Act.9-384 ペドレリーア大陸・ラスパーツィ大陸臨時班派遣再始動〜スクライブギルド編〜 File.4 scene.6
<三人称全知視点>
背教の熾天使との戦いで満足したラインヴェルド達は「俺達の仕事は終わったぜ!」と言わんばかりに撤収する圓達と共にアンブローズ男爵邸から撤退した。
追加の背教の熾天使が派遣されることもなく、ヴェモンハルト、スザンナ、アゴーギク、リサーナ、アンジェリーヌ、ヒョッドル、シュピーゲル、カトリーヌ、レインという本来のメンバーに戻った臨時班は事後処理を諜報部隊フルール・ド・アンブラルに任せてアンブローズ男爵領へと向かった。
ちなみに、同行する諜報員はジェルメーヌのみでガブリエーレとヨゼフィーネの二人はアンブローズ男爵邸での後始末に参加している。
飛空艇で目指す先はアンブローズ男爵領の廃村――ユナイクの記憶によればそこにスクライブギルドへ通じる入り口があるらしい。
ヴェモンハルト達の任務はその入り口からスクライブギルド内部に侵入し、施設破壊を行うことだ。
本来であればスクライブギルド制圧と同時並行で行う予定であったアンブローズ男爵領の領主館の制圧については諜報部隊フルール・ド・アンブラルの諜報員達が引き受けてくれることになったのでスザンナ達に出番はない。
「……何の変哲もない廃村だな」
「魔物のスタンピードによって滅ぼされ、その後、復興をせずに放置された場所のようですね。かつて村長邸として使われていた屋敷にスクライブギルドの入り口があるようです」
スザンナが幼少の頃に起きたアンブローズ男爵領のスタンピードにより、一つの村が滅んだ。
幸い、その後すぐに魔物のスタンピードは領軍によって制圧されたものの村人は全員死に絶えてしまったため、ユナイクは村の復興を早々に諦めて廃村を放置した。
その後、次第に呪われた村という噂が広まり、誰も寄り付かない場所となっていたこの村は『這い寄る混沌の蛇』が重要施設を置くにはまさに打ってつけの場所だったのだろう。
「いや、そもそも順序が逆だったのかもしれないな。『這い寄る混沌の蛇』の重要施設を置くために運良くスタンピードで滅んだ村が呪われているという噂を流した可能性がないとは言い切れない。寧ろ、出来過ぎなくらい『這い寄る混沌の蛇』に都合が良い条件が揃い過ぎているところを踏まえると、こっちの方が可能性が高いように思えてくる。それに、村一つを滅ぼすほどのスタンピードを領軍があっさりと殲滅したというのもよくよく考えれば出来過ぎている。……ユナイクが元々『這い寄る混沌の蛇』と手を結び、闇の魔法の習得方法を教授してもらう対価として村一つを差し出した可能性もないとは言い切れないッ! ユナイクは一体いつから『這い寄る混沌の蛇』と組んでいたんだ!」
「でも、なんで闇の魔法を会得したのにアンブローズ男爵はそれを公表しなかったのかしら? 望んだ通り、魔力も魔法も手に入ったのよね?」
「アンジェリーヌさん、今でこそ『E・M・A・S』の技術で基本的に誰でも扱えるようにこそなっていますが、純正の闇魔法といえばラピスラズリ公爵家を含め扱えるのはごく一部に限られますからね。同じくらい希少な光魔法と比べれば儀式という選択肢があるだけマシですが、その儀式もブライトネス王国が禁忌に指定しているものです。闇の魔法を後天的に習得したとなれば犯罪に手を染めたことを自白しているようなものですからね、別の方法で魔法の使い手を生み出す必要があったのでしょう」
アンジェリーヌの問いに答えたのはシュピーゲルだった。
圓と出会う以前ならば容易に気づくことができた筈のその答えにアンジェリーヌは「私の感覚も随分と麻痺してしまったわね」と苦笑いを浮かべる。
「どちらにしろ些細な問題ですわ。過去は変えられない……いえ、変えようと思えば変えられますが、圓様はそれを望んでおりませんからね。重要なのは、これから何を為すかです。アンブローズ男爵を倒し、『這い寄る混沌の蛇』のスクライブギルドを潰せば確実にブライトネス王国内での『這い寄る混沌の蛇』の影響力は減らせる筈です」
「ジェルメーヌさんの言う通りですね。まずはスクライブギルドの制圧に全力を注ぎましょう」
◆
石造りの村長邸は蔓草に覆われた廃墟と化していた。
壁の一部が破壊され、屋敷の周辺な屋敷の中には多くの白骨化した死体が野晒しにされている。魔物のスタンピードに遭遇し、自らの身を守るために最も安全な村長邸に逃げ込もうとして途中で力尽きた者達と、何とか屋敷に辿り着いたもののスタンピードによって屋敷を破壊されて命を落とした者達の無念の結晶に祈りを捧げてからヴェモンハルト達は見気で発見した入り口を使い、スクライブギルドへと潜入する。
「……死体を弔わずに放置しておけるなんて、やっぱり『這い寄る混沌の蛇』の感覚はおかしい」
