Act.9-380 ペドレリーア大陸・ラスパーツィ大陸臨時班派遣再始動〜スクライブギルド編〜 File.4 scene.2
<三人称全知視点>
アンブローズ男爵邸襲撃及びアンブローズ男爵領のスクライブギルド壊滅作戦実行の日、ヴェモン達の姿はビオラ商会合同会社が所有する屋敷の一つにあった。
「皆様、わざわざご足労頂きありがとうございます」
「今回、我々【ブライトネス王家の裏の杖】と諜報部隊フルール・ド・アンブラルの関係は対等――にも関わらず、ジェルメーヌ殿には何度も魔法省特務研究室まで足を運んで頂いていますからね。流石に、今回くらいはこちらから出向くのが礼儀だと思いまして」
「別に大した労力でもないからな」
「第一王子殿下とその婚約者であるスザンナ様、我らが主人――圓様が先輩と呼び慕い、尊敬するレイン様、魔法省の精鋭たる特務研究室の皆様に新参である我々の拠点に足を運んで頂くなど畏れ多いことでございます。残念ながら皆様に相応しいおもてなしのご用意は整っておりませんが、どうぞ中にお入りください」
ジェルメーヌが部屋の中に案内すると、今回の任務で共に任務に当たるガブリエーレとヨゼフィーネを紹介した。
続いて任務の内容を改めて確認し、最後に今回投入する新型ブリスゴラに関する説明を始めようとしたタイミングで何かを察知したのかジェルメーヌが裏武装闘気で苦無を創り出して構える。
「……ヴェモンハルト殿下、どうやら尾行されていたようですね」
「尾行!? そんなまさか……それに、私の見気には何の反応もありませんが?」
ジェルメーヌの口から飛び出したあまりにも予想外の言葉にヴェモンハルトが柄にもなく驚きを露わにする。
それはヴェモンハルト以外の面々――スザンナ、アゴーギク、リサーナ、アンジェリーヌ、ヒョッドル、シュピーゲル、カトリーヌと言った特務研究室の面々やレイン、更には乙女ゲーム『フォーリアの指輪』の攻略対象からつい先日諜報員になったばかりのガブリエーレとヨゼフィーネにも言えた。
「……なるほど、そういうことですか?」
この中で最も早く尾行者達の正体に気づいたのはレインだった。「あの人達なら『何かクソ面白そうなことをしているじゃねぇか!』とか言ってヴェモンハルト殿下を尾行してここまでついてきちゃいそうですね」と嫌そうに感想を溢しつつ、ジェルメーヌと同じ方向に極寒の視線を向ける。
「見気封殺で完璧に気配消していただろ? なんで気づきやがった?」
「ラインヴェルドとエイミーンの圧が強過ぎて見気封殺でも隠しきれなかったんだろ?」
「それを言うならオルパタータダも同罪なのですよぉ〜!!」
見気封殺を解き、子供がそのまま大人になったような悪餓鬼そのものの顔をしたラインヴェルドとオルパタータダがエイミーンを伴って扉を開けて部屋へと入ってくる。どうやら三人は扉の外で見気封殺で気配を完全に消し、聞き耳を立てていたようだ。
「ラインヴェルド陛下、オルパタータダ陛下、エイミーン陛下、既にお三方の臨時班任務は終了している筈ですが?」
「ああ、昨日終わったぜ?」
「私達も昨日終わったのですよぉ〜」
「流石にあれだけじゃつまんねぇよ。ってことで、次の予定まで暇していたところで顔を真っ青にしたヴェモンハルトが魔法省から戻ってくるところを発見したんで、これはクソ面白いことが起きている! 俺達だけ除け者なんて許せねぇぜ! ってことでアーネスト達を振り切って、騎士団長達を全員気絶させて、メアレイズ達とミスルトウ相手に死闘を繰り広げて、ローザ姿の圓からジト目をもらって、で、ここまで息も絶え絶え来たって訳」
「全く、迷惑な話ですね」
「まあ、ここまで来られてしまった以上、追い返すこともできませんし、ここで知った機密について口外しないことをお約束頂けるのなら任務に参加して頂いてもいいですよ。特別報酬はお支払いしませんが」とラインヴェルド達相手に無表情で条件を提示するジェルメーヌの胆力にアゴーギク達は「流石はビオラの諜報員、肝の座り方が違い過ぎる!」と戦慄を覚えた。
「では、今回の任務に投入する戦略兵器について僭越ながら私の方から説明させて頂きます。その名はNBr-熾天-、分かりやすく言えば新型のブリスゴラですわ」
「あのフィクスシュテルン皇国で言っていた『対神用決戦兵器』の新型兵器だな?」
「確か、通称は背教の熾天使で、様々なバリエーションが用意されているって聞いたのですよぉ〜。当初はビオラの有するクローン技術、サイボーグ技術、人工の魔法発動に必要な器官を作る技術――そこに、魔法の国のホムンクルス技術を加えて新型を作るという計画だったところをぉ、偽天翼族の遺伝子が手に入ったタイミングで方針を大きく転換したのですよねぇ〜」
「「ん? なんでそんな詳しく知ってんだ? エイミーン?」」
「『対神用決戦兵器』なんて聞いてないのですよぉ〜!?」
