Act.9-317 ペドレリーア大陸・ラスパーツィ大陸臨時班派遣再始動〜フィクスシュテルン皇国に集まる血塗れ公爵に連なる者達〜 scene.1
<三人称全知視点>
時は少し巻き戻る。円華達が対ジェルエナ=コーツハートの準備を着々と進めている頃、ネスト、クレール、デルフィーナの三人は先代ラピスラズリ公爵家と『瑠璃色の影』一行の到着の知らせを受け、シトロリーナが提供してくれたアジトの一室に向かった。
ちなみに、クレールやデルフィーナと元々の所属の関係で昔から親しくしている汀はこの場にはいない。
クレールとデルフィーナは現在、フィーロとブルーベルと同じくラピスラズリ公爵家と圓の陣営に二重に参加しているという立場にある。
指揮権は次代の【血塗れ公爵】であるネストが持っており次代の【血塗れ公爵】の使用人としての活躍が期待されているが、圓の指揮下から完全に離れた訳ではないため、その立場はグレー。ネスト自身も敬愛する義姉ローザから貸し与えられた直属の部下という認識を持っていた。
一方、汀はビオラの裏の三大勢力の一角であるビオラ特殊科学部隊に正式に所属したルイーズとは異なり、アメジスタ、レナードと同じく三大勢力に所属しない圓に雇われた戦力という一種独特の立ち位置にある。
当然、ラピスラズリ公爵家の関係者ではないため、汀はラピスラズリ公爵家の関係者が集結する場に参加する立場ではないと考え、ネスト達の求めに応じるとなく円華達と共に対ジェルエナ=コーツハートの準備の協力に全力を尽くすことを宣言した(ラピスラズリ公爵家の危険人物達の集まる恐ろしい場に出席したくなくて逃走したという説もある)。
ネスト達に次いでシトロリーナの案内で部屋に入ってきたのはヴィルヘルミーネ=モンモランシーラヴァル元公爵夫人だった。
見た目こそ『社交界の白薔薇』の異名に相応しい上品な貴婦人だが、中身はあの殺しがないと暇で悲しむ性格破綻者――リスティナ=ラピスラズリである。
将来ラピスラズリ公爵家の使用人になるとはいえ、やはりどこか頭のネジが外れている他のラピスラズリ公爵家の者達とは違い常識的な感性を持ち合わせているクレールとデルフィーナ、【血塗れ公爵】に相応しい残虐さをネスト自身も気づかないうちに会得したとはいえまだまだ常人寄りのネストは『狂人』の到着の報を受け、気を引き締めた。
「貴方が次代の公爵家を引き継ぐネストね。ビオラとやらの諜報員からお話を聞いてからお会いできるこの日をとても楽しみにしていたわ」
「お初にお目に掛かります、ヴィルヘルミーネ様。……いえ、先代公爵夫人とお呼びすべきでしょうか? 僕はネスト、こちらは使用人のクレールさんとデルフィーナさんです」
「ラピスラズリ公爵家の次代を担う使用人達ね。なかなか趣味がいいわね。……いえ、我々と貴方達では在り方が全然違うのかしら?」
「僕はラピスラズリ公爵を引き継ぎますが、【ブライトネス王家の裏の剣】の役割を引き継ぐつもりはありません。僕はブライトネス王家を先代公爵や現公爵のようには愛することができませんから。僕は僕の大切な人――義姉、圓様のための毒剣として継承した力を使わせてもらうつもりでいます。勿論、義父上も了承した上で僕を後継者に選んでくださいました」
「ビオラとやらの諜報員から色々と話は聞かせてもらったわ。ラピスラズリ公爵家は次代で大きく形を変えることになり、ラピスラズリ公爵家の担ってきたブライトネス王家の毒剣の役割は裏の三大勢力の一角――ビオラ商会合同会社警備部門警備企画課諜報工作局、諜報部隊フルール・ド・アンブラルが引き継ぐことになる。……彼女達は我々ラピスラズリ公爵家が手を出せなかった王家の深くまで入り込んでしまった毒の除去をすることもできる一方、心からブライトネス王家に心酔する者達ではない。その力がブライトネス王家に向かう可能性があるとなると私は正直不安だわ」
「義姉上はラインヴェルド陛下を友人と呼びました。そして、友人が困っている時にはできる範囲で力を貸したいとも仰っています。義姉上がラインヴェルド陛下を友と呼び続ける限り、或いはブライトネス王家と義姉上が敵対するようなことか起きない限り、先代公爵夫人の危険視するような状況にはならないと思います。……まあ、もしそのような状況になった場合は僕達も義姉上側として参戦する覚悟を決めていますけどね。例え、ラピスラズリ公爵家と対立することになったとしても」
「やっぱりあの諜報員さんの言っていた通りね。本当に貴方の義姉のことを――百合薗圓様のことを心から愛しているのね。試すような真似をして本当に申し訳無かったわ。……まあ、貴方達と戦うのもそれはそれで楽しそうだけど」
「ラピスラズリ公爵家との対立は正直、僕は回避したいですけどね。……多種族同盟には時空騎士というシステムがあります。義姉上か、それともラインヴェルド陛下かは分かりませんが、近々時空騎士への推薦の話があると思いますので、もし時空騎士になった暁には公式戦の場で是非手合わせをお願いします」
