Act.9-382 ペドレリーア大陸・ラスパーツィ大陸臨時班派遣再始動〜スクライブギルド編〜 File.4 scene.4
<三人称全知視点>
スザンナの発した言葉の意味を瞬時に正しく理解できる者はこの場に誰一人としていなかった。
スザンナの存在に希望を見出していた者の大半は、その言葉が聞き間違いであることを祈った。しかし、その祈りは次の瞬間、無情にも砕け散ることとなる。
「私を殺しに!? 馬鹿めッ! それはただの人殺しだぞ! まさかそこまで堕ちるとはな」
「それはこちらの台詞ですよ、男爵。まさか、邪教徒――『這い寄る混沌の蛇』と繋がりを持ち、この国を破滅へと導こうとする者がこれほど身近に居ようとは」
スザンナから鋭い眼光を向けられ、ユナイクが僅かに後退る。
額からは無数の汗が吹き出す。「何故、スザンナが私と『這い寄る混沌の蛇』との繋がりを知っているのだ!?」という心の声がスザンナの見気を経由して耳朶を打つ。
「ヴェモンハルト第一王子殿下の派閥のトップである貴方があの邪教徒と繋がりを持っていたと知った時は驚きましたよ。窓口は少し前までマキシア=パーバスディーク前侯爵が務めていたのではありませんか?」
「なっ、何のことか分からないが? そ、そもそも証拠はあるのか!?」
「証拠の手紙はありますが、まあ、あっても無くても関係ありませんよ。ブライトネス王国にとっての内憂を滅ぼすのが我々の役目ですから」
スザンナの言葉と共にヴェモンハルト、アゴーギグ、アンジェリーヌ、ヒョッドル、シュピーゲル、リサーナ、カトリーヌ、レインが姿を現す。
「――ッ!? 第一王子殿下!?」
「残念だよ、ユナイク。まさか君が邪教徒と繋がりを持っていたとはね」
「スザンナ様、ご依頼されていた保護対象者ですが全員無事に屋敷から脱出させました。ついでにこの部屋の外の使用人も我々の方で殲滅しておきましたので、残りの討伐対象はこの部屋の者達だけとなります」
「ありがとう、助かった」
「それと、外の模擬戦ですがなかなか良い試合内容になっているようです。あちらには脱走者が向かわなかったとのことで、優雅にバトルをしておられるようですよ」
「……あの人達のことは報告しなくても大丈夫ですよ」
「本当にアイツら、何で来たんだよ」とヴェモンハルトは内心毒吐きつつ、魔法発動の準備を整える。
「フンケルン大公派閥の壊滅後、『這い寄る混沌の蛇』とアンブローズ男爵家の繋がりは深くなったのでしょう。ですが、それ以前からアンブローズ男爵家は『這い寄る混沌の蛇』にとって重要な場所の庇護を行う対価として、彼らの持つ知識を貰い受けるという契約を結んでいたのではありませんか? 単刀直入に問います、スクライブギルドはどこにあるのですか?」
「す、スクライブギルド? 殿下、一体何を仰っているのか私にはさっぱり」
「アンブローズ男爵領の北東の地、その地下にあるのですね。情報提供、感謝致しますわ」
ユナイクはシラを切り通すつもりだったが、練度の見気の使えるガブリエーレとヨゼフィーネには無意味なことだ。
あっさりとスクライブギルドの場所を見抜かれたユナイクはガブリエーレとヨゼフィーネを睨め付けるが、二人は全く動じることなく涼しい顔で受け流す。
「最早これまでッ! 私の思い通りにならないスザンナはここで殺し、ヴェモンハルト、貴様は私が闇魔法で洗脳する! お前を国王に即位させ、私がこの国の権力の全てを手にするのだ! 愚図共! さっさとヴェモンハルト以外を始末しろ!!」
一国の王子を洗脳するという暴挙に及ぼうとするユナイクに流石の使用人達も衝撃を受けて固まるが、その一瞬を見逃すほどガブリエーレとヨゼフィーネは優しくなかった。
「「俊身、白指」」
ヴェモンハルト達の目で辛うじて捉えられるほどの猛烈な速度で狙いを定めた使用人に迫ったガブリエーレとヨゼフィーネが全身の力を収束させて硬化した人差し指で使用人達の頭を打ち抜き、即死させた。
「……これ、俺達の出番は無さそうっすね」
使用人達の命乞いを無視して淡々と使用人達を殺していくガブリエーレとヨゼフィーネと、ユナイクを倒すためにこの場にいると言っても過言ではないスザンナを交互に見て、アゴーギグは自分の出番がないことを悟って少しだけ後ろに下がった。
アンジェリーヌ達もそれを追随するように邪魔にならないように後方に退がる。
「我が下僕となれッ! ヴェモンハルトッ! 精神支配・服従の法」
闇魔法は魔法の才能が無くとも儀式さえ行えば使用することができるようになる。
襲撃を仕掛ける以前から、ユナイクに攻撃手段があるとすれば『蛇の魔導書』に掲載されている闇魔法か暗黒属性魔法に限られるとスザンナ達は確信していた。
そして、ユナイクが「ヴェモンハルトを洗脳する」と宣言したことで使われる魔法は「精神支配・服従の法」に限定されることとなる。
スザンナ達は事前に『蛇の魔導書』に掲載されている魔法への対抗手段として自らに状態異常無効化の魔法を付与していた。
