Act.9-340 ペドレリーア大陸・ラスパーツィ大陸臨時班派遣再始動〜学院都市計画を妨害する緑の影〜 scene.2
<三人称全知視点>
「以上が報告致したきことでした。そして、こちらが本題なのですが……ミレーユ姫殿下肝煎の学園計画なのですがこのままでは開校できないかもしれません」
「……はぇ?」
学校関連の話ではあるとは思っていたミレーユだったが、まさかこれほど深刻な話だったとは思ってもみなかった。
僅かな眠気も一気に吹き飛ばされ、ミレーユの頭は一気に覚醒する。
当初はヴァルマト子爵辺りがいちゃもんを付けて計画がポシャり掛けているのではないかと予想していたミレーユであったが、ルードヴァッハの答えは予想外のものだった。
「実は声を掛けていた講師達が急に次々と辞退を申し出てまして。……学長をお願いしていたフォッドアイ卿、宗教学の権威であるワイマリー卿も。更には姫殿下の意向を受け、学園都市の設立に賛同してくれていた者達も協力を渋り始めています」
ミレーユの目指す学園開校のためにルードヴァッハは自身の人脈をフル活用して優秀な人材を集めようとした。
皇女であるミレーユの名を最大限に使ったことで資金集めは順調、講師陣も名だたる人材が集まりつつあった……少なくともミレーユはそう聞いていたのだが、ここに来てまさかの状況にミレーユは狼狽しそうになり……ふと、先日の職員室前でのトーマスとのやり取りが脳裏を過った。
ルードヴァッハの師匠である『放浪の賢者』ガルヴァノス・アーミシス――トーマスは何故、彼を生徒会選挙に招いたのだろうか? あの研究室の鍵だけでなく、ガルヴァノスとの出会いもまたミレーユへのお礼だったとしたら、トーマスはこの状況を見越していたということであり。
「……そういうことでしたのね」
「ん? どうなさいましたか、姫殿下? まだ断定はできないのですが、どうやらグリーンダイアモンド公爵家が裏で糸を引いているようです」
「……ああ、エメラルダさんのお家ですわね」
妙な反応をしたミレーユに疑問を持ちつつもルードヴァッハは話を続けた。
「どうやらそのエメラルダ様の指示で全て行われているようなのですが……ミレーユ様、何かお心当たりはございますか?」
「なっ……そういうことですの!? というか、エメラルダさん、わたくしに何か恨みでもあるんですの!!?」
グリーンダイアモンド公爵はミレーユの父である皇帝マティタスと同じく娘には甘い。だから、エメラルダ経由で対処をすればと一度は考えたミレーユだったが、その考えはルードヴァッハの言葉で完全に潰されることとなった。
まあ、『放浪の賢者』ガルヴァノス・アーミシスを教員に据えようなどという展開になる時点で根本解決はほぼ不可能ということ。楽な方法が潰されたのは痛手だが、ミレーユはそこまで落ち込むことは無かった。
「……圓様は以前、あの生徒会の一件を『生徒会選挙と青の試練』と評しましたわ。そして、四大公爵家全てが『這い寄る混沌の蛇』と現時点で繋がっているか、今後繋がる可能性があるという立ち位置であるとすると、後試練が少なくとも三つあるのではないかしら?」
「流石はミレーユ姫殿下ですねぇ。ご指摘の通り、これが二つ目の試練――まあ、ネタバレになるんで通称や詳細は言えないんですけどねぇ」
「――ッ!? ちょっと待ってください! まさか、四大公爵家全てに『這い寄る混沌の蛇』が関係していると仰るのですが!?」
「ルードヴァッハさん、驚き過ぎだよ。とりあえず、君達の方針は間違っていない。今まで通り裏切り者が誰かを調べていけばいい。まあ、一箇所はグレー、二箇所はこれから、一箇所は黒だ」
「ブルーダイアモンド公爵家はこれから関係することになるグループに属するという認識でいいんですの?」
「えぇ、その認識で間違いありませんよ。……今回の件はまあ、エメラルダ様の独断ってことでいいと思うよ。まあ、元々グリーンダイアモンド公爵家には平民軽視の傾向が強くあったから貴族のみならず、平民にも門戸を開くというミレーユ姫の方針に対しての抗議の意味も含まれているとは思うけど。あっ、それとここから先の話はちょっと頭の片隅に置いてもらうといいことも含まれてくるけど、帆船を有するグリーンダイアモンド公爵家は古くから海外……といっても、ラスパーツィ大陸とは繋がりがないようだから、まあポーツィオス大陸の国々ということになるんだけど、ペドレリーア大陸の外の国々とのそこそこ強い繋がりを持っている。そして、海外からもたらされる知識の有用性に早い段階で気づいたグリーンダイアモンド公爵家は積極的に学問に投資してきた。そのため、グリーンダイアモンド公爵家は学問方面でかなりの影響力がある。それに、平民に対して寛容で有利な動きをしてきたミレーユ姫殿下を快く思っていない貴族は多いみたいだからねぇ。バレないだろうとグリーンダイアモンド公爵家を旗印、というか隠れ蓑にして学園開校を阻止しようと動いても別段不思議じゃないでしょう? まあ、舞台裏の説明はこれくらいで……それよりも考えるべきなのはどのように学園開校するかどうかじゃないかな? お金よりもまずは教員をどうするか……グリーンダイアモンド公爵家の影響下にない人員を何人か見繕う必要があると思うけど」
