Act.9-348 ペドレリーア大陸・ラスパーツィ大陸臨時班派遣再始動〜グルーウォンス王国革命・動〜 scene.3
<三人称全知視点>
王城から見て左にある左宮では内務――つまり国内の行政が、右にある右宮では外務――つまり国外との外交に関わる仕事が行われている。
内務大臣の秘書官を務めるナザニエル=ワポードの討伐を任された槐は王城の中央から謁見の間の目の前を左に曲がるとそのまま廊下の突き当たりまで進み、左宮に突入――そのまま宵闇に染まった暗い廊下を見気頼りに突き進み、ナザニエルの行方を探した。
事前に諜報員達からの情報ではナザニエルは王城の中庭にある宿舎には戻っていないという。
左宮と宿舎を行ったり来たりする日々を送るナザニエルが宿舎に戻っていないとすれば、考えられるのは左宮にあるナザニエルの執務室のみ。
槐の予想は見事に的中し、ナザニエルの執務室にはナザニエルの執務室と思しき人影があった。
「やれやれ……本日の業務が終わらず残業をしていたら敵が現れるとは、私も運がない」
『内務大臣の秘書官のナザニエル=ワポードね』
「えぇ、いかにも。そして、『這い寄る混沌の蛇』の信徒でもあります」
『あら、少し意外だったわ。白ばくれると思っていたのに』
「そういう時間の無駄は嫌いなんですよ。本日は私以外に文官は残っていません。誰かになすり付ける相手もいませんし。……海の向こうでそれはそれはご活躍なのですよね? そして、遂にペドレリーア大陸までやってきたと。……本当に嫌な気分ですよ。折角ここまで積み上げてきたものを簡単に壊していくんですからねぇ!! 鈍い呪い!!」
『私に状態異常は効かないわ! 樹法秘術・木千手掌!! 武装闘気・硬化ッ!!』
「即時現断……くっ、強い武装闘気は魔法的な攻撃も遮断すると聞きましたが、まさかこれほどとは。ならば、これならどうですッ!! 武装解除」
槐の武装闘気によってあらかじめ指定した地点に発動し、相手の魔法的防御の完全無効化して狙った対象を切り裂く「瞬間現断」を即時発動できるように改良を加えた「即時現断」を無効化されたナザニエルは「武装解除」を使って強化の無効化を狙うが――。
『遅いわッ! 喰らいなさいッ!』
千の巨大な木の手から放たられた掌底打ちが魔法を発動するよりも先にナザニエルに放たれる。
咄嗟に武装闘気を纏って防御に回るも間に合わず、ナザニエルの身体は掌底に押し潰されて粉砕され、真っ赤な液体を執務室に散らせた。
◆
槐がナザニエルと交戦を始めた頃、椿の姿は第二騎士団の騎士宿舎にあった。
「――ッ!? お前が王城に侵入した侵入者かっ!! 一体何が目的だ!!」
非番の騎士達は寝巻き姿のまま剣を手に椿に剣を向けている。ちなみに、騎士宿舎の周辺には無数の騎士達が転がっており、覇王の霸気による無力化は全て完了していた。
『守るべきものが腐り切っているというのに、それでも最後まで忠誠を尽くす哀れな騎士達ね。いえ、貴方達も同類なのかしら? あの愚王に仕え、民を蔑ろにしているのだから。……まあ、でも貴方達への処分は後々に下されることになると思うわ。心を入れ替えてくれると信じてそのまま騎士を続けられるようにするのか、それとも既に腐り切っていると判断されて処分になるかは分からないのだけど。……今日は貴方達ではなく貴方達の副団長さんに用があって来たの。退いてくださる?』
「させる訳がないだろッ!!」
『あらあら、忠誠心だけは立派なのね。……邪魔よ』
椿の放った霸気は一瞬にして椿に斬り掛かろうとしていた騎士達を昏倒させた。
「……全く、鍛え方が足りなかったみたいだな。意志の弱い奴じゃ、お嬢ちゃんに触れることすらできないってことか」
『あまりにも弱過ぎて興醒めしたわ。……貴方が第二騎士団副団長ケインゼス=ウォーナートね?』
「いかにも、俺がケインゼスだ。海を越えて遥々ご苦労なことだ。どんだけ蛇に恨みがあるんだよ?」
『『這い寄る混沌の蛇』はお義姉様の大切なお方である女神ハーモナイア様より『管理者権限』と呼ばれる神の力を簒奪した咎人の一人。神への叛逆という大罪を犯した貴方達が生きていてはならないのは至極当然のことでしょう?』
「身に覚えのない罪で断罪されるってのは流石になぁ……」
『ところで、貴方達の騎士団長クライヴァリト=ローヴァルファンド卿はいないのかしら?』
「ああ、もしこの戦いを生き延びたらアイツの寝室を見てみな。アイツは正義寄りの人間だ。国王陛下の治世にも違和感を覚えていたしなぁ……もし、『這い寄る混沌の蛇』に国が蝕まれているなんて知ったら絶対に俺達の敵になる。先に始末しておくのは当然のことだろ?」
『……それは残念ね。まあ、でも最優先庇護対象でも無かったし、別にいいかしら?』
「全く薄情だなぁ。じゃあ、勝負と行こうぜ! 石毒の蛇槍!!」
石化効果を持つ黒い毒を槍状にして放つ『蛇の魔導書』に掲載されている闇属性・毒属性複合魔を先手必勝とばかりに椿に放つが、椿は見気の未来視と紙躱を駆使して無駄のない動きで攻撃を回避――「星砕ノ木刀」で創り出した刀に武装闘気と覇王の霸気を纏わせて斬り掛かる。
「武装解除!!」
