Act.9-322 ペドレリーア大陸・ラスパーツィ大陸臨時班派遣再始動〜妖魔犇く未開の森と妖狐棲む火山帯〜 scene.5
<三人称全知視点>
『妖狐猛火大文字!!』
摩理冴の口から放たれた青い狐火が上空で大文字を形作るとラインヴェルド達目掛けて勢いよく降り注ぐ。
常人であれば耐え切れなほどの高温の炎だが、武装闘気と覇王の霸気を纏ったラインヴェルド達には通用せず、灼熱の炎をその身に浴びても意に返すことなくラインヴェルドとオルパタータダ剣を鞘から抜き払い、レナードは「妖銃・シュヴァルツドンナー&シュバルツシュラーク」をホルスターから抜き払った。
『なるほど、妖狐猛火大文字程度の火力では傷一つ付けることができないということか。……これでも、常人ならば一瞬にして灰に変えるほどの火力を誇り、あの夏江朔那ですら回避を選んだほどだったが……やはり、化け物のようじゃな』
「妖魔達の王に化け物扱いはされたくねぇな。こいつは闘気や霸気っていう技術だ。『管理者権限』と同じく神の領域に至ることができる力みたいだぜ。まあ、『管理者権限』と違って持っていれば権限の範囲に限り全知全能になることができる『管理者権限』と違って鍛える必要やコントロール技術を習得する必要があったり、鍛えることが不可能な霸気に関しては当人自身の成長でしか強化されなかったりと十全に発揮するためには色々と条件をクリアする必要があるんだけどな!」
『ほう、それは興味深い力だ。是非妾も習得したいものだが、敵である妾に教えてくれる筈がないか。この戦いの中で霸気とやらの扱い方を盗むとしよう! では、霸気とやらの存在を教えてくれたラインヴェルドにはお礼をしなければならんな! 妾が神の一柱となったことで会得した新たなる力を見せてやらうぞ! 妖狐の毒霧!!』
摩理冴には毒の霧を発生させる「毒狐の霧」という彼女を代表する技がある。
妖魔力を変化させたこの毒の霧は僅かに吸い込むだけでも人を死に至らしめる極めて強力なもので、伝承からこの毒の存在を知っていた夏江朔那も摩理冴の毒への対処の方法に最後まで大いに悩まされることとなった。
「妖狐の毒霧」はこの「毒狐の霧」の強化版と言える技だが、己自身を致死の持つ毒そのものに変えるため物理攻撃が一切通用しなくなる。
基本的に人間側に物理攻撃以外の戦う術が存在しない『妖魔斬刀〜絆縁奇譚巻ノ二〜』においてはゲームバランスを崩壊させてしまうほどの強力な技だ。
「神聖なる守護光!」
ラインヴェルドはあらゆる状態異常を無効化する神聖魔法を自身とオルパタータダ、レナードに付与すると武装闘気を纏わせた剣を構え、俊身と神速闘気を駆使して一気に摩理冴との距離を詰める。
ラインヴェルドの動きに合わせて反対方向から武装闘気を剣に纏わせたオルパタータダが摩理冴に迫り、二人同時に摩理冴目掛けて斬撃を放つ。
『グォォ!! 何故、何故じゃ! 何かしらの力で毒を無効化したまでは分かるッ! しかし、何故妾に斬撃が通用するのじゃ!!』
「武装闘気には実体を捉える力がある。例えその身体を光に変えていても擦り抜けさせずに攻撃を当てることができるんだぜ!」
ラインヴェルドとオルパタータダの攻撃は致命傷にはならなかったものの油断した摩理冴にとっては大きな傷となった。
これ以上の攻撃を受けないように足場に妖魔力を流し込んで性質を変化させ、勢いよく岩を突き出させて相手を串刺しにする「岩槍突刺」を使用してラインヴェルド達から距離を取る。
並の人間達なら仕留めることができる一撃だが、流石にラインヴェルドとオルパタータダを仕留め切れるとは思っていなかった。
摩理冴の狙いはラインヴェルド達を撃破することではなく距離を取って仕切り直すことだったので摩理冴の目的は達成できたと言えよう。
「――と、これで逃げ切れたと思うよな! 残念だったな! 俺のことを忘れているぜ!!」
しかし、摩理冴に一呼吸置く暇は与えられなかった。
神速闘気を纏ったレナードが一気に摩理冴に迫り、至近距離で「妖銃・シュヴァルツドンナー&シュバルツシュラーク」を構えて次々と弾丸を射出する。
弾丸には武装闘気を纏わせており、「妖狐の毒霧」でも無効化できない。
レナードは摩理冴を追い詰めたことを確信してニヤリと笑うが、次の瞬間、摩理冴が愉快そうに笑ったのを見てその判断が間違っていたことを悟った。
『妖狐の神眼、ようやく完了じゃ。闘気、霸気……なるほど、流石にその全てとまではいかぬがその力、理解した。――遅いッ!』
レナードの放った弾丸を全て最低限の動きだけで躱し切った摩理冴は青い狐火を掌に収束させると刀を創り上げる。
