Act.9-287 ペドレリーア大陸・ラスパーツィ大陸臨時班派遣再始動〜プレゲトーン王国への一時帰国〜 scene.1
<一人称視点・アネモネ・ドゥンケルヴァルト・ライヘンバッハ・ザール・ウォルザッハ・インヴェルザード・ジードラバイル・ヒューレイツ・グラリオーサ・ビオラ=マラキア・クレセントムーン>
アモンを連れて転移した先はプレゲトーン王国の王都の一等地に建てられた隠れ家の一つだった。
プレゲトーン王国中の諜報員が集めた情報が一挙に集まる場所――ハブの役割を果たすこの隠れ家……まあ、つまりダイアモンド帝国にある元帝都貧民街の隠れ家と同種の隠れ家ということになるねぇ。
ここから王宮までは目と鼻の先だ。ダイアモンド帝国の隠れ家やライズムーン王国の隠れ家と比較しても最も移動時間が短くて済む。
よくこんな一等地を調達できたものだと話を聞いた時には感心したものだよ。
アモンと共にプレゲトーン王宮の門まで移動する。
事前にアモンが一時帰国することを伝えていなかったため、アモンの姿を騎士の一人が発見した瞬間から城門付近は急に騒がしくなり、その騒がしさはやがて王宮全体へと広がっていく。
「お戻りになられるとは聞いておりませんでしたが。それに、アネモネ閣下もご一緒とは」
「お久しぶりですねぇ、『剣聖』ギルディアズ・ローヴァルド卿。その節は大変ご迷惑をおかけしました」
「いやいや、昔に戻ったようであの時は随分と楽しい時間を過ごさせてもらいましたぞ。……あの場に護るべき王族がいなければもう少し楽しませてもらうこともできましたがね」
「まあ、どの道そう遠くない未来に再び激突することになるでしょうから、それを楽しみにしていたらどうですか?」
「ほう、それは再び吾輩と相見える機会があるということですか。それはあんまり考えたくないお話ですな。吾輩もプレゲトーン王国もあの一件で多種族同盟と事を構える危険を冒してまで何かを成し遂げたいと思うことはありませんぞ。下手な手を打てば国が滅んでしまいますからな」
あの一件でプレゲトーン王国はジョナサンの強さを――フォルトナ王国の強さの一端を理解した筈だ。
そんなフォルトナ王国が加盟する多種族同盟と事を構えたくないと考えるのが普通……まあ、その危険を冒してまで、或いはできるだけ危険を避けながら叶えたい願いがあれば激突する可能性とあるんだけどねぇ。……そして、それが実際にある訳で。
「本日はビオラ商会合同会社の会長としてある商取引の仲介役になって頂けるように打診しに参りました。詳しい内容はこちらのメモに書いてあります。後ほど、返答を頂きたいので謁見の機会を用意頂けないでしょうか? 突然の訪問ですので、ご返答は明日以降でも構いませんが。アモン殿下にはその商取引の協力のために一時帰国をして頂きました。また明日の早朝にお迎えに参りますのでよろしくお願いします」
「ほう……商取引ですか。ふむふむ……これは早急な回答が必要なものですな。えぇ、すぐに国王陛下にその旨お伝えさせて頂きます。そうですな、しばらく王宮内でお待ち頂けますか?」
「えぇ、分かりました。……あまり無理はなさらなくて大丈夫ですよ」
「では、吾輩はこれで失礼」
「――ッ!! ボクも父上に直談判してきます。アネモネ閣下はしばらくお待ちください!」
アモンがギルディアズの後を追っていき、城門にはボク一人が取り残された。
さて、何をして暇を潰そうかな?
とりあえず、小説でも書こうかと「E.DEVISE」を取り出したんだけど……。
「アネモネ閣下とお見受けする。もしよろしければ、私と一戦交えてはくださらぬか?」
プレゲトーン王国即応軍・第二騎士団の団長ヴォードラル・ラジールに声を掛けられたボクは折角なので彼の求めに応じて一戦交えることにした。
◆
「本来なら我が鋼鉄の槍でお相手したいところだが、生憎と何本もある槍ではない。ストックを減らさぬためにもこの訓練用の槍でお相手しよう」
いつの間にか訓練を終えた騎士達が集まってきて人垣を築いてしまった訓練場の一角でボクは訓練用の槍を構えたヴォードラルと正対した。
「さて、こちらはどうしましょうか……そこの騎士様。その手にお持ちの訓練用の剣を一振りお貸し頂けませんか?」
突然ボクに声を掛けられた騎士は困惑しながらも訓練用の剣を一振り貸してくれた。
「その剣で本当に良いのかな?」
「そちらもメインの得物を使わないならこちらも訓練用を使っても問題は生じませんよ。勿論、フェアに行きたいので闘気などの特殊技能や圓式は使いませんので、どうぞ思う存分全力をぶつけてきてください」
騎兵の如き凄まじい突進から、全ての勢いを乗せた突きを放ってくるヴォードラル――その槍の切っ先に寸分の狂いなく剣の切っ先をぶつける。
『ヴォードラル様の刺突をこうもあっさりと!?』
ヴォードラルが目を見開き、騎士達がその光景に衝撃を受ける中、ボクは発勁の要領で槍の切っ先を吹き飛ばすと、そのまま槍の穂先に剣を這わせ、ヴォードラルへの斬撃に繋げる。
勿論、ヴォードラルもされるがままというわけではなく、素早く薙ぎ払いを放って槍を滑る剣を弾いた。