『見飽きた魔法だわ! 吸魔全反射陣!!』
椿はケインゼスの放った「武装解除」を無属性の魔力で作り出した魔法陣を使って無効化し、そのままケインゼスに向かって魔法を跳ね返した。
白い魔法陣に飲み込まれた魔法を倍の威力と速度の魔法攻撃に変換して攻撃者に向けて放つ「魔攻反撃」を改良することで誕生した「吸魔全反射陣」には魔法陣で受け止めた魔法を効果はそのままに威力と速度の魔法攻撃に変換して攻撃者に向けて放つ効果がある。
「武装解除」で武装を解除してから石化効果を持つ黒い毒を靄状にして武器に纏わせる「石毒の蛇纏」を発動して魔法で吹き飛ばされて弱ったところにトドメを刺すことを狙っていたケインゼスはまさか「武装解除」を跳ね返されるとは思いもよらず、無防備な状態で「武装解除」をその身に浴びて壁まで吹き飛ばされた。
「ぐっ…………」
『これで終わりよ』
壁まで吹き飛ばされて意識が朦朧としていたところに椿が容赦なく斬撃を浴びせる。
首を狙って放たれた一撃はケインゼスの首をスッパリと綺麗な切り口で切り裂き、一瞬にしてその命を掠め取った。
◆
執事長と副執事長の部屋はいつでも王の元に馳せ参じるように右の塔の二階に用意されている。
トーマス達の後を追う形で右の塔にやってきた榎はそのまま音と気配を絶つ歩法「絶音」を駆使して無音で副執事長の部屋付近まで近づき、「星砕ノ木刀」で刀を作り上げると、武装闘気と覇王の霸気を纏わせ、壁を破壊して内部に突入した。
「なっ、何事ですか!?」
『『這い寄る混沌の蛇』信徒、次席執事ドラベル=ゲラントゥス! 多種族同盟臨時班所属、榎が討伐に参りましたわ!!』
「――ッ!? やはり先程の騒ぎは革命軍ではなく多種族同盟か!! 流石に早過ぎるとは思っていたがッ! こうなればッ! 即時現断!!」
ドラベルが攻撃魔法を放ってくるのではないかと警戒した榎だったが、見気を使ってドラベルの真の狙いに気づき、一手出遅れたことを後悔した。
破壊されたのはドラベルの右にあった壁――つまり、執事長の部屋との境界線である。
「――ど、ドラベル君!? 一体何が起きて――」
「ご機嫌麗しゅう、ゼルデマン執事長様。……実は相手が少し厄介で困っていたところなのですよ。人質になってくださいませんか? ああ、拒否権はありませんよ?」
神速闘気を纏って素早く執事長の部屋に突入すると、執事長のゼルデマンの首筋にナイフを突きつけたドラベルが顔を歪める。
「さあ、どうします? 善良な執事長を巻き添えにしますか?」
『えぇ、蛇らしい卑怯な手だと思うわ。……その男が本当に善良な人物ならね。この王城に善良な人間なんてほとんど残っていないわ。いるのは、恐怖に怯えてあの愚王に唯々諾々と従ってきた卑怯者と、愚王に従うことで甘い汁を吸ってきた者達だけ。……貴方は打つ手を間違えたのよ。大樹ノ伸槍!』
榎の左手から伸ばされた木の槍はゼルデマン諸共ドラベルの心臓を刺し貫く。
「……くっ、冷酷な化け物、め」
『貴方達だけには言われたくないわ。――混沌を世界にもたらそうとする性格破綻者』
◆
王城の左の塔の二階――王宮総侍女長の執務室では王宮総侍女長アンネミリエット=ジュラヴィクスとアンネミリエットの命を狙う侵入者――楸が激闘を繰り広げていた。
「魔法陣解放・大爆発! 魔法陣解放・大爆発! 魔法陣解放・大爆発! 魔法陣解放・大爆発! 魔法陣解放・大爆発! 魔法陣解放・大爆発!」
『――全く、一体いくつの爆発魔法を仕掛けているのよ!?』
「私も把握しきれていないくらいですね。さて、どんどん行きますわよ! 多種族同盟の侵入者さん! 魔法陣解放・大爆発! 魔法陣解放・大爆発! 魔法陣解放・大爆発! 魔法陣解放・大爆発! 魔法陣解放・大爆発! 魔法陣解放・大爆発!」
左の塔の壁に穴が開くどころか塔全体が爆発で崩落するのではないかと楸が心配になるほどアンネミリエットは爆発魔法を次々と解放していく。
しかし、見た目が派手な割に楸に対するダメージはほとんど無かった。
あまりにも爆発が激しく、武装闘気でアンネミリエットの攻撃がほとんど無効化されていることに気づいていないようだ。
『星砕ノ木刀』
「魔法陣解放・大爆発! 魔法陣解放・大爆発! 魔法陣解放・大爆発! 魔法陣解放・大爆発! 魔法陣解放・大爆発! 魔法陣解放・大爆発! 魔法陣解放・大爆発! 魔法陣解放・大爆発! 魔法陣解放・大爆発! 魔法陣解放・大爆発! 魔法陣解放・大爆発! 魔法陣解放・大爆発!! キャハハハ! キャハハハ! 爆炎に焼き尽くされて散れッ!!」
爆発魔法を連発してハイテンションになっているアンネミリエットは楸が木刀を作り上げ、武装闘気と覇王の霸気を纏わせたことを知らない。
「絶音」を駆使して爆発の中を駆け抜けた楸は狂ったように笑うアンネミリエットの身体を木刀で両断した。
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それでは、改めまして。カオスファンタジーシリーズ第二弾を今後ともよろしくお願い致します。
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