Act.9-357 ペドレリーア大陸・ラスパーツィ大陸臨時班派遣再始動〜オッサタルスァ王国革命・動〜 scene.6
<三人称全知視点>
イージェネが姿を消してから一時間が経過した。
いつまでも飛空艇をホバリングさせていても近所迷惑でしかないので、飛空艇から降りたシャルティアは早々に四次元空間に飛空艇を収納し、メアレイズ、アルティナ、サーレ、美姫、火憐の五人は暇を持て余して四次元空間から引っ張り出した卓を囲んでボードゲームを始めてしまった。
トーマスも圓からもらった読み掛けの宗教紋章学に関する分厚い書物を取り出して読み始めてしまっており、傍目から見れば周囲を警戒しているのはシャルティアだけという敵陣とは思えないほどの警戒心の無さである。……まあ、実際には全員見気で周囲を警戒しているため、不測の事態が起きても充分に対処できるのだが。
「遅くなってすまない、革命党本部に入る許可が出たのだが……」
「ああ、気にしないで。すぐに片付けるから」
「……後少しで負けそうだったから、まるで水を得た魚のような顔をしているわね」
「なっ、なな、何のことかしら? オホホホ」
「……火憐さんってそんなキャラじゃなかったでございますよね? 誤魔化しが下手でございます」
賽子目の運の無さで最下位を独走していた火憐がここぞとばかりに素早くボードゲームを片付けていく姿を見てメアレイズ、アルティナ、サーレ、美姫の四人が火憐にジト目を向けた。
「……皆様、随分と堂々とされていますね」
「緊張感が無いと言いたいのだろう? 一応、敵陣ということになるからな。……完全に警戒を解いていた訳ではない。メアレイズ殿達もああして警戒を解いている風に見せ掛けて、しっかりと周囲を監視しつつゲームに興じていた。かくいう私も本の内容だけで頭が一杯だったという訳ではない。……しかし、なかなかに興味深い。紋章学とは、やはり奥深い学問だ」
内容を説明されたところで半分も理解できないだろうと察したイージェネはそれ以上、トーマスの持っている本には触れず、トーマス達を革命党本部へと案内した。
案内されたのは領主の館から目と鼻の先にある小さな屋敷だった。かつて、力を持っていた商人が一代で築き上げたが、三代目が事業に相次いで失敗して借金を重ね、借金の形として差し押さえられた物件で、現在はその商人に融資をしていたランベルクが管理している。
革命党が結成されると、協力者となったランベルクは革命党にこの物件を貸し出し、革命党の本部となった。バージェン伯爵家の別邸ということもあり、しっかりと管理がされているようである。
トーマス達が案内された応接室で待っていたのはランベルクと革命党党首のインパス、そして革命党の中心人物が四人――その中にはシュレード=サリザールの姿もある。
「かの有名な『オルレアン教国の大賢者』様にお目にかかれるとは」
「これはまた随分と黴が生えた異名を引っ張り出してきましたね、ランベルク卿。私はオルレアンをあの愚かな小娘の浅慮で追放された身、今はただのフリーの宗教学者兼探偵です」
「……流石にオルレアンの聖女を小娘呼ばわりは……」
「セントピュセルの選挙の場でリズフィーナ様本人を相手取って『莫迦な小娘』呼ばわりしてみたいでございますし、もう色々と手遅れだと思うでございます」
「私はただ事実を述べただけのことだ。……あの愚かな小娘の話をしていると私まで愚かになってしまいそうな気がする。くだらない話よりも、まずしなければならない話があるのではないか?」
「国王陛下の体調が回復したという話は本当なのですか?」
「ええ、私が持っていた万能回復薬とあらゆる傷を癒す究極の回復薬を飲ませて陛下の毒を治癒し、失われた体力を回復させたわ」
「その玉璽が押された書簡がその証拠……足りないのであれば、空間魔法で王城に転移して頂き、直接国王陛下に謁見するということも可能だと思う。……必要であれば掛け合うが」
「いえ、そこまで仰るのなら陛下の回復は事実なのでしょう。ああ、本当に良かった。皆様に心から感謝を……もう二度と目をお覚ましにならないのではないかと、一度は覚悟を決めましたが……本当に、本当に良かった」
「それと、陛下に毒を飲ませた元凶であるグラシュダとカーネルの討伐も無事完了した。ザーグ砦を拠点としていた殲滅騎士団もザーグ砦諸共粉砕し、全滅したことを確認している」
「……あの、伝説の砦が……それに、あれほど苦戦を免れなかった殲滅騎士団がこうもあっさりと」
殲滅騎士団相手に何度も苦渋を舐めさせられた大将軍ロメイシア=ドゴールは淡々とトーマスが告げたことに衝撃を受けていた。
まあ、それはインパスとランベルク、革命党のナンバーツーである幹事長のガザリビル=フォルクワ、広報及び諜報部長のナイトミア=メテリシアにも言えることだったが。
「……インパス、申し訳ないが私は今日をもって革命党への援助を打ち切らせてもらう。私は国王陛下が病にお倒れになり、この国が腐敗していく様を見て革命党に力を貸すことに決めた。だが、国王陛下が復活なされ、陛下に毒を盛ったミトフォルト公爵家も潰えたとなれば、私が革命党に協力する理由はない」
「――ッ! 何を勝手なことを!!」
