Act.9-376 ペドレリーア大陸・ラスパーツィ大陸臨時班派遣再始動〜スクライブギルド編〜 File.2 scene.3
<三人称全知視点>
ユルミュアの討伐を終えた後、ミーフィリア達は諜報員達に連絡を入れてから地下都市ケイオスメガロポリスの探索を進めた。
その道中、ミーフィリア達は『這い寄る混沌の蛇』の信徒五人と交戦し、これを討伐。
一方、ミーフィリアからのメールを受け取った諜報人達も探索の道中で信徒三人を討伐し、これをもってユルミュアを含め地下都市ケイオスメガロポリスに潜伏していた『這い寄る混沌の蛇』の関係者全九人の討伐完了と相成った。
しかし、ここで任務完了とはならない。この広大な地下都市ケイオスメガロポリスの探索という重大任務が残っている。
敵ではあるがユルミュアの言葉には一理あった。何故、この地下都市ケイオスメガロポリスが作られるに至ったのか、その秘密を解くことで今後、『這い寄る混沌の蛇』と戦う上で何か役に立つものが得られるかもしれない。
ミーフィリア達と諜報員達は手分けして見気を駆使して地下都市ケイオスメガロポリス全体を探索――それぞれが探索によって得られた地下都市ケイオスメガロポリスの地形情報を総合して地下都市ケイオスメガロポリス全体の地図を作ることになった。
そうして探索を始めてから五時間――探索を終えた者達が島中心部の拠点に集い、テレンティアの指揮の元それぞれが持ち寄った情報を元に地図の制作が始まったのである。
それから更に一時間後、テレンティア達の目の前には完成したばかりの巨大な地図が広げられていた。
それはミーフィリア達を含め誰もが想定していなかったものであり、事態を重く受け止めたテレンティアは直ちに頭一つ飛び越えて圓に連絡――映像を介する形で圓も会議に参加することとなった。
「圓殿、地下都市ケイオスメガロポリスというものは三十のゲームには登場しないのだな?」
『三十のゲームといっても関わってくるのは『ダイアモンドプリンセス〜這い寄る蛇の邪教〜』と『蛇の海〜絆縁奇譚巻ノ一〜』の二つだけだけどねぇ……確かに本編には登場しないし、更に言えば没設定にも登場しない。まあ、元々そういう土壌ではあるから異世界化による自然発生を疑うこともできるけど、人為的……というか、神為的なものであると考えた方が良さそうだ。しかし、まさかムシュマッヘ諸島の広範囲に広がる地下都市が築かれているとは。しかも、人為的に塞がれていると思われる通路もいくつかあったようだし、君達が探索した以上のものになっている可能性もありそうだねぇ。とりあえず、ムシュマッヘ諸島全域と繋がる地下都市があると考えるべきだとボクは考えている』
「……やはり、そうなりますか」
実際、探索の中で他の島に通じる出口も多数発見されている。テレンティア達にとっては想定したくもない最悪の事態だが、圓の言う通りその最悪の事態を寧ろ前提にしなければならない状況であることは間違いない。
『幸い、例の島の探索の時期までにはスクライブギルドの探索も終わる筈だ。それまでにテレンティアさん達には申し訳ないけど、他の島を含めた地下都市の探索をお願いしたい。なるべく早く増援を送ってもらえるように各地の諜報員達には打診しておくよ』
「お心遣いありがとうございます」
『例の作戦の当日には増員した諜報員を含めた全員で島の入り口を押さえてもらいたい。その時の臨時班のメンバーについては、今後の調査によって得られた情報や配置されている予想戦力などを元に勘案したいと思っている。ということで、この島のスクライブギルドの件は一旦任務終了ということで良いんじゃないかな?』
「私は残って調査に協力するつもりでいたのだが」
『今回の任務はスクライブギルドの壊滅――その当初の目的は達せられたからここで終わりでも良かったんだけど、折角のミーフィリアさんの申し出だし、ここからは追加任務として協力して頂ける方に探索への協力をお願いしようかな? 勿論、これはスクライブギルドの探索任務とは別の任務だから、別途特別報酬は出させてもらうよ。予算の範囲外だし、ボクのポケットマネーからになるけどねぇ』
「……なんだか申し訳ないな」
『まあ、頼めば多種族同盟の方からの支払いもお願いできるけどねぇ。追加で予算を組むってなるとちょっと手間が面倒だし、単純にボクが出すっていう方が楽だからっていう理由だからあんまり気にしなくていいよ。それじゃあ、参加してくれる人数を把握しておきたいから協力してくれるという方は手を挙げてもらいたい』
圓は地道で面白味もない任務のため、仮に善意でも二、三人くらいだろうと思っていたが、その予想に反し、今回の臨時班のメンバー全員が参加を表明した。
これがラインヴェルド達なら「クソつまらない任務」と判断して「親友もこう言っているだし、帰ろうぜ」と言っていただろう。
面白いか面白くないかではなく、任務が重要なものであると確信し、協力を申し出てくれたミーフィリア達に感謝の言葉を述べ、圓は通信を切った。
◆
王女宮筆頭侍女の執務室にて――。
「ローザ殿、そろそろ休憩をなさってはいかがですかな?」
「お気遣いありがとうございます、オルゲルトさん。……すみません、来客対応を任せきりにしてしまって」
御用聞きのためにやってきたルアグナーァがプリムラへの御用聞きを終えたところで、王女宮筆頭侍女の執務室で商談をしつつ休憩時間でありながら圓と一緒に居たいと手伝いを申し出たソフィスと共にルアグナーァをもてなしていると、暇を持て余したラインヴェルドが執務室に乱入してきた。
