Act.9-352 ペドレリーア大陸・ラスパーツィ大陸臨時班派遣再始動〜オッサタルスァ王国革命・動〜 scene.1
<三人称全知視点>
グルーウォンス王国に潜む蛇を全て討伐したトーマスはその足でオッサタルスァ王国へと転移した。
王都にある隠れ家でメアレイズ、アルティナ、サーレ、美姫、火憐と合流した後、オッサタルスァ王国の隠れ家を統括するシャルティアからグルーウォンス王国の現状に関する報告を受けていた。
「オッサタルスァ国王カーシャル=オッサタルスァが病に臥せり、一向に目を覚さないままかれこれ二ヶ月が経過しようとしています。カーシャルの代理に現国王の唯一の子である四歳のキウェント=オッサタルスァ王子が就任しましたが、現在の彼に王政を取り仕切るなど不可能――そのため、オッサタルスァ王家と繋がりの深いミトフォルト公爵家の現当主グラシュダ=ミトフォルトが政治を取り仕切っています。カーシャル王を一途に愛しながらオッサタルスァ王国を混沌の渦中に落とすためにカーシャル王の料理に少しずつ毒を入れていた性格破綻者――フラーニャ=オッサタルスァとグラシュダ=ミトフォルト、この姉弟が現在の国を支配している者達となりますね。その政治方針はミトフォルト家やミトフォルト家に近い貴族以外の貴族に重税を掛け、税を払えない領地には自身が編成した殲滅騎士団を派遣して蹂躙するという理不尽な恐怖政治、そのため多額の税を納める必要のある貴族達や殲滅騎士団から命からがら逃げられた人々から恨みを集めています。殲滅騎士団の騎士団長はグラシュダの弟であるカーネル=ミトフォルト――以上三人がオッサタルスァ国王を舞台としたシナリオの中に登場する『這い寄る混沌の蛇』の信徒と『這い寄る混沌の蛇』と直接の繋がりはないものの敵対する重要人物ということになりますが……」
「ああ、恐らく現在のオッサタルスァ王国に紛れる『這い寄る混沌の蛇』の関係者は彼らだけではない。……シナリオの中では革命軍側に『這い寄る混沌の蛇』の関係者はいなかったが、『這い寄る混沌の蛇』がその穴に気づかない筈がない。イェンドル王国ノーツヘッド子爵領にはギジュタール、グルーウォンス王国ジュマイカ男爵領イストラ村の革命軍の拠点にはヘラナローラ、いずれもシナリオにいない蛇が潜入していた。混沌の指徒を名乗る連中がこの国にも潜入している可能性が高い」
「イェンドル王国、グルーウォンス王国と休み無しに『這い寄る混沌の蛇』と激闘……私には絶対に真似できないでございます」
「……凄まじい執念なのです。サーレは任務効率を考えても少し休むべきだと思いますが……」
「この革命騒動が一先ず解決した後、私はグルーウォンス王国の復興の協力に向かうつもりでいる。圓殿にも既にその旨を伝え、スクライブの件は申し訳ないが他の人員に任せることになった。……グルーウォンス王国では色々とやり過ぎたからな」
「本当にトーマスさんって真面目っスよね。……ウチには絶対に真似できないっス」
「……アルティナさんはもうちょっと真面目に職務に励んだ方がいいと思います」
ここ数日、アルティナと行動を共にして少しずつアルティナの性格を理解し始めた美姫が冷たい視線をアルティナに向ける。
アルティナは「みんなウチに対する扱いが酷過ぎるっスよ!」などと要らぬことを言って火憐を含め、トーマス以外の全員からジト目の集中砲火に遭った。自業自得である。
「混沌の指徒が紛れていると思われる革命組織のリーダーは元牧場主で、現在は理不尽な政治を行う絶対王政が敷かれたオッサタルスァ王朝を倒し、民による民のための国を作ることを目指す革命党の党首を務めているインパス=パットフェルドゥ。この革命党にはシナリオと同様、創設メンバーとなった三人の同志が幹部に就任しています。皆様もご存知だとは思いますが、ロメイシア=ドゴール、ガザリビル=フォルクワ、ナイトミア=メテリシアの三人です。こちらもシナリオに登場し、『這い寄る混沌の蛇』との繋がりはありませんでした。シナリオ上で残る革命党のメンバーはモブキャラとして登場しており、シナリオに登場しない革命党の主要人物から混沌の指徒を見つけ出すのはなかなか骨が折れそうです」
「オッサタルスァ王国政府から革命党に移籍した者の中で可能性がありそうな者はいないのか?」
「……王国政府側から革命党へはかなりの人数が流れているので、その中からの絞り込みは難しいですね。革命党はこれまでの革命軍と比較してもかなりの規模――ダイアモンド帝国を破滅に導いた革命軍に匹敵するほどの人数ですから、影響力を考えるとやはりそこそこの地位に居なければコントロールは厳しいのではないかと思います。一応、革命党の方針に影響を与えられそうな者の人数は先ほど挙げた四人を除くと二十人」
