Act.9-309 ペドレリーア大陸・ラスパーツィ大陸臨時班派遣再始動〜サンアヴァロン連邦帝国の愚かな第一皇子に囁く蛇〜 scene.9
<三人称全知視点>
エルジューク監獄からマシャルドとヴォガスレスを脱獄させたダフネ達は転移魔法てナガス辺境伯領に戻ってきた。
「……お久しぶりでございます、マシャルド皇子殿下、ヴォガスレス宰相閣下」
ダフネ達のことをまるで幽霊でも見たかのように驚いたジャビスだったが、一瞬の動揺を隠して平静の態度を装った。
「ジャビス様、顔が真っ青ではありませんか。……まあ、それもその筈ですよね。私達を一網打尽にするための罠が牙を剥き、今頃私達はあの世にいっている筈なのですから。ご安心を、エルジューク監獄に仕掛けられていた罠は全て真っ正面から食い破りましたわ」
「さて……ダフネ殿、何を仰っているのか私には皆目見当がつきませんが」
「あの場にエルジューク監獄の署長イソトマ=シャロイツァーが居るのは当然のことですが、流石に混沌の指徒である朦朧とした影や奈落迦四天王までいるのは少々出来過ぎた話です。私達がエルジューク監獄に行くタイミングを知っていなければ戦力を集中させることはできません。いつ仕掛けてくるかも分からないのですから。その『いつ』の情報を仕入れることができたのはジャビス様しかいない。……勿論、ジャビス様を裏切り者扱いするつもりではありません。脅されて仕方なく彼らに協力したのですよね? ナガス辺境伯夫人のウィレミア様とナガス辺境伯令嬢のパメラ様を人質に取られて」
「ウィレミア嬢とパメラ嬢が人質に!? ダフネ殿、それは本当なのか?」
「まさか、そこまで私の状況を把握していたとはな。……すまない、最愛の妻と娘を人質に取られた私にはこうするしか無かった」
ヴォガスレスがジャビスの妻子が人質に取られていることを知って驚く中、ジャビスはあっさりとダフネの指摘を認めて謝罪した。
「心中お察ししますわ。……さて、そうなるとジャビス様を脅し、我々がエルジューク監獄に仕掛けるタイミングを聞き出してエルジューク監獄にいる仲間に情報を伝えた者が何者なのかという疑問が残りますね。いえ、もしかしたら我々にジャニス様が協力してくれたのもその何者かの指示だったのかもしれませんが。ナガス辺境伯夫人のウィレミア様とナガス辺境伯令嬢のパメラ様を人質に取り、エルジューク監獄に戦力を集中させた上で協力するフリをして我々を纏めて消すことを目論んだ人物――アーモグド執事長、貴方ですね」
「はて、何を根拠にそのようなことを仰るのですか? 何か証拠があるとでも」
ダフネに名指しされたアーモグドは余裕そうに微笑を浮かべながらジャビスに視線で釘を刺した。
「証拠は残念ながらありませんわ」
「私は長きにわたりこのナガス辺境伯家に仕えてきました。その忠誠心を軽々しく疑わないでもらいたいものです」
「ですが、証人はいます。先程、二名確保したという連絡を受けました」
「――なっ!?」
「証人を二人!? まさか、それは――」
余裕たっぷりのアーモグドの表情が崩れ、アーモグドは忠実な執事の仮面を投げ捨ててダフネを睨め付ける。
そして、ジャビスは証人の正体を察して驚き、そして目にいっぱいの涙を浮かべた。
「先程連絡を受けましたので、そろそろこの場にお呼び致しましょう。《蒼穹の門》」
ダフネが掲げた短剣を床に突き刺すと同時に眩い輝きが視界を塗り潰す。
「――ウィレミア! パメラ! すまない、助けに行けなくてッ!!」
「いいのよ、あなた。私達のためにあなたも頑張っていたことをリコリス様から聞いたわ」
「お父様!!」
「リコリス様、出張お疲れ様です。運用実験の方はいかがでしたか?」
「正直、あまり良いデータは取れませんでしたね。やはり、強敵相手でなければ満足いく戦闘データは取れないのでしょう。まあ、今回は突然の初陣で大した準備もできませんでしたから、次はしっかりと準備をして戦闘データを取らせて頂こうと思います」
リコリスはウィレミアとパメラを連れて転移した後、ダフネと言葉を交わしてからすぐに転移魔法でナガス辺境伯の屋敷から姿を消した。
「……先ほどの女性抜きで私に勝てるという判断ですか?」
「認めるのですね? 貴方がジャビス様の妻子を人質に取って脅し、今回の件を企てたことを」
「……えぇ、貴女達が動いたせいで色々と計画が崩されてしまいました。ここまで来るのに何十年も掛かったというのに。……この状況からの計画の建て直しは不可能です。ならば、私の正体を知った者全てをこの場で殺害し、一からやり直すまでです。サンアヴァロン連邦帝国諸共大陸を混沌に陥れる――我ら『這い寄る混沌の蛇』の野望を阻む者はここで消し去ります!」