「率先して秩序を破壊し、多くの血を流すことを是とする連中の感覚が私達と同じ筈がありませんわ」
リサーナの零した感想にカトリーヌが同意する。……まあ、リサーナ達も国家の安寧を揺るがす者を滅ぼす【ブライトネス王家の裏の杖】――殺人に全く手を染めていないという訳でもないので、『這い寄る混沌の蛇』を非難できる立場にあるかどうかは微妙だが。
「……地下はしっかりと整備されているようですね。死者の弔いをしていなかったのは、スタンピードで滅んだ廃村が綺麗過ぎることから何者かが潜伏している可能性を疑われることを恐れたからかもしれませんね」
領主により放置された廃村で呪われた村という噂も流布している。しかし、それでも足を踏み入れる者がいないとは言えない。
放置された村の遺体がもし、しっかりと埋葬されていることを発見されたら何かしらの疑惑を持たれる可能性もないとは言い切れない。
『這い寄る混沌の蛇』が単に悪趣味という訳ではなく、不都合な事態に直面することを避けるためにあえて廃村をそのままにした可能性もあるのではないか――そんなことを考えつつジェルメーヌはヴェモンハルト達と共に村長邸の一室の床下に隠されていた石階段をジェルメーヌを降りていく。
地下空間には灯りが一切なく暗闇に包まれていたが、見気を使えるヴェモンハルト達には地下空間が高い建築技術でしっかりと整備されていることが分かった。
念の為に魔法で火球を作り出して灯りにしながら一行は地下へ地下へと進んでいく。
「しかし、何故、これだけ高い技術力を持ちながら燭台などが用意されていないのでしょうか?」
「どうやら他のスクライブギルドにも燭台の類は一切置かれてはいなかったようです。彼らは火の神――『太陽の神』と敵対する邪教を崇める宗教団体という側面も持ちますから、彼らが意図的に置かなかった可能性もないとは言い切れませんね」
シュピーゲルの問いにジェルメーヌが他の諜報員達から得た情報を交えつつ推理を述べる。
とはいえ、これはあくまで推理――実際に、『這い寄る混沌の蛇』の信徒ではないジェルメーヌには真相は分からないし、分かりたいとも思わない。
「なかなか良い推理ですわね。我らが神は文明の象徴たる火を嫌う……そのため、少々面倒ではありますが、こうして古くは幻灯蟲と呼ばれる虫を利用して光を灯していたのですよ。これはこれで幻想的でなかなか素晴らしいものですわ。もし、我らが神殿に足を運ぶことがあれば一度見てみると良いでしょう。あれはまさに絶景ですわよ――調和を悉く冒涜するあの設計はまさに我々の教義の体現と言えるでしょう。……まあ、それは私に勝てればの話ですが」
青白い光を放つ無数の小さな虫を伴って現れたのは一見すると修道女のような衣装を纏った女性だった。
しかし、本来、貞淑を重んじるべき修道女の服を冒涜するように胸元は大きくはだけ、ワンピースのスカート部分には大胆にスリッドが入っている。
ラバー製の修道服は青い光に照らされて怪しく妖艶に光り輝いた。
「ようこそ、スクライブギルドへ。そして、ここが皆様の墓場となることでしょう。私はペラギア=カッツァヴァルト――渾沌の指徒が一人にして、皆様を死という名の救済へと導く『死の聖女』ですわ」
「生憎と我々は死ぬためにここにした訳ではない。お前を倒し、『這い寄る混沌の蛇』の重要な施設であるスクライブギルドは破壊させてもらう」
暗い空間でもガシャンコガシャンコという印刷機の駆動音からこの場で『這い寄るモノの書』』や『蛇の魔導書』が大量に複写されていることは明らかだった。
しかし、まずは確実に妨害を図ってくるペラギアを倒さなければならない。
「仕掛けますよ、スザンナ」
「「クリムゾン・プロージョン」」
ヴェモンハルトとスザンナは同時に体内の血液の液体成分である血漿が気化させ、その圧力で筋肉と皮膚が弾け飛ばす水魔法と火魔法の複合からなる対人殺傷魔法を放つ。
これまでも多くの国家に仇なす敵を葬ってきた最強の一撃――しかし、ペラギアには全くと言っていいほど通用しなかった。
「体内の血液に干渉して気化の膨張を利用して敵を内部から破壊する魔法――確かに恐ろしいですわね。でも、タネが分かっていれば対抗することも可能ですわ。さあ、始めましょうか、私の可愛い魔物達による蹂躙をね!」
冷気を生成する氷の魔物の力によって死を抜かれたペラギアは固有魔法である闇属性・空間属性複合魔法「闇より出し大襲来」によって闇の空間から連れ出した無数の魔物達をヴェモンハルト達に嗾しかけ、嫣然と笑った。
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それでは、改めまして。カオスファンタジーシリーズ第二弾を今後ともよろしくお願い致します。
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