Act.9-367 ペドレリーア大陸・ラスパーツィ大陸臨時班派遣再始動〜学院都市計画を妨害する緑の影〜(2) scene.9
<三人称全知視点>
学園の視察の翌日、セントピュセル学院での授業を終えたミレーユはライネ、ルードヴァッハ、バノス達近衛騎士達、そしてメイッサと共にヴァルマト子爵領を出発して静寂の森へと向かった。
ちなみに、前日の時点でルードヴァッハがウィリディス族の集落に既に近衛騎士の一人を先触れとして送っており、ミレーユ達の訪問はウィリディス族の者達も把握している。
「ここで戦う羽目にならなくってほっとしますぜ。姫殿下には改めてお礼を申し上げなきゃなりませんな」
「確かにここって木々の葉に視界も奪われるし、道も曲がりくねっているしで、土地勘がないと厳しいよねー。それに、騎士の利点である数の暴力にも頼りにくい。一流の弓の使い手であるウィリディス族との相性は最高で、木の上から狙撃され続けたら流石に帝国騎士でも厳しいんじゃないかな? まあ、戦略級魔法で森ごと吹き飛ばすとか、狙撃魔法で反撃するとか方法が全くない訳でもないけどねー。まあ、そもそも敵対する理由がないから考える必要もないことだけどさ」
「そういえば、メリッサ様達の大陸には魔法がありましたわね」
魔法が存在するか否か――その違いが及ぼす影響は極めて大きい。
戦いのスケールもペドレリーア大陸とはかなり違うものになることは、朧げながらミレーユにも分かった。
「まあ、戦略級自体使える人は少ないし、魔法の得意な人が多いブライトネス王国でもなかなか人数が少ないからねー。ルクっちによると、最近は魔力すら使わず広範囲攻撃ができる力が多種族同盟の時空騎士を中心に普及し出したみたいだけど。なんだっけ? 闘気? 霸気? 多少は興味があるかな? ほら、世界を旅しようとすると危険に遭遇することも多いしさ」
「その点、ペドレリーア大陸は住みやすそうだねー。魔物とかいないし」とメイッサは続ける。
ミレーユ達にとっては静寂の森はかなりの難所という認識だが、魔物の生息するベーシックヘイム大陸出身者達にとっては難所でもなんでもないのかもしれない。
◆
ウィリディス族の集落にやってきたミレーユは大歓迎を受けた。
夜には宴会を行う準備も進めているようで、村の男衆は宴会で出す料理の材料を狩りに行っているようだった。
昼食も流石に宴会の元と比較はできないが、ミレーユを満足させることができる料理を用意するつもりだったらしい。
ウィリディス族の集落に先に辿り着いていた圓がその日の昼食の用意を提案し、族長もそれを受け入れたのでその日の昼食は全て圓――エイリーンが用意することになったのである。
ミレーユは到着早々、族長に挨拶をした後、先に到着しているエイリーンがどこにいるのか尋ねた。
その理由はメイッサと圓を引き合わせるためである。メイッサに学園都市の教師に就任してもらうためには圓の協力が必要不可欠――普通教育を目指す圓がその重要なピースの一つと考えている学院都市関連のことで協力を拒むとは思わないが、多種族同盟側の事情はミレーユには分からないので不安がない訳ではない。
「エイリーン殿でしたら、つい先ほど、ルクシア殿下ご一行を出迎えに行きました」
「では、もう少ししたら戻ってきますわね。……ところで、族長様。少し帝国語が流暢になったのではないかしら?」
「放浪の賢者殿に教わり、少しばかり、練習してみました。ウィルヴも、帝国語の方が話しやすいようなので」
ちなみにウィルヴは族長の孫――あの髪飾りをくれた少年の名である。
ここでミレーユは初めて彼の名を知った訳だが、正式に名乗ってもらってはいないので後で不自然にならないように後でそれとなく名前を聞いておこうと思ったミレーユだった。
さて、ミレーユがウィリディス族の族長と話している間にルクシア達はウィリディス族の集落に到着した。
「エイリーン様、ルクシア殿下、フレイ様、クレマンス様、昨日ぶりですわね。無事に到着されたようで何よりですわ」
「ミレーユ姫殿下、わざわざお出迎えありがとうございます。その様子だと先輩を無事に説得できたようですね。ウィリディス族の皆様、初めてまして。私はルクシア=ブライトネスと申します。ベーシックヘイム大陸に存在するブライトネス王国より参りました。本日から侍女のクレマンスと共にこの静寂の森で生態調査をさせて頂きたいと思っております。また、婚約者のフレイもその期間静寂の森でお世話になる予定です。その間、ウィリディス族の皆様にはご迷惑をお掛けすると思いますので何卒よろしくお願いします」
「リオラから、連絡は受け取って、おります。ウィリディス族の族長を務めているブライウ、です。あまりおもてなしは、できませんが、どうぞ、心ゆくまで、ご滞在くださいませ」
村の入り口でルクシアとブライウが互いに挨拶を終え、ブライウがルクシア達を村の中へと案内しようとしたタイミングで突如、和やかなムードを切り裂くようにメイッサが顔を真っ青にして口を押さえた。
