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百合好き悪役令嬢の異世界激闘記 〜前世で作った乙女ゲームの世界に転生した悪役令嬢が前世の因縁と今世の仲間達に振り回されながら世界の命運を懸けた戦いに巻き込まれるって一体どういうことなんだろうねぇ?〜  作者: 逢魔時 夕
Chapter 9. ブライトネス王立学園教授ローザ=ラピスラズリの過酷な日常と加速する世界情勢の章〜魔法の国事変、ペドレリーア大陸とラスパーツィ大陸を蝕む蛇、乙女ゲームの終焉〜

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Act.9-323 ペドレリーア大陸・ラスパーツィ大陸臨時班派遣再始動〜生徒会選挙当日、激突するミレーユとリズフィーナ、エイリーンとトーマス〜 scene.1

<三人称全知視点>


 オルレアン神教会と密接に結びつくセントピュセル学院において選挙というのは神聖な儀式である。

 先日の開会ミサも然り、今日の投票についても同様である。


 今日は特に会長を選び出す神聖な投票日である。立候補者は慎み深く身を清め、純白の聖衣を身に纏う必要があった。


 セントピュセル学院の地下にある清めの泉と呼ばれる場所で身を清めた上で投票の儀(本来はいくつもの厳かな儀式と立候補者の最後の演説、投票によって構成されるが、今回はエイリーンが希望した生徒会長選挙公開討論が行われるイレギュラーな形のため、生徒会長選挙公開討論、聖歌斉唱、聖餐の儀、最終演説、投票の順で行われることになる)に臨むことになる。


 聖堂には既に幾人か生徒が集まってはいるが、儀式の開始まではまだまだ時間がある。

 早めに清めの泉に向かうといっても限度があるのでミレーユは選挙対策本部として借りている教室で一人、最終演説の原稿を読み直していた。


 この最終演説の内容もミレーユ一人の力ではこのタイミングで書き上がることは無かったものだった。

 近い将来、ミレーユが生徒会長として生徒達の前に立ち行った演説――後に大陸各地に大きな影響を及ぼして国の枠を超えた巨大な繋がりを築き上げるこの演説の内容に酷似した内容が最終演説に盛り込まれることになった発端は、最終演説の内容に困ったミレーユが圓に相談したことにある。


 極力ミレーユ達の力でペドレリーア大陸を良き場所へと変えていってもらいたいと思っている圓は「今後起こるであろう大飢饉」と「現時点でもライズムーン王国、プレゲトーン王国、オルレアン教国と交流を持ち、生徒会長になった暁には更に様々な国の者達と繋がりを持つことになるミレーユの置かれている立場」という二つのヒントを与え、「ダイアモンド帝国が今後飢饉を乗り切れるだけの食糧を備蓄できたとしても、その顔見知りの誰かから助けを求められて備蓄を切り崩さなければならなくなってしまう可能性」に気づかせた。

 「そうなれば、帝国の備蓄を切り崩さずに乗り切ることは不可能。では、どのような手を打つべきか?」という圓の問いにミレーユは一つの方針を打ち出した。即ち、全力で周りを巻き込んでいくという方針を。


 飢饉というイレギュラーな事態に大陸が一丸となって挑み、乗り越えていく。そして、そのために必要な土壌がミレーユの前には用意されていた。

 そう、「みんなで助け合って」の精神は今回の選挙のミレーユ達の方針そのものなのである。協力し合う内容はセントピュセル学院の改修という飢饉とは全く関係のないものではあるが、大陸諸国が協力し合って一つのことを成したという前例にはなる。

 この前例があるかないかというのは政治分野では極めて大きな差を生むことになる。最終的に完成する食糧の相互援助機構【ミレーユ・ネット】もセントピュセル学院の改修のためにみんなが力を合わせたという経験があれば、よりスムーズに構築することができるかもしれない。


「……もしかして、ここまで圓様は読んでいたのかしら?」


 一石を投じただけで二鳥、三鳥と無数の利益を生み出していく圓。既にその深謀遠慮の恐ろしさは理解していたつもりだったが、その上飢饉への対処まで視野に入れていたことを知り、戦慄を覚えるミレーユだった。


