Act.9-360 ペドレリーア大陸・ラスパーツィ大陸臨時班派遣再始動〜学院都市計画を妨害する緑の影〜(2) scene.2
<三人称全知視点>
「現在、私の専属侍女を務めてくれているクレマンス=ハント侯爵令嬢は学園・学院時代、切磋琢磨しながら薬学の道を極める仲間であり、同時にライバルでもありました」
「良き関係を築いていたのですわね」
「……私にはルクシア様を研究の面でお支えできませんから、クレマンスさんのことが羨ましいと思う時がありますわ」
ほんの少しだけ嫉妬を覗かせるフレイにルクシアが一瞬だけ困った顔を浮かべたが、「君という陽だまりが居てくれるから私は頑張ることができるんだよ」とフレイに囁いてフレイの顔を赤らめさせた。その様子をクレマンスは微笑ましそうに見つめている。
「学院時代の私は研究室に引き篭もりがちだったのですが、そんな私を見るに見かねたのか、研究室から強引に引っ張り出し、クレマンスさんと三人でフィールドワークに同行させた先輩がいました。王族相手にも臆することない堂々とした態度で……傍目から見たら少し無礼な態度を取っているように見えたと思いますが、そうした周りの評価を気にする様子もなく我が道を行く、まさに太陽のような人物でした。……正直、学生の頃は苦手だったのですが、今振り返るとあの時間は掛け替えのないものだったと思います」
「実は私がルクシア様の婚約者として相応しくないのではないか、クレマンス様こそが婚約者に相応しいのではないのかと不安だった時に励ましてくださったのもあの方でした。同じ公爵令嬢でも全く私とは対照的で、あの行動力が少しでも私にあればと思ったことは数知れません」
「……その方は公爵令嬢なのですの?」
「そうでした……お名前をお伝えするのが遅れましたね。彼女はメイッサ=エンセラダス、エンセラダス公爵家の長女です。何よりも実学を重んじ、自らの目で確かめなければ気が済まない性格で学院卒業後は各地を放浪して研究をしつつ、旅の途中で出会った学校に通えない子供達に勉強を教えていると聞いています。何年かに一回社交会に顔を見せることがあるのですが、最近は消息不明でエンセラダス公爵家もその動向を掴めていなかったようです。まあ、いつものことなのでメイッサ先輩の弟でエンセラダス公爵家の現当主のビジリットさんも『どこかで心の赴くままに研究をしているんじゃないでしょうか?』とあまり気にした様子ではありませんでしたけどね」
幼少の頃からメイッサに振り回されてきたビジリットは優秀の姉と比較されるよりも「あの令嬢に付いていける凄い子」と周囲に尊敬されて育ったため、歪むことはなかった。
大抵のことには動じない図太さをメイッサと暮らす中で身につけたビジリットは現在、どんな状況にも動じず冷静に物事を判断できる力を持つ優秀な領主としてその名を知られている。
「メイッサ先輩の長所であり同時に短所でもあるのは平民だろうと王族だろうと分け隔てなく同じような態度を取るところです。礼儀を知らない訳ではなく、礼儀作法を完璧にマスターしている完璧令嬢なのにあえてそれを無視していると言えば伝わるでしょうか? 彼女は公爵令嬢である前に一人の人間であることを重視します。肩書き、経歴――纏う飾りを無視し、一人の人間の本質を見抜き、同じ一人の人間として相対する……悪い人ではないのですよ。しかし、そういう性格を無礼だと嫌う人間は多いのです」
「なるほど……そういうことでしたのね。是非一度お会いしてみたいと思いますわ。仲介をお願いしても良いかしら?」
もっと何か大きな問題を抱えているのかと思ったらルクシアの不安視するものはあまりにも些細なもので、少しだけ拍子抜けしてしまったミレーユだった。
今は贅沢を言っていられる状況ではないため、多少無礼な振る舞いをするような人物でも、多少性格に難がある人物であっても多少であれば受け入れたいと考えていた。
教師として子供に勉強を教えた実績、ブライトネス王国の学院で学んだという実績があるのであれば、多少の問題があったとしても目を瞑るつもりである。
「分かりました。では、メイッサ先輩に手紙を送り交渉の機会を作ってもらえるようにお願いしておきますね。……ああ、そうでした。圓様より一つ仕事の依頼を受けていました。強制ではないのですが、もしよろしければ私の講義を受けてはみませんか? 茸に関する講義なのですが」
「まあ、茸ですの?」
