Act.3-16 冒険者ギルドの一騒動とアネモネの勧誘 scene.1
<一人称視点・アネモネ>
冒険者ギルドの中は何やら張り詰めた雰囲気になっていた。
「…………これって、どうなっているんですか?」
「あっ、アネモネさん。丁度いいところに」
まずは情報収集に世紀末な冒険者ヴァケラーに話しかけた。
かなりボロボロになっている……打撲痕とか青痣とか、結構ボコボコにされたなってくらい重症を負っているし……というか、骨折もしている?
「とりあえず、これ飲んでください。話はそれからです」
「…………なんですか、これ」
「完全回復薬――神水」
そんなまさかという表情で疑いながら渡された瓶の中身を飲んだヴァケラーだけど、瞬く間に傷が癒えたことに気づいて「これ、とんでもなく高価な回復薬ですよね! どんだせぼったくられるんですか、俺!?」と戦々恐々している。
「じゃあ、この回復薬の代金は情報でいいよ。……何が起きているの?」
「……実は」
ヴァケラー曰く、ギルドマスターが不在にしている冒険者ギルドにAランク冒険者を名乗る男六人、治癒師の女性一人のパーティがやって来たらしい。
彼らは冒険者ギルドにやって来るなり「今日から俺達がこの冒険者ギルドを守ってやるぜ、ありがたく思え!」って言い出して、受付嬢や女性冒険者に手を出そうとしたり、それを正当化したり、低レベルの冒険者を狙って「俺達が鍛えてやるぜ、ありがたく思え!」と言ってリンチしたり、パーティから女性冒険者を引き抜いたり……凄い男尊女卑だねぇ。というか、なんとなく鮫島の人物像が重なるんだけど……。
「要するに主要メンバーがいないところを狙った空き巣の居座りに近い質の悪い連中ですね。……しかし、少し前に来た時には見ませんでしたが」
というか、昨日の昼に来た時は居なかったよねぇ……いつ来たの? というか、どんだけ手際がいいの??
「やって来たのは昨日の午後で、それから今みたいな所業を……俺も止めようとしたのですが、見ての通りの有様で……やはり、Bランク冒険者ではAランクを止めることは……」
「……それじゃあ、ダメなんだけどねぇ」
「……へぇ?」
「なんでもありませんよ。……とりあえず、六人の男の冒険者をなんとかすればいいということですね。女性の方は何かやらかしましたか?」
「いえ、逆らえなくて仕方なくということみたいです。……それから、『疾風の爪』ですが連中に抗議しようとして……ボコボコにされて、紅一点のティルフィさんを……」
『疾風の爪』は剣士のジャンロー=ジャルー、魔法師のティルフィ=フィーフィル、弓使いのハルト=シュナイパーからなるCランク冒険者チーム。
技倆はまだまだだけど、伸び代があることと連携がしっかり取れていることから、Aランク冒険者となったラルと共によくチームを組んでいた。
結局やられてはしまったみたいだけど……でも、勇気を出して格上に挑んだというのは自分達に火の粉が掛からないようにと願って見て見ぬ振りをしている奴らよりもずっといい。
「了解。それじゃあ、あの六人を殲滅して来るよー」
「……冒険者ギルドは壊さないで戦ってくださいね」
「えっ、私の心配じゃなくてギルドの心配? 一応、私非力な女の子ですよ?」
「……どう考えても非力じゃないですよね。冒険者ギルドの修繕は大変なんですから、滅茶苦茶にしないでくださいよ?」
「別に私が直せば何一つ問題ないですよね? 前よりも強固な奴にしますし」
「言動が物騒過ぎる! というか、最初から壊す気満々じゃないですか!!」
たく、うるさいねぇ。……そんな簡単に壊れる方が悪いんだよ。
「ん? なんか上玉な嬢ちゃんが出て来たな。剣士みたいな身なりだが、流石に女の子に剣士は無理だよな? 俺達の女になれば幸せに暮らせるぜ」
中央のニヤニヤとした男が女冒険者の胸を揉むのをやめてこちらに下卑た視線を向ける……というか、キモいんだが。
「生憎と私は私より弱い方のものになりたいとは思いませんので……」
「そうかい。どうやら痛い目を見ねえと気が済まないようだな! よし、やってやろうぜ! だが、あんまり傷はつけるなよ! 上玉に傷がついたら勿体ねえからな。あっ、それとこいつは俺の嫁にするぜ!」
「はっ、ふざけるなよ! リーダー。平等に決めるに決まっているだろう!」
はいはい、もう取らぬ狸の皮算用ですか……では、遠慮なくいかせてもらいましょう。
鞘から『銀星ツインシルヴァー』を抜くことすらなく、手刀に武装闘気を込めてそのまま大剣を持つ二本の腕を両断した。
一滴すら血は流れず、床に二本の腕が落ちた瞬間、激しい鮮血の迸りと同時に仲間達と取り分を話していたリーダー格の大剣使いが悲鳴を上げた。
「ちっ、こいつ強いぞ! 全員で囲め!」
探索者風の男が指揮権を獲得して仲間に命令しながら短剣で斬撃を繰り出してくるけど、まあ遅い遅い……止まって見える。
統合アイテムストレージから取り出してベレッタPx4から数発の「氷精-氷の弾丸-」を撃ち出して、直撃と同時に身体を氷漬けにする。
原初魔法を利用した即席の氷の弾丸――お味はどうかな?
