Act.9-344 ペドレリーア大陸・ラスパーツィ大陸臨時班派遣再始動〜イェンドル王国革命・動〜 scene.3
<三人称全知視点>
「――ッ! 敵襲だ! 討ち取れッ!!」
「邪魔だ、道を開けろ」
屋敷の中から現れた護衛騎士達はトーマスとエシャルを発見すると同時に抜刀するが、トーマスが放った覇王の霸気によって一斉に意識を刈り取られ、そのまま昏倒して次々と地面に倒れた。
「トーマス様、今のは……」
「覇王の霸気……まあ、強い殺気で威圧したと思ってくれ。意識を刈り取っただけだ、殺してはいない。もっとも、一定以上の強敵には耐えられる程度のものだ。実際、ユドラグ卿を守る護衛騎士は気絶したが、ユドラグ卿は気絶していない。決して万能とは程遠い力だ」
エシャルだけは気絶しないように絶妙なコントロールで屋敷内部の護衛騎士達を覇王の霸気で威圧するが、ユドラグと欅達が観測した庭にいる何者かには全く通用していないようだった。
庭の標的も気になるが、トーマスの役目はユドラグと接触してイシュトーラスの居場所を聞き出すことである。欅達が庭にいる新手を倒してくれると信じ、トーマスとエシャルはユドラグのいる執務室を目指した。
「――ッ! エシャル王子! ……まさか、革命派の拠点に自首をしてきた訳ではありますまい。この私を殺すことで革命を止めるつもりですか? 実に浅はかだ。我々革命派は民の意思そのもの! イシュトーラス様を監禁した貴様ら傲慢な王族を倒し、この国を救済する――それが民の総意なのですよ!」
「勝手に民の考えを語るな……愚かしい」
「おや、貴方は? ハハハ、どなたか存じ上げませんが愚かしい方ですね。イシュトーラス様を監禁した王族の側に付き従うとは。正義は我ら革命派にある! 国民の希望であるイシュトーラス様を幽閉した貴様らに今こそ、我ら革命派が鉄槌を下す時だ!!」
「……茶番はもう結構だ。観客は全て夢の中……無意味なことだと思わないか? 国民の希望である大臣を王家が幽閉しただと? 事実無根な話だな。王家はイシュトーラスを幽閉していない。いや、そもそも国民の希望すらも存在しないまやかしだった。全てはイェンドル王国を混沌に落とすため、貴様とイシュトーラスが企んだ計画……違うか? 『這い寄る混沌の蛇』」
「くっ……流石は『蛇の仇敵』トーマス・ラングドン! まさか、イシュトーラス様と私が国を崩壊させるためにこの計画を仕込んでいたことに気づいていたとは。だが、遅いッ! 遅いのだよ!! 最早革命は止められない! たとえ私が討ち取られようとな!! アハハハ! 民の最後の希望であるイシュトーラス様が姿を消した、その事実に違いはないのだからな!!」
「なるほど……イシュトーラスは貴様の領地の辺境に隠れ潜んでいるのか」
「――ッ!! これが、ロベリア様が言っていた見気か! だが、イシュトーラス様を殺したところで革命は止まらない! いや、寧ろ加速していくぞ!! アハハハ!!!! アハハハ!!!!!」
「それについては私に考えがある。安心してここを死地とするがいい。それとも、外にいる仲間を呼ぶか?」
「……仲間? 誰だそれは?」
エシャルがドン引きするほど高笑いをしていたユドラグが急に真顔になった。
ユドラグの用心棒として革命派の拠点にいると思っていたが、どうやら違ったらしい。
「……恐らく、混沌の指徒だな?」
「何それ、知らないんだけど……」
「冥黎域の十三使徒が一人ロベリア直属の配下――混沌の指徒。まさか、『這い寄る混沌の蛇』なのに知らないのか?」
「本当に知らない。……まさか、ロベリア様は私達を部下に監視させていたというのか!?」
「……確認していないから確実だとは言えないが、恐らくお前達を信頼できず部下に監視をさせていたのだろうな。そちらは欅殿達が対処に向かった。どちらにしろこちらに増援が来ることはないから貴様には関係のない話だったな」
