Act.9-361 ペドレリーア大陸・ラスパーツィ大陸臨時班派遣再始動〜学院都市計画を妨害する緑の影〜(2) scene.3
<三人称全知視点>
ルードヴァッハと面会した翌日、ルクシアとの面会を終えたミレーユは圓と合流後に時空魔法『三千世界の鴉を殺し-パラレル・エグジステンス・オン・ザ・セーム・タイム-』を使用してその日の朝のダイアモンド帝国の城に転移した後、ミレーユは近衛騎士達を伴ってライネの実家へと向かった。
その道中、ミレーユは隣を歩いていた皇女専属近衛部隊の隊長の顔を見て首を傾げる。
「あら、貴方。確か、ディオンさんのところの、副隊長さんでしたわね」
「おっ? 覚えていて頂けましたか? 実はルードヴァッハの旦那が皇女専属近衛兵団の増強を図るとかで、あの時の隊のほとんどが皇女専属近衛兵団に編入されたんでさ。そういえば、ご挨拶がまだでしたね。まあ、その編入の際に皇女専属近衛兵団の隊長になりましたんで改めてよろしくお願いします」
「宜しくお願いしますわ。ということは、もう副隊長ではないのですわね」
「俺のことはバノスって呼び捨てにしてくれればいいぜ。……しかし、まさか圓さんまで同行するとは思わなかったぜ。もう俺達必要ないレベルの過剰戦力だよな?」
「まあ、確かに圓様さえいればどんな状況にも余裕で対処してしまいそうですわね」
「うーん、買い被り過ぎじゃないかな? それに、ボクってこんな見た目でしょう? 基本舐められるんだよねぇ。バノスさん達みたいな屈強な見た目って実はかなりの抑止力になるんだよ。バノスさんは自分達みたいなガラの悪い連中が近衛騎士になんてって思っているみたいだけど、ボクとしてはかなり良い考えだと思うけどねぇ。……で、バノスさん。しっかり闘気と八技の練習はしているかな?」
「まあ、ディオンさんからレクチャーは受けていますけど、八技とかよく習得できるよなって思いますよ。あの技術、もう人間辞めちゃうレベルですよね?」
「そうかな? この先の時代、ああいう能力を会得していないとついていけないと思うよ? まあ、八技は長い訓練を重ね、極限まで肉体を鍛え上げることで会得可能となる技術――人体を兵器に匹敵するものへと変える武術だからねぇ。感覚が麻痺しているけど、本来はなかなか会得できないもの。まあ、元々剣すら握ったことがない伯爵令嬢が八技使いこなして聖人の領域に至って霸気覚醒させたなんて事例もあるし、人間、結局やる気になるかならないかだと思うよ。大丈夫大丈夫、ボクはバノスさんのことを信じているし」
「……その期待と信頼は一体どこから来るんです?」
「圓様の無茶振りはいつものことですわ。バノス、あんまり気になさらないでくださいまし。皇女専属近衛兵団の皆様がお強いことはわたくしも実感していますし、頼りにしていますから」
「まあ、でも圓様の言っているのも事実には違いないんで、俺達も姫様を守れるように更に精進を続けていくつもりなんですけどね」
ミレーユの心遣いの籠った言葉に励まされ、ミレーユを守れるように強くなろうと心に誓ったバノス達近衛騎士だった。
◆
ライネの実家ではミレーユ達をライネの弟と妹達が出迎えた。
輝くような笑顔で迎えてくれる子供達に思わず顔を綻ばせるミレーユをエイリーンは嬉しそうに眺めている。
「ご機嫌麗しゅうございます。ミレーユ様」
「イーリス、久しぶりですわね。貴女のお話、いつも楽しんで読ませて頂いておりますわ」
「ありがとうございます、ミレーユ様! あっ、あの……ところで、天、じゃなかった……えっと……そう! 特別な馬に乗れるっていうのは本当なんですか?」
「はて、特別な馬……ですの?」
「特別な馬といえば、ミレーユ様、あれがありましたよね? 空翔ける天馬」
「えぇ、まあ、そうですわね。確かに乗れますわね」
出会いこそ最悪な形だったが、ミレーユは別に『空翔ける天馬の召喚笛』に興味がない訳ではなかった。
