Act.9-319 ペドレリーア大陸・ラスパーツィ大陸臨時班派遣再始動〜妖魔犇く未開の森と妖狐棲む火山帯〜 scene.2
<三人称全知視点>
未開の森での妖魔討伐は五日掛けて行われた。
周辺の集落への妖魔の襲撃を防ぐために燃え上がる火山帯へ進まず未開の森に留まることを選んだミリアム達だったが、ここで反対したのがラインヴェルド、オルパタータダ、レナードの戦闘狂達である。
彼らはスティーリア達の制止を振り切って燃え上がる火山帯に進んでおり、この場にはいない。
「【劇毒之王】――劇毒八岐蛇!」
「《影軀逆転》!」
「「ジュワイユーズ流聖剣術 覇ノ型 百華繚乱螺旋剣舞連!!」」
『《リーリエ様に捧げる殺戮者の一太刀》!! ……これで打ち止めのようですわね』
未開の森に侵攻していた最後の妖魔を討伐し終えてからスティーリアは念のために見気の範囲を未開の森全体に拡大して隠れ潜む妖魔がいないかどうかを探り、未開の森から妖魔の姿が完全に消えていることを確認してホッと溜息を吐いた。
「……さて、あちらはどうなっておるのかのぉ?」
『現在まで白面金毛九尾の狐が討伐されたという報告は上がっていないわ。……正直、もっと早く討伐報告が上がってもおかしくないとは思っていたのだけど』
「そういえば、ラインヴェルド陛下が執務中にボヤいていやがったな。白面金毛九尾の狐がどこにいるのか全然分からないって。見気を使っても全く見つからず、ずっと火山帯周辺の妖魔達を狩っているみたいだぜ」
「……陛下ほどの使い手が見気を使っても見つからないということは、何かしらの姿を眩ませる方法があるのでしょうね」
昨日の時点でラインヴェルド達が白面金毛九尾の狐を討伐していないことはアクアとディランの記憶と諜報員に報告が上がっていないことから裏付けが取れている。
五日目の時点でラインヴェルド達が白面金毛九尾の狐を発見して戦闘を行っている可能性が完全にない訳ではないが、未開の森に居ても仕方がないのでシトロリーナに未開の森の妖魔討伐の報告をした後、スティーリア達は燃え上がる火山帯を目指して北方へと進んだ。
◆
燃え上がる火山帯に踏み込んだスティーリア達を待ち受けていたのは無数の妖魔達だった。
といっても、最初にスティーリア達が未開の森に入った時に犇いていた妖魔の数に比べたら圧倒的に個体数が少ない。
「よっ、遅かったじゃねぇか!」
「儂らはお主らが火山帯に突入した後、未開の森の妖魔達の討伐に時間を割いていたからのぉ。……それで、そちらの戦果はどうじゃ?」
「全然だぜ。こっちも弱い妖魔ばかり。折角、白面金毛九尾の狐を倒せると思ったのに本当に残念だぜ」
「ラインヴェルド、オルパタータダ、レナード、お主らの日頃の行いが悪いからじゃな」
「なんで俺まで!?」
「ラインヴェルドとオルパタータダと一緒くたにされて俺までとばっちりを喰らってしまったじゃないか」と「まるで自分は関係ない」ととばかりにアピールするレナードにアクア、ディラン、ミリアム、アルベルト、スティーリアが揃ってジト目を向ける。
『……しかし、火山帯とは聞いていましたが、いくつもの活火山が連なっているのではなく無数の溶岩がまるで川のように流れている場所なのですわね』
「最初は巨大な火口の内部に拠点を作っているじゃないかと思っていたが、そういう隠れられそうな場所も無さそうなんだ。……妖魔の数からここに白面金毛九尾の狐の拠点がありそうだが、これだけ探し回っても見つからないしなぁ。まあ、結局虱潰しに火山帯を探し回りながら妖魔討伐をしていた訳だから、正直未開の森での妖魔討伐とあんまり大差なかったぜ」