「……こっ、怖いっ……理解、できない」
身体は小刻みに震え、目には涙を溜めている。あれほど明るく元気に溢れ、恐怖とは無縁そうに見えたメイッサの変貌っぷりにミレーユは驚きながらもメイッサを心配して駆け寄る。
「メイッサさん、大丈夫ですの!?」
「メイッサ先輩ッ!!」
ミレーユに遅れることコンマ数秒、ルクシアとクレマンスもメイッサに駆け寄った。
「大丈夫……じゃ、ないかも。……ごめん、ミレっち、ルクっち、クレっち……心配掛けて」
「はぁ……まるでこれじゃあ、ボクが悪者みたいじゃないか。勝手に覗き見して、勝手に怯えて……挙句、理解できないなんて言われて、メンタルダメージ食らったのはボクの方だよ。まあ、そういう心無い言葉をぶつけられるのに慣れているから、別に何とも無いんだけどねぇ」
メイッサの視線の先にいたエイリーン――圓は少しだけ居心地が悪そうに顔を顰めた。
「……圓様、一体何が起きたのですの?」
ミレーユはルクシアとブライウの方に視線を向けていたため、メイッサが恐怖に怯えるに至った一部始終は目撃していない。それは、ライネとルードヴァッハ、バノス達近衛騎士、マリア、リオラ、ウィリディス族の者達にも言えることで、この場のメイッサを除く全員が圓に視線を向けている。
「ただ、メイッサ様の魔法――『真実を見る鷹の目』をその身に受けた、それだけですよ。ボクは抵抗せずに、その魔法を浴びたことでメイッサ様はボクに関する総てを知った。それを先ほど、メイッサ様に向けていた見気の派生――読心の力で確認しました」
「……かなり複雑な攻防がルクシア殿下と族長殿の挨拶の僅かな時間のうちに行われたようですが、つまりメイッサ様の魔法が発動したことを圓様が見気で確認したということですね。そして、メイッサ様がこのような状況に陥ってしまった理由はその魔法で見てしまったものにあると」
「ルードヴァッハさんの仰る通りだよ。……まあ、無許可の件は『真実を見る鷹の目』が制御できない魔法ということで大目に見るとするよ。ボクだって日常的に見気使っているから人のこととやかく言える立場じゃないしねぇ。ただ、人の過去を勝手に盗み見てそういう態度を取られるのはちょっと気に食わない。……『真実を見る鷹の目』は優秀な魔法だ。系統は時空魔法寄りかな? その人の過去と現在を総て見通すことでその人の本質を知ることができるらしい。ミレーユ様も経験あるんじゃないかな?」
「えぇ……ですが、そのような魔法であるとは想像しておりませんでしたわ。……でも、確かにそういう力であるとすれば辻褄が合いますわね」
メイッサの言葉はまるで別の世界線の、かつてのミレーユを見ていたようだった。その時は本質を見抜く魔法でその過去を見抜かれたのかと思っていたが、どうやら順序が逆だったらしい。
「そして、この魔法の対象には記憶を失った過去も含まれる。……どこまでが射程距離かは分からないけど、少なくとも前々世までは見通せたらしい。……その記憶はね、かつてのボクが捨てたものだった。その呪いとしか思えない運命を憎み、その運命の鎖を断ち切ろうと自称ライバルに頭を下げて記憶を捨てた。かつてのボクが愛した人がボクを憎悪し、その記憶を怨念と共に受け継ぐことを選んだのと対極に、ボクは繋がりを断ち切ろうとして……まあ、結局完全に断ち切れてはいなかったんだけどねぇ。ボクは前世、そして今世、新たな時代でできた大切なもの――家族を守るために、捨て去った前々世とは別の形で再び敵として相見えようとしている。あちらはあちらで、ボクに恨みがあるんだろうけど、それとは別の理由でも敵対しているのさ。……最初、愛と呼ばれていたものは長い年月と呪いのような運命によって最早名付けられない混沌とした感情へと変貌を遂げた。一番近いのは殺意だけど、実態はかなり違う。……メイッサ、君は確かにボクの総てを見てきたのかもしれない。でも、それはただ見てきただけだ。いや、同じ体験をしたとて、ボクと同じ答えに辿り着けるとはボクには思えない。……そもそもさぁ、人間同士は本質的には理解できないものなんだ。過去を追体験したところで本当にその人を理解できる訳じゃない。丁度同じ物語を読んだとしてもそれぞれが違う感想を持つようにね。人は理解できないなりに理解しようとして、歩み寄っていく生き物なんだ。特別な目を持つからってあんまり天狗にならない方がいいよ、じゃないとボクや瀬島奈留美みたいな理解できない化け物に会った時に足を掬われるからねぇ」
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それでは、改めまして。カオスファンタジーシリーズ第二弾を今後ともよろしくお願い致します。
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