本性を表したアーモグドは間近にいたじゃビスに狙いを定めるが、人質を取ろうとしたアーモグドとジャビスの間に割って入ったシーラが闇属性の弾丸を放ってアーモグドを妨害――その隙にアーモグドがウィレミア、パメラ、マシャルド、ヴォガスレスを連れてジャビスの執務室から撤退、続いてシーラに助けられたジャビスも執務室から撤退し、戦場にはアーモグド、エイミーン、マグノーリエ、プリムヴェール、レミュア、シーラ、ラファエロ、ダフネが残されることになった。
「屋敷にはアーモグドの仲間はいないようです。……さて、人選はどうしますか? 先程は無理を聞いて頂きましたので、アーモグドは皆様にお譲りしたいと思いますが」
「だったら私がもらうのですよぉ〜!!」
「……お母様、相変わらず戦闘狂ですね」
「こういうのを医学用語でステージⅣbと呼ぶのだな」
「……プリムヴェールさん、それ医学全般の用語というより癌のステージを示す狭い用語だと思うのだけど。でも、確かに切除不可能という意味では正しいかしら? でも、ステージⅣbでもまだ助かる見込みがある場合もあるから、この場合に正しいのは末期という表現だと思うわ」
「……プリムヴェールさんもレミュアさんも何故癌の話をしているのかしら? まあ、でもエイミーンさんが取り返しのつかないレベルの戦闘狂なことは私も理解しているわ」
「揃いも揃って酷いのですよぉ〜!! 私は戦闘狂じゃないのですよぉ〜!!」
エイミーンが全力で反論するが、無言を貫くラファエロも含めて勿論エイミーンの味方になってくれる者は誰一人としていない。
「緑霊の森の族長エイミーンか」
「今は翠光エルフ国家連合の女王なのですよぉ〜。『這い寄る混沌の蛇』は情報が遅れているのですよぉ〜!!」
「ちっ、翠光エルフ国家連合の女王エイミーン! 魔法の実力はかなりのものと聞いているが『這い寄る混沌の蛇』の魔法に対抗できるのか見せてもらおう!」
「屈強なる聖力!」
「死滅の光波!!」
アーモグドが即死魔法を放つ直前、エイミーンが魔法の名を叫ぶと眩い光がエイミーンを包み込む。
アーモグドの放った即死の光はエイミーンに命中するがエイミーンは命を落とさず緑の魔力を掌に収束させた。
「白き寄生木」
放たれた白い木の枝のようなものはアーモグドの足元に突き刺さり、床を破壊してアーモグドの身体を拘束するように生長する。
「なっ、なんだ! 力が吸われ……」
「白き寄生木、私が考案した木属性の魔法なのですよぉ〜! 寄生されたら最後、乾涸びてミイラになるまで決して離れることはないのですよぉ〜」
「というか、さっき私の即死魔法を喰らった筈なのに何故生きている!」
「私の考案した『屈強なる聖力』のおかげなのですよぉ〜! 聖なる光の守護に護られた私には一撃必殺が通用しなくなるのですよぉ〜。即死魔法だけでなく私を一撃で即死させる攻撃も無効化してくれるからとても便利な魔法なのですよぉ〜」
「……お母様、途轍もなく厄介な魔法を作り上げましたね」
「即死魔法は使わないから問題ないが、一撃必殺技が無効化されるのは厄介なこと極まりないな」
「私が助かったことを娘も娘の婚約者も全然喜んでくれないのですよぉ〜」
今まで一撃必殺技を無効化する技に前例がない訳ではなかったが、それは付与術師系四次元職の極大付加術師の奥義である「過剰殺傷を付与する者」のみ。しかも、この技には即死攻撃を無効化する効果はなく、物理攻撃による一撃必殺技を無効化することもできなかった。
聖属性魔法「屈強なる聖力」には威力分の攻撃力上昇はないが、一撃必殺技となる全ての攻撃を完全に無効化するという凄まじい耐性がある。
その使用条件も聖属性と、聖人に至る修行さえこなせば獲得可能という緩いもの――今後、エイミーンの魔法を模倣して「屈強なる聖力」が頻繁に使われる時空騎士の爵位争奪戦を想像し、げんなりするマグノーリエ達だった。
「くっ、厄介な魔法を使いやがって! だが、これなら防げないだろ! 死の方がマシだと思わせるほどの苦痛を与え! 苦痛の叫び」
「痛みの反射なのですよぉ〜!」
直接攻撃が効かないならばと対象人物に、死の方がマシだと思わせるほどの苦痛を与える無属性魔法「苦痛の叫び」を放ったアーモグドだったが、エイミーンが枕詞を言い終わる前に発動した精神ダメージを含むあらゆる痛みを痛みを与えた相手に跳ね返す「痛みの反射」が発動し、「苦痛の叫び」がアーモグドに反射される。
死の方がマシだと思わせるほどの苦痛と「白き寄生木」に生気を吸い取られる苦しみを味わいながらアーモグドは乾涸びて命を落とした。
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それでは、改めまして。カオスファンタジーシリーズ第二弾を今後ともよろしくお願い致します。
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