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百合好き悪役令嬢の異世界激闘記 〜前世で作った乙女ゲームの世界に転生した悪役令嬢が前世の因縁と今世の仲間達に振り回されながら世界の命運を懸けた戦いに巻き込まれるって一体どういうことなんだろうねぇ?〜  作者: 逢魔時 夕
Chapter 9. ブライトネス王立学園教授ローザ=ラピスラズリの過酷な日常と加速する世界情勢の章〜魔法の国事変、ペドレリーア大陸とラスパーツィ大陸を蝕む蛇、乙女ゲームの終焉〜

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Act.9-328 ペドレリーア大陸・ラスパーツィ大陸臨時班派遣再始動〜決着! セントピュセル学院生徒会選挙〜 scene.2

<三人称全知視点>


「生徒会長就任おめでとう。そして、私の依頼を受け、リズフィーナと戦ってくれたこと、本当に感謝する。ありがとう……おかげで私も残していた悔いを晴らすことができた」


 ライネと抱き合い、喜びを分かち合うミレーユの耳朶を二つの足音が打った。

 ガルヴァノスを伴って現れたトーマスはミレーユに頭を下げ、礼を述べる。まさか、ここまで感謝されると思っていなかったミレーユは突然のことで何も言葉を返すことができなかった。


「ところでラングドン教授、そちらの御仁のことを皆様に紹介して頂けるのではありませんか?」


「ああ、すっかり忘れていた。彼は私の古い友人だ。今回、生徒会選挙の話をしたら是非会場で見たいと言ったので連れてきた。……彼は昔から貴族嫌いで有名でな、私もまさか本当に来るとは思ってもみなかった」


「久しぶりに訪ねてきたと思ったら開口一番に『この大陸の運命を決定付ける論戦が行われる』と言われたら、足を運ぶ以外の選択肢は無かろう。昔から真面目一辺倒に見えて相当食えない奴じゃ。……結果として想像以上のものを見ることができたのだからお主には感謝しかないがな」


「お初にお目に掛かります、『放浪の賢者』様。お会いできる日をとても楽しみにしておりましたわ。わたくしは、ミレーユ・ブラン・ダイアモンド、帝国の皇女ですわ」


「……エイリーン殿もここで名乗っておくべきではないのか?」


「私ですか? いやいや、『放浪の賢者』様に覚えて頂くようなご大層な身分の人間でもないですし…………はいはい、分かりましたよ。お初にお目に掛かります、ガルヴァノス老師。私はエイリーン=グラリオーサと申します。何の取り柄もない伯爵令嬢ですのでお記憶に留めて頂く必要はありませんわ」


「ご丁寧な挨拶、痛み入ります。ミレーユ姫殿下、エイリーン辺境伯令嬢。ガルヴァノス・アーミシスでございます。お会いできて誠に光栄至極にございます」


 深く澄んだ知性的な輝きを湛えた瞳をミレーユとエイリーンに向けてくる老人からミレーユとエイリーンに対する深い尊敬が読み取れ、エイリーンが尊敬されるのはともかくまさか自分にまで尊敬の視線を向けられるなどとは思わなかったミレーユは大いに困惑した。

 しかし、尊敬の視線を向けられて悪い気はしないので「まあ、でも今回わたくしも相当頑張りましたし」と思い直し、ちょっとだけ……いや、どんどん天狗の鼻を伸ばしていくミレーユにエイリーンが一瞬だけジト目を向ける。


「いや、しかし素晴らしかった。まるで、狐と狸の化かし合い――生徒会選挙という小局から一気に世界を巻き込む一大事業へと展開し、その上で普通教育の実現と反農思想の根絶という互いの最大の目標へと話を繋げていく姿は実に見事だった。ミレーユ姫殿下とエイリーン殿は双方を利用しながら互いの利益を追求し、結果として誰も損をしない物語を展開してみせた。まさか、これほどのものを古巣で見ることができるとは思ってもみなかった」


