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百合好き悪役令嬢の異世界激闘記 〜前世で作った乙女ゲームの世界に転生した悪役令嬢が前世の因縁と今世の仲間達に振り回されながら世界の命運を懸けた戦いに巻き込まれるって一体どういうことなんだろうねぇ?〜  作者: 逢魔時 夕
Chapter 9. ブライトネス王立学園教授ローザ=ラピスラズリの過酷な日常と加速する世界情勢の章〜魔法の国事変、ペドレリーア大陸とラスパーツィ大陸を蝕む蛇、乙女ゲームの終焉〜

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Act.9-338 ペドレリーア大陸・ラスパーツィ大陸臨時班派遣再始動〜花の楽園にてお茶会〜 scene.3

<三人称全知視点>


 ブライトネス王家のドロドロとした暗部(この世のどの物語よりもバッドエンドにしか思えないが、どうやらここから挽回できる方法があるらしい。ミレーユには説明を聞いても全く理解できなかったが……)を知り、気分が悪くなったミレーユが「なんであの王子、あんな話をしたんですの!?」と内心毒付きながら自室に戻ってくると自室の目の前に一人の少女の姿があった。

 余談であるが、ミラーナとライネはミラーナの侍女となるフーシャへの引き継ぎのために「花の楽園」に残っており、この場にはいない。


 小麦色に焼けた健康的な肌と宵闇の如き濡羽色の髪――ダイアモンド帝国の南方にある国、ラージャーム農業王国に住まう民の特徴を備えた碧玉の如き美しい瞳を持つ少女の正体はレティーシエル・ビリーリーフ・ラージャーム、ラージャーム農業王国の国の名を持つことからも分かる通り、彼女はラージャーム農業公国の第三王女だった。


 ところで、ミレーユはギロチンを回避するために有益な人物達とコネを築くことを目指して行動をしている。その成功例はフィリィスを含めほんの僅かだが、その僅かな成功例に含まれるのがこのレティーシエルである。

 生徒会選挙ではミレーユの支援者として表立って活動することは無かったもののしっかりとミレーユに投票しており、ミレーユの生徒会長就任の一助となった。


 ダイアモンド帝国には農業を軽んじる風潮が根強くある。

 国土のほとんどが農地、国民も農業関係者が大半であるラージャーム農業王国を軽んじる帝国貴族は多い。

 中には農奴の末裔などと蔑視する者までいる始末だが、前の時間軸で飢饉が引き金となった革命で命を落としたミレーユにとってはダイアモンド帝国で消費される農作物の大半を生産しているラージャーム農業王国との繋がりは文字通り生命線だ。


 当然ながらラージャーム農業王国の王女であるレティーシエルに対しても、失礼な態度など以ての外――最大限の礼をもって臨むミレーユである。


「失礼致します、ミレーユ様。申し訳ありません。……突然、押しかけてしまって」


「構いませんわ。ただ、今はライネが出てしまっているので、お茶を出すことができないのですけれど……」


「では、僭越ながら私がお茶を用意しましょうか?」


 いつの間にか音もなく廊下に現れたエイリーンをミレーユは突っ込み一つ入れずにレティーシエルと共に部屋に招き入れた。非日常も何度も目の前で繰り広げられれば日常として受け入れられていくように、ミレーユにも耐性が付き、この程度のことでは動じなくなったのである。

 ただ、レティーシエルだけが一瞬にして姿を現したエイリーンに驚いていた。


「お初にお目に掛かります、私はエイリーン=グラリオーサ、フォルトナ=フィートランド連合王国からの留学生ですわ」


「選挙での活躍、拝見させて頂きました。ラージャーム農業王国のレティーシエル・ビリーリーフ・ラージャームです」


 エイリーンとレティーシエルの顔合わせが終わったところで、エイリーンはどこからともなくお茶の用意を取り出して準備を始めた。

 何もない宙空から物を取り出したエイリーンにレティーシエルが驚いていると、ミレーユは「驚くだけ無駄ですわ。……あの方は色々な意味で規格外ですのよ」と死んだ魚の目で言った。