「あら、お三方ともご存知でしたか。それなら、隠す必要もありませんでしたね。まあ、聡い皆様はこの時点で察していると思いますが、NBr-熾天-の正体は『管理者権限』を持つ神、或いは彼らに匹敵する存在の遺伝子やデータを元にクローンを生成し、偽天翼族の遺伝子、魔法少女の力、天恵の実の力を与えて創り出した現時点で考え得る最高の戦力となります」
「既にその時点でかなり恐ろしいが、『管理者権限』を持つ神々と言ってもピンからキリまでいるからな。実際、一部の神相手にはブライトネス王国戦争で勝利を収めた実績があるが、一部の神はそれこそ圓殿を連れてくるか、菊夜殿や雪菜殿の協力を得るしか討伐の方法がない。……いや、それ以上の存在も居たな。あの神々は現状、圓殿以外に勝てる者はいないだろう?」
「前者の方については今回は投入しませんわ。既に実験を終え、必要なデータは撮り終えていますから。後者の方に関してはもうしばらく調整が必要だという話を聞いています」
「その前者の方の神ってのは、Queen of Heartでいいんだよな?」
「実際に投入されたのはNBr-熾天-1・Queen of Heartだと聞いておりますが、救済の魔女の方の個体も完成していると聞いております」
「……本当に貴方達って一体何を目指しているのかしら?」
言葉にしたのこそアンジェリーヌだったが、他の面々も一様に死んだ魚の目になっている。
その気持ちを察したジェルメーヌ達諜報員も小さく溜息を吐いた。
「元々、この研究をここまで発展させる気は圓様を含め誰にもありませんでした。各国のパワーバランスの調整のためにビオラにも独自の戦力をと闇の三大勢力の構築が行われ、並行して汎用兵器の開発も進められてきました。その研究が大きく加速したのは変態……じゃなかった、カルファさんが加入した辺りからですね。これまで魅力がないと考えていた人造魔法少女の新たな一面に気づいたカルファさんはその技術とブリスゴラの技術を融合しようと思い立ちました。その当時、『天恵の実』を兵器に食べさせる技術も既にありましたから、その研究は次第に『天恵の実』と魔法少女――二つの力を持つ戦略兵器を作り出す計画へとシフトしていきます。カルファさんに同調してビオラ特殊科学部隊の上層部はこれを支持、更に偽天翼族側から偽天翼族の数を増やすための研究のために遺伝子を提供されたことで新型ブリスゴラを作るための全てのピースが揃うこととなりました。この時点では既に新型ブリスゴラの作成のハードルは全て越え終えていましたが、ここからは少し時間を戻して皆様の関心が最も集まっている新型ブリスゴラの素体についての話をさせて頂きます。実は以前から新型のブリスゴラにはトロールのような低級の魔物ではなくもっと強力な素体を使うことを予定していたのですが、具体的に何を素体にするかという点で議論が分かれていました。この初期の段階でも一応、『管理者権限』を持つ神を素体にする案も上がっていたのですが、『管理者権限』での再現や持ち帰って死体などから遺伝子を取り出してのクローン作成が可能とはいえ、流石に各国のパワーバランスが崩壊してしまうからと圓様が御自らストップを掛けておりました。この圓様のお考えが変わったのは、魔法の国遠征からブライトネス王国の新年祭までの期間だと思われます。カルファさんが仲間に加わり、トロールベースで試作機が作られていた期間もかなり悩んでおられたようですわ。しかし、結果として『そうも言っていられる状況じゃないよねぇ』と判断を下されたのです」
「……シャッテン・ネクロフィア・ シャハブルーメの『死者蘇生』、それによって過去最悪の戦力が蘇る。だから、圓様は――」
圓は決してラインヴェルド達時空騎士を信頼していない訳ではない。実際、あのブライトネス大戦ではラインヴェルド達は幾人かの『管理者権限』を持つ神を撃破し、『管理者権限』の回収に貢献している。
しかし、それでも未だ圓に頼らなければ勝てない敵が明確に存在している。
圓はそういった敵による万が一を想定し、仲間を守れるだけの戦力の用意を本気で検討した結果、背教の熾天使の開発及び戦争への投入を容認したのだろう。
「今回、投入するのはNBr-熾天-7・イヴ=マーキュリー……まあ、他の個体に比べればまだマシな部類ですわね」
苦笑いを浮かべるジェルメーヌの言葉に、ラインヴェルドとオルパタータダ、エイミーンを除く面々は「それのどこがマシなんだよ!?」と心の中で叫んだ。
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それでは、改めまして。カオスファンタジーシリーズ第二弾を今後ともよろしくお願い致します。
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