Act.9-356 ペドレリーア大陸・ラスパーツィ大陸臨時班派遣再始動〜オッサタルスァ王国革命・動〜 scene.5
<三人称全知視点>
トーマスとアルティナ、メアレイズとサーレがそれぞれグラシュダとカーネルを討伐し終えて合流地点のカーシャルの寝室に向かう頃には王宮は静けさを取り戻し、王城の騎士達がメアレイズ達侵入者に攻撃を仕掛けることも無くなっていた。
「臨時班の方々ですね。ゼギン騎士団長より応接室に案内するようにと仰せつかっております」
道中、トーマス達とメアレイズ達の前に現れた二人の伝令役の騎士からメアレイズ達は「カーシャル王がゼギン騎士団長経由で臨時班への攻撃を止めるように命じた」という情報を得た。
まあ、王城の騎士達の態度が軟化する理由はそれくらいしかないため、四人とも聞くまでもなく事情は察していたが。
メアレイズ達が応接室に到着すると、既に美姫、火憐、シャルティア、カーシャル、ゼギン、フラーニャ、キウェント――主要人物達が応接室に揃っていた。どうやら、メアレイズ達が最後だったらしい。
「既にシャルティア殿から臨時班の派遣理由や王城への襲撃の理由、『這い寄る混沌の蛇』に関する話は聞いている」
「つまり、グラシュダとカーネルの討伐に関する話をすればいいということでございますね。まず、私達の担当したグラシュダでございますが、分身を作り出し、その分身と本体を入れ替える魔法を使っていてなかなか正攻法で倒せそうになかったので、玉座の間諸共サーレの大魔法で吹き飛ばしたでございます。なので、死体は消し飛んで灰の一つも残っていないでございます。……一応、戦闘の映像は撮っておいたでございますが」
「こちらはアルティナ殿の魔法一つでカーネルは焼死体になった。死体は残っているが、炭化しているため本人がどうかを識別するのは厳しいな」
「……随分と惨い最期だったようだな」
感覚の麻痺したメアレイズ達は「そうかな? 別にいつものことだよね?」くらいにしか思っていなかったが、意見の口にしたカーシャルは顔を顰め、フラーニャは惨状を想像して吐き気を催し、キウェントの顔も真っ青になっている。
「とりあえず、これでオッサタルスァ王国の王国政府内部の膿は排除できた。本来なら、陛下が玉座に戻り、再び政務に励むという話で済むのだが、まだ革命党の問題が残っている」
「……頭の痛い話であるな。まさか、我が毒で意識を失っている間にそのような事態になっているとは」
「まあ、王国政府が完全に乗っ取られてミトフォルト公爵家を中心とする独裁政治、恐怖政治が行われているとなれば、国を変えようと動く者達が現れるのも当然のことでございます」
「……それでも、グルーウォンス王国に比べたら遥かにマシだがな」
「あっちは王国政府側が完全に中枢まで腐り切っていたから、ほぼ一から政府を作ることになったんでございましたね。革命軍を中心に王国政府の比較的真面だった少数と協力しつつ再構築……本当にお疲れ様でございます」
「おまけにあちらは革命軍側にも三人、『這い寄る混沌の蛇』の信徒が紛れていた。……こちらは恐らく一人。まあ、それ以上に紛れているかも知れないが、各国に一人ずつ派遣されていたことを考えると、オッサタルスァ王国だけに比重を置く必要はないし、それ以上と考えるべきではないだろう。……いずれにしてもグルーウォンス王国よりも人数は少ないだろうし、まだ対処は簡単そうに思えるな」
「革命党とはしっかりと対話し、この対立を解消しなければならない。……だが、一先ずは汝らが先に革命党の本部に赴き、交渉するのだろう?」
「えぇ、そのつもりですわ」
「……本来は、オッサタルスァ王国の問題。我々の手で解決しなければならないものだが、重ね重ね苦労を掛けて申し訳ない。今回の件、王として正式に褒賞を出したいのだが……」