「えぇ。ミレーユ姫殿下は多少の知識を身につけておられるようですが、茸というのはなかなか難しいものです。自分が知識があると思っている人ほど術中にハマり、命を落とすもの。そこで、食べられる茸と毒茸の見分け方といった初歩から、具体的な茸の見分け方、更には毒茸の利用法までご説明させて頂きたいと考えております。私は別に茸の専門家ではありませんが、毒と薬の研究の対象に茸は含まれますので一通り種類と特性は覚えています。いかがでしょうか?」
「それは興味深いお話ですわね。折角ですから、その講義、受けさせて頂きたいと思いますわ」
一先ず教師の候補を一人見つけることができたミレーユはルクシアと茸講義の約束を結んだ後、上機嫌でルクシアの研究室を後にした。
◆
ミレーユが去ったことを確認したルクシアは溜息を吐くと隣の空き研究室に視線を向けた。
「先程から私達の話を盗み聞きしていたことに気づいていないと思っていたのですか?」
「あら、一体何のことかしら?」
堂々とした態度で空き研究室から出てきたエメラルダにルクシアは呆れの表情を向ける。
「……人間関係というものは難しいものですね」
「一体何の話かしら?」
「心で思っていても、それを表現しなければ相手には伝わらないということですよ。しかし、ただ表現をすれば伝わるという訳ではありません。決して屈折したやり方では意味がない。……グリーンダイアモンド公爵令嬢、貴女はミレーユ姫殿下の親友であると伺っております」
初対面のルクシアがミレーユと自身の関係を知っていることに一瞬驚いたものの「ミレーユ様が話したのかもしれませんし、別段不思議なことではありませんわね」と思い直し、「そうですわ! 私はミレーユ様の一番の親友ですわ!」と胸を張って言った。
「しかし、ミレーユ様はグリーンダイアモンド公爵令嬢のことを本当に親友だと思っているのでしょうか?」
「なんですって!? 貴方、いくら一国の王子だとしても言って良いことと悪いことがありますわ!」
「親友は夢を応援するものだと思います。その夢のために力を貸すことができる人物だと思います。……定義は様々ですから、あくまで私の定義ですけどね。……ですが、相手を慮ることができないような方は親友とは呼べないでしょう。父上やディラン大臣閣下、叔父上があの方の親友かどうか微妙なのはここですね。まあ、でも、あれも一つの親友の在り方なのでしょうか? ……一度、自分の行いを振り返ってはいかがでしょう? ミレーユ姫殿下の肝煎の学園計画の邪魔をしたことがあるのではありませんか?」
「あら、何のことかしら?」
「でしたら、私がミレーユ姫殿下に協力することも何ら咎められることではありませんね。では、私はこれで」
「まっ、待ってくださいまし! 一体貴方達は何なんですの!! 貴方達が現れなければ、こんなことには……」
「ミレーユ姫殿下と貴女の絆が引き裂かれなかったとでも? さあ、本当にそうなのでしょうか? 少なくとも、我々多種族同盟内は我々とミレーユ姫殿下達の共通の敵を倒すために一時の共闘をしている関係に過ぎません。その後はミレーユ姫殿下達がどのような選択をする次第かです。しっかりと線引きを行っているのですよ。……まあ、多少情が湧いているのは確かですけどね。……もしもなんてものは分かりませんが、我々がいなかったとしても状況は大差無かったと思います。では、何がミレーユ姫殿下と貴女の間に大きな溝を生じさせたのか、もう一度ご自身の歩いてきた轍を振り返ってみてはいかがでしょうか? 原因は必ずしも外にあるばかりではないのですよ。……まあ、グリーンダイアモンド公爵令嬢のことをミレーユ姫殿下が苦手に……いえ、少し恨んでいると表現するべきでしょうか? いずれにしてもあまり良い感情を抱いていない理由は今のグリーンダイアモンド公爵令嬢には身に覚えのないことですけどね」
「私がミレーユ様に嫌われているですって!? 何故ですの!! 一体何がダメだったっていうの!?」
「……今のは忘れてください。……まあ、過去を振り返って意味はありません。これからどうしていくかということが重要なのだと思います。ミレーユ姫殿下から親友と認めてもらうためにはどうすればいいか、これを機に考えてみてはいかがでしょうか? それでは、失礼致します」
結局、ルクシアはエメラルダが求める答えを何一つ提示しないまま謎だけを残して研究室の奥へと姿を消してしまい、エメラルダは何一つ得るものがないままと、ふつふつと怒りを燃やしつつサロンへと足を運ぶことになった。
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それでは、改めまして。カオスファンタジーシリーズ第二弾を今後ともよろしくお願い致します。
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