Act.9-347 ペドレリーア大陸・ラスパーツィ大陸臨時班派遣再始動〜グルーウォンス王国革命・動〜 scene.2
<三人称全知視点>
騎士達を昏倒させつつラールフレットの寝室を目指すトーマス達だったが、ラールフレットの寝室には標的のラールフレットの姿は無かった。
予定通り、トーマス達は謁見の間を新たな目的地に設定し、王宮の中を走る。
「侵入者を捕らえろ!!」
騎士達の増援を撃破しつつ、右の塔から王宮の中央に位置する謁見の間を目指すトーマス達。
通常の王族であれば、ここまで敵に侵入されれば隠し通路を利用しての脱出に踏み切るところだが、相手は『這い寄る混沌の蛇』――それも革命の混乱を引き起こすために率先して愚王を演じるような輩である。ここで逃げの一手を打つとは思えない。
まだ城内にラールフレットはいる筈だとトーマス達は安心してラールフレットの捜索を続けていた。
そして、その予想は見事的中。やはり、ラールフレットは王宮から脱出してはいなかった。
甘ったるい香の焚かれた謁見の間の玉座に座った巨漢は一糸纏わぬ妖艶な女性達を侍らせ、抱えた壺に入った生肉を貪り食う。ラールフレットにしなだれる女性達の目は虚でとても正気とは思えない。
「差し詰め、媚薬の効果のある香というところか? ……空気が悪いな。暴風神の咆哮」
トーマスの放った無数の荒れ狂う風は謁見の間を取り囲む壁や天井を破壊する竜巻と化し、甘ったるい媚薬の香を一瞬にして吹き飛ばした。
続いて時空魔法の魔法陣を展開、その中から何かを取り出すとラールフレット目掛けて投げつける。
ラールフレットの目の前に転がったのは女の生首だった。
生首と化した老婆の顔は、ラールフレットもよく知る人物――かつてラールフレットを攫い、蛇に仕立てたデスマウンテンに棲まう古き蛇の流れに属する蛇導士マシャナ=ブリユーノだ。
「ほう、こういった真似をするのだな、トーマス・ラングドン。貴様は正義の味方なのだと我は思っていたが」
「私が正義の味方か? それはないな。寧ろ私はラピスラズリ公爵家ほどではないが過激な方だ。『這い寄る混沌の蛇』を滅ぼすためにはこの手で染めることも躊躇はしない。私にはね、ミレーユ姫殿下のような慈悲はないのだよ」
「だが、我を倒したら王を失った国は混乱する。グルーウォンス王国はどちらにしろ混沌の道に進むことになるのだよ」
「王ならばいるではないか。貴様の狼藉で娘のアンネリアと妻のシャリティナを奪われ、国を変える決意をした男が」
「莫迦め!! この国の貴族は既に腐り切っている。我が率先して好きなように酒池肉林を築いても良いと振る舞ったからな。堕落の味を知った貴族共が新たなる王を受け入れる筈がない!!」
「何を言っているのだ? そんな貴族共、我々が排除するに決まっているだろう? この国は取り返しのつかないところまで来ている。お前の目論見通り、支配階級は腐りに腐り、貴様に進言するような良心を持つ者は消えた。実際に革命が起きたとしても、そういった輩は消さざるを得ない。彼ら革命軍によって殺されるか、我々によって殺されるか、その程度の些細な違いだよ。王宮に潜む蛇も革命軍に潜む蛇も、そしてこの国を蝕む腐り切った支配階級も全て我ら多種族同盟の臨時班が皆殺しにして、この国に夜明けをもたらす。……この国はイェンドル王国とは違う。『這い寄る混沌の蛇』の蛇信徒二人を殺すだけで終わる戦いじゃない。……グルーウォンス王国のシナリオを圓殿より聞いていた私達が覚悟を決めずにここに来る訳が無かろうッ!!」
トーマスの関わる三つの国の中で最も悲惨な結末を迎えるのがグルーウォンス王国のシナリオだ。
死者数は三つのシナリオの中で圧倒的最多数を誇り、ごく僅かな良心を持つ貴族を除き支配階級は革命軍との戦闘・内戦終結後の処刑等で一族郎党皆殺しとなる。
劇中のトーマスは革命軍と協力し、ラールフレットを撃破した後に国を去るため、その後、国をどのように復興していったのかは描写されていない。
しかし、今回は劇中のように革命軍と共闘した訳ではなくトーマス達が仕掛けた侵略戦争だ。流石に国の復興は専門外のため、ビオラや多種族同盟に頼るつもりでいたが、革命軍が倒すべき国を腐敗した部分は責任を持って自分達臨時班の手で全て取り除く覚悟を決めていた。
「覚悟はできているということか。だが、此奴らはどうする? 元貴族の娘、元侍女、元町娘――出自は様々だが、皆、我の妃となった者達だ。最初は嫌がっていたが、徹底的に凌辱し、最早抗う力も残っていない。精神を粉々に破壊し、意志を失った哀れな此奴らのことも殺すのか? 本当に哀れだな、彼女達は。――おい、お前達! 侵入者達を殺せッ!!」
ラールフレットが命令を下した瞬間、ラールフレットにしなだれていた女性達が一斉に王の元を離れ、闇を収束させた武器を構えてトーマス達に襲い掛かってきた。
「……卑劣なことをしますね。トーマス様、どうしますか?」
「とりあえず、全員気絶させるべきだな。意識を奪えば動けなくなる筈だ」
