Act.9-277 ペドレリーア大陸・ラスパーツィ大陸臨時班派遣再始動〜とある留学生の学院生活日記〜 scene.1
<一人称視点・ガラハッド=オーデルヘルム>
最初はフォルトナ王国を救った英雄である圓様と共に学ぶことができる機会としか捉えていなかったペドレリーア大陸のオルレアン教国立セントピュセル学院での学生生活だが、いざ実際に始めてみるとなかなか興味深い経験の連続だった。
フォルトナ王国の学園は基本的にフォルトナ王国出身の王侯貴族が通う。
そこには公平を謳い、表向きは存在しないことに生徒達の親の身分がそのまま序列となる小さな社会が確かに存在している。
それは、セントピュセル学院においても同じだが、様々な国の生徒が集まるセントピュセル学院は一国だけで完結していたフォルトナ王国の学園よりも当然ながら複雑になっている。
各国の選ばれ者が集まる故に、学院内部には明確なヒエラルキーが存在し、爵位の低い貴族の子女はまるで従者の如く扱われる。
平等を謳いながら、その裏にあるのは平等とかけ離れた世界の縮図だ。
その頂点に立つリズフィーナもこのセントピュセル学院の歪みを根本から解決できていないところを見ると、完璧には程遠いように思えてならない。……『聖女』と呼ばれても所詮は人の子ということなのだろう。
この学院に留学した我々フォルトナ=フィートランド王国の留学生達は果たして彼らにどう映ったのだろうか?
完成された世界の縮図に突如現れた枠外の者達――彼らに共通するオルレアン神教会の教えを共有しない未知を前に、彼らはどう扱って良いか戸惑い、入学直後には様子見の姿勢を取っていたようだが、入学から数日経つと彼らはフォルトナ=フィートランド連合王国を学院のヒエラルキーの下位層に押し込んでしまおうという考えに至ったらしい。
実際にフォルトナ王国に併合されたフィートランド王国は学院においてはヒエラルキーの下位層に位置していたのだから、その延長線でフォルトナ=フィートランド連合王国もヒエラルキーの下位層に分類されるのは至極当然という考えに至ったのも別段不思議ではない。
……いや、そもそもそういった考えに至っていたが、リズフィーナが言外に匂わしていた「ベーシックへイム大陸から遥々やってきた留学生達と友好関係を築きましょう」という言葉の牽制があってなかなか動くことができなかったのかもしれないが。
しかし、彼らは――ダイアモンド帝国の中位貴族の子息達は動いてしまった。
……その結果が目の前の惨状だ。
「あーあ、こりゃまた派手にやりましたわねぇ。校舎の壁の一部が吹き飛んでいますし、かなり広範囲にヒビが入っていますねぇ。幸い、そちらのダイアモンド帝国の侯爵子息様二名、伯爵子息様七名、子爵子息様五名は……見た目は無傷ですが、聖属性の強力な回復魔法で辛うじて生存しているだけで、本来なら出血多量で死んでいてもおかしくありませんでした。エルシー……やり過ぎですわ」
「はい、承知していますが全然全く後悔しておりませんわ! あの方々が何を口にしたのかお姉様はご存知ですか? 大国ダイアモンド帝国に劣るフォルトナ=フィートランド王国の留学生など好きに扱っていい。特にお姉様は美しいですから慰み者にするなどという卑猥な妄想を垂れ流しにしておりました。……万死に値するとは思いませんか?」
「……うーん、まあ、そこまで酷いことでもないんじゃないかな? まあ、子供の戯言ですし、時には聞き流すことも大切――」
「あっ、あの! エイリーン様! 彼方の方々はエイリーン様だけでなく、私やエルシー様に対しても同様のことを……」
「……よし、サクッと処分しちゃおうか?」
やはり愛するソフィス様を慰み者にするという発言は聞き流せないということか、一瞬にして掌をくるくるとひっくり返し、脚を光に変化させてダイアモンド帝国の貴族子息達に明らかにオーバーキルの攻撃を仕掛けようとした圓様。
これには、圓様の逆鱗に触れる証言をしてしまったリーシャリス様も真っ青になってしまっている。
「な、なな、何故、ど、どど、どういうことですの!?」
圓様の光の速度の蹴りが炸裂する……というその時、騒ぎの場に現れたのは『帝国の深遠なる叡智姫』という異名で知られるミレーユ姫だった。
「ミレーユ姫殿下、この蛮族達が大国ダイアモンド帝国の貴族子息である我らに攻撃を仕掛けてきたのです! 姫殿下、あの愚か者達に帝国の偉大さを教えてやってください!」
「ま、まさかこの方達、わたくしに死ねと言っているのですの!? か、勝てる訳ないじゃありませんか!」
「さぁ、どうでしょう? 私一人相手にダイアモンド帝国、プレゲトーン王国、ライズムーン王国が総玉砕覚悟で挑んできたら……もしかしたら、もしかするかもしれませんよ」
「……分が悪過ぎる賭けですわね。わたくしは絶対にお断りですし、リオンナハトもアモンも絶対に味方についてはくれないと思いますわ。この人はディオンが百人いても絶対に勝てない化け物みたいな方ですし、わざわざ何の実りもない戦争なんてするものじゃありませんわ」
あの圓様相手にこれだけ堂々と振る舞えるのはなかなか……だと思ったが、心拍がかなり早まっているようだし、額からは汗がダラダラと流れている。