「ミレーユ姫殿下、おはようございます。どうです? 昨晩はよく眠れましたか?」


「おはようございます、圓様。心臓がバクバクでなかなか眠れませんでしたわ。……ところで、そちらの方は?」


 黒いスカートスーツを纏ったエイリーン姿の圓の隣にいる見慣れないスーツ姿の男を見てミレーユがコテンと首を傾げる。


「お初にお目に掛かります、ビオラ商会合同会社のジェーオ=フォルノアと申します。本日はビオラ商会合同会社の代表として生徒会長選挙公開討論に協力させて頂くことになりました」


 つまり、ミレーユと共に戦う同志ということである。

 心強い仲間の登場に、ミレーユはにっこりと微笑み「ミレーユと申しますわ。本日はよろしくお願いしますわ」と挨拶した。


「……しかし、アネモネ会長。なんで俺なんですか? 正直、アンクワールさんやモレッティさんの方が良かったと思うんですけど」


「いや、ボクは普通に三幹部の誰かにアネモネの代打として参加してって言っただけだからねぇ。じゃんけんで負けてジェーオさんが来ることになったみたいだけど、今更決まってしまったことで文句を言われてもねぇ。というか、ボクの預かり知らないところで決まった問題まで文句を言われても困るよ」


「……あの、圓様。ジェーオ様が参加されることになったのって本人の希望とかではなくそんな適当な方法で決められたのですの?」


「まあ、誰が来ても卒なくこなせるし今回は特に指名しなかったんだよねぇ。ジェーオさんって元々はフォルノア金物店っていう小さな金物屋の店長で現在のビオラを創設するにあたり初期メンバーとして尽力してもらった一人なんだけど、他の幹部が三大商会の会長と側近ってことでずっと自分は二人に劣っているってコンプレックスを持っているんだよ。もう決まったことだし覚悟決めていこうよ? 大丈夫大丈夫」


「俺、昨晩から今日のことが心配で全然寝られなかったんですよ!」


「わ、わたくしもですわ!」


「大丈夫大丈夫、ボクも徹夜だから」


「本当に大丈夫ですの!」


「ボクも今日のことが楽しみで楽しみで全然寝られなかったんだよねぇ」


「そのメンタリティが欲しいですわ!」


「まあ、冗談はここまで……実は臨時班の方で色々と動きがあってねぇ。その情報を精査してここまでの戦果を確認しつつ、手の空いた面々を次にどこに派遣するかとか色々と考えていたら時間があっという間に経っていてねぇ。三千世界の烏を殺して戻って一睡しようかと思ったけど面倒だったらそのまま来ちゃった」


「……うちの会長は昔からこんな感じなので気にしなくていいと思いますよ。基本、やらないといけないことはきっちり成し遂げてから意識を失いますし」


「意識を失ってしまう点に突っ込みを入れない方が良さそうですわね。……圓様、ジェーオ様、本日はよろしくお願いします」



 ミレーユは圓とジェーオと一旦別れ、清めの泉に向かった。

 その足取りは重い。


 リズフィーナと生徒会選挙当日に相見えることになることはミレーユも覚悟していたことだ。例え前日に凄まじい緊張に襲われてもミレーユにはここまで支えてくれた仲間達がいる。

 ライネ、ミラーナ、フィリィス、マリア、圓、エルシー、リオンナハト、アモン、ウォロスを筆頭とする帝国貴族達、ルーナドーラを初めとするミレーユの取り巻き達――少なくない仲間達の支えを得たミレーユは決して独りではなかった。「例え相手がリズフィーナでもみんなで力を合わせれば勝てるかもしれませんわ……いえ、勝てますわ!」などと考え、決してマイナスな感情を持ったまま選挙に臨んでいた訳では無かった。


 では、何がミレーユの足取りを重くさせているかというと圓から聞かされた要注意の生徒会選挙の来賓達の名前である。


「ラインヴェルド陛下とオルパタータダ陛下は……本当は来て頂きたくはありませんでしたが好奇心で来ることは分かっていましたわ。それに、トーマス教授もそもそもわたくしに立候補を持ちかけたのがトーマス教授ですから来るのは当然ですわね。……正直、リズフィーナ様よりおっかないですわ。それに、ルードヴァッハの師匠まで……」


 ガルヴァノス・アーミシス――『大賢者』の異名を持ち、『オルレアン教国の大賢者』と称えられていたトーマスと双璧を成していた知恵者である。

 あまりにも意外な人物が生徒会選挙を観に来ると聞き、更に胃の辺りが痛くなったミレーユだったが……。


「しかし、どういうことなのかしら? ……圓様はわたくしが集中するべき相手はリズフィーナ様ただ一人だけと仰っていたけど、ガルヴァノス様やトーマス教授のことはノーマークで本当に大丈夫なのかしら?」