「残念だな。闇糸の操人形の効果で彼女達の体は操られている。意識を奪ったところで彼女達の凶刃は止められん!!」
「だったら時空魔法で動きを止めるまでだよ!! 時停の囹圉!! ごめんなさい、ちょっと待っていてね、お姉さん達。――トーマス様、ルーネスお兄様、サレムお兄様! ここは僕に任せてください!!」
「アインス殿下、感謝する! 帝釈天雷!!」
「――サレム、やりますよ!」
「分かりました、ルーネス兄様!」
「「魂魄の霸気《対極》! 《求道球》!!」」
トーマスは聖なる力を宿した雷撃をラールフレット目掛けて降り注がせる。
当然、ラールフレットはトーマスの攻撃を躱すべく動き出すが、ルーネスとサレムは二人の霸気を共鳴させることで、本来は人間的な成長でしか高めることができない霸気を一時的に増幅する形で高めることができる《対極》を使って霸気を増幅――そして、強力な求道の霸気と同性質のエネルギーから作り出された漆黒の球を作り出す《求道球》を九つ生成して融合――《大求道球》と呼ぶに相応しい漆黒の球体を作り上げ、聖なる力を宿した雷撃を躱そうと玉座から立ち上がり、回避に動いたラールフレットに向けて放った。
「我はこんなところで死なん! このグルーウォンス王国を混沌に陥れるまで死ねないのだよ!! 黒光乱舞!!」
ラールフレットは《大求道球》を破壊しようと闇属性の魔力を収束させた光条を放つが、強力な求道の霸気のエネルギーの塊である《大求道球》を破壊するほどの力はラールフレットの魔法には無かった。
《大求道球》はラールフレットに直撃する寸前に槍の形状へと変化し、ラールフレットの心臓を貫く。更にラールフレットの頭上から聖なる雷撃が降り注ぎ、ラールフレットの身体は雷に焼き尽くされて焼死体と化す。
「……王国の腐敗の原因は討ち果たせましたね」
「これで、幼少の頃は絶世の美貌を持つ爽やかな王子で天賦の才と圧倒的な剣の腕を持っていたというのですから、蛇の教育は恐ろしいですね。……悪の道に落ちるのは一瞬、私も道を謝ればあんな風になっていたのかもしれないと思うとゾッとします」
道を誤れば――圓と出会わなければサレムは暴君となっていたかもしれない。
サレムにはラールフレットの闇堕ちが決して他人事とは思えなくてブルっと身震いした。
ラールフレットの撃破と同時に闇糸の操人形は解除されたようで、操られていた女性達はアインスが魔法を解除すると糸の切れた人形のように倒れた。
呼吸はしているため死んでいる訳では無さそうだが、ラールフレットの行った性的暴力と薬物の効果で既に正常な状態とはかけ離れた状態になってしまっている。
「トーマス様、ルーネス殿下、サレム殿下、アインス殿下、お疲れ様でした」
ラールフレットを討伐してから数分後、空中を走りクラリーチェがトーマス達の元へやってきた。
「他の戦況はどうなっている?」
「討伐対象のナザニエル、ケインゼス、ドラベル、アンネミリエットは皆様の活躍で討伐が終わりました。現在、討伐を終えた皆様は榊様と柊様に加勢し、エスタージュ率いる中央情報局の局員達と交戦中です。また、私以外の諜報員は腐敗した貴族の一掃に動いております」
「こちらで動かなければならないとは思っていたが、既に諜報員達が動いていたか。……流石に仕事が早いな」
「クラリーチェさん……あの人達、もう助からないのかな? ラールフレットに全部奪われたままなんて、救いがないなんて……こんなのあんまりだよ!!」
「アインス殿下はお優しいですわね。……勿論、できる限り手は尽くしますわ。私だってこのような仕打ち、断じて許せません。……正直、ここまで心が壊れてしまったら、もうかつてのようには戻れないものですが……圓様ならきっと助けられる方法をご存知の筈です。とりあえず、彼女達は隠れ家に運び入れ、すぐに上司と圓様に連絡を入れて判断を仰ぎます」
「よろしくお願いします、クラリーチェさん」
クラリーチェ達は被害者の女性達を一人ずつ隠れ家へと転移させた後、隠れ家に帰還した。
ここまで肉体的にも精神的にも破壊されているが、元の生活に戻るのは難しい。例え意識を取り戻してもラールフレットの所業の傷は肉体と精神に残り続け、ことあるごとにフラッシュバックすることになるだろう。……それすらマシと思えるほど精神が破壊されている者も彼女達の中にはいる。
いずれにしてまともな方法で彼女達を救うことは不可能だ。
圓の持つ倫理的にアウトな部類の技術――その全てを駆使したとしても救えるかどうか分からない。
だが、ルーネス達は祈るしか無かった。ラールフレットによって大きな傷を負った彼女達が誰もが享受すべき平穏な生活――当たり前を取り戻せることを。
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それでは、改めまして。カオスファンタジーシリーズ第二弾を今後ともよろしくお願い致します。
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