Act.9-307 ペドレリーア大陸・ラスパーツィ大陸臨時班派遣再始動〜サンアヴァロン連邦帝国の愚かな第一皇子に囁く蛇〜 scene.7
<三人称全知視点>
朦朧とした影のマントがスライムのように変化すると、スライムの一部が槍のようにプリンセス・エクレールの一人に迫る……が、狙われたハートの2が攻撃を受ける間際に割って入ったスペードのAが武装闘気を纏わせた剣背で黒い切っ先を防いだ。
「まさか、『汚泥の如き影』を防ぐとは、なかなかやりますね。では、これならどうでしょう! 影のような分身!!」
朦朧とした影の影が戦場に広がり、無数の朦朧とした影の影分身を作り出す。
「天空紫散雷落!!」
しかし、作り出された影のほとんどは「影のような分身」を発動した直後にJOKERのプリンセス・エクレールが頭上から降らせた無数の紫電によって焼き尽くされて消滅した。
一度はプリンセス・エクレールの総数を上回る分身を作り出した朦朧とした影だったが、一瞬にして再び形勢がひっくり返されて劣勢に立たされる。
「消疾!」
朦朧とした影と分身が一瞬にしてプリンセス・エクレールの視界から消え、無音の踏み込みと同時に高速移動で距離を詰めてくる。
距離を詰めたところで「汚泥の如き影」を放ち、回避が不可能に近い位置を狙って刺突攻撃を放ってくる朦朧とした影と分身達だったが、見気で朦朧とした影と分身達を捕捉していたプリンセス・エクレール達は神速闘気を纏った状態で皆一様に「閃剣必勝-紫雷-」を放ち、影のスライムの槍に突き刺される前に朦朧とした影の本体と分身達を両断した。
朦朧とした影の本体を撃破し、エルジューク監獄での戦いは幕を閉じたかに思われた……が、プリンセス・エクレールのJOKERが朦朧とした影の本体を撃破した直後、現れた二体の影がプリンセス・エクレールのJOKERを狙い、スライムと化した槍で高速の刺突を放ってくる。
「閃剣必勝-紫雷-!!」
霸気によって生じた漆黒の稲妻を固有魔法を使って剣に収束させ、更に法儀賢國フォン・デ・シアコル産の魔法少女の固有魔法の派生技で紫電を纏わせたプリンセス・エクレールのJOKERが薙ぎ払いを放って影のようなスライムが変化した槍の穂先を両断し、更に一瞬の踏み込みと同時に俊身を使って加速したプリンセス・エクレールのJOKERが朦朧とした影にそっくりの敵を両断する。
残った一体はプリンセス・エクレールのJOKERを警戒してプリンセス・エクレール達から距離を取った。
「さて……貴方は何者なのかしら?」
「私達は朦朧とした影――ロベリア様の指先である混沌の指徒の一人にして、影に潜み暗躍する影の尖兵。私達のことを深く知る者の中には影の三人などと呼ぶ者もいますが、どうぞお好きにお呼びください。私達に名前などありませんから。ヌフフフ、ではいきますよ! 影のような分身! 消疾!」
無数の影分身を作り出し、影分身と共に無音の踏み込みと同時に高速移動で距離を詰める体術の「消疾」を使用、敵を撹乱しながらマントを変化させた槍で回避が不可能に近い角度で攻撃を仕掛ける「汚泥の如き影」へのコンボを仕掛ける朦朧とした影だったが、一度使用した手がプリンセス・エクレールに通用する筈もなく影の槍がプリンセス・エクレール達を貫く前に頭上から降り注いだ紫電が朦朧とした影の影分身達を焼き尽くした。
咄嗟に回避行動に切り替え、寸んでのところで紫電を躱した朦朧とした影だったが、プリンセス・エクレールのJOKERが撤退を許してくれる筈がなく、一瞬にして朦朧とした影の本体に肉薄して「閃剣必勝-紫雷-」を放つ。
流石の朦朧とした影もプリンセス・エクレールのJOKERの斬撃から逃れられる筈もなく腹部のところで綺麗に両断された後、そのまま紫電によって丸焦げにされて焼死体と化した。
三人目の朦朧とした影が撃破されたことでエルジューク監獄での戦いは今度こそ幕引きを迎える。
プリンセス・エクレールのJOKERはプリンセス・エクレール達を特殊な異次元空間に転移させてからVSSCの拠点へと帰還した。
◆
プリンセス・エクレール達の活躍により、エルジューク監獄は防衛機能を完全に失っていた。
看守一人歩いていない牢獄をダフネ達は進んでいく。
牢獄に囚われている者達は何かしらの犯罪を犯した者が大半だ。
そういった悪党達はこの機に乗じて脱獄を図ろうとし、ダフネ達に扉を開けるように懇願したり、下卑た眼差しを向けたり、「鍵を開けろ!」と怒鳴り声を上げたり、と十人十色の反応を示すが鍵を開けるように懇願する者は無視され、下卑た眼差しを向けた者は風の刃で頭を落とされ、「鍵を開けろ!」と怒鳴り声を上げた者が見せしめにサイコロ状に切り刻まれると次第にそうした声も小さくなっていく。
「ところでこの後、この牢獄はどうするつもりなんだ? 牢獄には罪を犯した罪人もいる。流石に冤罪を掛けられた者以外を釈放する訳にはいかないだろう?」