「やっぱり強いねぇ。……さて、どう仕掛けようか? うん、よしこうしよう。――我流、借りるよ、オニキス!」
スカートが広がることなど真っ向無視して(別に見たければ見ればいいんじゃないの?)、空中で木刀を回して握り直し、逆手に構えた模擬専用の剣から斬撃を放つ。
「――ッ!? 速く、それに重いッ!」
「まだまだッ! 我流、借りるよ、『剣聖』ギルディアズ・ローヴァルド卿」
「――ッ! まっ、まさかギルディアズ様の剣までも!?」
アモンのとっておき――振り下ろしを更に重く、速くした一撃。
プレゲトーン王国の『剣聖』の御業を完全に模倣し、一気に間合いを詰めたヴォードラル目掛けて斬撃を放つ。
『剣聖』の御業を完全模倣されたことに驚きながらも辛うじて反応できたヴォードラルは半歩後ろに下がって攻撃を躱すことに成功する……けど、緩い緩い。
「我流……【刺突の蒼騎士】――『フォルトナの英雄』ポラリス=ナヴィガトリア伯爵……じゃなかったヅラ師団長」
ポラリスの「莫迦者! 私はヅラ師団長ではない! ポラリス=ナヴィガトリアであるッ! というか、何故言い直したんだ!?」という無駄に五月蠅い幻聴が聞こえた気がしたけど、幻聴だから華麗にスルーし、ポラリスの十八番である鋭い刺突を距離を取ったヴォードラル目掛けて放ち――ヴォードラルの眉間に剣が突き刺さる直前で止めた。
「さて、ご満足頂けたでしょうか? まあ、後リオンナハト殿下の剣とか、かの暴君な総隊長殿――シューベルトの剣とか色々と使える技もありますけど、これ以上やると命の奪い合いになりますからねぇ」
「……半分くらいは分かりませんが、流石の強さですな。あの革命騒ぎの時に多くの猛者がプレゲトーン王国に集結しておりました。ブライトネスのラインヴェルド陛下にバルトロメオ王弟殿下、フォルトナのオルパタータダ陛下、プリムヴェール殿、フィートランド王国のティアミリス第一王女殿下……しかし、あの方々と比較しても次元が違う強さを持っているとあの時から感じておりましたが、まさかここまでとは」
「あの時のメンバーも更に修羅場を潜り抜けてもっと強くなっていますよ。ボクも模擬戦で本気を解禁する場面が度々出てきましたから。かくいうボクもあの頃よりも成長しているつもりですけどねぇ」
「しかし、それほどの強さをお持ちなら恐れるような敵などいないのではありませんか?」
「そうでもありませんよ。戦闘とは総合力のぶつけ合いですからねぇ。剣だけではなく、闘気などの特殊能力に魔法……そういったものを交えた総合力が重要となります。どれか一つでも秀でていれば勝てるという訳でも基本的にはありません。まあ、例外はありますけどねぇ」
「そういった技術の心得がない吾輩にとっては夢物語のような話ですな。して、それほどの力を持つアネモネ殿が恐れる敵とは一体どのようなものなのか、もしよろしければ後学のためにお教え頂きたい」
「そうですねぇ……まあ、何人かいますが、直近で戦う可能性があるところで言うと、奈落迦媛命でしょうか?」
「奈落迦媛命……聞き慣れぬ名ですな」
「プレゲトーン王国はペドレリーア大陸の中でも最も男尊女卑が激しい国、ボクに対してもあまり良い気持ちはお持ちではないことでしょう。女は無学で、浅慮で、力無き弱者、そうお思いなのではありませんか?」
「お恥ずかしい話、そういう思想がプレゲトーン王国にあることは否定できませんな」
「ボクの前世にもそういった男尊女卑の思想はありました。……まあ、平安の世も初期の頃には女性でも社会の一員として活動できるだけの許容はあったのですけどねぇ。奈落迦媛命とは、ボクの生まれる千年以上昔にそういった思想に真っ向から対立したある意味先駆者と呼べる女性です。まあ、人間じゃなくて、鬼……異形の存在だったんですけどねぇ。現代まで続くその島国の神の子を自称する皇帝を頂点とする王朝に対して真っ向から挑み、神の領域に至ることを目指した伝説の鬼、それが奈落迦媛命です。老若男女、身分すら気にせず多くのその思想に賛同した味方を従えた彼女にとっての指標はただ一つ、個人の強さのみ。そうしたルールの中で出発地点が生贄でありながら、後に幹部の一人にまで上り詰めた者もいます。その当時の最高戦力を持ってしても封印することしかできなかった化け物――それが、何故かこの世界にやってきていて、更に今後、このペドレリーア大陸で起こる可能性のある大きな戦いに参戦する可能性が濃厚というんですから、流石のボクでもちょっとだけ不安な気持ちになりますよ」
「ちょっと不安だけで済む話じゃないだろ! というか、そんな化け物がこの世界に来ているのかよ!!」とヴォードラル達の内心は一致し、恐怖に震え上がった。
お読みくださり、ありがとうございます。
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それでは、改めまして。カオスファンタジーシリーズ第二弾を今後ともよろしくお願い致します。
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