Act.9-343 ペドレリーア大陸・ラスパーツィ大陸臨時班派遣再始動〜イェンドル王国革命・動〜 scene.2
<三人称全知視点>
イェンドル王国の王都からノーツヘッド子爵領を目指した場合、イェンドル王国で最速の乗り物である馬車を利用すると最低でも五日は必要である。
エシャルも当然、馬車での移動を念頭に置いていたため、トーマス達――多種族同盟の臨時班との旅は最短で五日掛かると考えていた。
あまりにも時間が掛かり過ぎるため、エシャルは自身が姿を消したことで混乱の只中にあるであろう王宮に顔を出しておくべきなのではないかと考えていたのだが……。
「――ッ!? 本当に空を飛んでいるのか!? それに、速いッ! もし、この乗り物があればイェンドル王国の交通網は大きく発展を遂げる筈です!」
乗る前は半信半疑だったエシャルも飛空艇が実際に空を飛び始めると夢物語のような乗り物に大きく心を躍らせることとなった。
『お姉様の技術で再現された「量産型飛空艇グレート・ファルコン号」のことを気に入ってくれたようね。だけど、期待には応えられそうにないわ。この飛空艇は非売品……相手が国であったとしても、いくらお金を積まれたとしても販売は行わないことになっているの。今のところ、飛空艇の保有が許されているのはビオラの闇の三大勢力のみ、多種族同盟加盟国の王族ですら誰一人として保有はしていないわ。当然、多種族同盟に加盟していないイェンドル王国に販売することはないでしょうね。まあ、その代わりに多種族同盟加盟国には自在に国々を移動することができる空間魔法の門――転移門が用意されていたり、それぞれの国の主要都市を結ぶ地下鉄が整備されているのだけど。現在、ビオラ商会合同会社はフォルトナ=フィートランド連合王国に出店しているから、興味があれば訪ねるといいと思うわ。まあ、飛空艇の販売はしていないのだけど』
「空間魔法の方が遥かに凄い技術だと思いますが……空間魔法の技術さ広く提供しているのに、飛空艇だけは頑なに販売しないのには何か理由があるのでしょうか?」
最初の頃は自身を蔓で捕縛して王城から攫ったということで欅達に警戒の視線を向けていたエシャルだが、現在は少しずつ欅達とも打ち解けて質問をするくらいの関係にはなっている。……まあ、それでも完全に彼女達を信頼したという訳ではないのだが。
『飛空艇の販売を行わない一番の理由は飛空艇のコアにあります。コアとは飛空艇を飛空艇たらしめる飛行技術の結晶です。簡単に量産できるものであれば、ビオラ商会合同会社も販売に踏み切るとは思いますが、このコアは現在のベーシックヘイム大陸の多種族同盟加盟国の科学技術では再現することが不可能……一応、古代の遺跡などで発掘される可能性が高いそうですが、該当する遺跡も今の所発見されていません。つまり、飛空艇はこの世界の技術では本来、製作することが不可能なものなのです。現在、お姉様にお姉様だけが有する特殊能力でコアを生成して頂き、飛空艇を造船しているようですが、お姉様は自身のその特別な力に頼り切りになれば世界の発展が妨げられるとお考えですので、その特殊能力を濫用するつもりはありません。もし、仮に飛空艇のコアがいくつも安定的に発掘されるようになれば、飛空艇の販売も行われる可能性が出てきますが、今のところはお諦めくださいませ』
欅の説明を引き継いだ梛の説明は理路整然としており、「正規の方法で量産の体制が整っていないから販売できない」という理由で飛空艇の販売が行われていないのだとエシャルも素直に納得することができた。
「ちなみに、ビオラ商会合同会社と取引をする場合はフォルトナ=フィートランド連合王国を必ず経由しなければならないのでしょうか? 例えばの話ですが、イェンドル王国に出店して頂くというのはどうでしょう? 勿論、王都の良い立地を店舗建設のために提供するつもりです。悪い条件ではないと思いますが……」
飛空艇については素直に諦めたエシャルだが、せめてビオラ商会合同会社とは繋がりを持ちたいと考えていた。
『ビオラ商会合同会社は基本的に多種族同盟加盟国としか商を行わないわ。ビオラ商会合同会社の出店を希望するなら最低でも同盟への加盟は必須ね。多種族同盟への加盟は交流を持った国には提案していて、現在まで断られたことはないけど加盟するかどうかは任意よ。所属によって守らなければならない義務も生じるし、旨みがあるだけの話ではないわ。まあ、私は加盟によって生じるデメリットよりもメリットの方が大きいと思うけどね』
「多種族同盟への加盟は私の一存で決められる話ではありません。今回の一件が片付いたら父上に相談して結論を出させて頂きます」
◆
『量産型飛空艇グレート・ファルコン号』はエシャルの想像を上回る速度で飛び続け、王都を出発した日の夕刻にはノーツヘッド子爵領に到着した。
「ん? なんだ……あれは?」
「おい、どうした?」
「いや、なんかこっちに何かが飛んできているように見えるんだが……」
「鳥だろ?」
「いやいや、あれは鳥じゃないと思う。遠くてよく分からないが、船みたいな……」
