Act.9-292 ペドレリーア大陸・ラスパーツィ大陸臨時班派遣再始動〜暗雲立罩める生徒会選挙と四大大公家〜(4) scene.3
<三人称全知視点>
開会ミサの翌日の放課後、ミレーユの姿は図書館にあった。
選挙の広報活動は勿論必要だが、それと同じくらい必要な裏工作――つまり、ダイアモンド帝国、ライズムーン王国、プレゲトーン王国での交渉の状況をエイリーンから確認するためである。
「候補者アピールのためのミレーユ姫殿下の肖像画付きの公約の書かれたビラはフィリィスさん達を中心に続々と配布されているみたいだねぇ」
「ええ、フィリィス達の奮闘のおかげでわたくしの公約は学院に続々と広まっているようですわ。……しかし、本当に良かったのですの? わたくしの演説を軒並み中止してしまって」
ミレーユが心配そうにする理由は、開会ミサの直前で圓から提案され、決まってしまった選挙当日以外の選挙期間中の演説の中止にある。
本来、リズフィーナに勝つためには積極的に演説をしてアピールしていく必要がある筈だが、圓の提案はそれに逆行するものだった。
「どうせ最も効果的に手の内を明かせるタイミングは生徒会長選挙公開討論だからねぇ。あのリズフィーナ様には流石に効果が薄いと思うけど、情報は徹底的に隠して水面下で色々と進めていく必要がある。まあ、ミレーユ姫殿下が当初考えていた方法と同じだよ……気づいた時には勝っていたというのが丁度いい。その分、ミレーユ姫殿下達に掛かる視線は冷たいものになるんだけど……それも生徒会長選挙公開討論で驚愕と尊敬の篭ったものに変わると信じて頑張ってもらいたいねぇ」
「それで、その裏工作の方はどのようになっていますの?」
「ん……ああ、その話が重要だよねぇ。とりあえずもう少しだけ待ってもらっていいかな? そろそろ役者が揃う筈なんだけど」
ミレーユ達が待つこと二分程度、人気のない図書館にやってきたのはリオンナハトとアモンだった。
「……あまりこうしてミレーユに会いに来るところを見られるのは望ましくないのだが……いや、いずれは俺が今回の選挙に関わっていたことはバレてしまうが、生徒会長選挙公開討論までは隠しておきたいんだ。次からはもっと人目につかないところを選んでもらえないだろうか?」
「陰陽術で人払いはしているんだけど、そんなに不安?」
「ああ、それで図書館に人がいないのですわね」
「そういうことだよ。じゃあ、早速報告を……って、その前にリオンナハト殿下にはミレーユ姫殿下に話しておきたいことがあるんじゃないかな?」
「流石は創造主殿、やはりお見通しか。……帝国の中央貴族、それもどうやら四大公爵家のいずれかの家が関与しているらしいんだ……おや、その様子だと気づいていたのか?」
「えっ、ええ! 勿論ですわ(なるほど、このタイミングであの事実を知ることになるのですわね。といっても、未だにどの家が『這い寄る混沌の蛇』と繋がっているのかは分からないままなのですけど……)」
「その情報は解体された『白烏』から上がってきた情報だよねぇ。長らく放置されていた情報で、あまり重視されなかったから埋もれていた……普通はそう考えるのが自然だけどリオンナハト殿下は別の判断しているんじゃないかな?」
「その通りだ。俺としてはそちらの見方の方がしっくり来るんだ。情報が埋もれていた理由がもしも重視されていなかったからではなく逆であったとしたら――」
「『白烏』にも『這い寄る混沌の蛇』が潜り込んでいた訳だしね。ジェイかそれ以外の者が意図的に情報を隠していたとしたら……逆に怪しいと。なるほど、そういうことか」
「しかも、情報を送ってきた者は連絡を絶っている。まあ、普通に考えたら口封じされたってことになるねぇ。希望的観測に縋ると今は情報を送れない、或いは送ることが難しい場所にいるか。とりあえず、その情報は正しいものだと保証はしておくよ。容疑者は四つの公爵家――そして、学院には丁度その四つの公爵家の貴族子女達が通っている。この学院で彼ら彼女らが仕掛けてくる可能性は濃厚なんじゃないかな? まあ、大した情報じゃないからもう話しちゃうけど、この四大公爵家絡みで引き起こされる時間の終盤でペドレリーア大陸の『這い寄る混沌の蛇』に関する事件は一先ず終止符が打たれることになるんじゃないかと考えている」
「それは朗報ですわね」
「……しかし、それはちょっと納得し難い話だね。『這い寄る混沌の蛇』を一網打尽にできる状況なんて作れないと思うんだけど」
エイリーンの言葉を朗報と受け取るミレーユと対照的にアモンの表情には疑念の色が浮かんでいる。
