Act.9-351 ペドレリーア大陸・ラスパーツィ大陸臨時班派遣再始動〜グルーウォンス王国革命・動〜 scene.6
<三人称全知視点>
ライフォール達だけでなく、『這い寄る混沌の蛇』の信徒であるメルヴォロンやギアッチオまでもがトーマスが口にしたその名に衝撃を受ける中、ヘラナローラはクスクスと笑った。
「一体どのように私に辿り着いたのでしょうか? そもそも、混沌の指徒が紛れていない可能性だってあり得たでしょう?」
「何事も最悪のケースを考えて行動するべきだ。楽観して動き、最悪の事態に陥るよりも石橋を叩いて渡り、何も無かったと安堵する方が良いに決まっている。いるかいないか、確たる証拠があった訳ではないが、いると仮定して、それならば誰がそれに該当する可能性があるか、王国と革命軍を双方都合良く監視できる立ち位置の人物が誰かを調べていった。勿論、より疑われにくい立場という点も重要だ。同情を誘うような動機があれば、尚のこと良い。貴様はグルーウォンス王国で侍女として働いていたが、ラールフレットに執拗に肉体関係を迫られて逃走し、ラールフレットに虐げられて自由を奪われた侍女や妃達を解放するために剣を取ったのだったな。まあ、実際にラールフレットの近くにいたのは間違いないだろう? 貴様がハニートラップを仕掛けたのか、ラールフレット側から貴様に近づいたのかは知らないが、まあ、あの愚王だ。手当たり次第に侍女にも手を出していたのだろうから、自らが何かしらのアクションを起こさずとも接触される可能性は高かった筈だ。貴様はその立場を利用してラールフレットとエスタージュを監視していたのではないか? そして、革命軍が旗揚げされると王国側の監視は終わりと判断して革命軍側に移動した。……一つ目の理由はその速度があまりにも速過ぎることだ。あのエスタージュですら革命軍の存在を知らないタイミングで情報を得て革命軍に所属した。……あまりにも早過ぎるとは思わないか?」
「……もう少し考えて行動するべきでしたね」
「半信半疑だったが、直接会って確信したよ。裏の見気で感情を隠しているようだが、その力は決して万能ではない。覚えておくがいい……まあ、そこの二人と同じくここで始末するから無意味なことになるだけだがな」
「では、ここを生き延びて意味のあることにしましょうか! ライフォール、貴方にはまだ価値があります。私達『這い寄る混沌の蛇』の傀儡として国を混沌に陥れる道具としての価値がね!! さあ、メルヴォロン! ギアッチオ! アイツらを始末なさい!!」
「なんだと! お前が俺達が蛇だと肯定しなければいくらでも言い逃れできたってのに!! 先に潰すのはてめぇだ! ヘラナローラ!!」
「上から目線で腹立つんだよ!! 誰がお前に従うか!!」
「……同士討ちか」
ヘラナローラに命じられたことに腹を立てたメルヴォロンとギアッチオはなんとヘラナローラを標的に定め、それぞれ抜刀して襲い掛かった。
「死滅の光波、死滅の光波……全く、最後まで役に立たない奴らでしたね」
「……二人殺す手間が省けたな。しかし、まさか本当に同士討ちをするとは、メルヴォロンとギアッチオの判断は何とも浅はかだったが、殺す方も殺す方だな」
「この程度の戦力、居ても居なくても大差ありませんから」
「……トーマス様、どうしますか?」
「ルーネス殿下、一先ず私一人で動く。必要とあらば援護を頼む。後はヘラナローラが人質を取らないように一応警戒しておいてもらえると助かるな。まあ、向こうにとって革命軍は大切な手駒だ。それを傷つけるような手は最終手段だろうが」
「さて、どうかしら? ところで、一人でいいの? 私、強いわよ?」
「安心しろ……もう底は見切った」
「ハッタリを! 死滅の光波!!」
ヘラナローラが放った即死魔法をトーマスは見気の未来視と紙躱を駆使して紙一重のところで躱すと、ヘラナローラに肉薄――拳に武装闘気を一瞬にして込めるとヘラナローラの腹部に拳を放った。
しかし、ヘラナローラも咄嗟に武装闘気で防御を固めてトーマスの攻撃から身を守る。
「哮り狂う雷閃拳」
「武装闘気の突破が困難だから拳に雷の魔力を込めて威力を上昇させようという魂胆ね! でも、そもそも懐に入り込まれないように対策すればいいだけのこと!! 黒の巨壁!!」
ヘラナローラはトーマスから距離を取ると一瞬にして闇の魔力を収束させて壁を作り上げ、トーマスの接近を封じた。
「壁の突破をしなければ攻撃ができないということか? なかなか厄介だな」
「さあ、私に攻撃を当てたいなら壁を破壊しなさい!」
ヘラナローラは壁で身を守りながら魔力を練り上げて「死滅の光波」を放つ準備を整えていた。