「船? おいおい、疲れて幻覚でも見ちまったか? もうすぐ交代の時間だ。終わったらゆっくり休め…………ん? んん? おいおい、俺の目までおかしくなっちまったのか?」
見張の護衛騎士達が見間違いかと目を何度も擦るが、上空に浮かぶ黒い影は消えるどころかどんどん大きくなっていった。
そして……。
「空飛ぶ船……だと!? てっ、敵襲ッ!! 敵襲だ!!」
空飛ぶ船――飛空艇は領主の館の入り口付近で停止し、飛空艇の甲板から次々と黒い影が地上へと降りてくる。
「うわぁぁぁぁぁ……あぶあぶあぶ……」
『口を閉じてください。この程度の高さ、何を怖がっているのですか?』
「むぐむぐむぐ……ぶふぁ、欅さん! これのどこがこの程度の高さですか!! じ、死ぬがど思いましたよ!!」
「――ッ!? 何者だ!!」
飛空艇からの紐なしバンジージャンプ(スカイダイビングとも言う)をさせられる羽目になり、目を回しながら欅にお姫様抱っこをされているエシャルは騎士の言葉を聞くと素早く地に降り立った。
「私はイェンドル王国の第一王子エシャル・デル・イェンドルだ。革命派のリーダー、ユドラグ=ノーツヘッド卿に一つ尋ねたいことがあって参った」
「――ッ! エシャル王子ッ!! 王族がァ! よく我らの前におめおめと顔を出せたなッ! 貴様らは我らの希望、イシュトーラス=サルドゥム大臣閣下を幽閉した! 腐り切った王族め! 今ここで殺してやるッ! 王子に与する貴様らも同罪――なっ、なんだこれは……植物の蔓ッ!?」
一斉に抜刀してエシャル達を討ち取ろうとしていた護衛騎士達は一瞬にして地面から生えてきた蔓によって身動きを封じられた。
武装闘気で黒光りする硬化した蔓は人間の膂力では破ることはできない。必死に踠き、蔓を破壊しようとした護衛騎士達だったが、当然ながら蔓は微動だにせず、護衛騎士達は蔓を生じさせた緑髪の美しい女性達を睨め付けることしかできなかった。
『お初にお目にかかりますわ、革命派の皆様。我々は植精女王と安楽皇女に属する魔物の七人娘――七星侍女ですわ。私は長女の欅』
『次女の梛です』
『三女の樒ですわ』
『四女で双子の椛と――』
『五女で双子の槭ですわ』
『六女の楪よ』
『そして、末娘の櫻よ』
「……欅殿達は魔物だったのだな」
『あら、言ってなかったかしら? 私達はね、怖い怖い魔物よ。通りかかる旅人に対して強烈な庇護欲を抱かせる行動を取り、その身の近くへ旅人を誘い、中毒性のある実で弱らせ、養分を吸い取る。……でも、お姉様と出会い私達は変わったわ。なんで好きでもなんでもない男に媚びないといけないのかしら? 女の子同士で百合百合しい時間を過ごす方がよっぽど幸せだわ! お姉様はそれを教えてくれたのよ!!』
予想の斜め上をいく欅の発言にどう反応すべきか分からなくなったエシャルは硬直、護衛騎士達も全員欅の言葉の意味が理解できず思考回路がショートした様に固まった。
「エシャル殿下、屋敷の中にまだ気配がある。我々の到着に護衛騎士達が気づいていないようだったから、恐らくユドラグ卿はまだ逃げていないだろう。だが、このままのんびりしていたらユドラグ卿に先手を打たれる可能性がある。速やかに屋敷の中に向かうぞ」
「――ッ! そうですね! ……欅殿、その蔓による拘束は後どれだけ保ちますか?」
『技を解除するまでだから制限時間は特にないわ。使用している武装闘気も微々たるもの、支障はないわ。……トーマス様、屋敷の中に一つ、それから庭に一つ大きな反応がありますわ。明らかに護衛騎士達とは格が違います。屋敷はユドラグ卿だとして、もう一人はユドラグ卿よりも強敵のようですわ。もしかしたら、私達の知らない敵が紛れているのかも知れないわね』
「恐らく混沌の指徒だな。冥黎域の十三使徒が一人ロベリア=カーディナリスの直属の配下だ。……私も見気で把握した。位置は補足している、問題はない」
「まっ、待てッ! 敵襲ッ!! 敵襲ッ!! 者共――もごもごもご」
欅達は蔓を口に巻き付けて護衛騎士の口を封じるが、その前に護衛騎士が叫び、それに合わせて護衛騎士達が屋敷の中から姿を見せた。
……と言っても彼らはそれ以前の騒ぎを聞きつけて現れたので、最後の護衛騎士の叫びはほとんど意味をなさなかったが。
『トーマス様、エシャル殿下、ここは我々にお任せください。全員捕縛し、それが終わり次第、庭の反応を確認しに向かいます』
「欅殿、梛殿、樒殿、椛殿、槭殿、楪殿、櫻殿、ここは任せた! 行くぞ、エシャル殿下!」
裏武装闘気で創り出した剣を構えたトーマスは八技の刃躰で道を切り拓き、屋敷の中に俊身を駆使して突入する。
エシャルも必死で走り、その後を追った。
「奴らを先に行かせるな!!」
『あらあらいいのかしら? 貴方達の相手は私達よ!!』
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それでは、改めまして。カオスファンタジーシリーズ第二弾を今後ともよろしくお願い致します。
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