Act.9-378 ペドレリーア大陸・ラスパーツィ大陸臨時班派遣再始動〜スクライブギルド編〜 File.3 scene.2
<三人称全知視点>
旧デューグモント王国のスクライブギルドを任されている混沌の指徒ワノドル=ロクサーは、同時にスクライブギルドで制作された『這い寄るモノの書』と『蛇の魔導書』を回収する役割を持っている。
混沌の指徒の中でも特に上昇志向の強いワノドルは『這い寄る混沌の蛇』内での地位向上を常に狙ってきた。冥黎域の十三使徒であるロベリアの直属の配下に収まっているのも彼女の下についていれば出世ができると考えたからである。
スクライブギルドで制作された『這い寄るモノの書』と『蛇の魔導書』を回収するという役目に立候補をしたのも、『這い寄る混沌の蛇』の心臓部たるこの仕事を引き受けることで組織の上層部にのし上がることができると考えたからであった。決して、ロベリアに対する忠誠心や『這い寄る混沌の蛇』に対する忠誠心からくる行動ではない。
当然、『這い寄る混沌の蛇』の心臓部であるスクライブギルドにもそこまで重きは置いていなかった。通常の信徒達であれば侵入されないように策を弄し、仮に侵入された場合は心臓部である印刷機や施設を守るように動くべきところだが、ワノドルは敵が侵入したタイミングで作動する罠をいくつも設置し、スクライブギルド諸共敵を撃破しようと目論んだのである。
重大な施設一つを消し飛ばしても敵さえ巻き込んで殺すことができれば帳消しどころか、『這い寄る混沌の蛇』側にとってプラスになる――そう考えていたワノドルは丁度旧デューグモント王国に戻ってきたタイミングでスクライブギルドに設置されていた罠が作動していたことに驚きつつも、施設諸共敵を全滅させることができたことを確信してニヤリと仄暗い笑みを浮かべた。
ワノドルが任されたのは長きにわたりオルレアン神教会の影響圏の国々の干渉を受けていない呪われた土地である。この地に敵が調査に赴くことは、敵側が確実にスクライブギルドの場所を特定していない限り、まずあり得ない。
ワノドルは無数の敵殲滅用の罠を仕掛けつつも実際のところ、その罠が作動する可能性は極めて低いと考えていた。
しかし、その予測は外れた。スクライブギルドの場所を特定していたのか、たまたま怪しい場所を虱潰しに探していてこの地に行き着いたのか確定しない点は残念だが、侵入してきた敵を作動した罠で全滅に追い込めた功績は大きい。
「間抜けな侵入者共め。運良くこの地を特定できたのか、情報を掴んでこの地にやってきたかはっきりしないのは残念だが、『這い寄る混沌の蛇』と敵対する連中を全滅に追い込めた戦果は大きい筈だ! この戦果を持ち帰れば出世も夢じゃない! あの偉そうなロベリアにヘコヘコするのもこれで終わりだぜ!」
ロベリアに下剋上を果たす光景を脳裏に浮かべつつ、ワノドルは敵の殲滅が成功したことを示す証拠を見つけ出すために爆発で生じたクレーターから地下空間へと飛び降りる。
「――氷結塞壁なのですよぉ〜!」
ワノドルの身体が完全に穴の中に入った瞬間、飛び降りたワノドルの背後の大穴が膨大な氷の魔力によって一瞬にして閉じられ、ワノドルの退路が絶たれることとなった。
大穴の中の敵は先程の爆発で吹き飛ばされて命を落としたと確信してきたワノドルは退路が絶たれたこと以上に死んだ筈の敵が生きていることが衝撃的だったらしく「何故あの生きている! 爆発に巻き込まれて死んだ筈だろ!」と叫ぶ。
「簡単なことなのですよぉ〜! 『第四防衛術式』を発動して爆発から身を守ったのですよぉ〜!」
「つまり俺は『這い寄る混沌の蛇』の重要拠点を爆破したにも拘らず何の戦果も挙げられなかったってことかぁ? 巫山戯るなよ! 俺は『這い寄る混沌の蛇』で出世しなければならねぇんだよ! あのクソ忌々しいロベリアにも下剋上を果たして更にのし上がるんだよ!」
「混沌の指徒はかなりの強敵だと聞いていたから楽しみにしていたんだけど、まさか君みたいな小物だとはね。――戦いでは少しは楽しませてくれるといいんだけど」
「――思った以上に小物ですね。こいつにデューグモント王国を崩壊させるような真似はできないでしょうし、スクライブギルドが完成したタイミングで派遣されたのでしょうか?」
「どいつもこいつも馬鹿にしやがって!!」
武装闘気を纏わせた大鎌を構えたアノルドと武装闘気を纏わせた剣を構えたディオンが同時にワノドルへと斬り掛かる。
しかし、激昂したワノドルが瞬時に結晶のゴーレムを作り出してアノルドとディオンへ嗾けることで自分への攻撃を妨害――その隙を突いて一気にディオンとアノルドから距離を取る。
「結晶創造・結晶人形! 結晶人形よ、俺の出世を阻む愚か者共を殺せぇ!!」
「大禍鎌斬!!」
「――瞬斬!」
アノルドとディオンの攻撃を浴びた結晶のゴーレムは耐え切れずに砕け散る。しかし、破壊されてもすぐに次のゴーレムが作り出され、なかなかワノドルへの道が開かれない。
「爆発せよ!!」
