Act.9-321 ペドレリーア大陸・ラスパーツィ大陸臨時班派遣再始動〜妖魔犇く未開の森と妖狐棲む火山帯〜 scene.4
<三人称全知視点>
凶禍麒麟の武器が圧倒的な攻撃力であるならば、凶禍霊亀の武器は圧倒的な防御力である。
『霊亀の鉄壁装甲!』
その防御力の源は妖魔力を甲羅に収束させることで甲羅を硬化させる「霊亀の鉄壁装甲」にある。
「霊亀の鉄壁装甲」によって強化された甲羅は名のある刀による斬撃ですら傷一つ付けることが敵わない。妖魔力以外に超常的な能力が存在しない『妖魔斬刀〜絆縁奇譚巻ノ二〜』においては厄介そのものの能力であり、凶禍霊亀も自身の甲羅に絶対の自信を持っていた。
もし、仮に凶禍霊亀が『妖魔斬刀〜絆縁奇譚巻ノ二〜』に登場していればゲームバランスを崩壊させる最強の敵となっていただろう。
では、凶禍霊亀が防御だけの敵かというとそうでもない。
凶禍霊亀のもう一つの武器は凶禍麒麟の地位を脅かしてしまうほどの圧倒的な火力である。
妖魔力を変換した霊的エネルギーの砲撃――「霊亀の砲哮」は凶禍麒麟の「光輝く麒麟の角」には一歩届かない威力ではあるものの接近せず遠距離から狙うことができるという利点があり、凶禍麒麟のように俊敏に動くことはできないという凶禍霊亀と極めて相性がいい。
寧ろ、接近する分だけ自分の身を危険に晒してしまう「光輝く麒麟の角」と違い接近する必要がない分、凶禍霊亀の方が強敵として映る可能性が高い。
だが、それは『妖魔斬刀〜絆縁奇譚巻ノ二〜』の世界での話だ。
「俊身、紙躱……砲撃は読みやすいし、回避も余裕だな! さて、お前の自慢の防御はどれほどのものか俺にたっぷりと見せてくれよな!! 神威神去」
剣に覇王の霸気を薄っすらと纏わせたオルパタータダは「刃躰」の要領で無数の斬撃を凶禍霊亀の甲羅目掛けて放つ。
『グ……グォォ! 何故、何故だ! 何故、我の甲羅を貫通してェ!!』
甲羅を貫いて背中に刻み込まれた斬撃の痛みに凶禍霊亀が絶叫する中、オルパタータダは心底がっかりしたという様子で剣を鞘に収めた。
「この程度かよ? ガッカリしたぜ……」
『グォォォッ!! この程度だと!? 馬鹿にしやがって!!』
オルパタータダの態度に激昂した凶禍霊亀が再び砲身に妖魔力を収束させる。
『霊亀の蜂の巣!! これで死にやがれ!!』
収束して光条として放つのではなく無数の霊力の砲弾のように変化させ、ガトリング砲のように無数の霊的エネルギーの砲撃をオルパタータダ目掛けて放ってくる。
頭で円を描きながら攻撃をすることで攻撃の範囲の分散させ、回避を難しくすることを狙った凶禍霊亀だったが、砲撃を前に目を瞑って視野を捨てたオルパタータダは寸分の狂いもなく躱し切って見せた。
「遅えな。欠伸が出ちまうぜ」
心底つまらなさそうに凶禍霊亀の攻撃を全て躱した直後、オルパタータダは神速闘気を纏って一気に加速――剣を抜刀すると同時に裏武装闘気で鞘を創り出して鞘に刀を納め、膨大な覇王の霸気を作り出した鞘の中に収束させていく。
「これで終わりってことはねぇよな!? 少しは攻撃を耐えて俺を楽しませろよ! 神裁!!」
オルパタータダは空歩を使って一気に凶禍霊亀の頭上に飛び上がると凶禍霊亀が上空に向けて放った「霊亀の蜂の巣」を全て紙躱と見気の未来視を駆使して躱し切り、空中でアクロバットを決めて頭から凶禍霊亀目掛けて飛び降りると押し留めていた刀身を一気に解放――電磁抜刀によって強化された強力な居合の一撃を凶禍霊亀の甲羅目掛けて放ち、甲羅諸共凶禍霊亀を粉砕した。
◆
「アクセラレーション・スパーク! アクセラレーション・ソニック! アクセラレーション・フラッシュ! アクセラレーション・ライトニング! アクセラレーション・ゴー・ビヨンド!! 神速闘気フルスロットルッ!! おいおいどうした!? その程度かよ!!」
ただでさえ神速闘気でスピードを底上げした上に次々とダメージを負う代わりに加速する魔法を発動して速度を高め、空歩を駆使して上空を駆けるレナードに凶禍鳳凰は内心恐れを抱いていた。
凶禍鳳凰は五凶悪獣の中で最も高い機動力を持つ。唯一の飛行能力持ちという優位性を持ちながら、単純な速度でも他の五凶悪獣の追随を許さない圧倒的な移動速度を誇り、その速度が五凶悪獣の自慢だった。
更にそこに妖魔力を翼に纏わせることでただでさえ素早い凶禍鳳凰の飛行能力を強化する『鳳凰の神速の翼』が加われば鬼に金棒――その速度に追随できる存在は誰一人としていない筈だった。
『と、捉え切れないッ! グォォ! なんて、なんて速度だ!! 速いッ! 速過ぎる!!』
凶禍鳳凰はその速度に耐え得るだけの圧倒的な視覚情報処理能力を持っていた筈だ。
しかし、そんな凶禍鳳凰の眼を持ってしてもレナードの姿を捉えることはできない。
