共振共鳴――クリムゾン・プロージョン!!」」
「アハハハハハ! 無駄ですわよ! その魔法は一度防いでみせたわ! 私には通用しない!」
勝ち誇ったように高笑いを上げつつ、無数の光条を解き放つペラギア。
しかし、次の瞬間――ペラギアの表情は凍り付いた。
ペラギアは純白の氷爪熊と氷魔の達眼に自身に「クリムゾン・プロージョン」が撃たれた場合に冷気で温度を低下させて無効化するように命令を下していた。
しかし、ヴェモンハルト達が狙いを定めたのはペラギアではなく純白の氷爪熊と氷魔の達眼――配下の魔物達だった。
ペラギアに冷気魔法を使用するために魔法発動の準備を整えていた魔物達はまさか自分達が攻撃されるとは想定すらしていなかったため、対処が間に合わずにあっさりと「クリムゾン・プロージョン」をその身に浴びて無数の肉片を散らせる。
「さて、これでお前を『クリムゾン・プロージョン』を防ぐ手立ては完全に無くなった訳だが、どうする?」
「知れたことよ! 死滅の光波!!」
「――遅いッ!」
ペラギアはヴェモンハルトとスザンナが「クリムゾン・プロージョン」を使う前に即死魔法で仕留めてしまえば良いと言わんばかりに両手から即死魔法の光条を放つ。
ヴェモンハルトとスザンナはペラギアが最後の悪足搔きを仕掛けてくると読み、刹那の神闘気を纏った状態で俊身を使用し、即死魔法の光条から逃れると二人同時に魔法を発動した。
「「クリムゾン・プロージョン!!」」
ペラギアの見気の索敵能力を完全に振り切る速度で魔法を回避され、完全にヴェモンハルト達を見失ったペラギアに「クリムゾン・プロージョン」が炸裂し、ペラギアの身体は無数の肉片と化して四散した。
◆
ペラギアの討伐が完了してから数分後、配下の魔物達もアゴーギク達の手によって無事殲滅がなされた。
並行して行われていた印刷機の破壊も無事に終わり、これをもってアンブローズ男爵領のスクライブギルドの施設破壊が無事に完了した。
「スザンナ様、アンブローズ男爵領の領主館に派遣されていた諜報員から連絡が入りましたわ。現時刻をもってアンブローズ男爵領の領主館の制圧が完了――領主館に潜入していた信徒二名を含め、討伐対象者は全て殲滅したとのことです」
「報告ありがとう……終わったな」
長きに渡るアンブローズ男爵との因縁――その終止符がこの瞬間打たれたことをようやく実感したスザンナの言葉は無音のスクライブギルドの跡地にしみじみと響いた。
「アンブローズ男爵邸で保護した方々はブライトネス王国にある屋敷の一つにお送り致しました。今回の件に関する事情をできる範囲で説明した後、それぞれ身の振り方を決めて頂くことになります。勿論、彼女達の生活を破壊した責任はありますから、支援は惜しみませんわ」
「今回の件は私の私怨も含まれていた。流石に責任をビオラに取ってもらうのは申し訳ないのだが」
「私は圓様よりその旨伝えることを仰せつかっているだけですので、私にではなく圓様に直接直談判してくださいませ」
「……ジェルメーヌ殿からもお願いして頂くことはできないだろうか?」
スザンナは一縷の望みを賭けてジェルメーヌに尋ねるも、ジェルメーヌは古拙の笑みを浮かべて華麗にスルー。
最高難易度の交渉に一人で臨むことが決定してしまったスザンナは項垂れた。
「恐らく、アンブローズ男爵の死は原因不明の襲撃による不慮の事故として処理されることになりますが、寡婦となってしまった夫人や愛人達は元貴族令嬢は勿論、元平民の女性達も戻ることはできないでしょうし、子供達にとっても腐っていたとはいえ大黒柱たる男爵を失った影響はあまりにも大きい……金銭だけでどうにかなる問題ではありませんから、こちらも色々と考えていかなければなりませんね」
「私だけではできることに限りがある。申し訳ないが、そちらは知恵を貸してもらいたい」
アンブローズ男爵との戦いには終止符が打たれたが、本当の戦いはこれからである。
アンブローズ男爵の被害者達が平穏な生活を送れるようにするために、その後スザンナは圓達と協議を重ね、周囲の協力も得ながら最良の方法を模索していった。
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