Act.9-325 ペドレリーア大陸・ラスパーツィ大陸臨時班派遣再始動〜生徒会選挙当日、激突するミレーユとリズフィーナ、エイリーンとトーマス〜 scene.3
<三人称全知視点>
「ビオラ商会合同会社はベーシックヘイム大陸随一の技術力を有しております。皆様の技術力では再現できなくても、この素晴らしい学院を現実のものにすることは可能です。そして、その技術力を是非この機会に皆様の国々でも会得してもらいたいと我々は考えています」
ビオラが高い技術を保有していることはベーシックヘイム大陸を訪れたリズフィーナもよくよく理解していることだ。
その技術をペドレリーア大陸の国々に無償で提供するというジェーオの言葉はリズフィーナに今日一番の衝撃を与えた。
「具体的には、まず、改修に協力してくださる各国の土木業者様を募り、ペドレリーア大陸内で改修に必要な材料を集め、ビオラの建築部門の監督・指導の下、学院の改修を行っていくという流れになります。そのために必要な材料費、人件費、諸経費も含め、掛かった全ての費用を全てビオラが負担することをお約束致します。既に一部の国々の土木業者の皆様にはミレーユ姫殿下が生徒会長になった場合に仕事を受けるという条件付きの快諾を賜っております。今回、ライズムーン王国とプレゲトーン王国の土木業者との関係を取り持って頂いたリオンナハト殿下、アモン殿下、お二方のご尽力に深く感謝しております」
「ライズムーン王国にとっても大きな恵みを得ることができる良きお話だった。ライズムーンの王子として国の利になる取引の仲介をするのは当然のことだよ」
「ボクにもミレーユの力になれることがあるかどうか不安だったけど、本当に良かったよ」
「既にダイアモンド帝国、ライズムーン王国、プレゲトーン王国の土木業者様のいくつかと条件付き契約を結んでいる状況ではありますが、勿論、それ以外の方々からのご協力もお待ちしております。特にオルレアン教国の皆様はセントピュセル学院に特別な思い入れがあるのではないでしょうか? 他の国々の土木業者の皆様が参加されるというのに自分達が関われないのではないかと不安を抱えているかもしれませんが、勿論、そのようなことはございません。オルレアン教国の皆様のご応募も心よりお待ちしております。最後になりますが、先ほどエイミーン様が示されたのはあくまで未来予想図です。今後、学院側と協議した上で最終的にどのような改修を行うのかを決定、その上で着工することになりますのでよろしくお願いします。それでは、長くなりましたがご清聴ありがとうございました」
来賓席に戻りジェーオがホッと溜息を吐く中、リズフィーナは目の前で繰り広げられた予想外の状況にかつてないほど心を乱されていた。
「とても魅力的なお話だったわ。オルレアン教国の利益を考えればミレーユさんを生徒会長にしなければならないわね。……これはオルレアン教国だけでなくペドレリーア大陸の全ての国にとって利になるお話だったわ。何か隠し球を用意しているとは思っていたけど、まさかセントピュセル学院の中だけの話である生徒会選挙を世界規模の事業にすり替えるとは思いもよらなかったわ。……だからこそ、疑問に思うのよ。何故、ビオラ商会合同会社はここまでセントピュセル学院の改修に協力してくれるのかしら? って」
アネモネ達ビオラ商会合同会社はオルレアン神教会の信徒でもなんでもない。こういった行為は「寄進」と呼ばれ、その裏には何かしらのご利益を求める気持ちがある筈だが、ビオラ商会合同会社にはそれこそ関係のない話。
あまりにも魅力的な話だからこそ、その裏にどのような思惑があるのか気になるのは至極当然のことである。
「ビオラ商会合同会社はベーシックヘイム大陸の西側諸国――多種族同盟の影響下にある地域においてビオラ商会合同会社は高い影響力を誇っています。しかし、ペドレリーア大陸においてはどうでしょうか? フォルトナ王国領となった旧フィートランド王国、現フィートランド大公領にフィートランド大公領店をオープンしてはいるもののご存知の通り、ペドレリーア大陸においては新参者です。当然ながら知名度も低く、アネモネ閣下によると業績も伸び悩んでいるようです」
実際、フィートランド大公領店での業績は最下位である。
競合する商会がいくつもあること、得体の知れない商人よりもやはり馴染みの商会を頼りにすること、オルレアン神教会の影響下に入らないことを公言しているビオラ商会はペドレリーア大陸の者達にとっては異端者の集団であることなどが主な理由であろう。……それでも、表向きビオラ商会のことを悪く言いつつも臣下に取引に行かせて秘密裏に買い物をする貴族達もいるので全く商売が上手くいっていないという訳でもないのだが。
「しかし、もしビオラ商会合同会社がセントピュセル学院の改修の全費用を負担するとなればどうでしょうか? オルレアン文化圏において、オルレアン神教会と深く関わりのあるセントピュセル学院の改修に協力するということは多大な宣伝効果を生むことになるでしょう。ビオラの名は大陸中に広がる筈です。それに加え、オルレアン神教会のお墨付きを受けたという印象も与えることになります。……まあ、後はオルレアン神教会に対して大きな貸しを作ることにもなります。といっても、この融資は完全な善意ですから見返りを要求するつもりはアネモネ閣下にもないと思いますけどねぇ。つまり、今回の提案はビオラ側にも利益のあるお話ということです」