王に対する敬意の欠片もない(ルアグナーァが「親友の関係にあるとはいえ、流石に不敬罪に問われても仕方ないのでは」と恐怖を覚えるほどの)冷たい対応(といいつつ、しっかりとお茶とお茶菓子は用意するので実際はそこまで塩対応という訳ではない)をしていると、ミーフィリア達から電話が掛かってきた。
その内容が極めて重大な報告であることを察知した圓はソフィスにオルゲルトを呼んでくるよう指示を出し、ラインヴェルドとルアグナーァに一言断りを入れてからミーフィリア達の会議に遠隔の形で参加した。
その会議の決着がつくまでラインヴェルドとルアグナーァへの給仕や本来圓がすべきだった商談を引き受けてくれたオルゲルトとソフィスに感謝を述べてから、圓は書類を片付けてラインヴェルド達が座す茶会用の丸テーブルへと向かい、空いている椅子に座る。
「……なかなか大変なご様子ですね。しかし、私がいる中でそのような重大なお話をなさっても良かったのですか?」
「別に問題はないと思いますが? ボクはルアグナーァ様のことを信頼しておりますから」
「しかし、よくあんな面倒ごと引き受けるよなぁ」
「まあ、バトル至上主義で面倒ごと人任せなクソ陛下達なら絶対に引き受けない仕事だろうねぇ」
「アハハハ、よく分かっているじゃねぇか」
「……全くこれっぽっちも誉めてないんだけどねぇ」
「もう少し陛下が生き方を改めてくだされば、お父様もお兄様も、もう少し楽ができますのに」
「そういう文句は俺を国王に選んだ見る目のない貴族達に言ってくれや」
圓とソフィスの容赦ない物言いにオルゲルトは終始苦笑、ルアグナーァに至ってはずっと胃をキリキリさせながらラインヴェルド達のやり取りを見守っている。
「しかし、『這い寄る混沌の蛇』の聖地か。あの島は確かダイアモンド帝国の歴史においても極めて重要な場所だろう? 『這い寄る混沌の蛇』を象徴する邪教神殿もあるんだったか?」
「……それだけじゃないんだけどねぇ。あそこ、実は『ダイアモンドプリンセス〜這い寄る蛇の邪教〜』のラストダンジョンなんだ」
「そういえば、ラストダンジョンでしたね」
「……いやいや、なんでソフィスは知っているんだよ!? 俺初耳なんだけど!!」
「わざと伝えないようにしたって意図、伝わらないかな? ……物語通りなら、真の邪教神殿で『這い寄る混沌の蛇』の邪神Aponyathorlapetepを討伐することで、『這い寄る混沌の蛇』の邪神教的側面は消滅し、物語はエンディングを迎える。でも、ボクの知っている物語の流れからかなり逸れているからねぇ。地下都市ケイオスメガロポリスなんてものゲームの中には登場しなかったし、それ以外にも物語から逸脱した点が多々あるからねぇ。まあ、数が多いし列挙はしないけど。……ボクが敵なら真っ先に弱点は隠す。とはいえ、何も罠を用意しないということもないだろう。なんか仕掛けをしているんじゃないかな? ……しかし、地下都市ケイオスメガロポリスねぇ」
「しかし、そんな史実には登場しないそんな大規模なもの、一体どうやって作ったんだろうな?」
「ルヴェリオス帝国が突如として出現した異世界のアップデートの違和感を払拭する歴史改変とは明らかに違うし、恐らく『管理者権限』を持つ神による歴史改変かな? しかし、どんな目的があってそんな大規模な地下建造物を作ったんだろうねぇ? 『這い寄る混沌の蛇』の有する技術はオーバーテクノロジーに区分されるものも含まれる。地下都市の建造自体は不可能なことではないと思うけど。とりあえず、ラインヴェルド陛下。今回の件に関しては陛下に動いてもらうつもりはないよ」
「ちぇー、クソつまんねぇこと言うじゃねぇか」
「ちょっと活躍し過ぎだからねぇ。他の人にも少しは見せ場を譲りなよ。……さて、まだ夏まで時間は十分にあるから当面はスクライブギルドの制圧の報告を待ちつつ、もう一つの厄介な件への対処を考えないといけないかな?」
「相変わらず、ローザ様の元には厄介なことが集まりますね」
「……オルゲルトさん、酷くない!? ……まあ、今回はボクがちょっと悪目立ちしたっていう自業自得なことではあるんだけど。ちょっとペドレリーア大陸の商人に睨まれてねぇ、ビオラに対して大規模なネガティブキャンペーンが行われているんだ」
「なんと、まさかアネモネ閣下のあのビオラ商会合同会社に喧嘩を売ろうなどという豪胆な者がいるのですか!?」
「アハハ、親友相手に喧嘩!? そいつは面白いッ!!」
「……身の程知らずのスクルージ商会ですわね。圓様に止められていなければ一人で殲滅に向かっていました」
「うわぁ、物騒」
「スクルージ商会は将来、ミレーユ姫殿下の敵として立ちはだかり……そして、和解を経て重要な味方となる人物だからねぇ。消されても困るよ。史実においては食糧の相互援助機構【ミレーユ・ネット】の中核を担うクロエフォード商会への妨害という形で敵対することになるんだけど、今回はオルレアン神教会に取り入り、瞬く間に勢力を拡大するボク達を敵視してくれているようでねぇ、まだミレーユ姫殿下の手には打開できる手札がないし、ボクが動いた方が勝算がある。まあ、結果オーライだと思っているよ」
「……うわぁ、おっかな」
「失敬な! ラインヴェルド陛下やカノープスに比べたらまだマシな部類だよ」とラインヴェルドに反論する圓に内心「どっちもどっちだろ」と思うオルゲルトとルアグナーァだった。
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それでは、改めまして。カオスファンタジーシリーズ第二弾を今後ともよろしくお願い致します。
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