Act.9-306 ペドレリーア大陸・ラスパーツィ大陸臨時班派遣再始動〜サンアヴァロン連邦帝国の愚かな第一皇子に囁く蛇〜 scene.6
<三人称全知視点>
――紫の稲妻が迸り、雷鳴が轟く。
現れたのは紫のロングの髪に稲妻を彷彿とさせる白いラインが僅かに入った特徴的な髪と美しい紫水晶を彷彿とさせる瞳を持つ絶世の美女達だった。
漆黒のスリットの入ったロングのドレスに身を包み、手には銀色に輝く細身の剣が二振り。刀身には稲妻の模様が刻まれ、青白く輝いている。
「……おいおい、どういうことだ? 同じ姿の奴が五十三人? そんなことあり得るのかよ?」
「絶世の美女も全く同じ容姿の者が五十人以上集まれば不気味なものとして映るのだな。興味深い体験だった。……確かに五十人はかなりの戦力だ。しかし、私達看守と朦朧とした影殿、花蘭、絹江――つまり我々の方が圧倒的に人数は多い。その程度で勝った気になるなど笑止千万!」
「そんなに人数差って重要なことかしら? ……ダフネさん、完全に黒な朦朧とした影、イソトマ、花蘭、絹江の四人はここで始末するとして、他の関係ない看守達に慈悲は掛けなくていいのかしら?」
「……そうですね。――私達は無実の罪で牢獄に繋がれたマシャルド第二皇子とヴォガスレス宰相の救出に来ただけです。お二人を解放し、戦争に向かって加速するサンアヴァロン連邦帝国を止めるために私達は動いています。……『這い寄る混沌の蛇』に関わりのない貴方達看守と戦うことは不本意なことなのです。この戦線を離脱して先に通してくれるのならば私達は貴方達を害したりしません。でも、もし道を塞ぐというなら躊躇いなく潰させて頂きます」
プリンセス・エクレールに促されたダフネが看守達に戦線からの離脱を提案するが、看守達は一人としてその場を動こうとしない。
それぞれ武器を構えたままプリンセス・エクレールと対峙し続ける看守達を一瞥した後、イソトマはダフネ達に嘲笑を向けた。
「やれやれ、この監獄の看守達は職務に忠実な優秀な部下達だ。それが、賊の言葉に耳を傾けるとは……残念だったな」
「えぇ、残念ながら私達は正規の方法で来ている訳ではありません。やっていることも内政干渉だと受け取られても致し方ない。……でも、このまま現状を放置すれば困るのはサンアヴァロン連邦帝国だけではありません。『這い寄る混沌の蛇』が扇動するサンアヴァロン連邦帝国の暴走はいずれフィクスシュテルン皇国をはじめ、大陸各地、そしていずれは他の大陸――世界各地へと波及していく。ゲルネイーラ三世に毒を盛って皇帝を退場させ、第二皇子と宰相を幽閉して戦争に向けて突き進んでいるカスティール第一皇子を止めなければ大変なことになってしまいます! サンアヴァロン連邦帝国のために貴方達がするべきことは一体何なのか一度深く考えるべきです!」
「何を根拠に……あの女が言っていることは出鱈目だ! マシャルド第二皇子とカスティール宰相は罪人――罪を犯したから投獄されている。冤罪? そのようなことがある訳なかろう? 出鱈目を言って我々を混乱させようとする小賢しい手だ。耳を傾けてはならんぞ!」
「職務に忠実なのは好感が持てますが、信頼に足るからといって盲目的にイソトマの言葉を信じるのはちょっと怠惰が過ぎるのではありませんか? マシャルド第二皇子とヴォガスレス宰相の投獄についてもそう。ただ、お上が罪人だと言ったから盲目的に投獄しただけ。ちゃんとお二人の言い分を聞きましたか? 聞いていませんよね? ……まあ、でももうどうでもいいことですか。それが貴方達が自ら選んだ選択肢なら、その結果として死を迎えることも本望でしょう? ここでこれまで思考停止してきた怠惰のツケを払ってくださいませ」
ダフネは全く一片も感情の籠もっていない絶対零度の視線を看守達に向けてから三歩後ろに下がる。
ダフネは『這い寄る混沌の蛇』とは無関係な看守達に戦いから離脱する権利を与えた。
勿論、ダフネ達の立場を考えれば決して彼らが離脱する筈がないのだが、重要なのは看守達が戦線を離脱することではなく「彼らに一度は戦線離脱を提案したが、自らの意思でこの場に残った」という事実の方なので誰一人戦線から離脱をしなくても特にダフネが困ることはない。
「今まで真面目に職務に励んできた看守の皆様、お疲れ様でした。ですが、貴方達はこれから怠惰なる悪人達として語り継がれることでしょう。無実の罪で投獄されたマシャルド第二皇子とヴォガスレス宰相をろくに検めることなく牢獄に繋ぎ続けた極悪人として。……では、プリンセス・エクレールさん、後はお任せ致しますわ」
「では、私のできる最大の慈悲として――苦しむことなく殺して差し上げますわ。天空紫散雷落!!」
それが看守達にとって生前に見る最後の光景となった。
プリンセス・エクレールの一人が紫電を纏った剣を掲げ、頭上に放った紫の雷撃が頭上から無数の雷となって戦場に降り注ぐ。