「その中で現在、最も頭角を表して発言権を強めている者はいるか?」
「そう仰ると思っておりました。革命党は現在、王国政府――より正確には殲滅騎士団との交戦を避け、王国政府の補給路を断つべく暗躍を続けています。つまり、王宮周辺の現在の王国政府に不満を持つ貴族達に声を掛けて味方に引き入れているのですが、殲滅騎士団も当然ながら彼らの暗躍を黙って見ている訳ではありません。既に三度、殲滅騎士団と革命党の部隊の衝突が起こっています。……シナリオ通りならカーネルは『這い寄る混沌の蛇』と直接は繋がりがありませんので、彼が国に仇なす敵相手に手心を加えることはないのですが、その三度の交戦で殲滅騎士団はいずれも撤退しています」
「混沌の指徒と現地の『這い寄る混沌の蛇』には面識がない場合がほとんど、それにカーネルに『這い寄る混沌の蛇』との直接的な繋がりがないとなると、その部隊を率いた者が凄腕ということになるな。しかし、それほどの実力者が果たしてシナリオに登場しないなどということがあるだろうか? シャルティア殿、その者の名は何というのだ?」
「【革命軍の斬り込み隊長】としてその名を轟かせつつある男装の少女シュレード=サリザール。我々諜報部隊フルール・ド・アンブラルも最重要観察対象に認定し、他の者達より以上に監視の目を強化しています」
「流石は諜報部隊フルール・ド・アンブラル、既に最有力候補を見つけていたか」
「あくまで可能性が高いというだけですけどね」
シュレード達の監視は諜報員達に任せることとなり、革命軍側はしばらくこのまま様子見をすることになった。
その間、トーマス達は王国政府の問題を片付けることになる。
「それで、具体的な方針はどうするのでございます?」
「サーレはまず、オッサタルスァ国王の解毒をするべきだと思います」
「キウェント王子の奪還も大事っスね。担げる神輿を残しておくのは危険だと思うっス」
「私もオッサタルスァ国王とキウェント王子の奪還は最優先するべきだと思うわ」
「あの……フラーニャ王妃も討伐対象なのよね? 確かに『這い寄る混沌の蛇』の信徒だから討伐は必須ということも分かるのだけど、キウェント王子にとってはきっと大切な母親だわ。流石に目の前で母親を殺される姿を見せられるのは酷だと思うのよ」
「確かに後々のことを考えるとキウェント王子との間にシコリを残す手を打つべきではないな。……しかし」
「では、我々の方で偽の記憶を調合致しましょうか? 『這い寄る混沌の蛇』としてのフラーニャ王妃殿下には死んで頂き、良き母親、良き王妃として今後はオッサタルスァ王国のために頑張って頂きましょう。怪しまれないために一度記憶を抜き、編集を掛ける必要がありますので当日は私も同行させて頂きますね」
「殲滅騎士団のカーネルと摂政グラシュダは予定通り処断するとして、問題はどのような順番で動くかだな。先に王城を片付けるか、殲滅騎士団を先に潰すか……」
「殲滅騎士団を先に潰しておいた方がいいと思うでございます。王城に増援が来ると面倒でございますし」
「サーレも同意するのです」
「では、殲滅騎士団の本拠地――ザーグ砦に先に襲撃を仕掛けてから、王城という順番で参りましょう。襲撃の刻限は深夜、それまでは各々疲れを癒し、戦いに備えてくださいませ」
◆
オッサタルスァ王国の王都――その一等地に築かれたザーグ砦は、群雄割拠の戦乱の時代に後にオッサタルスァ王朝を築き上げるオッサタルスァが一部地域を治める小国の君主だった頃、このザーグ砦は幾度となくオッサタルスァの勝利に貢献し、難攻不落の要塞としてその名を轟かせた。
オッサタルスァ王国が建国されてからは現在の王城に拠点が移され、過去の争いの痕跡を今に伝える史跡として人々に認知されるようになったが、殲滅騎士団が結成されてその拠点に選ばれるとオッサタルスァ王国の象徴から恐怖の対象へと変わってしまった。
その堅牢な防御は現在も健在で、強力な騎士団でも容易く落とすことはできない。殲滅騎士団自体の強さは勿論だが、この拠点の堅牢な防御も殲滅騎士団を厄介な存在たらしめる要因となっていた。
しかし、地上からの攻撃は想定していても、流石に上空からの攻撃までは想定していない。
火憐は「飛翔の天恵(モデル:鳳凰)」の力を使って鳳凰となり高速飛行で、それ以外の面々は空歩を駆使してザーグ砦に襲撃を仕掛けた。
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それでは、改めまして。カオスファンタジーシリーズ第二弾を今後ともよろしくお願い致します。
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