 「でも、それって全部エイリーンさんが提案したもので、わたくしって褒められるようなことを何もしていないんじゃ」と気づきかけたミレーユだが、都合の悪いことは無かったことにして「オホホホ、それほどでもありませんわ」と謙遜した。

 トーマスとエイリーンの視線が若干冷たくなったような気がしてブルっとミレーユが身震いをする中、ガルヴァノスはその様子に気づくこもなく話を続ける。

 

「ミレーユ姫殿下、もし私に力になれることがありましたら是非お声掛けくださいませ」


「えっ……へぇ? あっ……ああ、ありがとうございますわ、ガルヴァノス様。もし、お願いしたいことができた時は遠慮なく頼らせて頂きますわね」


 トーマスがこの場にガルヴァノスを連れてきたということは、近い将来ガルヴァノスの力が必要な局面に必ずなるということである……というのは流石のミレーユにも分かった。

 本来ならばミレーユの方から協力を取り付けに行かなければならないであろうガルヴァノスを学院に招き、生徒会選挙の一部始終を見せることでミレーユとの面識を……いや、それ以上のものを作った。


 それが、今回トーマスの依頼を引き受けたミレーユに対する報酬だったのではないかとこの時のミレーユは思っていたのだが……。


「さて、今回の依頼の報酬だが生憎と私はそこの小娘に放逐され、地位も名誉も失った元教授だ。私に出せるものでミレーユ姫殿下に満足してもらえるものは恐らくないだろう。……こんなものではミレーユ姫殿下への感謝を表し切れないだろうが、どうか受け取ってもらいたい」


 トーマスが差し出したのは二本の鍵だった。二つの鍵はキーリングで繋がれ、キーホルダーには「207研究室・宗教象徴学専攻、ラングドン」という文字が刻まれている。


「私には既に不要になったものだが、ミレーユ姫殿下ならば上手く使いこなせるだろう。そろそろ任務に戻らなければならないので、私はガルヴァノス殿を連れて退散するとしよう」


「トーマス、儂の扱いが相当雑ではないか!?」


「……このまま学院に置いて行って欲しいならばそう言ってください」


「くっ……相変わらず性格が悪い。それでは、ミレーユ姫殿下、エイリーン殿、私はこれで失礼させて頂きます。何かありましたら直接私の庵を訪ねるか、ルードヴァッハに一報お願い致します。それでは――」


 ガルヴァノスはトーマスの時空魔法でトーマスと共にセントピュセル学院から姿を消した。



 選挙戦の興奮が今なお学院中を包み込んでいる選挙戦当日の夕刻、ミレーユ達の姿は研究棟にあった。

 リオンナハト達とは職員室で分かれており、メンバーはミレーユ、ライネ、ミラーナ、エイリーンの四人と同行を希望したリズフィーナの五人になっている。


「トーマス先生の研究室は長い間開かずの間になっていたわ。先生が失踪した後、鍵は行方不明になり、合鍵でも鍵が合わず、部屋に入る方法は扉を破壊する以外にないという状況で、学院の一部を破壊して先生の研究室に入る理由が無かったのよね。……ミレーユさん、申し訳ないのだけどその鍵を返してくれないかしら? トーマス先生の研究室といっても学院の施設の一部、トーマス先生は不当にその場所を占領していたのだから鍵は学院に返却されるべきよね?」


「でも、その鍵っておば……お姉様へのプレゼントとしてトーマスさんが渡したものですよね? トーマスさんがお姉様に渡さなければこういう事態にもなりませんでしたし……」


 リズフィーナの主張は正しいものであるが、ミラーナの指摘も正しいものである。

 鍵の権利はトーマスからミレーユに移ったが、元々は学院の持ち物を不当に占領したもの……であるならば、この鍵はリズフィーナに返却するべきなのか? しかし、トーマスが手渡した以上は今後、何かしらミレーユの力になってくれるものが隠されている可能性が高い。

 ミレーユは決して表情に出さないが、鍵の扱いをどうすべきかを悩んでいた。折角、リズフィーナとの関係も改善したというのに新たな火種を作るのは望ましくない。


「……リズフィーナさんって一見完璧に見えて所々抜けているよねぇ。まあ、完璧には程遠いものの完璧を目指して真面目に努力することができるのが美徳であり、同時にその潔癖過ぎるところが弱点でもあるんだけど」


