Act.9-289 ペドレリーア大陸・ラスパーツィ大陸臨時班派遣再始動〜ライズムーン王国への一時帰国〜 scene.1
<一人称視点・アネモネ・ドゥンケルヴァルト・ライヘンバッハ・ザール・ウォルザッハ・インヴェルザード・ジードラバイル・ヒューレイツ・グラリオーサ・ビオラ=マラキア・クレセントムーン>
ライズムーンの王城――ルナティック・フォース城の城門に到着。
門を守る騎士達は帰国することが一切知らされていない第一王子のリオンナハトが正体不明の女性を伴って帰国したんだから当然混乱した。
「事前連絡なく帰国してすまない。少し所用があって閣下の手を借りて一時帰国した。明日の早朝には再び国を発ち、その後は必要に応じてライズムーンとセントピュセル学院を行き来するつもりだ。こちらは、別大陸の多種族同盟という同盟に属するビオラ=マラキア商主国の大統領閣下だ。ビオラのアネモネ閣下と伝えれば陛下もお分かりになる筈だ」
「承知致しました。すぐにお伝えして参ります」
「二度手間になると双方にとって時間と労力の無駄になりますから、こちらに今回の目的を纏めたメモがあります。こちらもお持ちになるとよろしいかと」
王城に向かう騎士に要件を纏めたメモを渡してからボクとリオンナハトは王城の中に通され、応接室でしばらく時間を潰すことになった。
まあ、リオンナハト一人の帰国と違って扱いに困る人が一人ついて来ているからねぇ……具体的に言うとボクなんだけど。先触れも無かったし、こういう対応になるのは当然だよねぇ。
「――兄上! ご帰還なされたのですか!?」
「久しぶりだな、ジェファーズ」
「あの……そちらの方は?」
「紹介がまだまだだったな、彼女は――」
「お初にお目に掛かりますわ、ジェファーズ・ブライト・ライズムーン第二王子殿下。私は、アネモネ――海を隔てた大陸にあるビオラ=マラキア商主国で大統領を務めております。商人と国家君主を同時に務めていると思って頂けたら分かりやすいかもしれませんねぇ」
「……まあ、実際はもっと手広く様々な事業に関わっているみたいだけどな。今回はアネモネ閣下の持つ力を借りて一時帰国をした。また、明日の早朝にはセントピュセル学院に戻ることになる」
「まだ学院の休みには早いと思っていましたが、そういうことだったのですね」
「先触れもアポ取りも無しに皇女殿下や王子殿下を連れてダイアモンド帝国、プレゲトーン王国、ライズムーン王国に突撃している訳ですからとても非常識なことをしている自覚はありますわ。まあ、でも正直あんまり時間はないので諸々の手順をすっ飛ばしてもできる限り早く協力を取り付けたいと思っているところですが」
ライズムーン王国だけでなくプレゲトーン王国やダイアモンド帝国にまでアポ無しで突撃をしていると聞いて唖然とした表情で固まるジェファーズ――まあ、それが普通の反応だよねぇ。
今までの話で色々と疑問も出てきているようだったし、この場でジェファーズの疑問を解決しても良かったんだけど応接室にやってきた騎士が謁見の準備が整ったことを伝えに来たのでジェファーズとの話はここで終わりにすることにした。明日の早朝まで時間はあるし、今夜にでもジェファーズとゆっくり語り合う時間を設けた方がいいんじゃないかな? 今後のことを考えてもねぇ。
後でリオンナハトに「今晩にでもジェファーズと近況報告をし合ってはどうか」と提案してみようかな?
◆
ライズムーン王宮の絢爛豪華な謁見の間には、玉座に座るライズムーン王国国王アイブラハム・ブライト・ライズムーン以外に人影はない。
まあ、謁見の間の扉一つ隔てた先には護衛の騎士達が控えているだろうけど。
「お初にお目に掛かりますわ、アイブラハム・ブライト・ライズムーン国王陛下。わたくしはアネモネと申します。以後お見知りおき下さいませ」
「リオンナハトから話は聞いている。海を越え、遠路遥々ライズムーン王国へようこそ来られた、多種族同盟の議長殿。それとも、ビオラ=マラキア商主国の大統領閣下と呼ぶべきだろうか?」
「肩書きも名前も各種取り揃えておりますので、どうぞお好きにお呼びくださいませ」
「こうしてお会いできる日をとても楽しみにしていたよ。プレゲトーン王国の件では大変ご迷惑をお掛けした。『白烏』の暴走を止めることができたのはダイアモンド帝国のミレーユ皇女殿下の尽力があったおかげということもあるが、それと同じだけアネモネ閣下の尽力があったとお聞きしている」
「こちらもラピスラズリ公爵家の戦闘使用人の一人であるアクアを筆頭にフォルトナ王国の関係者四名がライズムーン王国国内でご迷惑をお掛けしたのでお互い様だと思っています。国際問題になることも覚悟しておりましたから、寛大な取り計らいをして頂けたことに感謝の念が尽きません」
とりあえず挨拶はここまで。さて、ここからはいよいよ本題だ。
向こうもこちらがそんなに時間がないことは分かっているだろうし、そろそろ切り出してくるんじゃないかな?
