Act.9-358 ペドレリーア大陸・ラスパーツィ大陸臨時班派遣再始動〜オッサタルスァ王国革命・動〜 scene.7
<三人称全知視点>
「疾風の如く迅雷の如く、敵が動く前に素早く敵を討てば先手必勝ッ! 神速雷霆ッ!」
雷撃を纏ったシュレードは剣を抜き払うと俊身の技術と雷撃による高速移動を組み合わせて一気に加速――狙いをトーマスに定めて斬り掛かった。
「兎式・雷鎚覇勁・猛打衝でございます!!」
しかし、シュレードの攻撃は得物に聖属性の魔力と稲妻のように迸る膨大な覇王の霸気を纏わせた状態で神速闘気を纏い、トーマスとシュレイドの間に割って入ったメアレイズに阻まれることになる。
メアレイズは『神雷の崩砕戦鎚』を横薙ぎして振り下ろした剣諸共シュレードを壁まで吹き飛ばした。
「……ちっ、浅かったでございます」
咄嗟に後退して直撃を避けたシュレードだったが、激突した壁には蜘蛛の巣状のひび割れが生じている。
口から血を流しているシュレードの姿はとても無事には見えない。
「化け物……かよ……覇王の霸気、これが選ばれた『王の資質』を持つ者しか使えない力か。……どうやら、最初から僕には勝ち目は無かったみたいだね。……仕方ない、君達全員を殺すのは諦めよう。オッサタルスァ王国を混沌に陥れることも諦めた。だけどね! 僕にだって意地はある!! ここで誰か一人でも道連れにしてやるのさ!! 全魔力解放ッ! 神速崩壊雷霆ッ!」
魔法の名前こそ「神速雷霆」に似ているが、「神速崩壊雷霆」の効果は全魔力を消費して自身の身体を膨大な雷撃へと変えるというものだった。
全身が雷撃と化したシュレードは「神速雷霆」を使用した状態とは比べ物にならないほどの速度で剣を構えてメアレイズに肉薄する。しかし、シュレードはメアレイズに大きく接近したにも拘らずメアレイズに向かって斬撃を放とうとはしなかった。
「兎式・雷鎚覇勁・猛打衝でございます!!」
一方、肉薄されたメアレイズはシュレードの姿を自らの見気で完全に捉え、『神雷の崩砕戦鎚』を横薙ぎする構えを取っていた。
メアレイズの作戦は武装闘気と覇王の霸気を纏わせた『神雷の崩砕戦鎚』を横薙ぎし、メアレイズに斬撃を放ってきたシュレードを返り討ちにするというものである。
シュレードが斬撃を放ってこない状況に違和感を覚えながらもシュレードがメアレイズの攻撃の間合いに入った瞬間、メアレイズは『神雷の崩砕戦鎚』を横薙ぎし、シュレード目掛けて『神雷の崩砕戦鎚』の木殺しを打ち付けようとする。
「この世界に混沌をッ! 忠義の閃爆!!」
しかし、メアレイズの一撃がシュレードを捉えることは無かった。
シュレードはメアレイズの攻撃が命中直前に大気中の膨大な魔力を収束させて取り込むと、即座に自爆魔法を発動する。
「神速崩壊雷霆」を発動するために全魔力を消費し、これ以上の魔法を発動することができないと考えていたメアレイズはこのタイミングで「最後の忠誠」を上回る威力の自爆魔法を発動する可能性を想定すらしていなかった。
シュレードはメアレイズの近接攻撃が当たるほどの至近距離まで距離を詰めており、流石のメアレイズであっても今から回避行動を取ったところで爆発に巻き込まれてしまう。
それに、シュレードの爆発にはメアレイズだけでなく革命党の拠点を丸ごと包み込み、吹き飛ばすほどの威力があった。
メアレイズが回避行動を取ったとしてもメアレイズ一人が爆発から逃れることができるだけであって、革命党の拠点を巻き込む爆発が消える訳ではない。
メアレイズ達は一度死んでも復活することができる秘宝――「生命の輝石」を所持しているが、革命党やバージェン伯爵達は所持していないため、爆発に巻き込まれれば命を落としてしまう。
その結末だけは絶対に避けなければならない。
メアレイズは収束した膨大な魔力から革命党の本部を丸ごと消し飛ばすほどの威力があることを瞬時に察すると、『時空魔窮剣』に魔力を収束する。
「――時空の壁でございます!!」
膨大な時空属性の魔力は瞬時に時空の壁を作り出してメアレイズとシュレードを包み込んだ。
例え強力な自爆魔法であっても時と空間の魔力によって内部と外部を隔てる壁を破壊することはできない。
爆発のエネルギーは外部に漏れることなく時空の壁の内部の空間をメアレイズ諸共白く塗り潰すに留まった。
「あー、一回死んだでございます。流石は混沌の指徒、厄介な相手でございましたね」
「生命の輝石」の効果で復活すると共に時空魔法を発動し、時空の壁の外部に転移したメアレイズは未だに時空の壁の内部に存在している膨大なエネルギーを時空の壁諸共上空へと転移させると、バージェン伯爵領の上空で壁を消滅させ、膨大なエネルギーに逃げ場を与えた。生じたエネルギーは爆発すると同時に四散し、消滅する。
「……まさか、狙いが自爆だったとはサーレも想定外だったのです」
「私も想定外だったでございます。本当に『生命の輝石』があって良かったでございます」
