Act.9-312 ペドレリーア大陸・ラスパーツィ大陸臨時班派遣再始動〜サンアヴァロン連邦帝国の愚かな第一皇子に囁く蛇〜 scene.12
<三人称全知視点>
カスティールの命令を受けた騎士達は城の上空付近までやってきた飛空艇に弓矢による攻撃を仕掛けるが、放たれた矢は当然ながら飛空艇の高度にまで矢は届かずに無情にも地上に落下する。
「あっ、あんなのどうやって撃ち落とせというんた!」
「こういう時こそ砲の出番だろ! 砲撃隊に出撃させろ!!」
サンアヴァロン連邦帝国では最近になって火薬を使った武器が開発された。
元々は騎士の練度で他の国を圧倒していたサンアヴァロン連邦帝国だが、火器という近代兵器を得たことで戦力はこれまでとは比較ならないほど増すことになり、以前であれば不可能だと考えられていたサンアヴァロン連邦帝国による大陸全土の支配も現実味を帯びてきている。
この火器の出現がカスティール達戦争派の追い風の一つとなっていたことは間違いなかった。
「砲撃隊、構え!! 撃てぇ!!」
「……天に向かって唾を吐くが如くという言葉を知らないのでしょうか?」
砲撃隊の狙撃を冷たく見下ろすのはダフネだ。
砲撃隊の放った砲弾はダフネの言葉通り、飛空艇に着弾せずに地上に落下する。
ただ落下するのであれば問題は無かったかもしれない。しかし、狙撃を失敗した砲弾のいくつかは城壁などに着弾して大きな被害を出しており、飛空艇の狙撃に悉く失敗して城に甚大な被害を出していた。
任務を全うできないどころか城に損害を出している砲撃隊に対して執務室から顔を出したカスティールが罵倒をぶつけている。
砲撃隊は最近になって組織され、実戦経験は皆無。練度はお世辞にも高いとは言えないため、ぶっつけ本番の砲撃で失敗することも致し方がないのだが、カスティールがそのような砲撃隊の現状について知る筈もなければ、知ろうとする筈もない。
「どうなさいますか? こちらも砲撃を仕掛けることもできます。魔導収束主砲による狙撃はお勧めですね。城のほとんどを一瞬にして消し去ることができます」
「……砲撃はやめてくれ。父上や臣下達まで吹き飛ばされてしまう」
「では、砲撃はやめて直接乗り込むことに致しましょう。……本当に威嚇射撃は必要ないのですね」
「……ダフネ殿、目を輝かせながら機関銃の起動スイッチに手を乗せるのはとりあえずやめておいた方がいいのではないだろうか?」
「やっぱりこの人も戦闘民族だったのか」とプリムヴェールは内心溜息を吐いた。
「ダフネ殿、城の上空まできましたがどのように着陸するのですか?」
「ヴォガスレス宰相閣下、逆に問いますが場内に着陸できる場所があると思いますか? 中庭などを破壊して着陸は可能ですが、入り口は一つしかありませんから降りたところを狙われて終わりですよ。この飛空艇は自動運転で帰還してくれますので覚悟決めて飛び降りましょう。ちなみに、パラシュートと風の魔法、どちらがお望みですか?」
「……できれば飛び降り以外の方法をお願いしたいのだが」
「ヴォガスレス、残念ながら無理そうだ。……既にエイミーン女王陛下とレミュア殿、シーラ殿とラファエロ殿が飛び降りた」
「やっほぉ〜なのですよぉ〜!! スカイダイビングッ!! なのですよぉ〜!!」などと叫びながら真っ先に飛び降りたエイミーンに続き、レミュアが軽やかに飛空艇のハッチから飛び降り、その後を追うように覚悟を決めたシーラとラファエロが飛び降りる。
残っているのはマグノーリエとプリムヴェール、ダフネの三人だけだ。
「あの……もしよろしければ私とプリムヴェールさんで地上まで運びましょうか? 私達には妖精の翼がありますので、飛び降りるよりはマシだと思います」
「……よろしく頼む」
「……ありがとう、マグノーリエ王女殿下、プリムヴェール殿」
女の子二人にお姫様抱っこされるという男のプライドをズタボロにされるような状態でマシャルドとヴォガスレスは人生初の(二人にとっては最後にしてもらいたい)スカイダイビングを体験することになった。
「行ってらっしゃいませ」
「「うぁぁぁぁ――ッ!!」」
淑女然とした表情で会釈をするダフネがマシャルドとヴォガスレスにはまるで悪魔のように見えた。
二人がマグノーリエとプリムヴェールにお姫様抱っこされて地上までゆっくりと降りていく中、飛空艇を自動運転に設定した後に思いっきり飛び降りたダフネはマグノーリエとプリムヴェールを追い抜き、頭から飛び降りたダフネはくるっと空中で一回転を決めながら空歩の技術を応用してフワリと地上に舞い降りる。
「マシャルド第二皇子殿下!? ヴォガスレス宰相閣下!? 何故こちらに!! エルジューク監獄に囚われている筈では!?」
「ちっ……そいつらは罪人だ! エルジューク監獄から脱獄した不届き者を速やかに捕えろ!! 罪人を脱獄させたそいつらも同罪だ!!」
「兄上は、父上に毒を盛りこの国を戦争に向かわせようとしている! 皆の者、武器を収めよ!!」
「――貴様ら、俺の言葉が聞けないというのか!?」