武装闘気を纏った左足で回し蹴りを繰り出して探索者風の男を吹き飛ばして壁にめり込ませつつ……。
「木剋土、土剋水、水剋火、火剋金、金剋木……陰陽五行の力を束ね、一線を引け。境界を束ねてあらゆる禍いから我が身を守れ! 陰陽境界-局所盾-」
「護光障壁――急急如律令」
左手で握った霊符が淡く輝いて強固な障壁を展開する……これ、何枚も貼れば結界になるんだけど一枚だと局所的な障壁にしかならないんだよねぇ。まあ、それでも十分なんだけど。
陰陽五行エネルギーを束ねて右の拳銃の銃口辺りに溜め、小さく空中に一線を引く。妖や魑魅魍魎などといった存在を突破できなくする陰陽の技を陰陽五行エネルギーを更に注いで物理的な防御へと昇華させた。
二つの障壁に阻まれて槍使いと斧使いの攻撃を防ぎ、動きを封じた槍使いの身体に五発の氷の弾丸を撃ち込んだ。
「それじゃあ、探索者さんと一緒にオネンネしていてねぇ」
槍使いが探索者と一緒に仲良く壁にめり込み、何度も斧を振りかざして障壁を突破しようとしていた大男の頭をジャンプしながら掴み、そのまま勢いよく地面に押し付けた……あっ、壁に続いて床にもヒビが。冒険者達が阿鼻叫喚の声を上げているんだけど……ボクに対して?
「いくらなんでも遅過ぎますよね? 最近、攻撃が速すぎる人達と戦っていたので感覚がズレてしまったのでしょうか?」
「いや、元々アネモネさんはこんな感じだったような……。というか、剣士なのになんで剣を使ってないんですか!!」
「あっ、使った方がいいですか? では、ヴァケラーさんのご希望にお応えして――ここからは剣士モードです!」
ベレッタPx4を統合アイテムストレージに戻して『銀星ツインシルヴァー』を鞘から抜き払う。
残った武闘家と魔法師が「てめえ余計なことを」という視線を向け、冒険者達が「ヴァケラーさん、何を考えているんですか!?」という視線を向けたが、ヴァケラーは口笛を吹いて素知らぬ顔。……あっ、逃げたねぇ。
「それじゃあ、遠慮なく。……渡辺流奥義・颶風鬼砕。千羽鬼殺流奥義・北辰」
善悪や真理をよく見通し、国土を守護し、災難を排除し、正邪を見極め、敵を退け、病を排除し、また人の寿命を延ばす福徳ある面と、それが邪であれば寿命を絶ち斬る面の二つの顔を持つ菩薩の名を関する通り、斬りたいものを斬り、斬りたくないものは斬らないという斬るものを選別するという奥義と鋭い風の刃をイメージした霊力を武器に宿し、勢いよく抜刀して横薙ぎすると同時に爆発させて周囲全てを斬り捨てる奥義を組み合わせて、残る二人の装備だけを切り捨てた。
結果、二人は下着姿に……というか、自分でやっといてなんだけどこれって誰得? 受付嬢達が阿鼻叫喚の声を上げながら顔を赤くして目を隠している……結構カオスな光景になっちゃったけど、とりあえず。
「またつまらぬ物を切ってしまった……ゼヨ」
決め台詞をカッコよく決めた筈なのに誰も聞いていない……残念。
◆
「……これは何の騒ぎかな? ……どういうことなのか、説明があるんだよね?」
用事から戻ってきたらしいギルドマスターのイルワは、ギルドの凄惨な光景を見て絶句した。
「……ギルドマスターのいない間にAランクの冒険者パーティがギルドに来まして、女性冒険者や受付嬢にセクハラしたり、とにかく好き勝手していたのですよ。……そこにアネモネさんがやって来て。じゃあ、なんとかしようということになって、任せたらこうなりました」
最初は説明していたヴァケラーに怒りの籠もった視線を向けていたイルワだけど、次第に同情するような表情に変わって……。
「それで、どうしてこんなことになったんだ? アネモネさん」
「Aランク冒険者というのですから、そこそこ強いかなと思って戦った結果、意外と弱かったのでギルドが半壊しました。安心してください。今後暴れても大丈夫なように壊れた床や壁の修復はします。勿論、前よりも強固に――」