「くっ、私達の作戦は完璧は筈だ! 穴などありはしない!! だが、長年を費やした作戦の完成を見ることなく命を落とす訳にはいかない!! ここが貴様達の墓場だ! トーマス・ラングドン!! エシャル・デル・イェンドル!! アヴァタ――」
「倶利迦楼羅剣」
ユドラグが即死魔法を放つ前にトーマスが浄焔により生まれた無数の剣をユドラグに向けて放ち、ユドラグの身体を浄化の炎で焼き尽くす。
ユドラグの掌に収束していた魔力が四散し、ユドラグの焼死体は前方へと倒れ込み、黒い煙を部屋中に舞い散らせた。
「トーマス様の言葉は本当だった。それがユドラグの言葉で分かりました。……こうして彼の口から話を聞くまで信じることができず、申し訳ございませんでした」
「謝ることではない……当然の判断だと私も思っていた。……あちらはまだ掛かりそうだな。私達はこのままイシュトーラスの身を隠す辺境に乗り込むとしよう」
「ですが、ユドラグの言っていた通りイェンドルの民はイシュトーラスを信じています! 例えこのままイシュトーラスを倒しても何の解決にもなりません!」
「先程の述べたが、私に一つ考えがある。隠れ家を出る前に依頼しておいたから準備はできていると思うが……その確認が取れ次第、イシュトーラスの元に乗り込むとしよう」
◆
トーマスがユドラグと交戦している頃、欅達の姿はノーツヘッド子爵邸の庭にあった。
「なっ、なんです!? 親方ッ! 先輩! 一体どうしたんですか!! 急に倒れて……誰か! 誰か!! そうだ、騎士様!!」
『……先程のトーマス様の霸気で一人だけ気絶していないのは貴方ですか?』
「ちょ、丁度良かった!! 皆さん助けてください!! 当然みんな気絶しちゃって……よく分からないけど外も騒がしくなって、俺新米だからどうすればいいのか分からないんですよ!!」
『茶番はそこまででいいわ。『這い寄る混沌の蛇』でしょう? 貴方』
「師匠! 先輩!! 起きてください!! くっ、早く助けてくださいよ!!」
『……………………』
「……っ、はぁ、分かりましたよ。まあ、この程度で騙せる輩ではありませんよね。私はギジュタール、『這い寄る混沌の蛇』の蛇導士――蛇教師ともいいますが、その一人です。冥黎域の十三使徒ロベリア=カーディナリス様の直属の配下である混沌の指徒の一人、以後お見知り置きを。といってもここでお別れになりますけどね。私が死ぬか、貴女方が全滅するか、そのどちらかしかありませんから」
『ラム=バカルディ、朦朧とした影――影の三人に次ぐ三人目ですか。一体何人いるのかしら?』
「さあ? 俺も直接知っているのはロベリア様だけだからね」
『……欅お姉様、どうやらこの男の言葉に嘘偽りはないようです』
「あれれ? おっかしいなぁ。裏の見気で見気を封じている筈なのに俺の心読めちゃうんだ」
『やはり、知らないようね。裏の見気はそれ以上の見気があれば貫通することができる。見気を完全に封じるには「王の資質」が必須だわ』
「ああ、そういうこと……それじゃあ、無理だね。『王の資質』とか数百万か数千万人に一人の才能だろ? 本当によく多種族同盟はそんな戦力を集められるよな? それとも『王の資質』を開花させる秘策でも持っているのか?」
『まあ、そうね。……この戦いに勝てば情報を持ち帰れるんじゃないかしら?』
「いやいや、秘策があるって情報を持ち帰ったところでロベリア様は喜んだりしないぜ。……流石は百合薗圓、色々と規格外過ぎる。俺みたいな凡人じゃ神の世界に足を踏み入れるなんて夢のまた夢だな。まあ、とはいえ俺も混沌の指徒の一人。ここで引いてもロベリア様に消されるだけだしなぁ、せめてお前らの首くらい刈り取らないと」
『あらあら随分と余裕そうじゃない』
