Act.9-313 ペドレリーア大陸・ラスパーツィ大陸臨時班派遣再始動〜サンアヴァロン連邦帝国の愚かな第一皇子に囁く蛇〜 scene.13
<三人称全知視点>
「その種は飲み干せばカスティール殿下に皇帝に相応しい力を授けてくれることでしょう。それでは私は城下に湧いた敵を一掃して参りますので失礼致します」
「おっ、おお……頼んだぞ、オーギュロー」
何一つ状況を理解できないまま生返事を返すとオーギュローは窓から外へと飛び出した。
常人であればそのまま落下して死亡するところだが、空歩を駆使して五体満足のまま地上に降りる。
その姿を意外そうに見ていたのはダフネ達だ。
騎士達を魔法で自在に操ることができるオーギュローはそのまま騎士達に敵の殲滅を任せて城の内部に留まっていることもできた筈だ。寧ろ、ここで城下へと降りるのは悪手である。
自身が倒されれば魔法が解けてしまい、カスティールは劣勢に立たされてしまう。それは、カスティールの配下として潜入しているオーギュローにとっても不本意なことの筈だ。
それに、前線に立てば自らの命を危険に晒すことになる。騎士を操って同士討ちをさせるという作戦と、自らが戦場に立つというオーギュローの取った行動は明らかにミスマッチ。
そのオーギュローの真意を探るべくダフネは思考を巡らせていくが……。
「お初にお目に掛かります。私は『這い寄る混沌の蛇』所属、最高幹部――冥黎域の十三使徒が一人、オーギュロー=ドレッゼフ。以後お見知り置きくださいませ」
「まさかの冥黎域の十三使徒なのですよぉ〜!!」
あまりにも予想外なオーギュローの肩書きにエイミーン達は驚き、警戒レベルを数段引き上げる。
ラスパーツィ大陸からティ=ア=マット一族は撤退済みである。そのため、『這い寄る混沌の蛇』にとってのラスパーツィ大陸の重要度はそこまで高くはないのではないかと圓達は考えていた。
勿論、『這い寄る混沌の蛇』の戦力がラスパーツィ大陸から完全に撤退している訳ではない。実際、ラスパーツィ大陸の各地では混沌の指徒なる者達が確認されている。
しかし、その混沌の指徒は彼らの上司である冥黎域の十三使徒ロベリア=カーディナリスが同時多発的に騒ぎを起こして多種族同盟の戦力を分散させ、本丸であるペドレリーア大陸に戦力を集中させないための策として配置された可能性が高く、ロベリアを中心とする冥黎域の十三使徒クラスの『這い寄る混沌の蛇』の最高戦力は聖夜祭に投入されることになる筈であるというのが圓達の予想であった。
その予想を根底から覆す冥黎域の十三使徒――勿論、ダフネ達にとっては想定外の状況だった。
一方で冥黎域の十三使徒はそれぞれがそれぞれの目的のために動いている一枚岩の組織とは対極にあるような者達――ロベリアの思惑とは別のところでこのオーギュローが動いていた可能性も十分にあり得る。
「ああ、私はロベリアとは無関係ですよ。候補生から繰り上がりで冥黎域の十三使徒になったあの少女は私の上司ではありませんので、協力をしてあげる義理もありませんし。まあ、同じく潜入していた蛇とは連絡を取り合っていましたが、所詮はそれだけです。……本来ならば騎士達と貴方方を同士討ちさせるべきところですが、生憎と私は彼らの力を信じ切れるほど純粋ではありませんので、自らの手で業務を遂行させて頂きたいと思います」
「皆様、私は騎士達を無力化致しますので、オーギュローの討伐をお願いします!」
銃型の魔法デバイスを取り出したダフネは時空魔法「時間停凍」を発動して暴走状態に陥った騎士達の時間を停止させていく。
「素晴らしい時空魔法ですね。そして、時空魔法で動きを封じるという判断を即時に下せるのも素晴らしい。……その様子だと『紫色の操糸』も容易に解除されてしまいそうですし、私が直接戦場に赴く判断は正しかったようです。――では、私の魔法をお見せしましょう。古の時代より現世に蘇り、我が敵を蹂躙せよ。偉大なる牙像」
オーギュローの掌から放たれた時空属性の魔力は地面に落下すると同時に魔法陣を形成する。
魔法陣から現れたのは濃厚な魔力を纏ったマンモスに似た魔物だった。職業柄ベーシックヘイム大陸に出現する魔物をほとんど全て把握しているダフネにも見覚えのない魔物は雄叫びを上げながらエイミーン達に突撃攻撃を仕掛けてくる。
「私は魔物使い、その中でも既に絶滅した古代の魔獣を使役する古代魔物使いです。絶滅したということは時の流れの中で淘汰されたということ。しかし、だからといって古代の魔物が現代の魔物に劣ると決まっている訳ではありません。獰猛なる闇。さあ、闇を纏って凶暴化した偉大なる牙像の力をとくとご堪能くださいませ」
理性と引き換えに圧倒的な力を手にした偉大なる牙像の牙に青い炎が宿る。
