Act.9-331 ペドレリーア大陸・ラスパーツィ大陸臨時班派遣再始動〜決着! セントピュセル学院生徒会選挙〜 scene.5
<三人称全知視点>
ミレーユから会長代理になって欲しいという依頼を受けたリズフィーナは聞き慣れない役職名に困惑したが、ミレーユの説明を聞くと二つ返事で了承した。
引継ぎの観点から見れば妥当な人事だと思えたからだ。
それに、人心の安定を図るという思惑も含まれているのだろう。
本来、オルレアン公爵家の人間が生徒会長から外れただけでも一大事なのである。その上、生徒会メンバーにも選ばれないとなれば流石に大きな影響を生むことになる……無論、悪い意味でである。
リズフィーナの負担軽減という観点から見れば好ましいことではないが、会長代理の普段の権限レベルは副会長相当――生徒会長の時と比べると遥かに気楽である。……まあ、ミレーユが動けない非常時にはリズフィーナが生徒会長の役目を追うことになるのでそういう意味では副会長よりも責任は重いのだが。
「ミレーユさんのおかげで気持ちが楽になったのだからこのぐらいのお手伝いはなんともないのだけど……これはまた思い切った人事をしたわね。でも、同時にかなり方々に気を遣って組んだ人事にも見えるわ」
リオンナハトはライズムーン王国の王子――基本的に生徒会にダイアモンドやライズムーンの影響の薄い生徒を選ぶのが慣習だが、ミレーユが生徒会長の時点で既に慣習は無視されているようなもの。
リオンナハトとアモンは選挙公約実現のために尽力しており、そのままの流れで生徒会でも手腕を振るってもらいたいと思うのは別段不思議なことでもない。
書記のマリア、会計のフィリィス、新たな役職である庶務に選ばれたウォロスとルーナドーラも同じく選挙活動で貢献した者という括りだろう。
同じく新たな役職である会計監査に任命されたのは生徒会選挙で前代未聞の無効票を投じたガラハッドとリーシャリスだが、二人は圓とソフィスの存在が大き過ぎて霞んでしまっているが、実際にはフォルトナ=フィートランド連合王国のエリートである。
留学理由も「更に見聞を広めて次代のフォルトナ=フィートランド連合王国にとって役に立つ人材になるため」だそうなので、基本的な実務能力は持ち合わせている筈だ。
それにバランスを考えればフォルトナ=フィートランド連合王国の留学生である二人を入れるのは必須、圓達の生徒会入りが望めないとなれば、次点で二人が生徒会役員の候補に上がるのは至極当然の流れでもある。
「これは……ダイアモンドとライズムーン、プレゲトーン、多種族同盟……そして、オルレアンが手を結んで『這い寄る混沌の蛇』と戦う、その意志の表明のように見えるわね」
『這い寄る混沌の蛇』との対決に向けた協力関係の構築は既に行われているが、今回の生徒会の人選は協力関係が構築されていることを学院内外に強くアピールするものとなっている。
これは『這い寄る混沌の蛇』に対して大きな牽制となるだろう。
「それに、あのサファルス・アジュール・ブルーダイアモンドを生徒会に……ねぇ」
リズフィーナと対面したサファルスは実に頼りない狡猾な小物という印象だった。
「あまり好ましい人材とも思えないけど、でも、こういう風に機会を与えられたら必死で働かざるを得ないわね。……そういった意図での起用なのかしら? 或いは、もっと別の目論見が……ミレーユさんならありそうね」
ミレーユの立場では四大公爵家のいずれかを生徒会に入れざるを得ない。いや、本来であれば四大公爵家の子女全員を起用すべきところだろう。
しかし、それでは周囲から反感を買う。比較的御しやすそうなサファルス一人を起用するというのはなかなか考えられたバランスのように思える。
だが、ミレーユは果たしてそれだけの理由でサファルスを登用したのだろうか? もっと何か思惑があってサファルスの起用を決めたのではないかという考えがリズフィーナの頭を支配する。……いくら考えてもそれが具体的に何かは思いつかなかったが。
まあ、当然のことである。ミレーユの考えにリズフィーナが考えた以上の意味はないのだから。
選挙戦で頑張り過ぎたミレーユの株が奔騰し、リズフィーナの目すらも曇らせてしまっていることをミレーユはまだ知らない。
◆
生徒会の陣容が決まったタイミングでミレーユはエイリーンを伴い(まるでエイリーンがミレーユに付き従っているような構図はミレーユにとっても不本意なものである。実際はエイリーンがサファルスに用事があるので同行したいと述べたため同行しているに過ぎないのだが、この構図を見れば勘違いする者も大なり小なり出てくるかもしれない)、サファルスの元を訪れた。
「サファルスさん、いらっしゃるかしら?」
鼻息荒く扉をノックすると中からはげっそりした顔のサファルスが出てきた。
そして、エイリーンを見るなり顔を真っ青にしてただでさえ不健康な顔が更に老け込む。今にも発狂しそうなサファルスにエイリーンが微笑を向け、サファルスはガタガタと震え出した。
「こっ……これは、ミレーユ姫殿下。申し訳ありません。今、部屋が散らかっておりまして……すぐにでも」