何故かミレーユ姫殿下の心の内を読むことはできないが、やはり圓様を目の前にして緊張しないことの方が不可能か。
「……今回の件、ダイアモンド帝国の姫として深くお詫び致しますわ。わたくしの監督が行き届かないばかりに不快な思いをさせてしまい、申し訳ございませんでした」
「ひ、姫殿下! こんな奴らに――」
「……心中お察しします。まあ、帝国貴族も一枚岩ではないことは素人目でも分かりますし、例え統制が取れていてもこうして勝手な行動をして大きな騒ぎを起こすことはよくありますからねぇ。まあ、そう言った失敗を利用して戦争に持っていくのも外交の手法ではありますが、私とミレーユ姫殿下は友人関係にありますからねぇ。……エルシーへの暴言はちょぉっとイラって来て殺意を抱きましたけど、まあ、仕方がありませんので水に流しましょう」
「……ご寛大な対応、ありがとうございますわ。……ところで、エイリーン様も似たような経験をしたことがあるのかしら? ちょっと、わたくし、エイリーン様がこうして第三者に振り回されているところを見たことが……あれ? そういえばありましたわね」
「プレゲトーン王国の一件では本当にご迷惑をお掛けしましたわ。幸い、部下に関しては恵まれた経験しかないのですが、上司ガチャは外れしか引いていないように思えます。ラインヴェルド陛下然り、オルパタータダ陛下然り……あれは鉄砲玉よりタチが悪いですわ」
私の隣ではリーシャリス様が物凄いスピードで首肯している。……そういえば、統括侍女でリーシャリス様の母君でもあるミナーヴァ様はオルパタータダ陛下の被害者の一人だったな。
「あー、そうそう、ミレーユ姫殿下。あの件に関しての覚悟は決まりましたか?」
「えっ……ううっ、そうですわね。も、もう少しだけ時間を頂けないかしら?」
「(……リオンナハト殿下やアモル殿下に助けを求めても無意味なんだけどねぇ)……まあ、重大な決断ですからじっくりと考えて決断して頂きたいですわね。それでは、私達はこれで失礼致します」
圓様はソフィス様を連れてその場を離れた。その頃には壁も時空魔法で修復され、先ほどの騒ぎの証拠は跡形もなく消えていた。
「ガラハット様、リーシャリス様。お二人にもご迷惑をおかけしましたわね」
「ミレーユ姫殿下、頭をおあげ下さい! どちらかというとカレン様やフリストフォル様が暴れ出さないか、そっちにヒヤヒヤしていましたから」
カレン様とフリストフォル様も場合によっては参戦することになっただろう。
あの二人まで暴れ始めると止めるのは不可能だ。圓様が参戦したことで二人の動きを止められたのは僥倖だったな。
「しかし、本当に面倒ですわ。やっぱり、フォルトナ=フィートランド連合王国はダイアモンド帝国に比肩……あるいは凌駕する国力を持っていると学院内で広める必要があるかもしれませんわね。わたくし、戦争に巻き込まれて死ぬのはごめん被りますわ」
「ダイアモンド帝国とフォルトナ=フィートランド連合王国、どちらが国力が上かは正直分かりませんが、我々の立場が明確になればこのような状況になることもきっと減りますね。こういうことが続くと心臓が持ちませんから、何かしらの手を打って頂けると有難いです」
「勿論、そのつもりですわ。わたくしも多種族同盟とは敵対したくありませんもの」
その後、ミレーユ姫殿下はリズフィーナ様、リオンナハト殿下、アモル殿下に働き掛け、二度とこのような状況にはならないように学院内で共同声明を出すことになった。
その結果、フォルトナ=フィートランド連合王国はダイアモンド帝国、ライズムーン王国と同格の扱いということになり、ああいった騒ぎは起こらなくなった。
◆
過ごしにくい環境は共同声明によって変わったが、それでもフォルトナ王国の学園に通っていた方が過ごしやすい学園生活を送ることができただろう。
まあ、この学院でしか得られない経験もあった。学院で学ぶ授業の内容はフォルトナ王国の学園のレベルと大差がないが、多国籍の学院での生活で生じるこうした諸問題に直面した経験はこの先の人生できっと大きな糧になると確信している。
……まあ、それよりもリーシャリス様と共に直談判して夜に図書室で行ってもらえるようになった圓様の講義の方が得難い経験ではあるが。
この講義を当たり前のように享受できるブライトネス王国の姫殿下や王女宮の侍女達が少し羨ましい。
この講義にソフィス様は不参加だが、リオンナハト殿下達に闘気と八技を教える対価として圓様から別の講義を受けているそうで、あちらはあちらで頑張っているようだ。
王女宮で行われている授業は既に魔法学園で行われているものに比肩するという。ソフィス様の受けている講義は間違いなくそれ以上のものということなのだろう……一体どのような講義を受けているのか私には想像もつかない。
圓式も無事に習得し、学問でも遥か先を進んでいる……比較するのは烏滸がましいことなのかもしれないが、同じ留学生でも随分と差が生じている。
その差をこの学院生活を送る間に少しでも縮めたいものだ。
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