「先程はご迷惑をお掛けしました。折角のお茶会を台無しにしてしまって」


「あれは、エイリーン様のせいではないと思いますわ」


「……まあ、直接的な原因は質問をしたリズフィーナ様ですけどね。ルクシア殿下も真面目ですし、しっかりと期待に応えて説明しなければならないと思ったのでしょう。……私はあの行いが決して間違っていたとは思いません。ミレーユ様、貴女は確かに『帝国の深遠なる叡智姫』と呼ばれるだけの叡智とそれを実行するだけの力を持っています。きっとこれまでも多くの運命を切り拓き、そして今後も多くの運命を切り拓いていくのでしょう。だからこそ、これだけは覚えておいてもらいたいのです。……未来は変えられても過去は決して変えられない。あれは、一つ一つの小さな歯車のズレから起きた痛ましい事故という側面もありました。結局、諸悪の根源みたいな、誰を恨めばいいという答えがないのですよ。綺麗事だけでは救えないものがある……彼女は自分も十字架を背負う覚悟で、ずっと報われなかった被害者を救済しようとしたのだと思いますよ」


 ルクシアや圓に対してミレーユが抱いた微かな違和感――それが、このエイリーンの言葉で少し拭われた気がした。

 ルクシアと圓にとっては既に悩みに悩み抜き、結論を出し終えた話だったのだ。その辛く苦しい時期を乗り越えたからこそ、ああして何事もない風に語ることができたのだろう。


 被害者のカルロスという人物がどれだけの心の傷を負ったのかミレーユには想像もつかない。

 法律では、正規の方法では決して晴らすことのできない罪――それを裁くために圓は共に罪を背負う覚悟をした。その決断を下した時、圓は本当に悩まなかったのだろうか?


 人間らしさの欠片もない完璧超人に見えた圓の小さな人間らしさがあることを知り、ミレーユは少しだけ圓に親近感を抱いた。……まあ、ほんの少しだけだが。


「ところで、エイリーン様も何かわたくしに用事があったのではないかしら?」


「えぇ、ちょっとルードヴァッハ様からミレーユ姫殿下への手紙を預かっているだけですよ。最終的には姫殿下の了解を得ないといけない話ですが、先にディオン様本人の意思を確認しておいた方が良いかと思ってダイアモンド帝国に赴きましたら、丁度ミレーユ姫殿下に手紙を出そうとしておられたので。ただ、まずは先客の――レティーシエル様のお話を聞くべきではないでしょうか?」


 にっこりと笑うエイリーンにはレティーシエルの目的が分かっているのだろうか? それに、ルードヴァッハからの伝言を受け取ってきたというのもちょっとタイミングが良過ぎるように思えてならない。

 「流石はわたくし達の生みの親ですわ」などと感心しつつ、レティーシエルにミレーユのもとを訪れた目的を尋ねた。


「実は、二番目の姉のことなんです」


「はて、お姉様……? アーシェリウム・ビリーリーフ・ラージャーム様でしたわね」


「セントピュセル学院で植物学を専攻し、主席で卒業したと伺っております。レティーシエル様は素晴らしいお姉様をお持ちですわね」


 ミレーユが頭の中の引き出しを必死に引っ張り出して名前を思い出して口にすると、エイリーンは学院でのアーシェリウムの経歴を補足してみせた。

 恐らく学院関係者の全ての家族構成、略歴などの情報を全て頭に入れているのだろう。圓が完全記憶という特殊能力を持っていることを知らないミレーユは、その記憶力に思わず感嘆してしまった。


「ミレーユ様、エイリーン様、お二人ともご存知だったのですね。アーシェリウム姉様は、このセントピュセルで六年間学び、国をもっと豊かにしたいからと一生懸命に学びました。でも、父はそのことを認めようとはしなかったのです。ラージャームのためになる国と親交を深めるために、姉に嫁入りをするようにって言うんです」


「ふむ、なるほど……」


「国交を強固にするため、或いは新たな国との国交を結ぶために政略結婚をするということは王侯貴族に良くあること。……実際、効果的な手ではありますね」


「あら、エイリーン様もそういったご経験があるのかしら?」


「うちはそうした話について放任しているのでありませんが、あくまで一般論でという話ですよ。まあ、王侯貴族の子女に生まれ、その家の恩恵を受けてきたなら家のために生涯を捧げるのは至極当然なことという意見もあります。平民と王侯貴族は明確に違う訳ですから、自由恋愛……という訳には流石にいかないでしょう。一方で生まれる家は自分で好きに選べないということも紛うことなき事実。……と、考えても思考が堂々巡りしますので一旦やめましょうか。レティーシエル様は、この度のアーシェリウム様の婚約をよく思っておらず、アーシェリウム様が望むように学んだことをラージャーム農業王国のために活かせるようにしたい。……まあ、そのためには箔をつける必要がありますから、ミレーユ姫殿下にリズフィーナ様への取り次ぎを依頼したいというお考えなのではないでしょうか?」


