Act.3-21 アクアマリン伯爵家にて、美形兄妹とのお茶会 scene.3
<一人称視点・ローザ=ラピスラズリ>
「これは……知らなくていいことを知ってしまった気がしますね」
ニルヴァスとソフィスの血の気が別の意味で引いていた……まあ、この世界がゲームだとか、自分達が攻略対象だとか、この世界に未実装の要素が多数あって、その中には世界を本当に破滅させられるヨグ=ソトホートとかいるなんて言われたら流石に驚くよねぇ……。
占星術師ノストラダムスが言うところの恐怖の大王が蘇らせるアンゴルモアみたいな奴が複数体……どころか、数百、数千、数万と存在し、そのどれがいつのタイミングでやってくるか全く想像がつかないって話だから。
「さて、そういう大きな話はラインヴェルド国王陛下を中心に対策を練っているところだし、ボクが追放されなければ先陣切って戦うのも吝かではないって思っているからねぇ」
「あの……ローザ様。そのお話だと、この国がローザ様を断罪して処刑するなど不可能な話ですし、それほどのお力を持つローザ様にそっぽを向かれるような真似をこの国がするとは思いませんが」
おお、流石は才女……三歳にしては規格外なほど聡いねぇ。だけど、ボクが悪役令嬢である以上、避けられないかもしれないんだよ。
結局、ボクは悪役令嬢っていう着ぐるみを着たままな訳だから、中身が例え伝説の勇者とかでも主人公によって断罪されるっていう運命を回避できない……っていう仮説も立てられる訳だし……。
要するに、乙女ゲームという世界を構成する以上、《悪役令嬢》という要素はヒロインや攻略対象並に必要不可欠な存在だけど、それに付随する人格や個性はさほど重要視されない……つまり、悪役令嬢の中身が例え異世界の女子高生だろうとあまり関係ないとかいう、どこかの薔薇色の夢を見る吸血姫さんの作品における《神》の概念にも通じる……もっと近い話で言えば、近年の悪役令嬢に転生した! みたいな設定にも通じるところだねぇ。
……まあ、この話はあくまで世界が乙女ゲームを基にした場合であって、この世界は……ごちゃごちゃの闇鍋になっているから、もうそういう話は関係ない気がするけど。
「それじゃあ、話のスケールをググッと狭めてソフィスさんの話をするよ」
「…………ま、まあ、確かに私の話は世界の存亡に比べたら小さな悩みでしょうが……なんだか複雑な気分です」
……ボクがぶっちゃけたのが功を奏したのか、ソフィスが普通に話せるようになったねぇ……ショック療法? 本人は気づいていないみたいだけど。
「まずは、軽い診断といこうか。悪魔憑きとか、そういうくだらない考えは無視して、科学的な見方をしてみよう。一般的に、ソフィスさんみたいな白い髪、赤い瞳というのはアルビノというメラニンの生合成に関わる遺伝情報の欠損により先天的にメラニンが欠乏する遺伝子疾患……分かりやすく言えば、先天性の病気みたいなものが考えられる。先天的なメラニンの欠乏により体毛や皮膚は白く、瞳孔は毛細血管の透過により赤色を呈する……まあ、劣性遺伝や突然変異によって発現する極めて稀なものだねぇ。問題といえば、虹彩に色素がないため遮光性が不十分で、光を非常に眩しく感じたり、皮膚で紫外線を遮断できず、紫外線に対する耐性が極めて低かったり……簡単にアルビノかそうでないかを区別しようとすれば、日差しの強い日には短時間でも日光に当たっていると、皮膚が赤くなる日焼けを起こしてしまうってことなんだけど、ソフィス様ってそういう症状が出ることはある?」
「いえ、太陽の光を浴びても皮膚が赤くなることはありませんわ」
「やっぱりねぇ……まあ、念のための裏付けだよ。でも、これで証明されたよねぇ……ソフィス様は魔物憑きでも、アルビニズムでもなく、その瞳も髪も純粋な形質だって」
まあ、例えアルビニズムであったとしても、この世界では「悪魔憑き」として差別されることがあっても、それ以上のことはない。
アルビノといえば、アフリカ南東部には「アルビノ」の体には特別な力が宿る、その肉を食べると特別な力を与えられるという迷信から、臓器や体の一部など売却や食用とする目的で、アルビノの人々をターゲットにした殺人や誘拐が後を絶たなかったりするし……まあ、呪術の専門家で邪馬台国女王の血を引く邪馬凉華さん曰く「東洋系では人間のアルビノを用いた呪術はありませんが、海外のカルト系の呪術の中には残念ながらそのようなものも確かに存在します……ただ、そのほとんどが呪術の呪の字も理解していない、本当に無意味なものではおりますが。いえ、意味があるか無意味かは関係ありません。私達の使う呪いというものは得てしてそういう類の、嫌悪されるべき技……それに良いものという区別がある筈がありません……いつか、このような力を継承する必要のない時代が来ればいいのですが」ということだし、本当の意味で正しい呪術が行われている例は滅多にないんだよねぇ。……まあ、そもそもアルビノ狩り自体が完全に忌むべき犯罪なんだけどさ。
「では、何故ソフィス様がそのような見た目なのか……父にも母にも見られない白髪と赤い瞳という形質が発現っていう因果関係が破綻している突然変異、それもアルビノではないものが発現したのか。そこに、筋立てが可能な理由なんて、ないんだよ。ただ、『乙女ゲームのライバルキャラ兼親友キャラのソフィスさんは、アルビノに似た、でもアルビノではない特殊な形質を持っている』っていう、そういう設定を付与された――それが全てなんだから」
