Act.9-355 ペドレリーア大陸・ラスパーツィ大陸臨時班派遣再始動〜オッサタルスァ王国革命・動〜 scene.4
<三人称全知視点>
「殲滅騎士団騎士団長カーネル=ミトフォルトだな」
トーマスとアルティナは他の臨時班メンバーと火憐が破壊した壁の先にあった王宮二階の廊下で別れた後、カーネルを討伐するために彼がいると思われる殲滅騎士団騎士団長の執務室がある王宮三階へと続く階段を目指した。
一方、討伐対象であるカーネルは当初王宮三階にある王宮内の殲滅騎士団騎士団長の執務室に居たが、敵襲を知ると侵入者を切り捨てるために執務室を飛び出し、襲撃者が侵入したと思われる王宮二階に向かう。
王宮には東と西、中央の三つの階段があるのだが、奇しくもカーネルとトーマス達が選んだ階段は同じ王宮中央にある階段だった。
そのため、カーネルとトーマス達は互いに二階と三階を目指す道中で相見えることとなった。
「いかにも、私がカーネルだ。殲滅騎士団の騎士団長として貴様ら侵入者をここで始末する!」
問答無用とばかりに剣を抜き払い、カーネルはアルティナに狙いを定めて攻撃を仕掛けてきた。
「もしかして、ウチの方が弱いって判断っスか!? 心外っスよ!! Ich werde den Flammenspeer freigeben.狐火!」
アルティナは挨拶代わりに炎の槍と狐火を融合し、無数の青白い炎の槍を放つ。
剣一つ帯刀せず無防備を晒していると判断してアルティナに斬り掛かったカーネルは突如として出現した灼熱の槍に反応し切れず、全ての槍をその身に受けた。
灼熱の炎がカーネルの身体を焼き尽くし、瞬く間に黒い焼死体へと変えてしまう。
「えっ……ええっと、終わりっスか?」
「……そのようだな。カーネルはグラシュダの弟だが、ミトフォルト公爵家の役割までは知らされていないようだ。当然、魔法を使えない。多少剣の腕は立つが、人の領域に収まるほど。ディオン殿のような強者という訳でもないだろう。……闘気、八技といった技術もなく、魔法も使えないとなればこれくらいの実力者は至極当然だと思うが?」
「まあ、よくよく考えてみたらそりゃそうっスよね。……メアレイズとサーレの方にしておけば良かったっス」
あまりにもあっさりと勝負が決してしまい、不完全燃焼のアルティナはつまらなそうな顔をしながらトーマスと共に合流地点のカーシャルの寝室に向かった。
◆
アルティナが狐火の炎の槍でカーネルを焼死体へと変えている頃、メアレイズとサーレは玉座の間に向かっていた。
カーシャルが倒れ、普段は代理のキウェントが座っている椅子――そこに何者かが座っている気配を見気で察知し、一先ず、それが何者なのかということを確認しようという話になったのである。
「国王しか座れない椅子に踏ん反り返って……まるでこの国の王になったような態度でございますね」
「国をこれから滅ぼそうとする者が王様気取りとは……あまりにも滑稽なのです」
「海を越えた先にある多種族同盟の者達か。話には聞いているよ。……しかし、まさかこの国の革命を止めるために現れるとはね。もう間も無く革命の戦禍が国を混沌に陥れるというタイミングで本当に残念だ」
「それを止めるために海を渡ってきたのだから、当然のことです」
「……侵入者は何人だ? こうなれば全員私の手であの世に送り、革命を成就に導く! 邪魔はさせん!!」
膨大な闇の魔力を纏ったグラシュダは二人に分裂するとメアレイズとサーレに同時に肉薄――闇の魔力を収束して創り出した剣で二人に斬り掛かった。
「兎式・雷鎚覇勁・猛打衝でございます!!」
「五芒桔梗妖術・地撃刺なのです!」
メアレイズは得物に聖属性の魔力と稲妻のように迸る膨大な覇王の霸気を纏わせた状態で勢いよく『神雷の崩砕戦鎚』をグラシュダの頭上から振り下ろし、サーレは地面に放つことで直線上に地面を剣山に変化させる『五芒桔梗妖術・地撃刺』を放ってグラシュダを串刺しにした。
グラシュダは二人に分身しただけで、それ以上の細工をしているようには見えなかった。
どちらかを取り逃がしたのならまだしも、メアレイズとサーレの攻撃は二人のグラシュダに命中して致命傷を与えていた。どちらかが偽物でも、どちらかは確実に本物――つまり、二人の攻撃を同時に喰らった時点でグラシュダは死を迎えている筈である。
「……メアレイズ、確かに今、サーレ達はグラシュダを撃破した筈です」
「……そうでございますね」
「それなのに、まるで闇の靄を叩いたような……倒したという感触がまるで無かったのです」