「シュレード、よせ。元々、ランベルク閣下とは国王陛下が目を覚まされた場合、革命党への援助を止めるという条件で革命党に力を貸してもらっていた。陛下が目覚めた今、国王派筆頭のランベルク閣下が袂を分つと決めたのは当然の話だ」
シュレードだけでなく、ロメイシア、ガザリビル、ナイトミアの三人もこのランベルクの判断に納得がいっていないようだった。
「革命党は『腐敗したオッサタルスァ王国の現状を打破し、良き国を作り上げる』ことをスローガンに掲げているそうだな。その設立は国王が倒れ、ミトフォルト公爵家による腐敗政治が始まったことに端を発する。逆に、それまでは革命を起こそうという動きは無かったのだ。再びカーシャル王の治世となるのであれば、革命党が存在する理由も無くなるのではないか?」
「それでは、これまで我々が行ってきた革命党の活動はどうなるのですか!? 国王陛下が復活したからお払い箱って、納得できる訳がないでしょう」
「ガザリビル殿の気持ちが分からない訳ではない。先程、革命党のスローガンを確認したが、必ずしもあのスローガンの実行のために全ての党員が革命党に所属しているという訳ではないのだろう。中にはこの期に乗じて貴族と平民の地位の逆転を狙う者、王政を打倒して民主主義国家の建国を狙う者……そういった考えで革命党に所属する者もいることは想像に難くない。……勿論、革命党のこれまでの頑張りを、国を良くしていこうとする意思を否定するつもりはない。国王陛下も君達、革命党との話し合いの場を設けたいと考えているようだ。……流石に王政がこの期に瓦解して、ということは無いだろうが、革命党側の考えを聞く機会を設けるということは、その中から何かしら反映される可能性があるということ。このまま活動を続ければ革命党は王国政府の敵になる。だが、ここで話し合いに応じれば、革命党の考えが政治に反映されるかも知れない。君達が国を思い、上げた声を握り潰すことはないだろう。……それでも君達は革命の道を選ぶのか? 当初の目的を見失い、秩序を破壊する道を歩むつもりなのか?」
「……この話、私は応じるべきだと思う」
「良いお話かも知れませんね。そもそも私は国が良くなれば誰が天下を取ろうと構わないという考えです。インパス様なら良き国を作れると思い、これまでついて来ましたが、国王陛下がお戻りになられたのならわざわざその椅子を奪う必要はないと思います」
「……どこまで反映されるか知れたものではありませんが、このまま行けば逆賊ですか。これまで、革命党に賛同してくれていた貴族も国王陛下が病から復活されたとなれば離れていくでしょう。これ以上、続ける意味はないのかも知れませんね」
「インパス様の御心のままに」
「――ッ!? こんな話、出鱈目に決まっています! 我らの志はどうなったのですか!? 王国政府を討って革命を成し遂げる! そのために我々は力を蓄えてきたではありませんか!!」
「……シュレード」
他の革命党の重鎮達が王国政府との対話の道を望む中、最後まで革命の意思を持ち続けたのはやはりシュレードだった。
「シュレード=サリザール、君が求めるのは何だ?」
「腐敗した王政府を倒し、革命によってより良き国を作り上げることです!!」
「……私には、それが空虚な言葉にしか聞こえない。より良き国とは何だ? 革命が本格化すれば多くの命が失われる。その果てにより良き国が果たしてあるのか? 他にもオッサタルスァ王国を良くする道はある。それなのに、何故、革命の道を選ぶ」
「……それ、は」
「……私には、君がこの国を混沌に陥れようとしているようにしか見えないのだよ。革命党の一員として革命を主導し、多くの血が流れればこの国の民の多くが君達革命党を恨むだろう。転落した貴族達も君達革命党に恨みを持つ筈だ」
「……何が、言いたいのですか?」
「それこそが、貴女の狙いなのではないか? 革命軍の斬り込み隊長……いや、冥黎域の十三使徒ロベリア=カーディナリスの直属の配下――混沌の指徒の一人、シュレード=サリザール」
インパス達が信頼を置いていた仲間の正体を知り衝撃を受ける中、シュレードは笑った。声を上げ、醜悪な性格が滲み出た、それはそれは下品な笑みを浮かべた。
「アハハハ! あーあ、バレちゃった。革命党に潜入して、信頼を築くまで結構時間が掛かったんだよ。それをあっさり……本当に馬鹿馬鹿しくなってくるね。ああ、その通り。僕は混沌の指徒、グラシュダと同じ『這い寄る混沌の蛇』の一員だ。でも、あんな小物と一緒にはしてもらいたくないけどねぇ! 僕は選ばれし者なんだよ! 真なる混沌に通じるロベリア様の配下なんだからね! 仕方ないなぁ……こうなったら君達をここで始末する。そして、インパス、君達には僕の手足となって働いてもらうよ! この国を混沌に陥れるための道具としてねッ!!」
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それでは、改めまして。カオスファンタジーシリーズ第二弾を今後ともよろしくお願い致します。
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