ちなみに、ポーツィオス大陸はラスパーツィ大陸と同じくペドレリーア大陸の近くにある大陸である。
『這い寄る混沌の蛇』はペドレリーア大陸で生まれたもののその思想が危険視され、ペドレリーア大陸を追われることとなって海に――海洋の島々に逃げ込んだ。そこからペドレリーア大陸に戻る流れと海を拠点にする流れ、ラスパーツィ大陸へと向かった流れの大きく三つに分派することとなるが、圓の記憶ではポーツィオス大陸に向かった流れは存在しなかったため、今回の臨時班の対象からは外れている。
可能性がないとは言い切れないが、冥黎域の十三使徒関係者を多く輩出するベーシックヘイム大陸の東側と同様に一度に抱え込んでも対処しきれないと判断し、本格的な調査は一旦保留になっていた。以前は諜報員を多少は送っていたものの、ペドレリーア大陸とラスパーツィ大陸の臨時班が始動した時点でほとんどの諜報員がペドレリーア大陸に引き上げている。
ちなみに、ベーシックヘイム大陸の東側でも同じ措置が取られており、最低限状況を報告できる状態でキープされている。流石に全員を引き上げて情報を得られなくしてしまうという愚行は冒さない。
これは更に余談だが、流石に異世界のゲームの要素まではこの異世界ユーニファイドに採用されてはおらず、ベーシックヘイム大陸の『這い寄る混沌の蛇』は全てアポピス=ケイオスカーンによって作り上げられたものである。
ペドレリーア大陸・ラスパーツィ大陸とベーシックヘイム大陸の『這い寄る混沌の蛇』は厳密には別のルーツを持つ別種の蛇と言えるかもしれない。……まあ、相互に連関して絡み合っているので無関係という訳でもないのだが。
「圓様の仰る通り、資金についてはあまり問題はないかと思います。レッドダイアモンド公爵家、イエローダイアモンド公爵家、共に静観を決め込んでいますか、ブルーダイアモンド公爵家だけは資金援助を申し出てくれました。かなりの額です。それに、建物もヴァルマト子爵が音頭を取って、上手く進んでいます」
「つまり、後はどうにか教員を引き受けてくれる人を見つける必要がある、ということですわね。……そういえば、先程、今回の件の話にピッタリの人材がいるとお聞きしましたわね。アーシェリウム・ビリーリーフ・ラージャーム様、セントピュセル学院で植物学を専攻して主席で卒業し、現在はその知識を活かせる場所を探しておられるようですわ。もし、アーシェリウム様に教員として来て頂くことができれば寒さに強い小麦の開発の研究も進みそうですわね」
農業国の姫を、植物学の講師として呼ぶ――それはつまり、真っ向からダイアモンド帝国に蔓延する反農思想と闘うという意思表示にも等しい行為だ。
非合理な差別や迷信は無知より生まれる。故に、こうした迷誤の思想を根絶するためには教育が必須――新たな学び場を創設することで民に知識を与えることは、反農思想の根絶に最も効果的な手法と言える。
ミレーユの学園創設への姿勢は、同時に反農思想と闘う姿勢でもあったことに気づいたルードヴァッハは感動で打ち震えた。……まあ、実際のところはそこまで考えての発言ではないのだが。
「流石はミレーユ様。そうでしたか、既に講師に丁度良い人材に目をつけておられたとは……」
「いえ、まだ直接、声を掛けた訳ではございませんわ。……そうですわ、いっそラージャーム農業王国に赴いて直談判するのはいかがかしら?」
「ミレーユ姫殿下、それはちょっと性急ですよ。……ラージャーム農業王国とダイアモンド帝国の因縁は初代皇帝の時代まで遡ります。後にダイアモンド帝国を築き上げる狩猟民族達によって肥沃な三日月地帯を追われることとなった先住民達はラージャーム農業王国を作り上げました。そして、帝国に併合されるのではないかと危惧したラージャーム農業王国を築いた者達は先手を打って一つの取引をダイアモンド帝国に提案しました。それが、『一定量の小麦を帝国のために作る代わりに自分達の国の存続を認めることを求めた』条約――反農思想との戦いの最終にして最大の敵であり、同時にある人物がダイアモンド帝国を滅ぼすために掛けた呪いでもあります。……まあ、つまりダイアモンド帝国を緩やかに自殺させるための壮大な舞台装置という訳ですねぇ」
「ダイアモンド帝国を滅ぼすために掛けた呪いッ!? いっ、一体どなたがそのような恐ろしいことを実行したんですの!?」
「まあ、それはもう直分かると思うよ。……今は学園開校すらグリーンダイアモンド公爵家に邪魔されているような状況。いくらマティタス皇帝陛下に頼んだとしても他の公爵家に邪魔されて終わるのが関の山。ラージャーム農業王国の問題の解決ができるのは四つの試練を全てクリアしてからのことだから、歯痒いとは思うけど今は我慢の時だよ」
「ぐぬぬ……仕方ありませんわね。アーシェリウム様の件はレティーシエル様経由でお願いしてみますわ!」
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