「いえ。ここで結構ですわ。サファルスさん、わたくし、あなたを生徒会の書記補佐に任命致しましたの。会長代理にはリズフィーナ様、会長補佐にはアモン王子、副会長にはリオンナハト王子、書記にマリアさん、会計にフィリィスさん、会計監査にガラハッド様とリーシャリス様、庶務にウォロスさんとルーナドーラさんを指名致しましたわ」
状況が全く理解できず、キョトンと首を傾げるサファルスに気づかず、ミレーユは得意げに生徒会の陣容を説明していく。
そんなミレーユにエイリーンはジト目を向けていた。
さて、ミレーユの意図することを詳しく解説していこう。
ミレーユはサファルスを完全に『這い寄る混沌の蛇』の関係者だという前提で考えている。『這い寄る混沌の蛇』の関係者ならばプレゲトーン王国でのことは既に知っているだろう。
リズフィーナとアモンとが共に『這い寄る混沌の蛇』に敵対していることは『這い寄る混沌の蛇』側も当然把握している筈である。
更に、邪教全ての敵対者であるリズフィーナに、ミレーユの友達であるフィリィスもいる。マリアはミレーユの中ではついでだが彼女もプレゲトーン王国への旅に同行し、『這い寄る混沌の蛇』と戦う決意を決めた一人だ。
この陣容から読み取れるのは「お前の周りを、反『這い寄る混沌の蛇』の者達で固めて監視してやるから覚悟しとけよ、この野郎!」というミレーユからサファルスへのメッセージだ。
ちなみに加えて言うならば、辺土貴族のマリアの補佐にサファルスを付けたこともミレーユの小粋な嫌がらせだったりする。とても小物なミレーユらしい陰湿な嫌がらせである。
「まぁ、色々やり辛いこともあるかと思いますから別に断っていただいてもよろしいですわ。ただ、それでもこれはチャンスだと思いますけれど……」
勝ち誇った笑みを浮かべて、煽りに煽りまくるミレーユにエイリーンが絶対零度の視線を向けていたが、サファルスはそれが自分に向けられたものだと勘違いし、更に震えた。
サファルスが『這い寄る混沌の蛇』ならば生徒会は敵地に他ならない。
しかし、同時に敵対勢力の懐とも言える場所である。「虎穴に入らずんば虎子を得ず」、サファルスが『這い寄る混沌の蛇』であるならばここで否という選択肢は選べない筈だ。
(……さて、サファルスさんはどう答えるかしら? でも、ここで断るという選択肢は選び辛いですわよね? けれど、もし生徒会に入った暁にはくだらない陰謀など企めないように、全員でしっかり監視してやりますわッ!!)
「……ミレーユさん、そろそろいいかな?」
「あっ……エイリーン様もサファルスさんにご用事があったのですわよね?」
鼻息を荒くしていたミレーユなエイリーンの言葉で一気に現実に引き戻された。
「それってわたくしが聞いても良い話ですの?」
「ミレーユさんにもサファルスさんの返答次第では許可をもらう必要が出てくるからねぇ。……さて、話に入る前に改めて自己紹介をさせてもらうよ。ボクはエイリーン=グラリオーサ――フォルトナ王国の辺境伯兼宮中伯令嬢ということになっているけど、これは学院に入学するあたり用意した偽の肩書きということになる。まあ、偽物と言ってもしっかりと叙爵されているからより正確にはグラリオーサ辺境伯兼宮中伯ということになるんだけどねぇ。じゃあ、お前は誰なのかって疑問に思っていると思うけど、ボクは……うーん、どうしようねぇ。とりあえず、ローザ=ラピスラズリと名乗っておこうかな? ブライトネス王国の公爵家の令嬢だよ。……いやそれともこの場合、アネモネと名乗るべきかな?」
エイリーンの姿からローザの姿に変わり、続いてアネモネの姿に変わるとサファルスも情報の処理ができなくなって頭を抱えた。
「結局、今の圓様の正式な名前ってどうなっているのですの?」
「正式っていうのが何かは分からないけど、前世の本名は百合薗圓だし、基本的に正体を知っている仲間達にはこっちの名前で呼ばれているよ。書類上はローザ=ラピスラズリ、アネモネとしての正式名称はアネモネ・ドゥンケルヴァルト・ライヘンバッハ・ザール・ウォルザッハ・インヴェルザード・ジードラバイル・ヒューレイツ・グラリオーサ・ビオラ=マラキア・クレセントムーン・レインフォールってことになる。非公式だけど、ローザ・ラピスラズリ・ドゥンケルヴァルト・ライヘンバッハ・ザール・ウォルザッハ・インヴェルザード・ジードラバイル・ヒューレイツ・グラリオーサ・ビオラ=マラキア・クレセントムーン・レインフォールって呼び名もあるねぇ。後はリーリエとか各アカウントの名前で呼ばれることもあるけど、リーリエ以外は少数かな? 強いていうなら狂信者共が様付けで呼ぶくらいだねぇ……ああ、思い出したら腹立ってきた。まあ、混乱するのは当然のこと、サファルスさんにはゆっくりと理解してもらえばいいから、ボクもゆっくりと説明させてもらうよ。ボクが何者なのか、とか、この世界の秘密とか、ボクらが敵対している者達についてとか、ねぇ」
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それでは、改めまして。カオスファンタジーシリーズ第二弾を今後ともよろしくお願い致します。
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