「あの自爆に咄嗟の判断で対処方法を見極め、最小限の被害で済む方法を実行できるとは、流石はメアレイズ殿だな」
「あの時は最善の手だったかもしれないでございますけど、自分の命を犠牲にする作戦はやっぱり最善手ではないでございます。……次こそは誰の命も犠牲にせずにあの自爆魔法を突破してやるでございます!!」
◆
インパス達は信頼する部下だったシュレードの裏切りを受け入れることができなかった。未だに彼女が自爆魔法を発動したことすら夢の中の出来事に思えるが、事態は既に戦いの終了時点から大きく進んで決まっている。
インパス達は一先ずシュレードのことは考えないことにしてこれから臨む王国政府との交渉のことだけ考えることにした。
トーマス達の来訪――革命党本部での戦いの翌日、インパス達の姿は王城の応接室にあった。
王国政府側からはカーシャルと護衛のゼギンが、革命党からはインパス、ロメイシア、ガザリビル、ナイトミアがそれぞれ参加。見届け人としてランベルクと護衛のイージェネ、多種族同盟側からはシャルティアが出席している。
ちなみに、オッサタルスァ王国での臨時班の任務は革命党本部での戦いが終わった直後に完了となり、メアレイズ達はその日のうちにベーシックヘイム大陸に帰還している。
トーマスはその足でグルーウォンス王国に赴き、王国政府復興の手伝いを始めたようだ。
「まず、話を始める前に革命党の立場を聞かせてもらいたい。……汝らは今も王政の打倒を目指しているのか?」
「今回の一件は国王陛下がお倒れになり、ミトフォルト公爵家が力を独占したことが問題でした。国王陛下の統治時代には我々も革命を志すことはありませんでした。……トーマス殿はこの国を去る間際に民主主義が必ずしも正解ではないと仰りました。トップが腐敗すれば、民主政治も絶対王政も等しく腐敗すると。制度に罪はなく、その制度を生かすか殺すかはその政治を実行する人とということなのでしょう。我々が王国政府を打倒し、民主主義を実行したとして実際に国が良くなるかは定かではありません。これまで通り、国王陛下が国を統治するのが一番良いと思いますが、不測の事態に権力の暴走が起きないように、また後世の王が暴走しないように、何らかのセーフティを用意する必要があると考えております」
「国王に集権する絶対王政から、王の暴走を阻止することができる権力分立の形への転換ということですわね。インパス様、それで具体的な構想は出来上がっているのでしょうか?」
「いや……具体的なところはまだだな。国王陛下と協議の末にと考えていたが……」
「国王陛下、インパス様。トーマス様より一つ案をお預かりしております。参考にしてみてはいかがでしょうか?」
「……ふむ、民を代表する者を集めた民院と貴族を代表する者を集めた華院――この二つの意見を取り入れつつ平時は国王が政治を行うという形だな。もし、両院で王が暴走した政治を行っていると判断されれば、王権を一時的に停止することができる。逆に議会が暴走していると王が判断すれば議会を解散することができると……どちらかが暴走すればどちらかの暴走を阻止できる、互いの力を抑止し合うことができる良き案だな」
「国を良きものにしようという志を持って立ち上がった革命党の皆様には、今後は民院の一員として政治に参加して頂くのが良いと私は考えております。……勿論、皆様だけが民という訳ではありませんから、ゆくゆくは他の方々の中からも同じ考えを持った者を集めて政党を組織し、議会で民の代表者達が互いに良き未来を思い描きながら議論をぶつけ合う、そういった場所に議会を育てていく必要がありますわね」
「具体的に議員をどのように選ぶのか、トーマス殿の案には特に書いていないが、これは我々が話し合い、考えていくべきということだな。……今回の騒動で王国政府内もガタガタになっている。空席となった重役の選定と共に議会の話も皆で知恵を出し合って決めていきたいと思っている。インパス殿、バージェン伯爵、不甲斐ない我に力を貸してはくれぬか?」
「勿論でございます、陛下」
「勿体無いお言葉です、陛下。微力でありますが、臣下として更に良き国にすることができるよう協力させて頂きます」
この日の会議の終了後、カーシャル達は王国政府の復興と議会の設立のために行動を開始することとなる。
それから三ヶ月後、ランベルクが宰相に就任し、ミトフォルト公爵家の関係者が独占していたポストにも信頼できる人材を登用し、王国政府は新体制へと無事に移行することになった。
トーマスが提案した民院と華院――両議院も同時期に発足し、同時期に議会の同意を得た上で多種族同盟に加盟を申請し、満場一致で承認を得ている。
ミトフォルト公爵家という名の蛇により一度は崩壊へと歩みを進めたオッサタルスァ王国はこうして見事に復活を遂げ、新たな道へと歩みを進め始めたのだ。
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