「さて、今回のアネモネ閣下のご提案だが、勿論我ライズムーン王国も積極的に協力させて頂きたいと思う。……学院にはダイアモンド帝国やライズムーン王国――大国が選挙に大きく関わってはならないという不文律が存在し、ライズムーン王国としてもあまり一方に肩入れしたくない話ではある。もし、票集めに協力して欲しいという話であればとても受ける気にはなれなかっただろうが、これがライズムーン王国にとっても利のある商談となればまた別だ。いやはや、まさかこれほどのことを考え、そして実行しようとする者がいるとは、『帝国の深遠なる叡智姫』と『ブライトネス王国の智聖』の深謀遠慮には私も感嘆の言葉を上げざるを得ない。なるほど、リオンナハトの協力を得てライズムーン王国出身の貴族子女達の票集めをする必要などないということか……もし、その策略が実現すれば、誰もがミレーユ皇女殿下に投票せざるを得なくなる。リズフィーナ様の支援者達もミレーユ皇女殿下に投票することになるだろう」
学院改修の事業が生む莫大な利益――それを目の前にしてそれでもリズフィーナに投票しようとする者はそれほど多くはない筈だ。まあ、逆にそれほどの篩に掛けられてなお、リズフィーナに投票するということは、それだけ信頼に足る人物であるということでもあるんだけどねぇ。
「しかし、本当に良いのか? 交渉のテーブルを用意するだけで」
「今回はライズムーン王国の他にダイアモンド帝国、プレゲトーン王国に仲介を依頼させて頂いていますが、そのいずれの国でも今回の話に応じて頂くかどうかはそれぞれの業者の方々に選んで頂きたいと思っています。知名度の低い私ではそもそも交渉の場を用意することが難しいと考え、こうして各国の国王陛下、皇帝陛下にお願いをして回っていますが、交渉のテーブルについてからは私の話を聞いた上で乗るのか、それとも反るのかを決めてもらいたいのです」
「なるほど、アネモネ閣下とミレーユ皇女殿下の思いはよく分かった。であれば、無粋な真似はするべきではないな」
さて、これで交渉のテーブルは用意できた。学院の改修に必要な費用も準備できたし、後は実際に交渉に臨むだけだ。
直接現場で指揮を取ることになるビオラの建築部門統括長には参加してもらわないといけないけど、藍晶には声を掛けて予定を空けておいてもらえることになったし、こちらも問題はない。
後は交渉のテーブルでいかに協力してくれる業者を増やしていくか……腕の見せ所だねぇ。
「では、そろそろ――」
「もう行ってしまわれるのか? もしよければ晩餐を、と思っていたのだが……」
「まだまだ本日の業務も半分以上残っておりますので、流石に美味しいものを食べて夢見心地になる訳には参りませんので、折角のご提案ですが。……それに、個人で経営している料理店での試作もありますので、あまりお腹は一杯にしておきたくないんですよねぇ」
「ほう、アネモネ閣下は料理も得意としておられるのか?」
「素人ですので、そこまで大したものは作れませんわ。まあ、趣味程度ですが、わざわざ私の作ったディナーを召し上がりたい言ってくださる方々もいらっしゃいますので、ご満足頂けるような品を出せるように試行錯誤を続けております」
まあ、ボクも流石に胃袋ブラックホールじゃないから普段は真月に協力してもらっているんだけど(この話すると真月だけ狡いとか言われそうだから、ボクと真月の二人だけの秘密にしていたりする)、流石に味見をせずにって訳にはいかないからねぇ。
「では、また機会があれば会食を提案させて頂こう。私もゆっくりと海を越えた先にある大陸の話を聞きたいからな。それに、多種族同盟についても興味がある」
「この大陸での騒動がひと段落付きましたら、ライズムーン王国にも同盟加盟の提案をさせて頂きますので、私もその日を楽しみにさせて頂きますわ」
その後、改めてリオンナハトを明日の早朝に迎えに来ることを伝えてから、三千世界の烏を殺してブライトネス王国に転移した。
さて、王女宮筆頭侍女の仕事、今日も頑張るぞ!!
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それでは、改めまして。カオスファンタジーシリーズ第二弾を今後ともよろしくお願い致します。
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