「多種族同盟の時空騎士には多種族同盟から給与と褒賞が出ますので、臨時班員が個別に国家から褒賞を受け取ることはできないことになっております。折角のお申し出ですが、決まりですので」
「あー、そういえばボーナスがあるんでございましたね。お金より休みが欲しいでございます。サーレと二人でバカンスに行きたいでございます」
「最高の百合なので、是非是非……と言いたいところなのですが、私の管轄ではありませんので、ご希望は多種族同盟の文官委員会の方までお願いします」
「ああ、これダメなパターンでございます。アーネスト閣下とか、ミスルトウ閣下とかに全力で反対されてポシャるパターンでございます。……というか、百合って何のことでございますか?」
「概念的には分かりますが、サーレとメアレイズはそんな関係ではないと思うのです」
「あっれー……そうなのですか?」
メアレイズとアルティナがブライトネス王国を離れていた時にサーレが嫉妬の表情を見せていたことからメアレイズとサーレが百合の関係を築いていた(少なくともサーレ側からメアレイズを片想いする気持ちがあった)と考えていたシャルティアはメアレイズとサーレの反応に思わず本音を露わにした。
「今回の件について多種族同盟からは見返りを求めない。また、多種族同盟への加盟も任意だ。生じる利益と加盟することによって将来発生する可能性のある不利益を天秤にかけ、国に取ってより良い選択をするように……だったな?」
「えぇ、トーマス様の仰る通りでございます。加盟するもしないも国次第……まあ、そう交渉を持ち掛けて拒否されたケースはゼロなのですが」
「『管理者権限』を持つ神との戦いにはこの世界にいる限り必ず何らかの形で巻き込まれる。いつか厄災が訪れるのならば、そのために備えておいた方がいい。私が為政者ならば、『管理者権限』を持つ神との交戦経験のある多種族同盟の手を取る。……まあ、それが一概に正しいと言える訳ではない。多種族同盟に加盟しないという選択をしたことによって結果として良かったと後で振り返って思うこともあるかも知れないがな。結局、未来は誰にも分からないということだ」
「そうだな。他の者達とも相談し、オッサタルスァ王国にとってより良いと思える選択をさせてもらう」
多種族同盟に加盟するか否かは臣下達と相談した上で決めるということになり、その後、特に議題も無かったためカーシャル達との話し合いはそこでお開きとなった。
カーシャル達との話し合いを終えたトーマス達は応接室を後にし、革命党との交渉のため、革命党の本拠地があるバージェン伯爵領へと赴く。
◆
革命党の最重要拠点――革命党本部が置かれたバージェン伯爵領は、現在のミトフォルト公爵家に支配された王国政府に怒りを燃やすランベルク=バージェン伯爵によって統治されている。
元々、バージェン伯爵は国王カーシャルからも信頼を置かれるほどの誠実な人物で、王族派の貴族として有名だった。王に対する忠誠も前バージェン伯爵と同様にかなりのもので、オッサタルスァ王国の歴代の王達もバージェン伯爵家も彼らを信頼して王国にとって極めて重要な場所を領地として与えていた。
背にイルファンズ大山脈という山脈を背負うオッサタルスァの王城とそのお膝元である王都は極めて防衛戦に強いが、北方向のルートでは山脈を越える必要があるため物資を運ぶのが困難という弱点を抱えている。
そのため、補給路は真南と南東、南西の三方向の領地に限られるのだが、このうち、南東にある王家の直轄地、南西にあるミトフォルト派ラザニムウ伯爵領を除くと、南のバージェン伯爵領を経由することとなる。
かつてはラザニムウ伯爵領を経由するルートが最も王道の輸送経路だった。真南にある国境から物を輸送する際に最も早く輸送することができたからである。
しかし、ランベルクが国の腐敗を悟り、早々に革命党と繋がりを持つと状況は大きく変わる。