「お前達のことは知っているよ。欅、梛、樒、椛、槭、楪、櫻――百合薗圓の凶悪な従魔達。災害級の魔物だろ? だが、戦いは魔物の有する圧倒的な力だけで決まるものではない! 戦いとは総合力! 身体能力、魔力、霸気――その全てが絡み合った力によって決まるのだ!! 俊身! 粘土分身!!」
魔力を練り上げて作り出した特殊な粘土で無数の分身を作り出したギジュタールは分身達を一気に欅達に嗾しかけた。
『えぇ、その通りね。戦いは総合力で決まる。……もし、その全てにおいて貴方を上回っていたらどうなるのかしら? 行くわよ! 梛、樒、椛、槭、楪、櫻!』
『『『『『『はい! お姉様!!』』』』』』
『『『『『『『魂魄の霸気――《昴》』』』』』』』
梛、樒、椛、槭、楪、櫻の六人が緑色の輝きと化して欅に吸い込まれていく。
ミディアムヘアの髪が地面につくほど長く伸び、隠されていた左目には六芒星が浮かび上がった。
『星砕ノ双刀・神樹!』
「馬鹿め!! 爆発しろ! 粘土爆弾魔!!」
欅は天恵の神樹の力を宿した二振りの木刀を構え、ギジュタールの分身達を切り捨てようとするが、そうはいくまいとギジュタールは欅達と武器を交えることすらなく欅の近くで分身を次々と爆発させていく。
爆発の威力は武装闘気を纏わずとも欅がダメージを受けないほどのため警戒する必要は皆無だが、「粘土分身」で分身はすぐに復活させられてしまうので終わりが見えないという意味では厄介である。
『……困ったわね』
「くっ、大したダメージは与えられないか。だが、一ダメージを無限に与えていけば無限ダメージ!! チリも積もれば山となるんだ!!」
欅はその後もギジュタールの分身達に次々と斬撃を仕掛け、その度に爆発をその身に浴びた。
ギジュタールは常に失った分身を補給するために別の魔法を使えない。攻撃の手を止めて敵が増えるか、ギジュタールがそのことに気づくまで「死滅の光波」を撃たれる心配がないため、欅は条件を満たすまでこの状況を維持することにしたのである。
その条件とはトーマスがユドラグを撃破し、エシャルと共に屋敷から転移すること。
ギジュタールを確実に撃破するためには屋敷ごと巻き込む大技を放つ必要があると欅は考えていたため、その準備が整う時を待っていたのである。
「どうた! 最早手も足も出ない一方的な蹂躙の味は! 爆発しろ! 粘土爆弾魔!! 粘土爆弾魔!!! 粘土爆弾魔!!!! 粘土爆弾魔!!!!!」
『樹法秘術・神樹界新誕! 樹法秘術・栄枯盛衰!!』
「なっ、なな! なんだこの無数の枝は――ッ!?」
欅の発生させた神樹は圧倒的な成長速度で瞬く間にノーツヘッド子爵邸の庭を侵食――伸びた枝は子爵邸の壁にも突き刺さり、枝の成長と共に屋敷を破壊していく。
当然ながら比較的近くにいたギジュタールも無事では済まず、無数の枝に刺し貫かれた。
ちなみに気絶して倒れていた屋敷の使用人達や護衛騎士達は無事である。
今の欅でも成長を完全に制御し切れる訳ではないが、枝は基本横か上に伸びていくため、攻撃の範囲は予想できる。護衛騎士達は攻撃の範囲外に居たため、欅は空間魔法で護衛騎士達を転移させなかったのだ。
もし、空間魔法での転移を行えば大技が来ることを読んで退避される可能性があったため、護衛騎士達が全員気絶して倒れている状況は欅にとっては有り難かった。……まあ、仮にギジュタール気付いたとしても逃げられたかどうかは別問題ではあったが。
樹木に変わったギジュタールの身体は凄まじい速度で成長していき、数秒で完全に枯れ木となったギジュタールの身体に風があたり、ボロボロになったギジュタールの身体は粉々に砕け散って風に吹き飛ばされていった。
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それでは、改めまして。カオスファンタジーシリーズ第二弾を今後ともよろしくお願い致します。
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