「えぇ、時空騎士の話も聞いているわ。わたくしも猛者達とギリギリの戦いができる日をとても楽しみにしているわ」
「ネスト様、ヴィルヘルミーネ様、クレール様、デルフィーナ様。先代ラピスラズリ公爵家と『瑠璃色の影』の皆様が到着なされました」
諜報員の一人がネスト達に先代ラピスラズリ公爵家と『瑠璃色の影』の面々の到着を告げたことでネストとヴィルヘルミーネの顔合わせは無事に終わりを迎えることとなった。
「不思議な気分ね。わたくしもリスティナの記憶を持っているのに、目の前にリスティナ――もう一人のわたくしがいる」
「わたくしも不思議な気分だわ。メネラオスとベルデクトもこんな気分だったのかしら?」
「これで奥様の転生者とも合流できたし、残る主要メンバーはあの『執刀』馬鹿とクイネラだけだね」
「……アリエル、ここに私がいることをすっかり忘れていないかい?」
アリエルに「『執刀』馬鹿」呼ばわりされたシュトルメルトが剣を構え、アリエルに加勢したアンタレスとアリエルに殺気を向けた。
「あら、もしかして彼女がアンタレスの転生者? 随分と可愛くなったわね」
「「奥様! 本当にそうなんですよ! アンタレスさんも随分と可愛くなっていますけど、アノルドさんも捨て難いんですよね!!」」
「そういう貴女はマイルの転生者ね」
「奥様、奥様! それでですね! 遂に憧れのメイド長と本当の姉妹になれたのですよ!!」
「奥様、ご挨拶が遅れて申し訳ございません。ミッチェル・レイホルンと申します。こちらはレイチェル・レイホルンです。今後は姉妹共々奥様にも仕えさせて頂きますのでよろしくお願いします」
「となると、残るはローランドの転生者ね」
「エルネスティ・ライファレドと申します。今世でもよろしくお願いします、奥様」
「残るアノルドは今世で新たに加わった仲間だ。実に面白い子だよ」
「初めまして、アノルドさん。これからよろしくね」
「はい、こちらこそよろしくお願いします。奥様」
こうして一通り挨拶が終わったところでネスト達は退出して皇城に戻り、アジトの一室にはヴィルヘルミーネ、先代ラピスラズリ公爵家と『瑠璃色の影』の面々だけが残されることとなった。
部屋から一時退出していた諜報員のフェオドラが部屋に戻り、机の前に地図を広げた。
「改めまして、諜報員のフェオドラと申します。本日付けで先代ラピスラズリ公爵家、『瑠璃色の影』の皆様に同行し任務の補助を行う任を承りました。短い間ですが、よろしくお願いします。では、早速ですが今回の任務について説明させて頂きます。ラスパーツィ大陸においては既に四つのグループがそれぞれ別行動を取っています。フィクスシュテルン皇国に留まりジェルエナを迎え撃つフィクスシュテルン皇国残留班、エイミーン様、マグノーリエ様、プリムヴェール様、レミュア様、シーラ様、ラファエロ様が参加されているサンアヴァロン連邦帝国に向かう班、菊夜様、沙羅様、雪菜様、黒華様、桃花様、篝火様、美結様、小筆様、ミーフィリア様が参加されている海洋都市レインフォールに向かう班、そしてラインヴェルド様、オルパタータダ様、アクア様、ディラン様、レナード様、ミリアム様、アルベルト様、スティーリア様が参加されている未開の森から燃え上がる火山帯に掛けて探索する班です。皆様にはこれら四つの班が対応していない残る小国での任務をお願いしたいと思っております。内容は妖魔の討伐と国内に潜む『這い寄る混沌の蛇』の信徒・蛇導士の討伐です。基本的には妖魔は通常の討伐、『這い寄る混沌の蛇』の信徒・蛇導士に関しては関係者のみを的確に闇討ちして頂きたいと思っております。凄惨な殺しの方は妖魔の方でお楽しみください」
「あらあら、わたくし達が請け負う範囲は随分と広いわね」
「任務が全て終わり次第、皆様には未開の森から燃え上がる火山帯に掛けて探索する班と合流して頂くことになります。……人数の振り分けは皆様にお任せ致しますので、ラインヴェルド陛下達との速やかな合流を目指されるのであれば可及的速やかな任務の達成をお勧めします」
「普通に考えてこれだけの人数を集中させる必要はないし、分散させることになると思うのだけど……その場合ってそちらは対応できるのかしら?」
「クイネラ様、ご心配には及びません。皆様には私に直通の連絡用端末をお渡し致しますし、それぞれの国にはそれぞれ潜入している諜報員がいますので、彼女達が必要に応じてフォローに入ります」
「となると、やはり少数精鋭で速やかに終わらせた方がいいね。ベルデクト、すぐに二人で人選を終わらせてしまおうか?」
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それでは、改めまして。カオスファンタジーシリーズ第二弾を今後ともよろしくお願い致します。
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