Act.9-383 ペドレリーア大陸・ラスパーツィ大陸臨時班派遣再始動〜スクライブギルド編〜 File.4 scene.5
<三人称全知視点>
「よし、これが一番成功率が高そうだ! オルパタータダ、エイミーン! レナード作戦で行くぞ!」
そのラインヴェルドの言葉から意図を察したオルパタータダとエイミーンは刹那の神闘気を纏うと俊身を駆使してNBr-熾天-7・イヴ=マーキュリーを翻弄するように戦場を走り始める。
NBr-熾天-7・イヴ=マーキュリーを正攻法で倒す場合、霸者の気や武装闘気と組み合わせれば鉄壁の防御と化す『防御力は極めて高いが攻撃力と敏捷が低下する防御形態』の解除は必須だ。そのためには、『攻撃力は高いが防御力が紙装甲になる攻撃形態』か『敏捷が極めて高いが防御力が紙装甲になる敏捷形態』のいずれかの形態に変化させる必要がある。
しかし、『攻撃力は高いが防御力が紙装甲になる攻撃形態』の方はどのような条件で変化するのかラインヴェルド達には分からなかった。
ここまでNBr-熾天-7・イヴ=マーキュリーは何度もラインヴェルド達に攻撃をしているが、一度もこの形態に変化したことはない。
流石に変化する条件がないとは思えないが、その条件を試行錯誤しながら探し出すというのはなかなかに骨が折れる作業だ。
それでもこれが時間制限のない模擬戦であれば作戦の候補に入れることもできるだろう。しかし、今回はヴェモンハルト達が任務を終えて戻ってくるという時間制限付きのものである。
『攻撃力は高いが防御力が紙装甲になる攻撃形態』への形態変化の方法を探し出すだけでタイムリミットが来てしまう未来が容易に想像できるため、この作戦は使えない。
一方、『敏捷が極めて高いが防御力が紙装甲になる敏捷形態』への形態変化の条件は『攻撃力は高いが防御力が紙装甲になる攻撃形態』に比べて容易に想像がつく。
その方法とは俊身などの身体能力や神速闘気、刹那の神闘気などの敏捷を上昇させる力などを駆使しても追いつくことができない速度に到達することだ。
当たらない攻撃をいつまでも続けるほど背教の熾天使は愚かではない。敵を撃破できないと分かればすぐに攻撃方法を柔軟に変化させてくるだろう。
速度は上昇し、攻撃が苛烈になることは容易に想像がつくが、『防御力は極めて高いが攻撃力と敏捷が低下する防御形態』が解除されるためダメージは通りやすくなる。
先ほど述べた条件は最も確実性の高いものだが、実際はもっと簡単に『敏捷が極めて高いが防御力が紙装甲になる敏捷形態』を使わせることが可能かもしれない。
要するにNBr-熾天-7・イヴ=マーキュリーのプログラムに『敏捷が極めて高いが防御力が紙装甲になる敏捷形態』を使わせるのが最適解だと思わせれば良いのだ。
速度を上げざるを得ない状況を幾度となく作り出せば、『敏捷が極めて高いが防御力が紙装甲になる敏捷形態』に切り替えてくれる可能性は十分にある。
圓達が最も生存する確率の高い『防御力は極めて高いが攻撃力と敏捷が低下する防御形態』をできるだけ維持するようにプログラミングをしていれば『敏捷が極めて高いが防御力が紙装甲になる敏捷形態』を使わせる難易度は高まるが、そういったプログラムがなされている様子は今のところ見受けられない。
スピードで翻弄していれば『敏捷が極めて高いが防御力が紙装甲になる敏捷形態』に形態を変えてくれるだろうとラインヴェルドは考えていた。
――そして、その予想は見事に的中する。
「赫雷の流星群なのですよぉ〜!!」