あの後、実際に『空翔ける天馬の召喚笛』を使用して空翔ける天馬に乗ってみると、空を飛ぶ感覚にはちょっぴり恐怖を感じたものの、素直な性格で他の馬よりも安定感があり、ミレーユはすぐに空翔ける天馬のことを好きになった。
ただ、再使用規制時間が存在するため、万一の状況を考えると使うに使えない切り札になってしまってはいるが。
「やっぱり……そうなんだ……ミレーユ様は天馬を自在に操って自由に空を駆けるお姫様なんだ」
「ふぇ……えっ、ええ、まあ、そんなところですわ」
イーリスに尊敬の光でキラキラとした瞳を向けられ、微妙に否定できなくなったミレーユだった。
『偽史皇女伝』の完成にまた一歩近づいた訳だが、勿論、ミレーユはそのことに気づいていない。まあ、空翔ける天馬に乗れるのは事実のため、若干真実が混ざっている訳ではあるが、誤差の範疇である。
その後、若干の脚色を交えつつイーリスに空翔ける天馬について話をしたらミレーユはミラーナ達と合流して金剛特区へと向かった。
その道中、上機嫌に、鼻歌交じりにスキップする少し能天気が過ぎるミラーナに一抹の不安を覚えたミレーユはその道中、声を潜めてミラーナに言葉を掛ける。
「ところで、ミラーナ。実は、金剛特区の教会でルードヴァッハ達と合流することになっておりますの」
「えっ!? ルードヴァッハ先生にお会いできるんですかッ!?」
ルードヴァッハと会えると聞くなり満面の笑みを浮かべ、すっかり浮かれ気分になってしまったミラーナにミレーユは自分のファンが当たっていたことを半ば確信――何かが起こる前に釘を刺しておくことにした。
「一応注意しておきますけど、くれぐれも不用意なことは言わないようにすること……例えば、未来に関することとかですわ」
「もう、ミレーユお姉様、そんなこと言われるまでもないです。お姉様のお邪魔になるようなことは絶対言いません!」
前夜にイーリスに未来の記憶を話したという前科はすっかりと忘れてしまっているミラーナである。
少し前のことでも綺麗さっぱり忘れてしまえるミラーナはどこかの誰かさんにそっくりだったが、本人は全く気づいていない様子だ。
「それにしましても、この辺りも随分と活気が出てきましたわね」
「なんでも、ルードヴァッハの旦那が商業特区だとかに指定したとかで、安く商売ができるってんで、商人たちが集まってきてるみたいですぜ」
ミレーユ達をさりげなく庇う位置を歩いていたバノスが豪快な笑みを浮かべながらミレーユの質問に答える。
「ああ、後のミレーユ大通りだねぇ」
「あっ……やっぱりここってミレーユ大通りだったんですか?」
圓とミラーナが不穏な単語を聞きつけ、やや顔を引き攣らせたミレーユが嫌な予感を抱きつつ圓に質問しようとしたが、そのミレーユの考えを見通すように圓が先手を打って説明を始めた。
「ミレーユ姫殿下、ミラーナ様、バノスさんの三人はボクが未来の記憶……より厳密には無数の並行世界に関する知識を有していて、それを参考にしているっていうのは知っていますよね?」
「えぇ、まあ……世界線でしたっけ? なんかよく分からないなぁ、と思いながら聞いていましたが……」
「まあ、難しい話ですねぇ。……では、こうしましょう。近衛騎士のレンゼラさん」
「はっ、はい! 俺ですか!?」
エイリーンに名指しされた元ディオンの部下のレンゼラが驚きながらエイリーンに視線を向ける。
「例えば、レンゼラさんが過去に移動できる特殊能力を持っているとします。そうですねぇ……例えば、ダイアモンド帝国で革命が起きたとして、レンゼラさんはその知識を持って過去のダイアモンド帝国に転移し、紆余曲折を経て革命を止めました。ここまでは大丈夫ですか?」
「いや、全然分からないですけど。そもそも、何で俺なんです? それに、俺の力じゃ仮に革命が起こったとしても止めるなんてできませんよ」