「最終的にはマシャルド第二皇子と相談して決めるつもりですが、しばらくは魔法大監獄でも採用された半機獣を配置しておこうかと考えています。魔法少女を捕らえておく監獄で採用されたほどのホムンクルス兵器ですからその強さは折り紙付き、魔法や闘気を使えない一般人であれば例え犯罪歴がある者であっても逃げ出すことは不可能だと思います」
今までの看守達と違い話の通じず、更に戦闘力も高い半機獣が配属されることになると聞き、一気に血の気が引いていく囚人達を無視してダフネ達は牢獄の中を歩いていく。
そして、牢獄の最奥に辿り着いたところで足を止めた。
「お初にお目に掛かります。マシャルド第二皇子殿下、ヴォガスレス宰相閣下」
牢獄に繋がれて憔悴し切っているマシャルドがダフネにゆっくりと視線を向け、マシャルドほどは憔悴していないヴォガスレスは警戒の視線をダフネ達に向けた。
「……君達……は?」
「先程の騒ぎはお前達が起こしたもののようだな。……エルジューク監獄を襲撃した理由は私達にあるということか? 我々を脱獄させて何をさせるつもりだ? いや、そもそもお前達は何者だ?」
「警戒するのは至極当然のことですね。私はダフネ、そしてこちらの方々はエイミーン様、マグノーリエ様、プリムヴェール様、レミュア様、シーラ様、ラファエロ様です。所属している組織も国もバラバラですが、共通点があるとすればそれは海を越えた先にあるベーシックヘイム大陸の出身で多種族同盟という国際組織に所属していることが挙げられます」
「……海を越えた、大陸?」
「他国の間者の可能性が高いとは思っていたが……まさか、海を越えた大陸から来たとは」
「そして、我々の目的はラスパーツィ大陸に蔓延る『這い寄る混沌の蛇』の一掃です。恐らくご存知ないと思われますので説明致しますと、彼らは混沌をもたらすために暗躍する邪教徒です。彼らは革命の火種を作るために革命軍や国の中枢に侵入して暗躍します」
「……もしや、父上に毒を盛った者は、その『這い寄る混沌の蛇』……なのか?」
「毒を盛った者が誰かまでは分かりませんが、恐らく毒を供給したのは『這い寄る混沌の蛇』だと思われます。マシャルド第二皇子殿下とヴォガスレス宰相閣下が幽閉されて以降、カスティール第一皇子は各地に戦争を仕掛け始めました。大陸全土を支配下にする野望を掲げたサンアヴァロン連邦帝国の横暴は目に余ります。――最早、これはサンアヴァロン連邦帝国だけの問題ではありません。フィクスシュテルン皇国は今後多種族同盟に加盟する可能性があるため、『這い寄る混沌の蛇』の件は抜きにしても我々には決して無関係な話ではないということになります。恐らく、『這い寄る混沌の蛇』はサンアヴァロン連邦帝国に大陸各国に戦争を仕掛けさせて領土を拡大させつつサンアヴァロン連邦帝国に対する不満を増大させ、大規模な革命を引き起こしてサンアヴァロン連邦帝国諸共大陸秩序を破壊しようとしています。どうか、カスティール第一皇子の野望と『這い寄る混沌の蛇』の暗躍を止めるために我々に力をお貸しください!」
ダフネの言葉にマシャルドとヴォガスレスが突き動かされて国を変えようと立ち上がる……という雰囲気にはならず、やはりダフネの言葉を信じ切れていない様子だった。
「……私のことを信じきれないのは致し方ないことだと思います。この国が今どうなっているのか一度お二人のご自身の目で確認してください。その上でどうなされるのかお決めになれば良いと思います」
「……確かにこのまま牢の中にいる訳にはいかないな。まだお前達のことを信頼した訳ではないが、牢から出してくれたことだけは感謝する。……皇子殿下、大丈夫ですか?」
「少し、休息が必要そうだ。……ヴォガスレス、貴方こそ大丈夫か?」
「牢暮らしは老骨には少々辛いものでしたが、殿下が受けたほどの責苦は受けておりませんのでなんとか」
「そうですね……まずは一度ナガス辺境伯領に戻りましょうか。丁度、あちらの方も片付いたようなので、ナガス辺境伯領で休息を取りつつ情報を集めてみてはどうでしょう」
「まさか、あのナガス辺境伯を味方につけているとはな」
「私達のことを信じて頂けましたでしょうか?」
「いや、まだだ。今の情勢を知るまではお前達を信頼することはできない」
ナガス辺境伯を味方につけたことに驚きながらもやはりダフネ達を信じ切ることができない様子のマシャルドとヴォガスレスはダフネ達によって手錠と足枷を外されて牢から出される。
そして、ダフネ達は脱獄させたマシャルドとヴォガスレスを連れてナガス辺境伯領に転移した。
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それでは、改めまして。カオスファンタジーシリーズ第二弾を今後ともよろしくお願い致します。
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