「武装闘気には実体を掴む力がある……ということは、魔法を発動する前の時点で既に本物では無かったということでございますね。……或いは」
いつの間にか玉座の間を包囲するように出現した無数のグラシュダの軍勢に、メアレイズは溜息を吐き、心底面倒臭そうな表情になった。
「メアレイズ、何か分かったのですか?」
「……単純なことでございます。闇の分身を作り出す魔法、分身と本体を瞬時に入れ替える魔法、そして、本人の気配を付与する魔法――この三つの組み合わせでこざいますね」
「「「「「「「「「「素晴らしい観察眼だよ。その通り、闇の分身、偽真の入れ替え、気配共有の組み合わせ、これこそが我がとっておきの魔法だ! 瞬時に本体と偽物を入れ替えることで、私は窮地に立たされてもいくらでもその窮地を脱することができる。さあ、どうする? 一体一体を屠る戦法では私を倒すことはできないぞ! それに、闇の分身だって少量の魔力でいくらでも生み出せる! さあ、君達の力が底をつくか、私の魔力が底をつくか、持久戦と行こうではないか!!」」」」」」」」」」
闇属性魔法「暗黒の邪剣」を使用し、闇を収束させた剣を創り出したグラシュダは一斉に剣を構えてメアレイズとサーレに斬り掛かった。
「……メアレイズ、あれを使います」
「確かに、あれなら戦況をひっくり返せるでございますね。了解でございます! 私はそれまで時間を稼ぐでございます!! 兎式・雷鎚覇勁・猛打衝でございます!!」
「「「「「「「「「「無駄無駄無駄無駄ッ! いくら倒しても私はいくらでも増える! 本体を捕まえることはできないッ!! ――最期まで続けるがいい、必死の抵抗を!!!」」」」」」」」」」
『神雷の崩砕戦鎚』を振り回しながら戦場を駆け巡り、次々とグラシュダを撃破していくメアレイズだったが、グラシュダは「偽真の入れ替え」を駆使して分身と入れ替わり、攻撃を躱していく。
グラシュダ側もメアレイズに攻撃を仕掛けるものの、そこに本気で命を奪いにいく意思は欠片も込められていなかった。メアレイズが疲弊して体力が切れたところに総攻撃を仕掛けてメアレイズを撃破するというのがグラシュダの狙いだったため、いかに体力と魔力を終盤まで残しておくかということが重要だったのである。
「準備完了なのです。メアレイズ、時間稼ぎありがとうございます」
「では、私は退散するでございます」
王の間の床全体に五芒星が浮かび上がった瞬間、メアレイズは時空魔法で王の間から撤退した。
グラシュダに気取られないように少しずつ王の間から入り口に向けて撤退していたサーレは、満を持して構築していた陰陽魔法陣を解放する。
「五行万象を発生し、万世創造の光で世界を満たさん! 火・水・木・金・土――素たる力を象徴する晴明桔梗よ、今こそ一つに重なりて、あらゆる邪悪を討ち果たさん。五芒聖光明!」
赤、黒、青、白、黄と五芒星が順に輝き、最後に尋常ならざる光が生じて王の間全体を塗り潰した。
光の直撃を浴びたグラシュダ達は一人残らず生じた光に消し飛ばされる。光が晴れると、全てが塗り潰された王の間からは壁の装飾を除き、全てのものが消滅していた。王の間の象徴である玉座も当然ながら綺麗さっぱり消えてしまっている。
「偽真の入れ替え」は極めて厄介な魔法だった。討伐しようとしてもその寸前で逃げられてしまえば意味がない。
では、どうすれば討伐できるのか? 「偽真の入れ替え」を使う前に本体を見つけて討伐するという手もあるが、サーレが選んだのは本体諸共部屋全体攻撃でグラシュダを消し飛ばすというものだった。
グラシュダが王の間の外部に分身を用意していれば逃げられる可能性はないとは言い切れなかったが、グラシュダの分身がいないのは見気で確認済みである。
といっても、「五芒聖光明」は発動までの準備に時間が掛かるものの、準備が整ってから光が部屋全体を塗り潰すまでの時間にほとんどタイムラグがないため、魔法発動後に逃げることはあまり現実的ではない。
そこまで気を配らなくても良かったかもしれないが。
メアレイズの無意味に思える攻撃にもグラシュダの油断を誘う効果があった。
グラシュダは勝利を確信していたが、実際にはメアレイズとサーレの掌の中で転がされていただけだったのである。
「さて、討伐も終わったでございますし、合流地点に向かうでございます」
歴史ある玉座を消し飛ばしてしまったことから完全に目を背けたメアレイズとサーレは玉座の間を後にして合流地点のカーシャルの寝室に向かった。
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