「まあ、別にそこは重要でも何でもないんで革命を止めることに成功したとだけ考えてください。では、その時、ダイアモンド帝国はどのような未来に到達すると思いますか?」
「そりゃ、革命が起きていないダイアモンド帝国でしょうね。……その未来に到達する前に革命が起きたらまた別ですが」
「では、仮にその未来に辿り着いたとしましょう。その未来は平穏な世界です。時間移動能力を持つその時代のレンゼラさんも過去に戻る理由はない訳です」
「……まあ、そういうことになるな。んん? おかしくねぇか? それだと革命は誰が止めるんだ?」
「そう、そこが重要なんですよ。過去改編を行うと、矛盾が生じてしまう可能性があります。過去を変えたら未来も変わる訳ですからねぇ。通常、時間の流れは過去、現在、未来と一直線になっていると考えます。しかし、それでは矛盾が生じてしまう。それを解消する方法が世界線という考え方です。要するに未来が分岐するということですね。例えば、未来Aからレンゼラさんが過去を訪れ、歴史を変えた場合、未来Bに世界線が移動します。その際、未来Aは消えずに残るという考え方です。言い方を変えれば、世界線が分岐するため、過去を経由すると未来そのものは絶対に変えられないということになります。この世界線、荒唐無稽な話に思えますが、既にボクも別の世界線をこの世界で観測しています。通常、一度に人間が観測できる世界線は一つです。世界線を移動する特殊な時空魔法を使わない限りは一生を同じ世界線で過ごすことになります。では、具体的にどのように別の世界線が存在するかを確認するかというと、別の世界から転生した転生者に会うというものです。もしもの世界から流れ着いた魂の持ち主が実はこの世界には何人もいます。ミレーユ姫殿下も既に何人かと接触している筈です」
「ジョナサン神父とティアミリス殿下、後はベルデクト様達ですわね」
「はい、その通りです。で、何が言いたいかというと、ボクはある一時期に限りますが、起こり得る世界線の全てを把握しています。まあ、でも、現在は別の要因が絡まってほとんど予測不能な状況でもあるんですけどねぇ。ミレーユ大通りはトゥルールート、つまり帝国崩壊が起きないルートを進んでいくと、そのルートの途中で生まれ、その存在が語られることになる場所です。なので、存在を知っていたという訳です」
「……まあ、姫様が動かなければ実際に誕生していなかった訳だしなぁ。……金剛特区が生まれるか否か、こういうところにも分岐が存在していたって訳か」
「厳密に言えば、一つの選択ごとに世界線は分岐しますから、それこそ朝食に何を食べたかレベルで世界線って分岐して無数に増えていきますからねぇ。流石にそこまで細かいものは統合されますが、かなり流れが変わると完全に分岐してしまう……ボクはその大きな流れを大体網羅していると思ってください。まあ、大して当てにはなりませんが。……世界線というのは面倒なものです。決められた未来に……いえ、現代に、というべきでしょうか? ボクがこの世界にやってきたあの地点に至るためには今の段階では触れてはならないものがいくつかある。打てる手は多少減ってはいますが、かなり忙しいんでそこまで困ることもありません……というか、手一杯なんですよね」
「はぁ……」
抽象的な圓の言葉にミレーユ達が疑問符を浮かべる中、エイリーンはミレーユとミラーナの進む道が光あるものであることを心から願い、微笑み掛けた。
「なので、あんまり気にしなくても、気を張らなくてもいいと思いますよ。目指すのが変わり映えのしない未来ではなく、悪夢を打ち払った光ある未来であるのなら、ねぇ」
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それでは、改めまして。カオスファンタジーシリーズ第二弾を今後ともよろしくお願い致します。
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