真っ青に燃え上がる炎の剣は摩理冴が握った瞬間、黒く染め上がった。
「――見気の未来視に、武装闘気だと!? おいおい、俺でも習得に時間が掛かったのに!! というか、見ていて習得できる技術とかじゃねぇだろ!!」
『妾の「妖狐の神眼」はあらゆるものの本質を見抜く。それだけではただ識っているだけだが、幸い、妾と闘気の相性は良かったようじゃな」
「レナード、別に不思議がることじゃねぇだろ? 使い手が強ければ闘気や霸気の使い方を教えられた直後にある程度扱えるようになることは珍しいことじゃねぇ。……まあ、これほどの霸気を使えるってのは流石としか言えないけどなぁ」
「妖銃で仕留め切れる相手じゃなくなったみたいだな! こうなったら『滅焉剣』か『『滅焉銃』を使って――」
「妖銃・シュヴァルツドンナー&シュバルツシュラーク」をホルスターに戻しつつ摩理冴から大きく距離を取り、『滅焉剣』を抜こうとした直後、レナードは壁まで吹き飛ばされて命を落とした。
「生命の輝石」によって復活したレナードは身を守るために武装闘気を纏っていなかったとはいえ一切油断をしていなかった自身が吹き飛ばされて命を落としたことを理解し、衝撃を受ける。
「アイツの武器は実体のない炎だ! だったら、武器の形状を自在に変化させることくらいできる。レナード、油断し過ぎだぜ!」
「……まだまだだな、俺は。刀の間合いじゃ俺に攻撃は届かないと思って油断していた。まあ、でも次は受けないから大丈夫だ!」
『まあ、確かにお主らに二度同じ手は通用しないだろうな。――「管理者権限」を発動する! 我が手に現れよ! 夏江朔那の愛刀「波濤奔馬」よ! 大和国の護国刀「日輪金烏」よ!』
白面金毛九尾の狐の姿から狐耳と九つの尻尾を持つ美しい美姫の姿へと変貌した摩理冴の手に二振りの刀が現れる。
紆余曲折を経て摩理冴の手に渡ることとなる摩理冴の愛刀と自らの命を奪った夏江朔那の刀を手にした摩理冴は刀を武装闘気によって黒く染め上げ、更に覇王の霸気の稲妻を剣に纏わせた。
『これが本当の最終決戦じゃ! 大九尾砲!!』
摩理冴は九つの尻尾を巨大化させ、尻尾を自在に操って摩理冴の頭上に膨大な妖魔力を収束させたエネルギーの塊を生成し、更に膨大な覇王の霸気を込めるとレナードに向けて射出すると同時に神速闘気を纏った状態で俊身を使用――ラインヴェルドとオルパタータダに迫る。
「うぉっ! これは流石にヤバいッ! 俺のありったけの霸気を持っていきやがれ! 終焉の光斬!!」
摩理冴の奥の手と言える一撃を流石にただの攻撃では無効化し切れないと判断したレナードは残る全ての霸気を消費し切る勢いで『滅焉剣』に込め、「終焉の光斬」を放って「大九尾砲」を両断する。
「――俺とオルパタータダ相手に剣で挑むとはいい度胸だ! それに、持っている武器もなかなかの力を持っているようだな! いいだろう! オルパタータダ、やるぞ!」
「まずはその霸気のレベルを確かめてやる!」
ラインヴェルドとオルパタータダは同時に武装闘気と覇王の霸気を纏わせて摩理冴の剣目掛けて斬撃を放つ。
互いの剣が決して接触することがない霸気の拮抗が発生し、膨大な霸気が黒稲妻と化して戦場を駆け巡る。
しかし、その拮抗もすぐに崩壊し摩理冴の方が少しずつ押されていく。
「なかなかに強力な霸気だったぜ。まあ、だが俺達の方が霸気が強かったってことだな。この世界には俺達より霸気が強い奴もいる。例え俺達に勝てても親友には勝てなかったと思うぜ。なぁ、オルパタータダ」
「まあ、親友は化け物みたいな霸気を持っているし、それ以外についても尋常じゃねぇからな。だが、これまでの欠伸の出ちまう戦いと違ってそこそこ楽しめたぜ」
『……妾の力ではお主らを楽しませることがせいぜい、お主らを殺すことすらできなかったということじゃな。百合薗圓や夏江朔那のみを危険視せず、お主らのこともただの人間だと見下さずにしっかりと危険視して準備を怠らなければもう少しまともな戦いができたかも知れぬが時既に遅しじゃな』
ラインヴェルドとオルパタータダに押し負けた摩理冴の手から「波濤奔馬」と「日輪金烏」が離れる。
得物を失い無防備となった摩理冴は死を覚悟して目を瞑り、ラインヴェルドとオルパタータダの斬撃をその身で受けて命を散らせた。
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それでは、改めまして。カオスファンタジーシリーズ第二弾を今後ともよろしくお願い致します。
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