「……まあ、アネモネさんの厚意がなければ冒険者ギルドは崩壊していただろうし、彼らにもいい薬になっただろう。実際に何故か死者は出なかったみたいだから、今回はお咎めなしということで」
ちなみに、神水を飲ませたので戦った連中は全員無傷の状態になっている。ギルドはところどころ血に染まっているし、壁が壊れているし、床がひび割れていたりするけど、概ねいつも通り。
「さて、彼らの処分だけど」
「とりあえず、彼らの身元はAランクチーム『餓狼鬼士団』……リーダーの大剣使いアイゼン=ジーンナム、探索者のサッフォス=マトフォール、槍使いのファルジェス=デルドファ、斧使いのダイスン=スフェラ、武闘家のヴェンドル=ポートマス、魔法師のゼッケ=ノヤール。……残りメンバーの治癒師ターニャ=シュミェットさんは無関係です」
「先に情報を集めておいてくれたのか。ありがとう。……さて、彼らだが、無関係のターニャさんを除いて冒険者資格の剥奪という処分が妥当だろう。ギルドマスター会議でそういう処分にしたことを伝えておこう」
「ふざけんなよ、俺達はAランク冒険者だ!!」
「……そこに居られるお方はSSランクオーバーの冒険者のアネモネさんだ。彼女の前ではAランクの君達など風前の塵だろう」
「あの……SSランクオーバーというのはどういうことでしょうか?」
「実はランクの見直しが検討されていてね。発案者はSランク冒険者のラインヴェルド=ブライトネス国王陛下とオルパタータダ=フォルトナ国王陛下。本来、冒険者ギルドは国家の意向に従うような組織ではないあくまで独立した組織なのだが、彼らが高ランク冒険者である以上、無視はできないからね。それに、アネモネさんの登場で冒険者ギルドのランクが時代遅れだという意見も出ていた。ということで、暫定的に、アネモネさんはSSランクオーバーという扱いになる」
……あの破茶滅茶王様達。Sランク冒険者なのか……マジか。というか、思いっきり国家に入り込まれているじゃん、どうせ若い頃に暴走した結果なんだろうけど。
「ああ……今回の件に不服というのでしたら、場所を変えて勝負してもいいですよ? ただし、次は本気でいきます。丁度試したい必殺剣もありましたし……」
「……それはどういうものなのかな?」
「大魔導覇斬という技で、大気中の魔力を圧縮して力任せにぶっ放します。当たると跡形もなく消えます。後、この術式は大気中の魔力が全てこちらの味方になるのでその場ではしばらくの間他に一切の魔法が使用できなくなりますね」
……まるで、どこかの必殺技みたいだねぇ。まあ、身体の中の魔力を使っていればどうとでもなるんだけど。それと、霊輝に関しては問題なく操れるし。
「「「「「「しっ、失礼します!!」」」」」」
あっ、六人の男が逃げた……度胸ないなぁ。
「とりあえず、彼らの分の冒険者登録の抹消とブラックリスト登録はしておくとして、まずは冒険者ギルドを修復してもらってもいいかな?」
お読みくださり、ありがとうございます。
よろしければ少しスクロールして頂き、『ブックマーク』をポチッと押して、広告下側にある『ポイント評価』【☆☆☆☆☆】で自由に応援いただけると幸いです! それが執筆の大きな大きな支えとなります。【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にしてくれたら嬉しいなぁ……(チラッ)
もし何かお読みになる中でふと感じたことがありましたら遠慮なく感想欄で呟いてください。私はできる限り返信させて頂きます。また、感想欄は覗くだけでも新たな発見があるかもしれない場所ですので、創作の種を探している方も是非一度お立ち寄りくださいませ。……本当は感想投稿者同士の絡みがあると面白いのですが、難しいですよね。
それでは、改めまして。カオスファンタジーシリーズ第二弾を今後ともよろしくお願い致します。
※本作はコラボ企画対象のテクストとなります。もし、コラボしたい! という方がいらっしゃいましたら、メッセージか感想欄でお声掛けください。