スティーリア、エイミーン、シーラ、ラファエロ、ミリアム――未だに動きを見せない敵に警戒を向けつつ、アノルドとディオンがゴーレムを十体ほど倒したタイミングでワノドルは結晶に込めた爆発魔法を発動した。
その威力はスクライブギルドを破壊した「爆裂魔法」には劣るものの至近距離であれば武装闘気で防御を固めた敵すらも灼熱と衝撃で絶命に至らしめることができるほどのもの――完全な不意打ちで浴びせれば二人を同時に撃破するのも容易いと考えていたワノドルだったが。
『氷城創造!』
爆発が発生する寸前、スティーリアが古代竜としての力の一端を解放――氷の魔力でアノルドとディオンを包み込む氷の城を作り出した。
結晶のゴーレムの破片には高威力の爆発魔法が込められていたにも拘らず、爆発に巻き込まれた氷の城にはヒビの一つも生じることはなく、アノルドとディオンを爆発魔法で仕留め切ったと確信していたワノドルを驚愕させる。
「「闇の使い魔・黒き甲冑の騎士!!」」
シーラとラファエロが手を繋ぎ、膨大な魔力を使って火属性、氷属性、雷属性、無属性、闇属性の複合魔法を発動――敵を仕留め損なって怒り狂い、城を爆発魔法で吹き飛ばそうと無数の結晶のゴーレムを嗾けるワノドルの意識が自分達に向けられていないことを利用して黒騎士に闇の魔力で黒竜を顕現する「黒竜顕現」を使わせた。
シーラとラファエロの狙いは召喚した黒竜に特殊な闇の魔力で敵を麻痺させて動きを封じる闇属性魔法「呪縛の冷気」を使わせることである。
結晶のゴーレムの生成には武器である杖を天へと掲げ、魔法陣を展開する必要があった。
しかし、完全に動きを封じてしまえば杖を掲げることができなくなり、結晶のゴーレムを生み出されることがなくなる。そうなれば、安全にワノドルの討伐することが可能だ。
既に生み出されている結晶のゴーレムの爆発魔法は起爆のキーワードで使用できるので止める術はないが、こちらは既にスティーリアが実際に一度防いでいるため問題はない。
「――呪縛が解けないうちに、一斉攻撃でトドメを刺すのですよぉ〜! 水斬弾、氷爆結、竜巻撃、吸蔓樹、流石群、光爆裂、常闇弾、影突槍――八重魔法全開放なのですよぉ〜!!」
『氷武創造――《圓様に捧げる殺戮者の一太刀》!!』
「漆黒の槍! 黒き甲冑の騎士、超焔爆!
「断光の暗黒剣! 黒竜、黒い牙よ!」
「ジュワイユーズ流聖剣術 覇ノ型 百華繚乱螺旋剣舞連!!」
「大禍鎌斬!!」
「――瞬斬!」
「結晶のゴーレム達よ! 俺を全力で守れッ!!」
完全にワノドルの動きを封じ、勝利を確信したエイミーン達はスティーリアがアノルドとディオンを守る氷の城を解除したタイミングで一斉攻撃を行った。
対するワノドルは自らを守るべく結晶のゴーレム達を呼び戻すが、結晶のゴーレムを自爆させるという戦術は自分を巻き込んでしまう危険性から使うことができない。
結晶のゴーレム達はスティーリア達相手に奮闘するも厄介な爆発魔法がなければスティーリア達の敵ではない。
瞬く間に結晶のゴーレム達が次々と打ち砕かれて戦線は瓦解――総攻撃を浴びた結晶のゴーレム達は守るべき自らの主人諸共を守り切れずに砕け散った。
「クソッ、クソッ! こんなところで、俺は、死ぬ器じゃない! 『這い寄る混沌の蛇』で出世して、俺はいずれ世界を統べるんだ!」
「お主が世界を統べることも、『這い寄る混沌の蛇』の野望が成就して世界が混沌に陥れられることもない。儂らがお主らの野望を打ち砕くからじゃ! ジュワイユーズ流聖剣術 覇ノ型 百華繚乱螺旋剣舞連」
唯一ワノドルに残された道は自らの身体を自爆魔法の媒介にすることのみ。しかし、ワノドルはその道を選ばずただ世迷言を叫ぶのみだった。
既に現実が見えなくなっているワノドルにミリアムの八十五連撃が炸裂する。ワノドルは武装闘気で自らの身を守ることすらなく八十五連撃全てをその身に受けて肉塊と化した。
お読みくださり、ありがとうございます。
よろしければ少しスクロールして頂き、『ブックマーク』をポチッと押して、広告下側にある『ポイント評価』【☆☆☆☆☆】で自由に応援いただけると幸いです! それが執筆の大きな大きな支えとなります。【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にしてくれたら嬉しいなぁ……(チラッ)
もし何かお読みになる中でふと感じたことがありましたら遠慮なく感想欄で呟いてください。私はできる限り返信させて頂きます。また、感想欄は覗くだけでも新たな発見があるかもしれない場所ですので、創作の種を探している方も是非一度お立ち寄りくださいませ。……本当は感想投稿者同士の絡みがあると面白いのですが、難しいですよね。
それでは、改めまして。カオスファンタジーシリーズ第二弾を今後ともよろしくお願い致します。
※本作はコラボ企画対象のテクストとなります。もし、コラボしたい! という方がいらっしゃいましたら、メッセージか感想欄でお声掛けください。