ヘラナローラに攻撃を当てるには「黒の巨壁」を破壊しなければならない。そして、剣や魔法を使って「黒の巨壁」を破壊してからヘラナローラに攻撃を放つまでにはどうしてもタイムラグが生じてしまう。
その生じた隙をつき、「死滅の光波」を放つことができればヘラナローラの勝利は確定する。少なくとも、ヘラナローラはそう確信していた。
……まあ、実際にはトーマス以外にも戦力が残っている上に、トーマスも『生命の輝石』で復活することができるのだが。
石を一つ消費することを覚悟で即死攻撃を浴び、即座に反撃を加えるという戦法も取ることも可能だが、ヘラナローラは当然ながらその可能性に気づいてはいない。
更にトーマスには死と同時に霊の核である「阿頼耶識」の種子を用いて自身を完全な形で再生する魂魄の霸気《阿頼耶識》がある。『生命の輝石』を所持していない場合でも一度だけなら「死滅の光波」を無効化することが可能だ。
つまり、どちらにしろヘラナローラの作戦は破綻していたのである。
「私が『黒の巨壁』を破壊した瞬間に『死滅の光波』を放って私を即死させるのが狙いなのだろう? だが、その壁では高さが足りないな。……上空からの攻撃への対策が足りていない。必中急所の神槍」
トーマスは『生命の輝石』や魂魄の霸気《阿頼耶識》はあくまで保険の手段と考えていた。使わないならそれに越したことはない。
トーマスが目をつけたのは展開された「黒の巨壁」と建物の天井の間にあるほんの小さな隙間だった。
空歩を駆使しても通り抜けできないほど小さな隙間は一見するとあまり役に立ちそうにない。空歩を使って接近し、上から攻撃を放つということもできなくはないが、当然ながらヘラナローラもその可能性は想定しており、仮に空歩を使って上空に陣取り、攻撃を仕掛けてきた場合にも即座に「死滅の光波」を放つことができる準備を整えていた。
「私が何も考えずにただ壁を展開したとでも!? 壁を破壊するか、上空に陣取らなければ私には攻撃できない! あらあら、一体どこに向かって魔法を撃っているのかしら? そんなんじゃ私に届かないわよ!!」
「私の魔法の名前を聞き取れなかったようだな。新たな私の魔法の名はグングニル……必中急所の神槍と書いて必中急所の神槍だ」
「必中急所!? 必ず急所に命中する魔法だっていうの!? そんなのありえないわ!!」
「無数の光の槍を生成して解き放つ魔法に因果干渉系の魔法を組み合わせて誕生した技だ。例えどこに向けて放とうと必ず敵に命中する。回避しようとしても無駄だ。追尾するからな。……まあ、展開した壁で自らの逃げ道を塞いだ貴様には関係のない話だがな」
「――ッ! 黒の巨壁解除! アヴァタ――」
「遅い、降り注げ!」
ヘラナローラは「死滅の光波」の発動準備をやめて「黒の巨壁」の解除に魔力を回し、再度「死滅の光波」を放とうとしたが、トーマスの放った「必中急所の神槍」はヘラナローラが即死魔法の名を唱え終わる前に次々とヘラナローラに襲い掛かった。
無数の槍をその身に受けたヘラナローラは傷口から噴き出した血で出血性ショックを起こして即死、『生命の輝石』で復活する気配もなくトーマスの手で死亡が確認された。
「……終わったようだな」
「……終わってみると呆気ないものでしたね」
予想以上に呆気ない終わりにトーマスだけでなくルーネス達も拍子抜けしていたが、ライフォール達にとっては予想外の裏切りからの超人離れした戦闘だった。
驚きと疲弊……その他様々な感情がない混ぜになった現状ではとても交渉はできないだろう。
「ライフォール殿、お見苦しいものをお見せした。同胞の裏切り、予想だにしなかった王国政府の瓦解……気持ちの整理もついていないだろう。私は次の国に向かうつもりだが、勿論、王国政府を潰した者として国の復興への協力は惜しまないつもりだ。――数日もしないうちにグルーウォンス王国の諜報員を統括するクラリーチェ殿がここにやってくると思う。彼女と共に王城に赴き、君達の方針を決めてくれ。今後、この国をどうして行くのか、そして多種族同盟に加盟するか否か。国を良くしたいと立ち上がったならきっと良い国にすることができるだろう。国の運営が軌道に乗るまでは多種族同盟に加盟しない場合もクラリーチェ殿達が協力をしてくれる筈だ。もし、何かあればクラリーチェ殿経由で私に連絡をしてくれ」
放心状態のライフォール達にトーマスはそれだけを伝えるとルーネス達と共に空間魔法で隠れ家へと転移した。
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それでは、改めまして。カオスファンタジーシリーズ第二弾を今後ともよろしくお願い致します。
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