『鳳凰の翼突撃ッ! 鳳凰の翼突撃ッ! 鳳凰の翼突撃ッ! 鳳凰の翼突撃ッ!!! 当たらないッ! クソ! もう一度! 鳳凰の翼突撃ッ!!』
そのため、凶禍鳳凰は狙いを定めることができず闇雲にレナードに攻撃を仕掛けていた。
勿論、レナードほどの手練れが我武者羅に放たれた突撃攻撃に撃墜されることなどある筈もなく、命中しそうな場面では全て紙躱を駆使して凶禍鳳凰の攻撃を躱している。
「今度はこっちから行くぜ!」
レナードは『滅焉剣』や『『滅焉銃』といった自身の切り札を切らず、ホルスターから抜いた振出式のオリジナル六連回転式二丁拳銃「妖銃・シュヴァルツドンナー&シュバルツシュラーク」を構えて次々と弾丸を射出する。
「妖銃・シュヴァルツドンナー&シュバルツシュラーク」は『滅焉剣』と『『滅焉銃』に比べれば流石に攻撃力は劣るが、「持ち主の闘気を強制的且つ過剰に引き出して銃弾に乗せる」という妖刀の如き性質を持ち、極めて制御が難しい代わりに並の拳銃よりも高い攻撃力を有していた。
更に弾丸の速度を上昇させる魔法「アクセラレーション・ショット」を付与することでただでさえ速い弾丸が更に加速されており、その速度は凶禍鳳凰が弾丸の射出と同時に『鳳凰の神速の翼』を使って回避をしようとしても命中してしまうほどである。
銃の存在を知っていたとはいえ、まさか自分の速度に追いつける筈が無いと思い込んで油断していた凶禍鳳凰は両翼に弾丸を浴びて一気に機動力を奪われた。
凶禍鳳凰が自身の身に最大の危機が迫っていることに気づいたのは翼を撃ち抜かれた後だった。飛行能力が大幅に落ち、飛んでいるのがやっとの状態になった凶禍鳳凰に追い討ちを掛けるように次々と的確な狙撃を行ってくるレナードに凶禍鳳凰は必死に抵抗し続けたが、手負いの状態でレナードの弾丸を躱すことができる筈もなく、六発の弾丸を両翼に撃ち込まれて完全に翼が動かなくなったタイミングを狙って凶禍鳳凰の心の臓を目掛けて放たれた七発目の弾丸が的確に凶禍鳳凰の急所を貫く。
天空の王者を自称する凶禍鳳凰は無数の羽を散らせながら音を立てて金色の城の床に撃墜される。
薄れゆく意識の中、最期に凶禍鳳凰が見たのは自身の支配領域だった筈の天空を完全に我が物とするレナードの姿だった。
◆
『まさか、ここまで辿り着く者が居たとはな。先日の無礼は謹んで謝罪しよう。妾は『管理者権限』を持たぬ汝らを低俗な人間と称したが、それは誤りだった。妾にとって汝らは全ての『管理者権限』を手に入れ、世界を支配するという野望を持つ妾に立ち塞がる大きな壁であった。改めて名乗ろう、妾は摩理冴。白面金毛九尾の狐とも呼ばれておる。汝らは妾の真名を呼ぶに相応しい武士達だ』
「俺はラインヴェルド=ブライトネス、ブライトネス王国の現国王で百合薗圓の一番の親友だぜ!」
「俺はオルパタータダ=フォルトナ、こいつじゃなくて俺こそが圓の一番の親友だ!!」
「……突っ込みどころが多過ぎるが、俺が突っ込むことじゃねぇし、別にいいか。俺はレナード=テンガロン、元冥黎域の十三使徒の一人で今はただの時空騎士だ。スピードに関しては誰にも負け無い自信があるぜ!」
『……まさか、一国の君主が二人もいるとはな。……というか、君主自ら戦場に立つということはあって良いことなのか?』
今までも傾国の美女として多くの君主達と付き合い国を破滅に導いてきたが、自ら剣を取って戦う王族に一度も会ったことが無かった摩理冴は分身体を消滅させた者の意外な肩書きを知り衝撃を受けた。
「まあ、色々とあって国を飛び出してオルパタータダともう一人と一緒に冒険していた時期があったんだ」
『妾が会った国王でもかなり珍しい部類だと思うぞ。妾の力でも取り入ることは難しかったかも知れんな』
と言いつつ最強の妖術『絶対魅了』であれば魅了も可能だっただろうと摩理冴はラインヴェルドやオルパタータダに取り入る、国を腐敗させていくもしもの世界を想像した。
しかし、摩理冴はラインヴェルド達に『絶対魅了』を使うつもりはない。
自身の領域まで無事に到達した者達には姑息な手を使わず正面から『妖魔斬刀〜絆縁奇譚巻ノ二〜』のラスボスとして戦い討ち滅ぼす――それが、摩理冴の流儀なのである。
『百合薗圓の仲間達よ! 『管理者権限』が欲しければ命を賭けて奪ってみせろ!!』
「五凶悪獣みたいに退屈な戦いはさせるなよ?」
『無論だとも! ――摩理冴、推して参るッ!!』
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それでは、改めまして。カオスファンタジーシリーズ第二弾を今後ともよろしくお願い致します。
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