 あのクソメガネの師匠である。トーマスとも旧知の仲なのだそうなので二人で組んでミレーユに集中砲火を仕掛けてくるのではないかと想像していたミレーユだが、圓はミレーユの考えをあっさりと否定してみせた。


「……まあ、考えても仕方ありませんわね」


 地下へと続く螺旋階段を降り、扉を開けて中に入り、脱衣場となっている入り口付近で全ての衣服を脱ぎ、一糸纏わぬ姿となると白く磨き抜かれた石が敷き詰められた静謐な空気に包まれた空間へと足を進め、その身を泉に浸す。

 僅かに湯の混じった水は震えるほどに冷たいということはなかったが、それでも十分に冷たかった。ミレーユらしからぬ考え事の連続で生じた知恵熱で熱った身体には丁度いい。


「ふぅ……」


 小さく息を吐きふと横を見ると、同じく泉に浸かり水浴びをするリズフィーナの姿があった。


 ――それにしてもリズフィーナ様、憎らしいぐらいにお美しいですわね。


 白く透き通るような肌に、清らかな水に煌く長く美しい髪――その艶やかな姿は同性のミレーユから見てもこの上なく魅力的に見えてしまって、ちょっぴり嫉妬(ジェラシー)を覚えてしまうミレーユである。


「あら? どうかなさったの? ミレーユさん」


 ミレーユの視線に気づいたのか、リズフィーナは小さく首を傾げた。


「い、いえ、なんでもございませんわ。おほほ。……ただ随分とお疲れのご様子ですわね、リズフィーナ様」


「えぇ、とても疲れたわ。『這い寄る混沌の蛇』の対処に、オルレアンの聖女としての役割、それに生徒会長の仕事……その上で生徒会選挙の準備もしないといけない。本当に大変だったわ」


 珍しく愚痴を溢すリズフィーナにミレーユが内心で少しだけ驚く中、リズフィーナはミレーユに微笑み掛ける。


「今回の選挙の出馬、私の負担を少しでも軽くしようと思ったミレーユさんなりの優しさだったのね」


「えっ、ええ……だ、大体その通りですわ」


 リズフィーナが口にした予想外の解釈に驚きながらもこれは乗る以外に選択肢はないと波に乗ることを選んだミレーユ。

 リズフィーナと対立することになり、開会ミサの時よりも怒っているんじゃないかと思っていたミレーユにとっては予想だにしなかった状況で少しだけ拍子抜けに感じたミレーユである。もしかしたら、今回の選挙、意外と楽勝なんじゃないか? なんてことまで考え出す始末だった。


 しかし、すぐにそれが甘い幻想であることをリズフィーナに突きつけられる。


「でも、今のミレーユさんは優しさだけでこの場にいるんじゃないわよね? 沢山の仲間と共に私を超えていくつもりでいる。それが、あの選挙公約から伝わってきたわ。どんな切り札を用意しているのか分からない……でも、ミレーユさんなら私も想像もしていないような妙手でこの絶望をひっくり返すことができるんじゃないかと思うの。私は挑まれる側じゃないわ! 今回は挑む側――ミレーユさんと圓様、最強の二人に挑む挑戦者。私も全力で挑ませてもらうわ!!」


 リズフィーナの纏う霸気は圧倒的でミレーユは竦み上がる。

 鋭く見開かれた瞳の宿す光に一瞬「ひぇぇ!」と震えが止まらなくなったミレーユだったが。


 ――わたくしは、一人じゃありませんわ。例え、わたくし一人では勝てないとしても!!


「わたくしも沢山の仲間に恵まれてここまで来ることができましたわ。例え、リズフィーナ様が大きな壁だとしても、この勝負、負けられませんわ!!」

 お読みくださり、ありがとうございます。

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 もし何かお読みになる中でふと感じたことがありましたら遠慮なく感想欄で呟いてください。私はできる限り返信させて頂きます。また、感想欄は覗くだけでも新たな発見があるかもしれない場所ですので、創作の種を探している方も是非一度お立ち寄りくださいませ。……本当は感想投稿者同士の絡みがあると面白いのですが、難しいですよね。


 それでは、改めまして。カオスファンタジーシリーズ第二弾を今後ともよろしくお願い致します。


※本作はコラボ企画対象のテクストとなります。もし、コラボしたい! という方がいらっしゃいましたら、メッセージか感想欄でお声掛けください。

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