「皆の者、どうか私達のことを信じてくれ!!」
カスティールとマシャルド――どちらの言葉を信じるべきか分からなくなった騎士達は困惑し、動きを止める。
その隙をつき、マグノーリエとプリムヴェールはカスティールとマシャルドを抱えたままダフネ達と共に神速闘気と俊身を駆使して高速移動で城内に攻め込む。
「くっ!! 何をやっている!!」
「しっ、しかし……第二皇子殿下と宰相閣下を傷つける訳には……」
「アイツらは逆賊だ! とっとと殺せ!!」
第一皇子のカスティールと第二皇子のマシャルド――どちらが国のことを心から大切に思っているかは一目瞭然だった。
更にマシャルドはカスティールこそが皇帝ゲルネイーラ三世に毒を盛った犯人であると証言した。もし、それが事実であればカスティールは皇帝を殺害して皇位を簒奪しようとした逆賊に他ならないということであり……。
「あのカスティールという男はマシャルド第二皇子殿下とヴォガスレス宰相閣下に濡れ衣を着せるために偽の証拠をでっち上げました。担当した刑務官を拷問に掛けなさい、そうすれば金を積まれて証拠を捏造し、その証拠でお二人を罪人に仕立て上げたことを自白するでしょう」
「くっ……そこのメイド! 何を根拠に!! 出鱈目だ!!」
「あら、そんなに慌ててどうしたのですか? ……適当に言ったのですが、もしかして図星でしたか? ああ、今ちゃんと記憶を読み取らせて頂いて裏は取れたのでご心配なく。カスティール第一皇子殿下、貴方はオーギュローと名乗るその男に貰い受けた毒を使って皇帝ゲルネイーラ三世を昏睡状態に陥らせた。そして、少しずつ死に近づく皇帝ゲルネイーラ三世の名代として政治手腕を振るいつつ、邪魔なマシャルド第二皇子殿下とヴォガスレス宰相閣下に濡れ衣を着せたのですね。……そして、見事にオーギュローの手の上で踊らされた貴方は大陸戦争に向かって突き進んで行った。彼の目的はサンアヴァロン連邦帝国の滅亡ですよ。サンアヴァロン連邦帝国の領土を拡張させつつ、その強行的な政治方針に怒りを覚えた自国民や踏み躙られた国の民達の怒りを発火させて革命へと向かわせる――大陸全てを悲しみの雨で濡らす『這い寄る混沌の蛇』の計略にまんまと乗せられて、随分とお莫迦さんのようですね」
「俺がオーギュローに乗せられた、だと!? この俺が!? そんな訳がないだろう! 俺は皇帝に誰よりも相応しい男だ! 見る目のない父上はマシャルドこそが皇帝に相応しいなどと戯言をほざいたが、結果を考えてみろ! 戦争で我が国の領地は広がって行こうとしている!! 俺の力で国がどんどん豊かになって行っているのだ!! マシャルド、ヴォガスレス、貴様らは邪魔だ!! 騎士達よ、国のために逆賊を始末せよ!!」
「カスティール第一皇子殿下、それはできません。マシャルド第二皇子殿下の仰っていることの検証をしなければなりません。どちらが正しいか今の我々には分かりかねます。ですから、見極めるまで我々はどちらの味方も致しません」
次々と武器を捨てる騎士達。そんな彼らを代表するように鋭い眼光をカスティールに向けたのはホーク=ヴォイルド騎士団長だった。
領土拡張派に区分されるヴォイルド侯爵がマシャルド達の味方をしたことにマシャルドとヴォガスレスが驚く中、カスティールは「くそっ、くそっ、くそっ!!」と駄々っ子のように地団駄を踏んだ。
「なんとかしろ! オーギュロー」
「……承知致しました。それでは業務開始です」
オーギュローは執務室の窓から顔を出すと同時に黒み掛かった紫色の輝きを糸のように変化させて伸ばす。
それに呼応するように騎士達が呻き声を上げ、彼らの胸元から無数の糸が伸び始めた。
ホーク達から出現した糸とオーギュローが作り出した糸が触れ合った瞬間に糸は繋がり、肉眼で捉えきれないレベルまで細くなる。
「「「「「グォォォ!!」」」」」
「オーギュロー!! 一体何をしたんだ!!」
ホーク達の異変にカスティールまでもが怯える中、オーギュローは顔色一つ変えずに糸を操作する。
「紫色の操糸。闇属性の魔法で事前に仕込みは必要ですが、様々な生物を望み通り操ることができます。ただ、肉体にかかる負担は大きいのであまり長時間使用すると命の危機に陥りますがね。カスティール第一皇子殿下、貴方は皇帝になるのでしょう? だったらあらゆる手を使うべきではありませんか? 今更倫理的に、などと言っている場合ではありませんよね? 私の魔法で支配した彼らに攻撃をさせます。ですが、彼らも突破される可能性が高い。そこで、カスティール第一皇子殿下にこちらを差し上げます」
「なんだ……これは?」
「殿下に最強の軍事国家サンアヴァロン連邦帝国の皇帝に相応しい圧倒的な力を与えるアイテムです。どうぞ、お納めくださいませ」
オーギュローはニコリともせず禍々しい種に似たもの――魔人の種子をカスティールに差し出した。
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