Act.9-278 ペドレリーア大陸・ラスパーツィ大陸臨時班派遣再始動〜暗雲立罩める生徒会選挙と四大大公家〜(3) scene.1
<三人称全知視点>
ミラーナと圓にきっちりと進むべき道を示されてしまったミレーユだった……が、それでもミレーユは必死に足掻いた。
生徒会選挙に出てリズフィーナと戦うなど自殺行為――そのような悪手を打たずともリズフィーナの生徒会長再任を阻止できる方法はあるのではないかと。
ミレーユの錆びついた脳細胞が本当に久しぶりに高回転し、遂に最高の一手を思いついたのである。
そして、ミレーユは自らの保身のために動き出す。
彼女が候補者として思いついたのは、リオンナハトだった。
人気と人望が極めて高いリオンナハトであれば、リズフィーナに太刀打ちできるのではないか? というミレーユにしては至極真っ当な考えである。
しかし、思い出して欲しい。ミラーナは「ミレーユが生徒会選挙に出てリズフィーナに勝利していれば未来が変わっていた」と言っていた……つまり、仮にリオンナハトが勝利しても未来は大して変わらない可能性が高いのだが、ミレーユは完全にそのことを失念していた。
そして放課後、ミレーユは早速鼻歌交じりに、上機嫌な顔でリオンナハトのクラスに向かった。
その顔がそう遠くない未来に絶望に染まることになることなど知る由もない者の笑顔だった。
「ちょっと、よろしいかしら?」
教室に入り、扉近くで話に花を咲かせている女生徒の一団に話しかける。
「はい、あっ、ミレーユ姫殿下?」
突然の大物の登場に、驚きながら振り返る女生徒。
ミレーユはそんな彼女に愛想笑いを浮かべる。
「ご機嫌よう。リオンナハトはいらっしゃいまして?」
「え? あ、はい。リオンナハト殿下は、剣術の鍛練に行かれました」
「まぁ、精が出ますわね。ということは、鍛練場の方かしら?」
「どうなんでしょうか。あ、ですが、アモン殿下もご一緒でしたよ?」
ちょっぴり慌てた様子で、隣の女生徒がこっそりと潜めた声でアモンの情報も追加する。
「あら、アモンもなんですの? ということは……もしかすると、あの場所ということもありえるかしら……」
ミレーユの言葉を聞いて、女生徒達は一様にビックリした顔をした。
「ん? どうかされましたの?」
「あっ……いえ、なんでもありません」
「……まぁ、いいですわ。ありがとう、助かりましたわ」
帝国の姫らしい美しいカーテシーを決めてからミレーユは教室を後にする。
ミレーユが教室を去った後、ミレーユがリオンナハトとアモンを呼び捨てにしていたことに気づいた女子生徒達が「どちらが本命なんだろう?」と黄色い悲鳴を上げながら楽しい恋バナをしていたのだが、まさか恋バナのネタにされているなど自分の保守のことでいっぱいいっぱいのミレーユには想像もつかなかった。
◆
ミレーユの予想通り鍛錬場にリオンナハトとアモンの姿は無かった。
代わりにエイリーンの侍女としてついてきたカレンとヨナタン&ジョナサンの神父コンビが死闘に匹敵する試合を繰り広げており、お関わりになりたくないと思ったミレーユは速やかに鍛錬場を後にする。
その後、もしかすると馬上での剣術訓練をしているのではないかと思っていた厩舎の方へと向かったが……。
「……やっぱり、いないですわね」
「おお、誰かと思えば、ダイアモンドのお嬢ちゃんじゃねぇか?」
リオンナハトとアモンの姿を探しているミレーユの背後から唐突に掛けられた声を辿り、背後を振り返るとそこには大柄な先輩の姿を見つけた。
馬用のブラシを片手にミレーユを見下ろしていたのは馬術部部長の龍馬と……。
「あら、これは龍馬先輩、ご機嫌よう。お久しぶりですわね」
「おう、久しぶりだな、嬢ちゃん。休みの間、きちんと馬に乗ってたか?」
「ええ、もちろんですわ。……ところで、何故エイリーン様がこちらにいらっしゃるのかしら? まさか、馬術部に入るのですの? それに、そちらの方は?」
「……まあ、確かに馬を扱えるようには見えませんわよね?」
「……いえ、そういう意味ではありませんの。ただ、ちょっと意外だったので驚いただけですわ」
「まあ、この方は超二流を自称する器用万能ですからね。なんでも卒なくこなす方ですから、なんでわざわざ馬術部を選んだのかと気になったのでしょう? ご挨拶がまだでしたね、私はレオネイド=ウォッディズ、フォルトナ=フィートランド連合王国で騎馬総帥を務めております」