突撃攻撃から炎を纏った牙による攻撃に繋げてくると予想したプリムヴェールは月属性の魔力を細剣に宿らせるとエイミーンを庇うような位置で偉大なる牙像と対峙した。
「ムーンライト・ラピッド・ファン・デ・ヴー」
偉大なる牙像が天高く青白い魔力を打ち上げて降り注がせた無数の青い雷撃を纏った武装闘気と覇王の霸気で防ぎ、細剣で円を描いて中心を突く形で突撃して刀身を巨大化させたプリムヴェールは灼熱の牙を槍の如く突き出してきた偉大なる牙像目掛けて巨大化した細剣の切っ先を突き刺す。
衝撃で偉大なる牙像の上半身が吹き飛ばされ、無数の肉塊を散らす……が、オーギュローにとっては予想の範囲内の展開だったらしく、偉大なる牙像が撃破されても全く動じる様子はない。
「古の時代より現世に蘇り、我が敵を蹂躙せよ。始祖なる翼鳥」
ダフネが半数の騎士達を無力化した頃、オーギュローが二体目に召喚したのは始祖鳥に似た魔物だった。
勿論、この魔物もダフネの記憶にはない。
主人である圓に聞けば何か分かるかもしれないとダフネは攻撃を仕掛けてくる騎士達を無効化しつつ始祖なる翼鳥に視線を向けてその姿を目に焼き付ける。
「漆黒の槍! 地獄の火柱!!」
「闇夜の翼! 断光の暗黒剣!!」
オーギュローが召喚可能な残る戦力の数はシーラ達には分からない。それどころか、時空召喚魔法の仕様すら分からない状況である。
事前に過去から魔物を連れてきて調教しているのか、魔法で過去から魔物を召喚して特殊な使役魔法で即座に使役しているのかすらも不明の状況では魔物を全て討伐することでオーギュローの戦力をダウンさせることが可能かどうか断言することができない。……もし、後者であるならば最悪の場合、魔力が続く限り半永久的に古代の魔物達を召喚できる可能性が浮上してしまう。
このままオーギュローが召喚する魔物達と戦うのは本当に正しい選択なのだろうか? 明らかにオーギュローのペースに乗せられている戦況を打破するためにシーラとラファエロが取ったのはオーギュローを直接狙うという至極当然の戦法だった。
これ以上召喚獣を呼ばれないために召喚者を狙うのは対召喚士戦の定石である。しかし、召喚士との戦いで(余程の例外でない限りは)召喚士が弱点となる以上、召喚士側も何も対策を打たないということはない。その対策とは具体的には召喚獣が弱点である召喚士を護衛するように立ち回り方を変えるということである。
しかし、オーギュローは召喚使役している魔物達に攻撃だけを命じており、更に「獰猛なる闇」で理性を奪っていた。その状況下では流石にオーギュローを守ろうという行動は取れない筈だ。
予想通り、始祖なる翼鳥の意識はエイミーン達に向けられており、オーギュローに攻撃を仕掛けているシーラとラファエロには全く反応ができていない。
「汝、六属性の一角を担う火の精霊王よ! 今こそ契約に従い、我が下に馳せ参じ給え! 精霊召喚・イフェスティオ!」
「『紅煉の断罪!!』」
始祖なる翼鳥の口から放たれた氷のブレスはイフェスティオを召喚したレミュアがイフェスティオと共に放った灼熱の炎に阻まれて無力化される。
その隙を突き、マグノーリエが放った「暁の流星群」によって始祖なる翼鳥は全身を光に貫かれて命を落とした。
「三体目を召喚したいところですが、どうやらその時間はないようですね。――では、これにて今回の業務を終了致します。残念ながら道半ば……次こそはこの腐り切った世界に私が味わった以上の苦しみを刻み込みたいものですね。……それでは、この理不尽な世界に終焉を!! 大自爆!!」
オーギュローにシーラの放った闇の火柱と闇の槍、ラファエロの斬撃が命中する寸前のタイミングでオーギュローは自爆魔法を発動して膨大な魔力を自身の中心に収束――城全体を吹き飛ばしてしまうほどの猛烈な爆発を巻き起こした。
「や、ヤバいのですよぉ〜!! 空間転送!!」
「「第四防衛術式!!」」
爆心地に近く確実に消し炭になってしまうラファエロとシーラをエイミーンが時空魔法で遠距離に転移させた後、エイミーンとマグノーリエが時間的、空間的に断絶を一時的に発生させることで一切の攻撃を遮断する究極の物理防御を展開して爆発から身を守る。
幸い、「第四防衛術式」が上手く働いて味方側の死者無しという最小限の被害で食い止めることができたものの、一歩間違えば死んでいた(まあ、『生命の輝石』で蘇ることはできるのだが……)シーラとラファエロの顔からは完全に血の気が引いて顔面蒼白になってしまった。
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それでは、改めまして。カオスファンタジーシリーズ第二弾を今後ともよろしくお願い致します。
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