Act.9-349 ペドレリーア大陸・ラスパーツィ大陸臨時班派遣再始動〜グルーウォンス王国革命・動〜 scene.4
<三人称全知視点>
王城外への警戒のために城門付近に残った榊と柊はその後、王城外に警戒の視線を向けつつ城内から現れた新手の騎士達と交戦していた。
覇王の霸気で気絶させ、植物の蔦で捕縛するという作業を始めてから二十分が経過している。
出てくる騎士の数も戦闘開始時に比べて減っており、榊と柊の仕事も気絶した騎士達の数が増えていくに連れ減っていっている。
しかし、そのまま収束に向かうと思われた戦場に変化が生じた。即ち、中央情報局の戦力が王宮に援軍として現れたのである。
『榊様、柊さん、戻りましたわ!』
ナザニエルを撃破に向かった槐、ケインゼスを撃破に向かった椿、ドラベルを榎、アンネミリエットを撃破に向かった楸がそれぞれ任務を達成して城門付近に戻ってきたことで榊達が圧倒的有利な形で中央情報局との戦いに臨むこととなったのだが、中央情報局の戦闘員達は榊達の強さを知らないため「たった六人の少女で何ができるのか」と榊達を侮っていた。
「中央情報局局長のエスタージュ=ネコリシアだ」
『えぇ、存じておりますわ。グルーウォンス王国の中央情報局局長及びオルレアン神教会対策委員長。『鬼』の異名を持つ凄惨な性格の女軍人で、オルレアン神教会に手出しをされないように情報局員を各地に派遣して情報統制という名の口封じを行っている厄介なお方ですわね。その悪名は私達の耳にも届いておりますわ』
「見かけない顔だな。……まさか、貴様達のような非力そうな小娘共にここまでの被害を出させるとは、王国の騎士達は随分と弛んでいるようだな。この戦いが終わったらしっかりと鍛えてやるとしよう。……我らはグルーウォンス王国の平穏を守る守護者だ! 貴様らにグルーウォンス王国を敵に回ることがどれほど愚かなことかを刻んでやろう!!」
『私にはグルーウォンス王国が平穏とは程遠い状態にあるように見えますわ。民に圧政を敷き、疲弊させる元凶はグルーウォンス王国の目となり民を監視する貴方達です。……エスタージュ=ネコリシア、貴方が守ろうとしているのは既に腐り切ってしまったグルーウォンス王国という名の共同幻想――民を疲弊させるだけの牢獄かしら? それとも、貴女と身体を重ね、恋仲となったラールフレット=グルーウォンスかしら? ……ご安心を、もう時期ラールフレットもあの世に行きます。すぐに貴女も彼と同じ場所に送ってあげますから、安心しなさい』
「――ッ! 者共! コイツらを討ち取れッ!!」
逆上したエスタージュが叫ぶように部下達に命じると、困惑しながらも一斉に剣を抜き去り、榊達に攻撃を仕掛ける。
『民を苦しめてきた貴方方に慈悲を与えるつもりはありません。一人残らずこの場で始末致しますわ! 槐、椿、榎、楸、柊!』
『『『『『『寄生ノ大樹ッ!!!』』』』』』
榊、槐、椿、榎、楸、柊がそれぞれ生成した木々は瞬く間に無数の枝を伸ばし、騎士達の身体を伸ばした蔓で拘束する。
「――ッ!? 動けないッ! 一体何が起きて……す、吸われ……力が……無くなって」
「――ッ!? どうした、お前達ッ!! 一体何をしたッ!!」
拘束された騎士達の身体がまるで木乃伊のように乾涸びていく姿を見せられたエスタージュが榊達を睨め付ける。
しかし、血走った瞳を向けられても榊達は涼しい顔でエスタージュの瞳に真っ直ぐ視線を向け、嫣然と微笑んだ。
『寄生ノ大樹には、巻きついた相手から養分を吸い取る力があるわ。その力で皆様の養分を吸い取ったのよ。完全に養分を吸い取ってしまえば命を落とす……貴女の可愛い部下達は残念ながらみんな死んでしまったわ』
「なんなんだ、その力はッ! 何故、人間がそのような力を使えるッ!!」
『そもそも前提が違っているのよ。私達は人間ではなく魔物――植精女王、安楽皇女。魔物なんだから、植物を操る力を持っていても不思議ではないわよね?』
「出鱈目だッ! そのような幻想の力、あってたまるかッ!! グルーウォンス王国と中央情報局を敵に回した罪、その命で贖わさせてやるッ!!」
剣を鞘から抜き払い、エスタージュは榊を狙って斬撃を仕掛ける。
その速度はやはりグルーウォンス王国最強の軍人と呼ばれるだけあって榊達が対処していた騎士達よりも遥かに素早く、そして鋭かった。……しかし、相手が悪過ぎた。
「なっ!? 私の剣が粉砕されただと!?」
『星砕ノ木刀……確かにグルーウォンス王国では最強かもしれないけど、世界は広いわ。ご主人様の剣には遠く及ばない。……武流爆撃』
剣を破壊されて無防備になったエスタージュの胸元に剣の切っ尖を突き刺し、木刀に込められた武装闘気をエスタージュの体内に流し込む。
衝撃波と化した武装闘気をエスタージュの身体を吹き飛ばし、無数の肉片へと変えた。
◆
エスタージュを討伐した榊達はその後、ラールフレットを討伐したトーマス達と合流し、クラリーチェに後処理を任せてジュマイカ男爵領にある隠れ家に空間魔法で転移した。
ジュマイカ男爵領の領都から革命軍の本拠地となっているイストラ村まではかなりの距離がある。空歩と神速闘気を併用して空を走ること丸一時間――朝日が昇り始め、空が茜色に染まる頃、トーマス達はイストラ村に到着した。
