Act.9-377 ペドレリーア大陸・ラスパーツィ大陸臨時班派遣再始動〜スクライブギルド編〜 File.3 scene.1
<三人称全知視点>
臨時班任務開始予定日の当日の早朝、ダイアモンド帝国の訓練場で一人剣を振っていたディオンはディオンを探しに来た諜報員と合流し、デューグモント王国にある拠点へと転移した。
その諜報員から『時空魔窮剣』を受け取ると、諜報員の案内しに従って他の臨時班の面々が待つという会議室を目指す。
「……僕が最後か。待たせてしまって申し訳なかったね」
『構いませんわ。そもそも、時間が決められた集まりではありませんからね。それでは、皆様集まりましたので今回の任務について僭越ながらわたくしスティーリアの方からご説明させて頂きます』
今回のメンバーはスティーリア、エイミーン、シーラ、ラファエロ、ミリアム、アノルド、ディオン――このうち、会議を仕切ることができる人材はスティーリア、エイミーン、ミリアムの三人である。
このうち、地位的に最も適任なのは一国の女王であるエイミーンなのだが、普段の行いもあって適任でないと判断されたのだろう。
一応ミリアムが司会を務め、諜報員が都度情報を提供して会議を進めるという形もあり得たが、圓の側近として諜報員達が収集する情報も圓経由で得ているスティーリアが仕切りをすれば会議に諜報員に参加してもらう必要もない。
そうした理由もあって、今回の会議の司会進行と情報の提供をスティーリアが務めることになったのである。
『今回の任務地はアノルド様にとって因縁の地であるデューグモント王国の廃都ジェルニカとなります。八年前に起こったランファルドの内乱で王国は半壊――王族はその争いでアノルド様を残して全滅、その後はクーデターを実行したランファルド子爵家、大臣のユルフィチョフ=ボリュエナム侯爵率いる宰相派、オルパドル宮中伯を中心とする中庸派に分裂し、争いを続けていましたが、ランファルドの内乱から二ヶ月後に『瑠璃色の影』が介入し、関係者全員死亡という形で滅亡を迎えました。ここまではよろしいでしょうか? アノルド様』
「その認識で正しいです。陰謀の裏で『這い寄る混沌の蛇』が動いていたことを察したベルデクト様がデューグモント王国ごと『這い寄る混沌の蛇』の陰謀を潰すために動いた結果、デューグモント王国は壊滅しました。ベルデクト様は王城の一角に軟禁されていた僕を見出し、あの牢獄のような場所から連れ去ってくれました。それ以降のことは残念ながら分かりません」
「ここに来る前にルードヴァッハ殿から聞いてきたんだけど、ダイアモンド帝国が把握している範囲だとその後、国で暮らしていた人々は多数の死者が出て穢れたこの地を嫌悪し、各地へと散っていったという。ダイアモンド帝国でも何人か受け入れたらしいけど、別の国の国民になった者、受け入れられることなく野盗などに身を落とした者、様々だったみたいだね。現在、一応この国はオルレアン教国の直轄地という扱いになっているみたいだけど、実際には神官が派遣されることもなく誰も寄りつかない場所になっているみたいだよ」
「……これだけの広大な土地が完全にいずれの国の監視下からも外れておるのか。姿を隠して暗躍したい邪教徒にとってはまさに天国じゃな」
ミリアムの言葉を真っ正直に受け取れば、「『這い寄る混沌の蛇』の潜伏に適した土地が放棄されている」という事実を述べただけだが、少し穿った聞き方をすれば「現在の状況が『這い寄る混沌の蛇』の目論見だったのではないか」という副音声が聞こえてくる。
「……『這い寄る混沌の蛇』がこの状況を作り出すために動いていたというのは考え過ぎじゃないでしょうか? それは、つまり『瑠璃色の影』が介入することすら読んでいたということですよね?」
「本当はラファエロさんに賛同したいところだけど、フンケルン大公家が取っていた策略を考えるとここまで読んでいた可能性も捨てきれないのよね」
シーラは圓達と共に『這い寄る混沌の蛇』の信徒であったジェムと戦ったことがある。
彼や過去のフンケルン大公はシェールグレンドの醜聞事件やルーセンブルク戦争で漁夫の利を得、或いは得られる寸前まで来ていた。
その策謀は圓は簡単に見抜いていたものの、シーラからすればあまりにも複雑過ぎて見通せないものであった。今回の件も表向き『這い寄る混沌の蛇』は『瑠璃色の影』による侵攻で大きなダメージを受けていたということになるが、元々の目的がオルレアン教国や周辺諸国の監視から外れた広大な土地の入手であったならば彼らは目的を達成できたということになる。
「……『瑠璃色の影』は『這い寄る混沌の蛇』を殲滅する組織ですから、火の気を上げれば我々が来ることは想像に容易い。想定に入れるのも容易だったかもしれませんね」