「リオンナハト殿下には既に話しましたが、本来なら物語の終盤に畳み掛けるようにやってくる災害が近々起こる可能性があるという報告を世界各地に派遣した諜報員より入手しています。内容そのものはプレゲトーン王国で起きた革命と大差のないボヤ騒ぎですが、それがペドレリーア大陸と、場合によってはラスパーツィ大陸やベーシックヘイム大陸でも起こる可能性がある。一つ一つは規模が小さい、種火を強制発火させたものでも世界各地で同時多発的に起こせば対処は難しくなる。だけど、『這い寄る混沌の蛇』も簡単に混沌を振り撒ける訳じゃないからねぇ。準備にもかなり時間が掛かる。『這い寄る混沌の蛇』は理論上不滅の思想だけど、思想を持つ者だけを選別して殲滅するという方法には弱いからねぇ……ボヤ騒ぎの火消しをしながら『這い寄る混沌の蛇』の関係者を根こそぎ潰していく『ペドレリーア大陸混沌掃討作戦』というものを近々実行するつもりだよ。まあ、ミレーユ姫殿下達にとってはあんまり受け入れられないものだろうけど、時間もあんまりないし、正直改心させようと思うと労力がかなり掛かる。優先順位の低いものを見捨てることは黙認してもらいたいねぇ」
できる限り人死は出したくないという方針で動いているミレーユとは対極に位置する方針だが、流石にミレーユ達でも全ての『這い寄る混沌の蛇』に対処はできない。
大陸に潜む『這い寄る混沌の蛇』の排除を最小限の犠牲で引き受けるとエイリーンが言っている以上、それを取り止めさせてまで実行できる最良の方法がミレーユ達には見つけられなかった。
「まあ、それ以外にも事件が前倒しで起こる可能性があるからねぇ。シナリオに関わっている事件は基本的にミレーユ姫殿下達の領分という風に考えているから、今後はミレーユ姫殿下達も『這い寄る混沌の蛇』の活動が加速するのと比例して大分忙しくなっていくと思うよ。その辺り、覚悟しておいてねぇ」
◆
「さて、その四大公爵家篇のプレリュードとなる生徒会選挙に話を戻そう。それが今日の本題だからねぇ。まず、ボクとジェーオさん――ビオラ商会合同会社の最高幹部の一人と、ライヘンバッハ分社長兼建築部門統括長の藍晶さんと共に交渉を行い、本日までにダイアモンド帝国、ライズムーン王国、プレゲトーン王国で合わせて二十の建設業者と交渉を行い、無事に協力を取り付けることができた。今後も交渉を進めていくつもりだよ」
「二十の建設業者……なかなかの数ですわね」
「選挙当日は取り交わした契約書を携えてビオラの幹部にも生徒会長選挙公開討論に参加してもらう。ビオラの幹部にはアネモネの代わりにビオラの責任者として、説明をしてもらうためにね。……まだ人選は終わってないんだけど」
「段々と話が現実味を帯びてきましたわね」
「まあ、選挙開始前に粗方形を整えておきたいと頑張ったことと、各国の建設業者の方々がその考えを汲んで交渉を早めに受けてくれたのが大きいねぇ。勿論、ライズムーン王国とプレゲトーン王国の協力がなければ成立しない話だった。二人には感謝しても仕切れないよ」
「お二人とも本当にありがとうございます」
「いやいや、そういうのは選挙に勝ってからにした方がいいだろう? それに、俺はただライズムーン王国の利益になるからと応じただけだ。選挙では勿論、中立に投票させてもらうぞ」
「ボクにできることでミレーユの力になれたのは本当に良かった。まだまだ生徒会選挙は始まったばかりだ。ここからもボクにできることは協力させてもらうよ」
◆
こうして始まった生徒会選挙……だが、基本的にミレーユは演説をせず、応援演説も受けることなく、フィリィス達に混じって「わたくしに清き一票を!」と言いながらビラを配っているだけだった。
ミレーユの協力者としてエイリーンの妹ということになっているエルシー……ソフィスと戦闘メイドのカレン、アクアマリン伯爵家の影であるフリストフォルは協力してくれているが、リーシャリスとガラハッド、その使用人であるメイリィースとオールフェルの協力は無い。今回は完全に中立のため、選挙戦の間から協力してくれるということはないのだろう。彼らを味方につけるためにはミレーユ達が生徒会長選挙公開討論と最終演説で彼らの関心を集め、票をミレーユに入れてもらわなければならない。
「……やっぱり、色々と隠して動くのは大変ですわね」
その日のビラ配りを終え、選挙対策本部として借りている教室にてミレーユがミレーユ派のメンバー達と休憩をしていると、教室の扉をノックする音が聞こえ――。
「誰かしら?」
ミレーユが扉を開けると……そこには、サファルス・アジュール・ブルーダイアモンドの姿があった。
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