俊身と刹那の神闘気を駆使して縦横無尽に戦場を駆け巡り、見気と紙躱を駆使して攻撃を躱しながらNBr-熾天-7・イヴ=マーキュリーを撹乱するラインヴェルド達に攻撃が当たらないことを悟るとNBr-熾天-7・イヴ=マーキュリーは確実にラインヴェルド達を仕留めるために接近戦を選択――ラインヴェルド達に追いつくために防御を捨てて『敏捷が極めて高いが防御力が紙装甲になる敏捷形態』に変化した。
背中の炎が完全に消え、翼が炎に包まれるという『敏捷が極めて高いが防御力が紙装甲になる敏捷形態』の特徴を確認したエイミーンは雷の魔力で赤く輝く雷の矢を生成――創り出した矢に膨大な覇王の霸気を込めるとNBr-熾天-7・イヴ=マーキュリーに向けて放つ。
赤い矢は放たれると同時に無数の雷の矢へと分裂し、NBr-熾天-7・イヴ=マーキュリーに迫る。
NBr-熾天-7・イヴ=マーキュリーは身を守ろうと武装闘気と求道の霸気を纏うもエイミーンの霸気が僅かに勝り、雷撃が傷口から流れ込んだ。
とはいえ、相手は背教の熾天使――流石にその程度の雷撃と霸気で命を落とすことはない。
しかし、エイミーンが与えたダメージが決して無視できるほどのものでは無かったのも確かだ。
NBr-熾天-7・イヴ=マーキュリーの動きは雷撃の矢を浴びたダメージで僅かに鈍る。
そして、ラインヴェルドとオルパタータダはその生じた僅かな隙を見逃してくれるほど優しくはない。
「求道の霸気最終領域・求道神! 覇王の霸気最終領域・覇王神! 俺の全てをこの一撃に賭ける!! 双神纏禍・神退!!」
「求道の霸気最終領域・求道神! 覇王の霸気最終領域・覇王神! 俺とラインヴェルドの最強の一撃、受け止められるものなら受け止めて見せろ!! 双神纏禍・神去!!」
「求道の霸気最終領域・求道神! 覇王の霸気最終領域・覇王神! 全てを貫く最凶の矢をその身に受けるが良いのですよぉ〜!! 双神纏禍・神殺之矢!!」
「……これは、流石にオーバーキルですわね」
ラインヴェルド、オルパタータダ、エイミーンはそれぞれ自分達の霸気を全て使い切る勢いで求道神と覇王神の領域まで霸気を高める。
その二種類の霸気をラインヴェルドとオルパタータダは武装の神闘気と共に双剣に纏わせて斬撃を放ち、エイミーンは裏の武装闘気で作り出した矢に武装の神闘気と求道神と覇王神の領域まで高められた求道の霸気と覇王の霸気を込めて放った。
一方、雷撃によってかなりのダメージを負ったNBr-熾天-7・イヴ=マーキュリーだが、なんとか攻撃を受ける寸前に武装闘気と求道の霸気を纏い、身を守る。
しかし、流石に霸気が求道神や覇王神の領域まで強化されていることもなければ、怪力の神闘気、鉄壁の神闘気、刹那の神闘気、陽光の神闘気、武装の神闘気――五大闘気と覇王の霸気を融合した五種類の闘気の上位互換も使用することができないNBr-熾天-7・イヴ=マーキュリーではダメージを軽減することができない。
エイミーンの矢によって心臓を射抜かれ、ラインヴェルドとオルパタータダの斬撃で首と腹部を切断されたNBr-熾天-7・イヴ=マーキュリーは三人の攻撃を浴びた瞬間に即死――切り裂かれたNBr-熾天-7・イヴ=マーキュリーの頭はポトリと音を立てて血溜まりの中へと落下した。
◆
ヴェモンハルト達がアンブローズ男爵邸の制圧を終えて屋敷の外へ出ると、屋敷の門の前にはリーリエ姿の圓、シア、リコリス、カルファ、ルイーズというビオラ特殊科学部隊の中核を成す錚々たるメンバーが揃っていた。
「わ、私の可愛い背教の熾天使が!」
カルファから憎悪の篭った視線を向けられた元凶達――ラインヴェルド、オルパタータダ、エイミーンは少しだけ居心地悪そうに目線を逸らした。
「別にカルファさんのものって訳じゃないからねぇ。……うーん、これはまた派手にやったねぇ」
「圓さん、流石にここまでやられたら治療は不可能かしら?」
