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百合好き悪役令嬢の異世界激闘記 〜前世で作った乙女ゲームの世界に転生した悪役令嬢が前世の因縁と今世の仲間達に振り回されながら世界の命運を懸けた戦いに巻き込まれるって一体どういうことなんだろうねぇ?〜  作者: 逢魔時 夕
Chapter 9. ブライトネス王立学園教授ローザ=ラピスラズリの過酷な日常と加速する世界情勢の章〜魔法の国事変、ペドレリーア大陸とラスパーツィ大陸を蝕む蛇、乙女ゲームの終焉〜

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Act.9-363 ペドレリーア大陸・ラスパーツィ大陸臨時班派遣再始動〜学院都市計画を妨害する緑の影〜(2) scene.5

<三人称全知視点>


 神父の部屋に入り、ほんの少しだけ固い椅子に座ったところでミレーユは「そういえば、すっかり忘れてましたわ」と今さっき思い出した風を装って近衛騎士の一人に預けていた神父への贈り物を受け取るとハムラに手渡した。


 手土産の有無というものは印象を大きく左右するものである。況してや、交渉を行うとなれば手土産は必須――こうした小さな心配りが良い印象を生み、交渉を円滑に進ませる。

 では、どのようなものを手土産にするのが良いだろうか?

 親戚の家に挨拶に行くのであれば、お菓子や果物類。外交においては国の特産品。まあ、これはあくまで一例で実際はケースバイケースなのだが、教会に持って行く手土産となれば教会で保護されている子供達も楽しめるようなお菓子などが無難なところである。


 しかし、今回、ミレーユが持ってきた手土産はお菓子では無かった。確実にハムラに突き刺さり、交渉を円滑に進める切り札――とっておきの手土産をミレーユは用意し、持ち込んでいたのである。


「これ、お願いされていたものですわ」


「そっ、それは、まさかっ!?」


 あからさまに目の色を変えて食いついたハムラにミレーユは内心ニヤリと北叟笑む。


「以前、お願いされたリズフィーナ様の肖像画にサインをして頂きましたわ」


 こちらは既にハムラから依頼されていた品のためハムラを喜ばせるものではあるもののサプライズの品という訳ではない。多少なり感謝されるとしてもこれ一点では流石に弱いと考えていたミレーユは別の騎士から受け取った今度こそ本物の切り札をハムラへと差し出した。


「それと、こちらは先日、セントピュセル学園で売っていたものにリズフィーナ様にサインして頂きましたの。どうかしら? 期間限定の品でかなり珍しいものだそうですわ」


「――ッ!? こっこれは、まさかッ!? オルレアン教国内はおろか、セントピュセル学園においても期間限定でしか買えないと言われるレジェンドクラスの秘宝、生徒会長選挙Verの肖像画!? しかも、『いつもお仕事お疲れ様です。貴方に神の祝福がございますように』というリズフィーナ様直々のメッセージ付き!? ひゃっほー!! うひょっ!?」


 衝撃のあまり数分固まっていたハムラは思考停止が解けた瞬間に奇声を発し出した。

 その余りの変貌っぷりにはミレーユも流石にドン引きしている。


「流石はミレーユ姫殿下ですね。まさに、ミレーユ姫殿下以外にはご用意できない品。……そもそも、その肖像画事態生産数が少なく、期間限定でしか販売されていないもの。そこにリズフィーナ様のサインとなれば、その希少価値は凄まじいものとなりますからねぇ」


「凄いです、ミレーユお姉様!」


 エイリーンの補足を聞いたミラーナから尊敬の眼差しを向けられ、「たまたま選んだ品でしたけど、やっぱりわたくしって審美眼を持っているのですわね」と鼻を長くするミレーユ。

 完全に偶然であるのだが、ミレーユ自身、それに気づいていないようだ。おめでたいお姫様である。


「それと、こちら少量ですがミレーユ姫殿下と私からささやかながら焼き菓子をご用意させて頂きました。子供達と楽しんで頂けたら幸いです」


「ありがとうございます。いやぁ、しかし、本当に色々ともらってしまって申し訳ない。ところで、本日のご訪問の理由はどのようなものなのでしょうか?」


「学園都市の教師を推薦して頂きたいという話ですわ」


「はい。それはもう。ルードヴァッハ殿からすでにお話を聞いております。少し検討させて頂きたいとお答えしておりましたが、是非喜んで、最大限協力させて頂きます! 勿論、ゆくゆくはセントピュセル学院と学園都市を巻き込み、大陸の垣根を超えた学舎を作るというエイリーン様とミレーユ姫殿下のご計画にも微力ではありながらお手伝いさせて頂く所存です!」