 エイリーンの正体を知る者だけとなり、ようやく圓の素を出したエイリーンの感想にリズフィーナがムッとした表情を見せた。


「私の指摘に何か間違いがあったのかしら?」


「そう怒らない、可愛い顔が台無しだよ。……そもそもリズフィーナさんの指摘は前提から間違っている。図書館に残されている資料によるとラングドン教授の研究室は彼が学院の教員となった年に学院から貸し与えられたものだ。まあ、学院の教員は必ず一つ研究室を貸し与えられるから別段不思議なことはないよねぇ? ただ、ラングドン教授はこの時、時の学長にどの部屋を使いたいか希望を言っていたと記録にはある。研究室の指定は異例のことではあったものの、ラングドン教授を口説き落とす形で招聘したのは学院側だったから学院側も研究室の場所を選ぶくらいで何かを言うことは無かったそうだよ。それから三年後、ラングドン教授は学長に研究室の購入を提案した。ラングドン教授はセントピュセル学院を『終の住処』としたいと学長に熱く語り、時の学長もそれならばと研究室の売却を行った。つまり、ラングドン教授の研究室は学院で唯一の治外法権――学院の所有していない場所ということになる。だからねぇ、ミレーユさん。その鍵を返却する理由はないんだよ。……リズフィーナさん、分かってもらえたかな? ちなみに、さっき話した資料については図書館の――」


「もうそれ以外言う必要はないわ。……ミレーユさん、ごめんなさい。よく調べずに厚かましいお願いをしてしまったわ。……友達失格よね」


「そんなことありませんわ!」


 一気にネガティブモードになるリズフィーナを何とか慰めながらトーマスの研究室の前まで来たところでミレーユは鍵を取り出して鍵穴に一つずつ刺そうとするが、そもそも研究室の扉には鍵穴が存在せず、研究室の扉を鍵で開けることはできなかった。


「あら? おかしいですわね。この鍵で本当にあっているのかしら?」


「……どうやら、扉そのものが一つの鍵になっているようだねぇ。小さいものだと寄木細工の秘密箱があるけど、それと似たような感じでパズルを解かないとそもそも鍵穴が出現しない仕様になっているみたいだ。まあ、任せてよ。こういうの得意だからさ」


 サクサクっと扉に仕掛けられたパズルを解き、鍵穴を露出させるエイリーン。

 エイリーンに促されるままミレーユは一つ目の鍵を差し込もうとして上手く刺さらず、二つ目の鍵を差し込むと上手く嵌った。


 そのまま鍵を回すとガチャりと音がして鍵が開く。


「結局、鍵は一本しか使いませんでしたわね。もう一本はどこで使うのかしら? 圓さん、ご存知だったりしないかしら?」


「そもそもこの研究室自体ゲームには登場しないからねぇ。ラングドン教授の思惑を含めてさあっぱり分かんないよ。まあ、楽しそうだしいいんじゃないかな? それじゃあ、謎解きを始めよう!」


「おー!!」


 研究室に楽しそうに入って行ったのはエイリーンとミラーナの二人だけだった。

 ミレーユ、ライネ、リズフィーナの三人は何が待ち受けているか分からない研究室に恐る恐る足を踏み入れていく。

 お読みくださり、ありがとうございます。

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 もし何かお読みになる中でふと感じたことがありましたら遠慮なく感想欄で呟いてください。私はできる限り返信させて頂きます。また、感想欄は覗くだけでも新たな発見があるかもしれない場所ですので、創作の種を探している方も是非一度お立ち寄りくださいませ。……本当は感想投稿者同士の絡みがあると面白いのですが、難しいですよね。


 それでは、改めまして。カオスファンタジーシリーズ第二弾を今後ともよろしくお願い致します。


※本作はコラボ企画対象のテクストとなります。もし、コラボしたい! という方がいらっしゃいましたら、メッセージか感想欄でお声掛けください。

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