レナード達は退屈で実りのない五日間を過ごしたと考えていたが、スティーリア達はそれを決して無駄な時間とは捉えていなかった。
白面金毛九尾の狐の拠点を見つけられていないため一見すると何も戦果がないまま五日間を過ごしたよう思えるが、裏を返せばすぐに見つけられない場所に拠点があるということである。
問題は「すぐに見つけられない場所に拠点がある」という情報をどのように利用して白面金毛九尾の狐の拠点を見つけるかだが。
『……そうね、あくまで仮説だけど白面金毛九尾の狐の拠点が異空間にある可能性があるんじゃないかしら? アメジスタさんは『管理者権限』には固有の異空間を生み出す力が備わっていると言っていたし、白面金毛九尾の狐がその異空間を拠点にしている可能性は高いと思うわ』
「つまり、拠点そのものではなく門みたいなものを探せばいいってことか? でも、その門を開きっぱなしにしている可能性は流石に……いや、待てよ? ラインヴェルド、オルパタータダ、妖魔の数が増えているってことはあるか?」
「体感だと徐々に減っているって感じだな。だけど完全には減り切らない。……まあ、どこかから湧いているとは思っていたが……なるほど、妖魔の湧き出すポイントに門があるってことか。……って、それって結局火山帯の妖魔を全部討伐するってことじゃねぇか!?」
「俺達は強い奴と戦いたくて火山帯に来たのになんでこんな目に!!」とラインヴェルドとオルパタータダが叫ぶ中、スティーリア達が中心となって火山帯の妖魔達を討伐していき――。
「……これで、最後か? たく、もっと歯応えがある奴と戦いたいぜ」
『ラインヴェルド陛下のお望みは間も無く叶いそうですわよ? 妖魔の出現を観測しましたわ。恐らくそこに拠点へと続く門があると思いますわ』
「よし、早速行ってみようぜ! ……というか、これって見気を使って妖魔達の記憶を読めば済む話だったんじゃねぇのか!?」
妖魔達を全て討伐せずとも拠点へと続く門があったことに気づいたオルパタータダが悔しそうにする中、スティーリア達は揃ってオルパタータダ達から目を逸らした。どうやら、ラインヴェルド、オルパタータダ、レナードの三人は最初から気づいて黙っていたらしい。
「これが拠点へ続く門か! よし、俺が一番乗りだ!!」
「ラインヴェルド、狡いぞ!!」
「ラインヴェルド陛下! オルパタータダ陛下! ちっ、先を越された!!」
状況を確認せず真っ先にラインヴェルドが門に飛び込み、次にオルパタータダ、レナードが門の中に突入していく。
「――ッ! 私達も――」
「アルベルト、儂らはここで待機じゃ」
ラインヴェルド達の後を追うように門に飛び込もうとしたアルベルトだったが、突入する寸前にミリアムの声に阻まれて踏み止まった。
「……ラインヴェルドもオルパタータダも強敵と戦えずに鬱憤が溜まっているようじゃ。この先は三人に任せ、儂らはここで三人の帰還を待つとしよう」
「まあ、でも退屈はさせてくれないみたいだぞ。……俺達にも楽しみは用意してくれているみたいだ」
アクアが視線を向ける先に突如として門が開き、二体の妖魔が姿を見せる。
一体は頭に牛のような二本角を持ち、下顎には山羊のような髭を蓄えた第三の眼を持つ瑞獣――白澤に似た姿をしており、もう一体は四本足で蝙蝠のような翼を持ち、足には三本の指を持つ竜の姿をした瑞獣――応竜の姿をしている。
どちらも吉祥を示す存在の姿をしており、厄災の象徴である四凶をモチーフとした六凶禍とは対極にある存在のように思えるが……。