「革命軍総大将、ライフォール=キュラトス殿はいらっしゃるか?」
「許可がない者を通す訳にはいかない。何用でこの辺境の村にやってきた? ……まさか、王政府の関係者か? 中央情報局の間者かッ!? 我々革命軍の居場所を突き止め、秘密裏に滅ぼしにやってきたのか!?」
革命軍はまだ構築されたばかりだ。ジュマイカ男爵領の辺境の村が革命軍の最重要拠点となっているとは情報が流出することを恐れ、一定以上の信頼に足る革命軍関係者にしか知らされていないため、革命軍を志す同志がこの地を訪ねてくる可能性は低い。
では、ジュマイカ男爵領の辺境の村にライフォールを名指しで面会を要求する者達は一体何者だろうか? 考えられるとすれば、革命軍の情報を掴んだ中央情報局の関係者しかいない。……彼らの想像できる範囲の中であれば。
「……我々は少なくとも革命軍の敵ではない。味方かどうかと聞かれるとそれも微妙だからな。我々はオルレアン神教会と敵対する『這い寄る混沌の蛇』と呼ばれる邪教徒を滅ぼすべく別の大陸からやってきた臨時班のメンバーだ。我々は決してオルレアン神教会と志を共にする仲間ではないが、我々にとっても奴ら邪教徒は厄介な敵でね」
「……はぁ」
トーマスの口から飛び出したあまりにも予想外な答えに革命軍の戦士達が困惑する中、トーマスはその様子を気にすることなく話を続けた。
「グルーウォンス王国の腐敗の裏に、彼ら邪教徒の存在があったことを我々は掴んだ。そのことについて是非ライフォール=キュラトス殿に情報提供をしたいと思っているのだが、面会させて頂けないだろうか?」
「……流石に私達だけで判断はできませんのでしばらくこの場でお待ち頂けないでしょうか?」
「ああ、勿論だとも。……そうだった、忘れていたよ。榊殿、確か手土産を用意していたのだったな?」
『えぇ。流石に革命軍の皆様の最重要拠点に赴くのに手土産無しという訳には参りませんので。……是非こちらをお持ち頂き、判断材料にしてくださいませ』
榊の手渡した木の箱を受け取った戦士の一人は、その箱の中身を確認して、口を押さえて吐き気を堪えた。
「まさか、エスタージュ=ネコリシアの首!?」
『はい、つい先ほど仕留めた活きの良いエスタージュ=ネコリシアの生首ですわ』
生首に活きの良いも悪いもあるのかよ? という感想すら思い浮かばないほど顔面蒼白になった革命軍の戦士達に榊は冷たい視線を向ける。
革命を起こすということは、血を流す覚悟を決めるということだ。それは時に敵の血であり、時には味方の血である。
生首を見て青褪めるようでは、革命など夢のまた夢――榊には革命軍の者達に革命に挑む覚悟が圧倒的に足りていないように映ったのである。
戦士の一人が箱を持って中に赴いてから、待つこと三十分、一人の戦士が拠点から姿を見せ、トーマス達に拠点に入る許可を出した。
「初めまして、私はライフォール=キュラトス、革命軍のリーダーをしている」
「初めまして、私はトーマス・ラングドン。今はフリーで宗教学の教授と探偵をしている」
「あの、『オルレアン教国の大賢者』にお会いできるとは光栄です」
「まだそのような古臭い名が残っていたのだな。他の臨時班のメンバーは右からフォルトナ=フィートランド連合王国のルーネス=フォルトナ第一王子殿下、サレム=フォルトナ第二王子殿下、アインス=フォルトナ第三王子殿下、榊殿、槐殿、椿殿、榎殿、楸殿、柊殿だ」
「フォルトナ王国は聞いたことがありませんが、フィートランド王国の名は聞いたことがあります。……しかし、まさか王族の皆様がいらっしゃるとは驚きでした」
「今の我々は臨時班のメンバーとしてこの場にいますので、身分についてはお気になさらないでください」
「ということだそうだ。フォルトナ=フィートランド連合王国にも多種族同盟にも今回の混乱に乗じてグルーウォンス王国を乗っ取り、国を支配するつもりはない。この国は腐敗し、既に取り返しのつかないレベルに至っている。この国の現状を憂い、反旗を翻した君達革命軍がグルーウォンス王国の国政を担っていくべきだと我々は考えている」
「我々が国政を担う……」
「元々そのつもりだった筈だ。革命は敵を倒して終わりではない。国を存続させるために次の政府を担うのは革命を成した革命軍である。覚悟の上だと思っていたが、違ったか?」
「いえ……覚悟はしていましたが、改めて聞くと実感が湧かなくて……」
「まあ、実感が湧かなくてもやるべきことはしっかりとやってもらわなければならないがな。今回の件に応じて、多種族同盟が求めることはない。多種族同盟への加盟もメリットとデメリットを勘案して次の政府――つまり、君達が決めるべきことだ。さて、私達がここに来た理由は君達に国政の引き継ぎに来たというのもあるが、もう一つとある任務を遂行するためという理由もある。まずは、我々が敵対している『這い寄る混沌の蛇』がグルーウォンス王国の腐敗にどう関係していたのかを説明するとしよう」
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それでは、改めまして。カオスファンタジーシリーズ第二弾を今後ともよろしくお願い致します。
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