「……まさか、そこまでお分かりになるとは思いもよりませんでしたわ」


 まさか、たったそれだけの情報でレティーシエルの思惑を当てるとは思いもよらなかったのだろう。レティーシエルが感嘆の声を上げた。


「僭越ながら……ミレーユ姫殿下、この話、あまり結論を急ぐべきではないと思います」


 レティーシエルとの関係は大切にしておきたいが、そのせいでラージャーム国王から悪印象を持たれては元も子もない。

 レティーシエルのお願いを聞きつつ、ラージャーム国王の心証の悪化も防ぐ手立てを考えていたミレーユは、「何か知恵を貸しては……くれないですわよね」とあまり期待せずにエイリーンに視線を向け、予想外の意見を聞くこととなった。


「……保留、とはどういうことでしょうか?」


 レティーシエルは口調こそ問いの形を取ってはいたが、その声には凄まじい怒りが込められていた。

 しかし、エイリーンは僅かにも臆することなく冷静にレティーシエルと相対する。


「ミレーユ姫殿下は既にお分かりのことと思いますが、最善手はアーシェリウム様に政略結婚の駒として使う価値よりも別にもっと大きな利益を生む何かがあることをラージャーム国王に納得させることです。そして、リズフィーナ様に取り次ぎ、学院の教師として働くことができるようにしてもらうのは最善の手ではありますが……選択肢は他にあっても良いと私は思うのです。ですが、現在ミレーユ姫殿下はその手札をお持ちではない。だからこそ、現時点で保留にするべきなのではないかという意見を述べたのです。流石にすぐ婚約を……という訳でもありませんよね? 十分に選択肢を用意することはできるのではないかと思いますが、いかがでしょう?」


 ルードヴァッハからの手紙をひらひらとさせるエイリーンの姿を見たミレーユは「そこに手札が隠されているんですのね? わたくしにはお見通しですわ!」と得意げな顔でエイリーンの手から手紙を取り……封を開けて首を傾げる。


「『学園都市計画のことでご相談したきことがあり。至急、帝国に戻られたし』……はて? 順調に行っていたのでは無かったかしら?」


「まあ生徒会選挙以後の情勢を見ていればなんとなく察しは付くことではあると思いますが……詳細は私の口ではなく、やはりルードヴァッハ様の口から聞くべきだと思います。ということで、ミレーユ姫殿下に一つ提案があって参りました。生徒会長に就任してばかりでミレーユ姫殿下がこのタイミングで学院を長期間空けるのはあまりよろしくない。……そこで、今後長期間学院を開ける必要がある場合は時空魔法を使い学院生活、ダイアモンド帝国での活動、休日の三日一日制で動くのはどうでしょうか?」


「『三千世界の烏を殺して』……でしたわね。二日動いて一日休めるのはなかなか良心的だと思いますわ。では、その方針でお願い致しますわね」


「承知致しました」


 時空魔法という御伽話のような力の存在をミレーユが当たり前のように受け入れていることに衝撃を受けているレティーシエルにミレーユは微笑み掛けた。


「もしかしたら、エイリーン様のおっしゃるようにもっと良い提案をすることができるかもしれませんわ。……勿論、レティーシエル様に力を貸さないという訳ではありませんが、もう少しだけ待ってはくださらないかしら?」


 その後、レティーシエルはミレーユの提案を了承し、一先ずレティーシエルに協力することを承諾してくれたミレーユに感謝の言葉を述べるとミレーユの部屋を後にした。

 お読みくださり、ありがとうございます。

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 もし何かお読みになる中でふと感じたことがありましたら遠慮なく感想欄で呟いてください。私はできる限り返信させて頂きます。また、感想欄は覗くだけでも新たな発見があるかもしれない場所ですので、創作の種を探している方も是非一度お立ち寄りくださいませ。……本当は感想投稿者同士の絡みがあると面白いのですが、難しいですよね。


 それでは、改めまして。カオスファンタジーシリーズ第二弾を今後ともよろしくお願い致します。


※本作はコラボ企画対象のテクストとなります。もし、コラボしたい! という方がいらっしゃいましたら、メッセージか感想欄でお声掛けください。

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