「はぇ……?」


 お土産が予想以上の効果を発揮してしまい、ミレーユ自身すら目を白黒させていた。

 いつの間にか圓が掲げる「セントピュセル学院と学園都市を巻き込み、大陸の垣根を超えた学舎を作る」計画にも協力することが決まってしまったようである。まさか、そこまで話が進むとは思っていなかったミレーユは「その計画はわたくしの掲げるものではありませんわ。というか、どうせ引くに引けないところまで来ているとは思っていましたけど、やっぱりその計画からは逃れられないんですわね」とハムラ達に気取られないように内心溜息を吐いた。まあ、圓にはお見通しではあったのだが……。



 神父の部屋でしばらく歓談していると――。


「失礼致します。ミレーユ様、ルードヴァッハさんがいらっしゃいました」


 ライネと共に待ち人――ルードヴィッヒが現れた。


「お待たせしてしまい、申し訳ありませんでした。ミレーユ姫殿下」


「ガルヴァノス老師との交渉の準備をしていたのですわよね? 静寂の森から戻ってすぐで申し訳ありませんでしたわ。こちらの話は終わりましたから、安心してくださいまし」


 ルードヴァッハを気遣いつつ、自分の手柄を誇示するミレーユにエイリーンが少しだけ冷たい視線を向けている。

 しかし、当のルードヴァッハはというと短期間で話を纏めてしまったミレーユに尊敬の眼差しを向けていた。


「ところでミレーユ姫殿下、そちらの隣にいる方は……」


「手紙で書いたわたくしの腹違いの妹ですわ。このことは絶対に他言無用でお願い致しますわね。神父様も」


 ミレーユが視線を向けると、神父は「心得た!」とばかりに頷いてみせた。


「なるほど、彼女が。……実はミレーユ様から連絡を頂く以前に圓様から報告を頂き詳しい話(・・・・)を聞いております。正直、信じられないことが多分に含まれていたのですが、まあ、それはそういうことだと納得しました」


 ルードヴァッハの言葉から「まさか、圓様普通にミラーナのことを説明したんじゃ」と思い、圓の方に視線を向けると気づいたエイリーンがミレーユにだけ分かるように小さくウィンクして見せた。

 道中の圓の話を半分ほども理解できなかったミレーユは「全く、過去を変えないようにわたくしが気を配りながら頑張っているのにこの方は何をやっているのかしら?」と少しだけ憤りを顔に滲ませる。


「ミラーナ、ご挨拶を」


「ルードヴァッハせ……ルードヴァッハさん、初めまして、ミラーナです」


「改めまして、ルードヴァッハと申します。これからどうぞよろしくお願いします、ミラーナ様」


 未来の世界(ミラーナの時代)に師と弟子として出会うこととなったミラーナとルードヴァッハ――時を遡り、右も左も分からない過去の時代にて行われた青年時代の師との不思議な邂逅はミラーナの記憶に深く刻まれることとなった。



 その後ミレーユ達は教会を後にし、ヴァルマト子爵領に向かうこととなったのだがここでミラーナが別行動を申し出て金剛特区に残ることになった。


「フーシャさん、申し訳ないですが……」


「えぇ、分かっているわ。私がミラーナ様の側についていますから安心してヴァルマト子爵領に向かってください」


 ということで、ミラーナとフーシャの二人を金剛特区に一行はヴァルマト子爵領に向かうことになった。……といってもエイリーンが惜しみなく時空魔法を使用したので移動には一切時間が掛かっていないのだが。


 ちなみに残してきたミラーナとフーシャの護衛はダイアモンド帝国に派遣されている諜報部隊フルール・ド・アンブラルの諜報員達が受け取っている。この過剰過ぎる護衛のおかげでミレーユは一切の心配なくヴァルマト子爵領に赴くことができた。

 ……まあ、『管理者権限』を有する唯一神クラスの敵が攻めてきたら流石に安全とは言い切れなくなる訳だが。


 到着と同時にヴァルマト子爵邸に赴き、ミレーユは訪問の挨拶と労いの言葉を掛けた後、ヴァルムト子爵から皇女街(プリンセスタウン)の建設計画の詳細と進捗状況について説明を受けた。

 ちなみに、ガルヴァノスとの交渉は金剛特区の教会での交渉から三日後に予定されており、まだまだ潤沢に時間が残されている。

 この日程は翌日に学園都市の視察、翌々日に静寂の森への訪問を行っても十分に間に合う計算になっており、時間に追われて行動する要素がないためミレーユもかなり余裕を持って視察を行えそうだと感じていた。