寸分違わず朦朧とした影、イソトマ、花蘭、絹江、そして看守達を狙って降り注いだ紫の雷撃は武装闘気と覇王の霸気を纏った花蘭と絹江、朦朧とした影が膨大な闇の魔力を消費して作り出した闇のバリア――「闇の帳」に武装闘気を纏わせて防いだ朦朧とした影とイソトマには届かなかった。
しかし、それ以外の看守達は当然ながら魔法も闘気も扱えない。つまり、紫電を防ぐ手段持ち合わせていなかった。
無防備のまま紫電の直撃を浴びた看守達は一瞬にして炭化した焼死体と化す。
流石にあれだけの看守達が一撃で殺されてしまうとは思っていなかったのだろうイソトマの顔が驚愕の色に染まる中、花蘭、絹江、朦朧とした影は全く別の意味で戦慄していた。
「おいおい、どうなってやがる! ほとんど霸気を込めていないっていうのに、アタシの霸気の防御にヒビを入れやがった。コイツはちょっとヤバいかもしれねぇな!」
「……だからお姉様、言葉遣い」
「『闇の帳』に武装闘気まで込めたのに……やれやれ、凄まじい魔力ですね。ヌフフフ、恐れ入りました。……イソトマ、何はともあれこれで外野は消えました。『這い寄る混沌の蛇』と奈落迦四天王のタッグと多種族同盟の精鋭達の真剣勝負を始めましょう」
「……くっ、やはり魔法も闘気も八技も使えぬ凡人看守共では役に立たんか。……ならば、ここからは本気を見せよう!」
「では、そろそろ少しだけ本気を出しましょうか? 閃剣必勝-紫雷-!!」
霸気によって生じた漆黒の稲妻を固有魔法を使って剣に収束させ、更に法儀賢國フォン・デ・シアコル産の魔法少女の固有魔法の派生技で紫電を纏わせると神速闘気を纏い、俊身を使って一気に加速――「死滅の光波」を放とうとしていたイソトマに肉薄し、呪文唱え終わる前にも斬り捨てた。
「やはり凄まじい霸気だな! 面白いッ! アタシも本気を――」
「お姉様! ここは撤退一択ですわ!!」
「おっ、おいい! 絹江、降ろせ!!」
刀を抜き払って膨大な武装闘気を纏わせて硬化させ、更にその上から膨大な覇王の霸気を纏わせて臨戦体制を整えた花蘭だったが、次の瞬間には絹江にお姫様抱っこをされてしまった。
ジタバタと暴れる花蘭を怪力の神闘気、鉄壁の神闘気、刹那の神闘気、武装の神闘気を纏った絹江が何とかギリギリのところで抑え込む。
「お姉様、私達は奈落迦様の部下ですわ! 私達は奈落迦様のために生き、必要とならば奈落迦様のために命を散らす――その覚悟でお仕えしてきたのでは無かったですか!! 『這い寄る混沌の蛇』には一宿一飯の恩義はあるかもしれませんが、所詮はそれだけのこと。ここであの方々を倒せば最終的に奈落迦様のためになるかもしれませんが……このまま『這い寄る混沌の蛇』の戦いに付き合うのはあまり得策ではないと私は思うのです」
「……うん、まあ、そうだな。……もっと他に奈落迦様にとって重要な戦場はきっとある。ここで戦っても得するのはほとんど『這い寄る混沌の蛇』だな。よし、アタシ達は撤退させてもらう! プリンセス・エクレール! 次に会うことがあったら、その時に決着をつけようぜ!!」
絹江に説得された花蘭はプリンセス・エクレールとの戦いをすっぱりと諦め、絹江に抱き抱えられたまま笑顔でプリンセス・エクレールに手を振りながら去っていった。
予想外の撤退行動にプリンセス・エクレールも流石に苦笑いを浮かべている。
「……ヌフフフ、まあ、あの方々は協力者であって同志ではない。あまり期待をしていなかったので良しとしましょう。さて、看守達も生き絶え、イソトマも死んだ。残されたのは私一人、厄介な状況ですね。……ですが、勝負はこれからです! 私の影のイリュージョン! 心ゆくまで堪能して――逝きなさい!!」
お読みくださり、ありがとうございます。
よろしければ少しスクロールして頂き、『ブックマーク』をポチッと押して、広告下側にある『ポイント評価』【☆☆☆☆☆】で自由に応援いただけると幸いです! それが執筆の大きな大きな支えとなります。【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にしてくれたら嬉しいなぁ……(チラッ)
もし何かお読みになる中でふと感じたことがありましたら遠慮なく感想欄で呟いてください。私はできる限り返信させて頂きます。また、感想欄は覗くだけでも新たな発見があるかもしれない場所ですので、創作の種を探している方も是非一度お立ち寄りくださいませ。……本当は感想投稿者同士の絡みがあると面白いのですが、難しいですよね。
それでは、改めまして。カオスファンタジーシリーズ第二弾を今後ともよろしくお願い致します。
※本作はコラボ企画対象のテクストとなります。もし、コラボしたい! という方がいらっしゃいましたら、メッセージか感想欄でお声掛けください。