「……でも、費用対効果がそれほど良い話だとは思えないわ」
「世の中には初競りで何千万という大金で鮪を競り落とす寿司屋の社長もいますからねぇ。何枚もチラシを作って配るのと、こういった話題性のある行動を起こすこと、どちらがより多くの利益を生むのかというと状況にもよりますが、恐らく後者ですからねぇ。その上、実質オルレアン神教会のお墨付きをもらうようなものですから、安い買い物だと思いますよ」
「……だとすれば、ミレーユさんの掲げる公約は登場人物が誰一人として損をしない恐ろしく計算されたものということになるわね。非の打ち所が全くないわ。困ったわね、どうしようかしら?」
などと言うリズフィーナの表情は言葉に反して明るい。
既にこの時点でリズフィーナは自身の負けを覚悟していた。正直、悔しさがない訳ではなかったが、それ以上にミレーユの掲げる誰もが利益を得る公約に心惹かれ、その公約が現実のものになることを願う気持ちが強くなっていたのだ。
「リズフィーナ様、他に質問はありませんか?」
「いえ、特にありません」
「では、これで生徒会長選挙公開討論を閉幕し、続いて聖歌斉唱に――」
「待ちたまえ」
司会を務める司祭の言葉を遮ったのはトーマスだった。
大聖堂に集まった者達のほとんどの視線がトーマスに集まる中、トーマスはその視線を気にした様子もなくエイリーンに視線を向ける。
「私から一点、そこの莫迦な小娘の質問を引き継ぐ形で一つ質問をさせてもらおうと思う。どうやら、先程の質問の答えに納得していないのは私だけのようだからな」
「……トーマス先生」
「貴様に先生と呼ばれる筋合いはない」
最早、リズフィーナに一瞥すら与えず、リズフィーナのことを「莫迦な小娘」などと散々な呼び方をしたトーマスを咎める視線を向ける司祭も無視し、トーマスはエイリーンだけを見つめる。
「ラングドン教授、私の説明に何か不備がありましたでしょうか?」
「確かに先程の説明は正しいもので、そこに偽りはない。しかし、そこに語られていないものがあったのではないかと私は考えている。……先程の説明は本音とは程遠い建前なのではないだろうか? ビオラ商会合同会社はベーシックヘイムの西側諸国、多種族同盟圏なおいて多大な影響力を持ち、ビオラ=マラキア商主国という国家すら有する。既に多分野で成功を収め、巨万の富を築いているビオラ商会合同会社にとってペドレリーア大陸での新しいマーケットの開拓はそれほど重要なものとは私には思えない。それに、数日前、海洋都市レインフォールの運営権をビヴロスト=レインフォール公爵より買い上げ、ラスパーツィ大陸の一国を手中に収めたそうだな? 新しいマーケットを得ている今、ペドレリーア大陸に拘る理由があるとは思えない。それに、アネモネ閣下はどちらかといえば影響圏を広げていくことをあまり望ましく思っていないお方であるという印象を私は持っている。ビオラ=マラキア商主国の建国もマラキア共和国の腐敗を見るに見かねて、クレセントムーン聖皇国はシェールグレンド王国とブラックソニア辺境伯領が戦争で空白地帯となり、今後、領主となった者が再び反乱を引き起こす可能性を危惧したここにおられるラインヴェルド陛下の不安を晴らすために、その他ブライトネス王国とフォルトナ王国からいくつもの領地を与えられ、素晴らしい経営をビオラ商会合同会社の事業として行っておられるが、これも両陛下に押し付けられたからだと聞いている。それに、海洋都市レインフォールの一件も一任した部下が決定してしまったものを致し方なく追認したという形だろう。……案外、今回の融資は友人であるミレーユ姫への単なる善意なのかもしれない。先程、建前と評したエイリーン殿の説明も真実のものだと思う。しかし、私はそれ以上の思惑がこの話の裏にあるように思えてならない。あのアネモネ閣下は、一石で二鳥も三鳥……いや、それ以上の利益を生み出すお方だ。勿論、私が期待し過ぎているだけという可能性もあるが。エイミーン殿はアネモネ閣下の思惑について何かご存知ではないだろうか?」
「海洋都市レインフォールの一件が解決したのは選挙期間終盤の頃、それとラングドン教授の仰っている通り突然のことでしたから、ラスパーツィ大陸にもゆくゆくは出店を、くらいにしか思っていなかったと思いますわ。……やはり、今回の選挙、一番の難敵はラングドン教授でしたね。本当に痛いところを突いてくるというか……これはまだ不確定な未来のお話ですし、ミレーユ姫殿下とリズフィーナ様には選挙が終わった後にお話しようと思っていたのですが、致し方ありませんね。先程敢えてお話ししなかったビオラ商会合同会社が……いえ、今回の融資の費用を全額負担すると仰ったアネモネ閣下ご自身が得ることになる利益がいかなるものであるかについてご説明致しましょう」
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それでは、改めまして。カオスファンタジーシリーズ第二弾を今後ともよろしくお願い致します。
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