 ガルヴァノスとの交渉もほとんど終わったものであり、ヴァルマト子爵から話を聞くミレーユの心は軽く……は無かった。

 到着と同時に圓から事前に聞かされたヴァルマト子爵達が極秘裏に進めている計画に頭痛を覚えたのである。


「現在は学園の建物を優先して建てています。一刻も早く開校したいとのことでしたから、そのように手配しておりますが、予定の変更等の希望はございませんか?」


「ええ、それで問題ございませんわ」


 以前会った時には卑屈な笑みを浮かべていたヴァルマト子爵だが、現在はまるで憑き物がとれたように好々爺然とした微笑を浮かべている。

 その瞳には仕事にやり甲斐を感じている者特有の輝きがあった。


 その隣には若い文官の姿があった。ダイアモンド帝国の帝国政府から派遣されたその役人は良家出身者特有の気品を纏っている。

 美しい銀色の髪に澄んだ青い瞳――人懐っこそうな笑みを浮かべるルードヴァッハと同世代と思われる青年はヴァルマト子爵の話を引き継ぐ形で説明を始めた。


「校舎と学生が暮らす寮を優先して建設中です。近隣のウィリディス族のご好意で、静寂の森の木々を木材としてお譲り頂き、これを校舎の建築に用いることとなりました。姫殿下のお気に入りの木材であるとお聞きしておりますが……」


「それは良いですわね。さぞかし美しい校舎になるでしょう」


 現在は食事……というよりお菓子以外は断頭台に近づく贅沢を極力避けているミレーユだが、綺麗なものが嫌いになった訳ではない。

 余計な費用が掛からないのであれば、より美しい校舎になった方が良いとミレーユは考えていた。そう、余計な費用が掛からないのであれば――。


「そうでしたわ。実は、わたくし、不穏な噂を耳にしましたの」


「……ほう、不穏な噂ですか?」


 満を持したタイミングだと判断してヴァルマト子爵が懐から羊皮紙を取り出そうとした、まさにその瞬間を狙いミレーユは先手を打った。

 ほんの少し不快そうな感情を顔に滲ませたヴァルマト子爵を前にミレーユはゴホンと咳払いをする。


「なんでもわたくしの黄金像を建てるつもりだとか?」


 膨大な金が掛かる上に何の役に立つ訳でもない黄金像の建設の話を圓から聞き、心踊る気分でヴァルマト子爵領を訪れたミレーユの気分は一気に地面に叩きつけられた。

 その黄金像はミレーユを断頭台へと近づける大いなる罠のように思えてならない。少しずつ近づくギロチンの音にミレーユは内心悲鳴を上げていた。


「えぇ、ご存知でしたか。宮廷の尖塔に匹敵する巨大な像で、内部は空洞になっていて目と口のところから外の景色を見られるようになっております。更に夜には空洞部分から光を放ち、街を照らせるような形を考えておりました。しかし、不穏な噂ですか……」


「つまり、ミレーユ姫殿下型の黄金の灯台ということですね。『帝国の深遠なる叡智姫』の叡智で世界を遍く照らす灯台……そういったコンセプトなのでしょうか?」


「おおっ、まさにその通りです! ええっと、貴方様は」


「ご挨拶が遅れましたわ。私、エイリーン=グラリオーサと申します。海を隔てたベーシックヘイム大陸のブライトネス王国よりセントピュセル学院に留学生として参りました。一応、宮中伯令嬢、或いは辺境伯令嬢ということになりますね。ダイアモンド帝国の爵位基準に合わせると侯爵令嬢と同格になります」


「でも、実際のところは子女ではなく叙爵された張本人で、更にはいくつかの国の君主であらせられるという外交上絶対に敵に回してはならないお方ですわ」


「……ミレーユ姫殿下、ネタバラシはその辺で」


「あら? ヴァルマト子爵は信頼に足るお方ですわ」


「まあ、事実その通りなんですけどねぇ。正直、話が長くなるので極力、重要な方にしか説明したくないといいますか……まあ、折角ですし、この機会にお二人にもほんの少しだけご説明させて頂きましょうか? ルーゼンヴ・ヴァルマト子爵殿、ヴェザール・ネーヴァエ伯爵令息殿」

 お読みくださり、ありがとうございます。

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 それでは、改めまして。カオスファンタジーシリーズ第二弾を今後ともよろしくお願い致します。


※本作はコラボ企画対象のテクストとなります。もし、コラボしたい! という方がいらっしゃいましたら、メッセージか感想欄でお声掛けください。

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