「ルイーズさん、そこまで心配しなくても大丈夫だよ。サイボーグ化される前の肉体の方は頭と身体が離れ離れだけど、神水の部位修復の力で繋げれば治療可能だし、サイボーグ化されている部分も修復魔法で何とかなると思う。魂魄魔法で作った擬似魂魄も連絡が早かったおかげで蘇生魔法を使って呼び戻すこともできそうだし、復活させることはできると思う。ただ、今回のデータを元に擬似魂魄に刻み込んだ戦闘用のプログラムを書き換える必要がありそうだから、そのまま蘇生させずに魂は別個で持ち帰るとしよう。リコリスさん、お願いできるかな?」
「承知致しましたわ」
魔法少女に変身したリコリスは固有魔法の『魂に干渉する魔法』でNBr-熾天-7・イヴ=マーキュリーの魂を回収すると、NBr-熾天-7・イヴ=マーキュリーの身体をお姫様抱っこで抱えてひと足先にアジトへと帰還した。
「……なかなか複雑なことをしているみたいだな」
「魂の存在しないプログラムでは霸気みたいな力は使えないからねぇ。ある程度の自我――僅かでも魂を持っている必要があるんだけど、あんまり強い意識を与えちゃうと裏切りの可能性も出てくるでしょう? 背教の熾天使のデータはほとんどが『管理者権限』産だから魂ごと創り出して復活させ、サイボーグ化によって外から制御を掛けることもできなくはないけど、生物の有する欲望ってものは決して制御できるような代物ではないんだ。だから、基本的にボクらに友好的な魂を創り出し、そこに戦闘の知識――プログラムを仕込み、育て上げるっていうかなり回りくどい方法をとっている。まあ、そのおかげで魂のレベルもかなり高いものが安心して使えるから決して費用対効果が悪いって訳でもないんだけどねぇ。ちなみに、ボクは『管理者権限』やハーモナイアが用意したチートスペックのおかげで比較的ポンポン創り出しているけど、肉体の方が成長するまで……まあ、大体十八年、魂魄魔法に、生物学の知識、その他設備などなど時間、知識、資金――かなりのものを投じてようやく一体作り出せるような代物だ。それらを全部『管理者権限』やハーモナイアが用意したチートスペックに頼らずに調達しようとすると、背教の熾天使を一体分の費用は、ブライトネスの王城が余裕で三つ建つほど掛かると見た方がいい。……戦いたい気持ちは分かるけどさぁ、もう少し考えて行動してもらいたいよ」
想定を遥かに超える金額にヴェモンハルト達は絶句し、ラインヴェルド達は自分達は関係ない風を装って口笛を吹いた。
「まあ、『生命の輝石』を持たせるとかボク達にも取れる対策があった。背教の熾天使の力を些か過信し過ぎたボク達にも非があったし、双方にとって良き経験になったということで今回の件をこれ以上咎めることはしない。それに、そもそも模擬戦のゴーサインを出したのはボクだしねぇ……流石にここまでやるとは思わなかったけど」
「「悪かった……俺達もやり過ぎた」」
「ごめんなさいなのですよぉ〜」
「ただ、次からはちゃんと戦闘への好奇心を優先するだけではなく、それによって生じる損害にもしっかりと目を向けて欲しい。お姉さんとの約束だよ」
「ああ、勿論だせ! 俺達が親友との約束を破る筈がないだろ!」と簡単に圓と約束を結ぶラインヴェルド達を見て「ああ、きっとそう遠くないうちにまた似たようなことをやらかすんだろうなぁ」と全く同じ感想を抱いたヴェモンハルト達だった。
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それでは、改めまして。カオスファンタジーシリーズ第二弾を今後ともよろしくお願い致します。
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