つまり、ネストの不幸も、ソフィスの不幸も、全ての元凶はこのボク――百合薗圓に他ならない。
「……つまり、ローザ様がソフィスを不幸にしたと……辛い目に合わせたと、そう仰るのですか!!」
「おやめ下さい、お兄様!! ローザ様……圓様は別に私達を苦しめるためにそのようなことをした訳ではありませんわ。……私達は、元々一つの創作の中の登場人物に過ぎなかった。それが、一つの世界となり、私達が創作の登場人物から自我を持つ存在になるとは夢にも思っていなかった。……創作とは得てして残酷なものですわ。物語を紡ぐということはその物語の中の人の運命を自由に描くということ。それは、いいことばかりではない……心に傷を負うような辛い過去も含まれる。そういうものがあるからこそ、物語が輝く……圓様はそのつもりでこの世界の元になった作品を作り出したのですよね? ……それに、私はシナリオ通りならば幸せになります。お兄様だって、他の攻略対象の方々だって……ただ、ローザ様だけはどうやっても……」
「別にそれはそれでいいと思うけどねぇ。突きつけられたものが決まり切った運命なら、ボクは多分足掻かない。呪いのように体に纏わり付く闇を見れば、それが抗ったところで無駄だと分かっているから……でも、ボクにもソフィスさんにもその呪いの闇は見えない。……それに、この世界は闇鍋のように設定を注ぎ込まれ、無理矢理に接続され、極めて不安定な状況になっている。だから、この世界でならシナリオをぶち壊せるんだよ。だから、ここからどう動くかで、自分の足跡を刻む中で、それが自分の運命……歩く轍になる。結局、運命とは未来という先の視点から見た時の自分の轍に過ぎないんだからねぇ。……それでも過去は変えられない。もし、怒りを抑えられないなら、ボクの命一つで怒りを収められるというのなら、ボクを殺すといい……少なくとも、ボクの所業の結果、不幸になった攻略対象にはその権利があると思うし、殺される覚悟くらいはしてある。……まあ、その時は今度こそ過去の束縛から解放されて、平々凡々に生きたいけどねぇ」
「…………私は圓様の命を奪いたいとは思いません。……貴方のおかげ私達は生まれた、貴方が物語を紡がなければそもそも私達は存在しないのですから。……真の意味での創造主ではないのでしょうが、私にとって圓様は確かに生みの親なのですわ」
「…………気恥ずかしいねぇ」
「ですが、私はそのように圓様を、ローザ様を見ようとは思いません。ローザ様が私達を所詮は創作の中のものと見下さすことなく、対等の存在として見てくれたように、私もローザ様を同じ一人の人間として見させて頂きたいのです。同じ――同世代の人として。……それに、ローザ様は憎まれ役を買ってくれたのですよね? ……偏見を持つことなく、本当の意味で私を勇気付けたいと、一歩踏み出してもらいたいと……そうでなければ、罪の意識だけでは身体を張ろうとはしないと思います。……私、ずっと外に出ることが怖かったです。閉じこもっていれば守られるからと、甘えてばかりでした。……ですが、いつまでもそうして逃げているだけではいけませんわね。……いつまでもお兄様や家族に甘えてばかりでは。……少しずつ、外の世界に踏み出そうと思います。ですから、ローザ様……恥ずかしい話ですが、お手伝いをして頂けませんか? 私の最初の友人となって、私が恐れて一歩を踏み出せなくなった時は、背中を押してくださいませんか?」
「まあ、ボクで良ければ友達になるよ。……しかし、ソフィス様って面白い人だよねぇ。こんな捻くれ者で、ソフィス様を不幸のどん底に叩き落としたようなロクでもない奴を友達にしようだなんて」
「……そんな風に仰るローザ様だからです。私は貴女のように自分が傷つくことも厭わず誰かのために何かをできるような、そんな優しい人を知りませんから」
はぁ……つくづく君達は勘違いが甚だしいねぇ。……でも、やっぱり嬉しいな。そう言ってもらえるのって。
◆
そんな訳で途轍もない美人さんな上に創作に理解もあるという破格の友達ができたんだけど……。
「そういえば、ローザ様ってあまり本をお読みにならないのですよね?」
「……まあ、こっちに来てから読んでなかったってことに気づいただけで、帰ったら買い漁るつもりだよ? あっ、ブランシュ=リリウム名義で書いた本は一通り持ち歩いているし、地球で購入した新刊もあるから良かったら読んでみる? ちなみに新作の原稿とかもあるけど……」
「よろしいのですか!? それでしたら、私の部屋に何冊かありますがご覧になりますか?」
「えっ、いいの? ……それじゃあ、お願いしてもいいかな?」
……いや、そんな悲しそうな顔をするなよ、ニルヴァス。……別に一人仲間外れにはしないからさ。
「ニルヴァス様、ボクに言われるまでもないとは思いますけど、素敵な両親や妹さんをしっかり守ってくださいねぇ」
「…………ああ、絶対に守るよ。これからも」
とりあえず、これで二人の問題は解決かな?
「呪われた子」と呼ばれ、傷つけられることを恐れていた妹と、「気の毒だ」、「不幸だ」と周囲から言われて「私は幸せなんだ」ということが理解してもらえなかった、ニルヴァス。
――この二人が、このことをきっかけにして前に進めるといいな。
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