『吉祥も反転すれば大いなる禍と化す。我らは五凶悪獣! 我は凶禍応竜! そして、こやつは凶禍白澤! しかし、よくぞ白面金毛九尾の狐様の城の門まで辿り着いた! 矮小な人間達にしてはなかなかやるではないか!』
『だが、貴様らの進軍もここまで! 我らは一度人間共に敗北した六凶禍とは違う!』
『『白面金毛九尾の狐様の真の腹心達の力、その身にとくと刻んで散れ!!』』
『――白澤の仙爪!!』
『応竜の怒號!!』
凶禍白澤は爪に黒いオーラを纏わせると地を蹴って加速――狙いを定めたアルベルトに攻撃を仕掛ける。
凶禍白澤の攻撃をアルベルトが武装闘気を纏わせた剣で防いだ瞬間、凶禍白澤の背後から凶禍応竜のブレスが放たれた。
凶禍白澤はアルベルトから素早く距離をとって凶禍応竜のブレスの攻撃範囲から逃れる。どうやら、二体の本命の攻撃は凶禍応竜のブレスの方だったらしい。
「――ッ!? 彼らの言うようにこれまでの六凶禍とは違うようですね。しっかりと連携を取ってくるなんて。霸気がなければ今ので死んでましたよ」
武装闘気の上から覇王の霸気を纏わせ、更に聖属性の魔力を込めた剣で凶禍応竜のブレスを両断したアルベルトはミリアムと共に同時に俊身と神速闘気を組み合わせて一気に凶禍応竜と距離を詰める。
『俺のブレスを斬るだと!? そんなことできる筈が!?』
「確かにお主らはこれまでの六凶禍とは違うようじゃ。しかし、儂らが警戒するほどの猛者ではない。……儂らを慢心したまま相手取ったことがお主の敗因じゃ。行くぞ、アルベルト!」
「はい、師匠!」
「「ジュワイユーズ流聖剣術 覇ノ型 百華繚乱螺旋剣舞連!!」」
流石の凶禍応竜もミリアムとアルベルトの霸気を纏った聖剣術をその身に浴びて生き残ることはできなかったようで、無数の肉片を散らせて命を落とした。
一方、凶禍応竜の相棒である凶禍白澤はというと……。
『なんだぁ? このキラキラと光る冷気は? 全然冷たくねぇぞ? そんな攻撃でこの俺を殺せるとでも本気で思っているのかァ?』
『……退屈ね』
『――ンあ? 何が退屈だって?』
『この戦いのことよ。あの独断専行は褒められたことではないわ。……でも、本気を出せない戦いを強いられて、本気を出せる戦いを飢えに苛まれながら求める気持ちも分からない訳ではないのよ。……わたくしが古代竜としての全力を見せるまでもない。この程度で十分』
『――なんだとォ!!!』
『凍結する大気』
激昂し、スティーリアに攻撃を仕掛けようとした凶禍白澤はそのまま周囲の大気諸共凍結させられ、完全に動きを封じられた。
薄れゆく意識の中、氷の中から凶禍白澤が見たものは心底がっかりとした表情のスティーリア。
『……その程度の氷も割れないのね。六凶禍よりも強いと言っていたけど、蓋を開けてみればこの程度。……これなら、ラインヴェルド陛下達も苦戦せずに白面金毛九尾の狐を倒せるんじゃないかしら?』
完全に興味を失ったという様子で背中を見せ、門から出現した他の妖魔達の討伐に向かうスティーリアを凶禍白澤が最後の力を振り絞って睨め付ける中、武装闘気と覇王の霸気を剣に纏わせたアクアとディランが同時に俊身を使って距離を詰めると凶禍白澤が二人の存在に気づく前に斬撃を放ち、凶禍白澤を包み込む氷諸共凶禍白澤を粉砕した。
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それでは、改めまして。カオスファンタジーシリーズ第二弾を今後ともよろしくお願い致します。
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