ミトフォルト公爵領から王都を目指す場合、現在はラザニムウ伯爵領か王家の直轄地を経由することになるのだが、どちらを選んでも大きくバージェン伯爵領を迂回せざるを得なくなる。平時においては物資の輸送が数日遅れるというだけで済む話かも知れないが、この迂回に掛かる日数は一度内乱となれば王国側の致命的な弱点となるものだった。
「……まあ、確かに厄介な場所を革命党の拠点にされている。戦略的にはかなりの痛手だが、王都に近い場所に革命党の拠点があるのは移動時間が短くて済むという利点もある。悪いことばかりではないな」
「飛空艇を使えば一瞬でございますけどね。誤差の範疇でございます」
バージェン伯爵領の上空で飛空艇をホバリングさせている間に、メアレイズ達は運転手を務めていたシャンティアを一人残してバージェン伯爵領へと降り立つ。
一方、バージェン伯爵側もされるがままにしていた訳ではなく、怪しげな飛行物体が伯爵領に出現したという報告を受けたバージェン伯爵はすぐに伯爵領を守護する領軍を派遣していた。
メアレイズ達が伯爵領に降り立った直後には謎の侵入者を封じる包囲網が完成しており、メアレイズ達から直接視認できる距離には領軍所属の騎士達はいないものの、いつでも討ち取りに行ける距離に身を潜めている。
「バージェン伯爵領の領軍に加え、白と翠の頭巾を被った者達――それに、襟章に刻まれたシンボルマークの天秤の紋様。革命党の者達も混ざっているようだな」
「……何者だ? 得体の知れない乗り物に乗って現れたから人外かと思ったが、どうやら人間のようだな。……人間ではないものも混じっているようだが。まあいい、バージェン伯爵領と知った上での侵入か? もし、知らずに領地に入ってしまったのであれば速やかにこの地を去れ。我々も貴様らを見なかったことにしよう」
「随分と優しいでございますね。……バージェン伯爵領領軍騎士団長のイージェネ=マグナフォルド殿でございましたね? 我々は革命党及びバージェン伯爵閣下と交渉を目的に来た者でございます」
「……つまり、王国政府側の使者ということか?」
「それは違うでございます。とある邪教徒を追って海を越えた別の大陸からやってきた臨時班――所属は別の大陸にある多種族同盟という国際互助組織でございます」
「ちょっと待ってくれ……んん? 頭がこんがらがってきたぞ。もしそれが事実だとしたら……もしや、内政干渉?」
「まあ、そう思えても仕方がないでございますよね? でも、今回の件で多種族同盟がオッサタルスァ王国に何か見返りを要求することはないでございますし、内乱を利用して国盗りを目論んでいる訳でもないでございます。……今回の件、皆様も腑に落ちないことがあったのではございませんか? 唐突に倒れた王、急速に力を付け、圧政を敷いたミトフォルト公爵家。その裏にはこの国の破滅を願う邪教徒達がいたのでございます。今回、この地を訪れたのはその邪教徒の信徒――まあ、ミトフォルト公爵家でございますが、最大の元凶であるグラシュダとカーネルの討伐が完了した旨の報告と、後は国王陛下が病……というか、実際は毒に侵されていたのでございますが、陛下が目を覚ましたことをお伝えすると共に、今後についての相談を目的とした王国側との交渉のテーブルのセッティング……その前段階の交渉をするためでございます」
「こちら、カーシャル国王陛下より賜わった書簡なのです」
「……流石に私の一存では決められないことだ。伯爵様にこの手紙を渡し、判断を仰ぐ。……申し訳ないが、それまでは領軍の監視下に置かせてもらう」
「構わないでございます。行ってらっしゃいでございます!」
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それでは、改めまして。カオスファンタジーシリーズ第二弾を今後ともよろしくお願い致します。
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