騎馬総帥――つまり、騎馬隊の頂点に君臨する馬のプロだ。
圓はフォルトナ=フィートランド連合王国の貴族として学院に通っているため、フォルトナ=フィートランド連合王国の関係者を招くことも別段不思議なことでもないが、何故わざわざレオネイドを学院に連れてきて、龍馬と対面させる理由があったのか色々と考えてみたが、ミレーユの中で答えは出なかった。
しかし、圓が体験入部のために厩舎に来てないとすると、この二人の顔合わせが目的だったことは流石にミレーユでも容易に察することができる。
「しかし、この騎馬総帥様は凄いなぁ。まさか、こんなに早く馬達と打ち解けるなんて」
「まさか、学院に来たばかりでも厩舎の馬達と打ち解けたのですの? 荒風とも?」
荒風はミレーユと因縁ある馬だ。
ミレーユを見ると嚔を吹っかけて、揶揄おうとする悪癖があるのは玉に瑕だが、荒々しい走りに長けており、その速度は凄まじい。
「レオネイド閣下は動物に好かれやすい体質なのですよ。最終的にヅラ師団長の手に渡った風邪引きの白馬の調教や、フォルトナ王国から私に送られたテルミナリスちゃん……コルディリネ・テルミナリス・ドナセラという赤みがかった黒い馬もレオネイド閣下が調教なされたのですよ」
「エイリーン様の馬を調教……また、それは凄いですわね」
「いえ、そうでもないですよ。エイリーン様ならもっと上手く育てたあげることができたと思いますし。それに、今では私よりもエイリーン様に懐いていますからね。……ああ、そうでした。本日はエイリーン様にお誘い頂き、龍馬と三人でとある共同研究をしようとその打ち合わせに集まったのですよ」
「共同研究……ですの?」
馬術とあまり関わりのなさそうな研究という単語を聞き、ミレーユは首を傾げた。
「ミレーユ様には八技という技術があることは説明しましたね。まあ、基本人間が使うことを前提にしているんですが、馬上戦闘ではその力を思う存分発揮できない……つまり、弱体化してしまうんです。そこで、ミレーユ姫殿下の霸気修行ももう後数回というところまで来ましたし、馬に八技を習得されることが可能かどうか実践してみようと思いまして」
「あの、エイリーン様。霸気の修行ってもうあまり回数がないのですの?」
「あっ……そういえばお話ししていませんでしたね。とりあえず、私が直接教えるのは後数回になります。そこからは自主練習でも大丈夫だと思いますので。それと、ディオン様への手紙ありがとうございました。先ほど返信が届きました。今後はダイアモンド帝国と学院を往復しながらディオン様に闘気と八技の扱いを伝授しようと思っています」
「……よ、よろしくお願いしますわね」
あの地獄のような日々が間も無く終わることと急に聞かされたミレーユはあまりにも唐突だったため、実感に乏しかった。
唐突に告げられて訳も分からず、ディオンの修行に関する話も生返事になってしまう。
「まあ、無理のない程度にしばらく往復することになりますので、何かダイアモンド帝国に運んでおいてもらいたいものがあれば遠慮無く仰ってください」
「で、でしたらエイリーン様のご協力で完成したレポートを複製してルードヴァッハに送ってもらうことは……さ、流石にできませんわよね?」
「いいですよ? でしたら本日の修行後、原本を受け取りに参ります。あっ、そうそう、まだ今日は修行がありますからねぇ、いつもの時刻に生徒会室にお願いします。……えっと、それからお探しの二人は浜辺にいると思いますわ」
「あっ、やっぱりあそこでしたの? エイリーン様、ありがとうございます。早速行ってみますわ」
「ああ……と、そうだ。お嬢ちゃん、足元に気を付けた方がいいぞ。さっきその辺りで、こいつが……」
「えっ……?」
龍馬が声を掛けるが、時既に遅し。
龍馬が頭を抱え、レオネイドが顔を顰める中、ミレーユの耳朶をぺしょりと不吉な音が鳴った。
気が進まなかったが、ミレーユはそれでも嫌々ながらも、足元に目を落として……悲しげな声を上げた。
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それでは、改めまして。カオスファンタジーシリーズ第二弾を今後ともよろしくお願い致します。
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