つまり、それはユナイクが「精神支配・服従の法」を発動した瞬間、大きな隙を生じさせるということを意味しており――。
「「クリムゾン・プロージョン」」
その隙を逃さずヴェモンハルトとスザンナが放った魔法はユナイクの身体を四散させ、真っ赤な爆発を生じさせた。
◆
ヴェモンハルト達がアンブローズ男爵邸に襲撃を仕掛けている頃、ラインヴェルド、オルパタータダ、エイミーンの三人はジェルメーヌに見守られる中、NBr-熾天-7・イヴ=マーキュリーと模擬戦を行っていた。
「神退ッ!! おいおい、どんな硬さしているんだよ!?」
相手は圓が生み出した『対神用決戦兵器』と銘打たれた最強の人型兵器……とはいえ、ラインヴェルド達の陣営は数的有利を取っており、更に敵の情報も把握している。
ヴェモンハルト達が戻ってくるまでという制限時間が設けられている模擬戦でも時間内に背教の熾天使の撃破が可能なのではないかと当初は甘い幻想を抱いていたラインヴェルド達だったが、すぐにそれが間違いであったことを思い知らされることとなった。
NBr-熾天-7・イヴ=マーキュリーのメインウェポンはやはり『天恵の実』――『重力の天恵』と『天恵の神樹』である。
中でも彼女の代名詞と言える神樹の力を宿った枝に刺し貫かれた者を樹木に変え、神樹の力で樹木の成長速度を早めて枯死させる「栄枯盛衰」は今回の戦闘でもやはり今回の戦いでも『天恵の神樹』の力と共にメインウェポンとして運用しており、少しでも攻撃を擦ればすぐに戦線が崩壊するという緊張感を生じさせていた。
また、背教の熾天使となった際に得た魔法少女の固有魔法も『自由自在に変化する液体金属を操る』という厄介なものであり、『天恵の神樹』には不可能だった変幻自在の軌道での攻撃が可能となっている。こちらは流石に掠っても「栄枯盛衰」が発動することはないが、武装闘気と覇王の霸気、或いは求道の霸気を纏わせた上で攻撃は武装闘気や覇王の霸気、求道の霸気を纏っていても生半可な練度では致命傷になりかねないものであり、こちらも『天恵の神樹』ではないにしろ油断できない代物だ。
しかし、それ以上に厄介なのは偽天翼族という種族の性質である。
背教の熾天使には偽天翼族を素体としたことで偽天翼族の有する『攻撃力は高いが防御力が紙装甲になる攻撃形態』、『防御力は極めて高いが攻撃力と敏捷が低下する防御形態』、『敏捷が極めて高いが防御力が紙装甲になる敏捷形態』――この三つの形態を自在に切り替える力があった。
中でも背中に炎が点る『防御力は極めて高いが攻撃力と敏捷が低下する防御形態』は武装闘気や覇王の霸気、求道の霸気を使用していない状態でも生半可な武装闘気を纏わせた攻撃程度なら無効化してしまう硬さがあり、そこに背教の熾天使が有する武装闘気と覇王の霸気、求道の霸気が加われば尋常ならざる防御の形態と化す。
その凄まじさはラインヴェルドがかなりの霸気を纏わせて放った斬撃を浴びて傷一つつかないほどであった。
流石にこれほどの硬さだとは想定していなかったラインヴェルド達は冷や汗を流しつつ作戦を練り直す。
「どうやら力押しでは倒せないみたいだな。ギミックの脆弱なところを狙っていくしかねぇか」
「『攻撃力は高いが防御力が紙装甲になる攻撃形態』と『敏捷が極めて高いが防御力が紙装甲になる敏捷形態』か? 向こうには遠距離からの攻撃手段もあるし、使わせるのはなかなか厳しそうだぜ?」
「もう一つ、防御無視の攻撃で強引に突破するという選択肢もあるのですよぉ〜」
「いや、エイミーン。菊夜の魂魄の霸気《切断糸》や雪菜の『超因果魔法』があれば可能だが、そういった攻撃は俺達にはねぇだろ? やれるとしたら、アイツの霸気を上回る霸気で強引に攻撃を当てるっていう脳筋な作戦になっちまう。――まあ、それはそれで面白そうだけどなぁ」
「『第三魔滅術式』を使えば強引に防御を突破できるかもしれないのですよぉ〜」
「まあ、それも一つの案として検討しておいた方がいいかもしれねぇな? ――オルパタータダ、エイミーン、もう一つの方は何か案はあるか?」
今のところ強引に霸気や高火力魔法で突破するという案が上がっているが、そのどちらも圓が想定している本来の倒し方とは違うのではないかとラインヴェルド達は考えていた。
背教の熾天使には三形態という長所と同時に明確な弱点となる種族特性がある。その弱点を上手く突き、倒すというのが正攻法なのだろう。
その方法を使わず、脳筋丸出しで力押しするのはなんだか圓に負けたようで少しだけ嫌だったラインヴェルド達は擦れば死が確定する技と化した樹木をまるで自分の手のように操り、無数の木の槍を放つ技――『変貌の樹槍』や変幻自在の軌道でラインヴェルド達を追尾する『流体金属の槍』を見気と紙躱を駆使して躱しながら頭を回転させて必死に勝利の方程式を模索した。
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