淡々と語るアノルドの顔には隠しきれない怒りが滲んできた。
滅んだ祖国に対して抱いた感情はない。アノルドの怒りの理由は自分を救い上げてくれたベルデクト達――『瑠璃色の影』すら弄んだことへの憤りである。
「でもぉ、何故、そもそも『這い寄る混沌の蛇』はこれほど広大な土地を必要としたのでしょうかぁ〜?」
『エイミーンさんの疑問はもっともね。……その理由は今回の目的地であるスクライブギルドにあると思うのだけど、逆にこうしてスクライブギルドが各地に作られる以前は一体どのように写本を行っていたのかしら?』
この時のスティーリアの疑問は後に別のスクライブギルドに隠された秘密を解く鍵となるのだが、この時のスティーリア達は当然ながらそのことに気づいていなかった。
◆
諜報員達の手によって既にスクライブギルドの入り口が発見されていたため、スティーリア達は早速その入り口がある場所へと向かった。
瓦礫が夥しく連なっているその廃墟はかつてのアノルドにとっての監獄だった場所――ジェルニカ城跡である。
かつて尖塔に掲げられていたデューグモント王国のシンボルである黄金の鷲は鍍金が剥がれ、無惨な形で地面に打ち捨てられている。
その鍍金の鷲がデューグモント王国の崩壊の歴史の全てを物語っているようにアノルドの目には映った。
偽装すらされていない石の階段を降りていくと、その先には巨大な部屋があった。
ガシャンコガシャンコ、という音を立てて無数の機械が動いている。
「監視がないということで邪教側もまるで隠す気がないようじゃな」
『では、作戦通り施設破壊に移りましょう――』
スティーリアが言い終えないうちに石の階段が結晶によって塞がれ、一瞬にしてスティーリア達の退路が絶たれてしまった。
一斉に印刷機に攻撃を仕掛けようとしていたアノルド達も突然の状況の変化に驚くが、すぐに身を守るために攻撃を止め、見気を発動する。
――EMERGENCY! EMERGENCY! 侵入者を確認! 侵入者を確認! 直ちに混沌防衛プログラムを起動します!!
「……敵の侵入を感知した瞬間に反撃するプログラムを仕込んでいたようね。元々仕掛けてあったものだから見気でも対処できない……本当に厄介だわ!」
現れた結晶のゴーレムの大群に苛立ちの籠った視線を向けつつ、シーラは闇の魔力を練り上げる。
「漆黒の槍!」
「断光の暗黒剣!」
「ジュワイユーズ流聖剣術 覇ノ型 百華繚乱螺旋剣舞連!!」
「水斬弾、氷爆結、竜巻撃、吸蔓樹、流石群、光爆裂、常闇弾、影突槍――八重魔法全開放なのですよぉ〜!!」
『氷武創造――《圓様に捧げる殺戮者の一太刀》!!』
「大禍鎌斬!!」
「一人だけ技名がないというのは仲間外れで少々嫌だね。――瞬斬!」
シーラの攻撃を嚆矢とし、ラファエロ、ミリアム、エイミーン、スティーリア、アノルド、ディオンが攻撃を仕掛けて結晶のゴーレムを印刷機を巻き込んで破壊していく。
その強度は武装闘気を纏わせたディオンの剣で容易に断ち切れるほど――スティーリア達の敵ではない。
しかし、いくら破壊しても次々と新たな結晶のゴーレムが戦場に投入され、一向に数を減らす気配がなかった。全く減る気配のない敵に次第にスティーリア達も嫌な予感を抱き始める。
「混沌防衛プログラムといいつつ、全然防衛していないのですよぉ〜!?」
もう一つ、エイミーン達に嫌な予感を抱かせるものがあった。それが結晶のゴーレム達の挙動である。
エイミーン達は狙って印刷機の破壊を行っているため、結晶のゴーレムへの攻撃の余波で印刷機が破壊されるのは当然のことだが、そんなエイミーン達以上に印刷機を破壊しているのが無差別攻撃を行う結晶のゴーレムだった。
守るべきスクライブギルドの中核を担う筈の印刷機を自ら破壊する結晶のゴーレムを分かった上でスクライブギルドに配置した理由は何なのか?
その答えに誰よりも早く到達したのはスティーリアだった。時点でエイミーンもその答えに到達し、スティーリアのアイコンタクトに真剣な表情で頷くと瞬時に魔法を組み上げる。
その魔法が組み上がった直後――少しずつスクライブギルド内に集まってある膨大な魔力がスクライブギルド諸共ジェルニカ城跡を吹き飛ばすほどの爆裂魔法と化して、灼熱の爆風と衝撃をばら撒いた。
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それでは、改めまして。カオスファンタジーシリーズ第二弾を今後ともよろしくお願い致します。
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