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百合好き悪役令嬢の異世界激闘記 〜前世で作った乙女ゲームの世界に転生した悪役令嬢が前世の因縁と今世の仲間達に振り回されながら世界の命運を懸けた戦いに巻き込まれるって一体どういうことなんだろうねぇ?〜  作者: 逢魔時 夕
Chapter 9. ブライトネス王立学園教授ローザ=ラピスラズリの過酷な日常と加速する世界情勢の章〜魔法の国事変、ペドレリーア大陸とラスパーツィ大陸を蝕む蛇、乙女ゲームの終焉〜

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Act.9-274 ペドレリーア大陸・ラスパーツィ大陸臨時班派遣再始動〜暗雲立罩める生徒会選挙と四大大公家〜(2) scene.1

<三人称全知視点>


 一日の授業を終えたミレーユは、早速リズフィーナの部屋を訪れた。

 オルレアンの最高権力者の娘であるリズフィーナであるが、普段暮らしているのはミレーユ達と同じ女子寮である。


 距離的には実家から通っても問題ないのだが、各国の次世代を担う者達との交流を重視して、そのようにしているのだという。


「さっ、行きますわよ」


 ミレーユは自らの後ろに控える少女に声をかけた。

 少女――ミレーユの孫娘であるミラーナは緊張に強張った顔でミレーユを見つめる。


「あの、おば……お姉様? 本当に大丈夫でしょうか?」


「そうですわね、あなたがわたくしのことをうっかりお祖母様なんて呼ばなければ大丈夫なのではないかしら?」


「むー……お姉様、意地悪です」


 ぷーっと頬を膨らませるミラーナの肩を押してミレーユはドアをノックした。


「失礼致します、リズフィーナ様」


「ああ、いらっしゃい、ミレーユさん。あら? その子は?」


 笑顔でミレーユを出迎えたリズフィーナは、ミラーナの方に目を向けて、小さく首を傾げた。

 かく言うミレーユの方もリズフィーナの部屋にお茶セットを持ち込み、カップを片手に微笑を浮かべている先客(エイリーン)の姿を見て首を傾げたくなる。……何故この人はこの部屋にいるのだろうか? 神出鬼没なのだろうか?


「ボクはちょっとミレーユさんとリズフィーナさんに話したいことがあってねぇ。まあ、それほど急ぐ話題でもないし、先に説明した方がいいんじゃないかな? その子のこと」


「あら? 圓様はその子のことをご存じなのかしら?」


「まあ、色々と事情があってねぇ。ああ、ミレーユさんが話したいと思っていたことはその子に関することだよ。あのトーマス教授のゴタゴタで言い出しにくい状況になってしまったみたいだけどねぇ……」


「ええ、圓さんの仰る通り、実は話というのは他ならぬこの子のことですの。同席をお許し頂けますかしら?」


「ええ、それは構わないのだけど……困ったわ。お茶菓子、ミレーユさんの分しか用意してなかったの」


「まぁ! それは大問題ですわ!」


「ご安心を、勿論お二人の分のお茶菓子と飲み物もご用意していますよ」


 半ば本気で心配したミレーユだが、そのミレーユの心配を察した……といえか、予想していたのだろうエイリーンが微笑を浮かべ、ミレーユとミラーナ分のお茶菓子の準備を始めた。


「本当に申し訳ないわね。お客様にお茶の用意をさせちゃって」


「ああ、気にしないでください。一応、王女宮筆頭侍女としての顔も持っていますからねぇ。こちらが押しかけた形ですし、そうお気になさらず。ああ、一応お二人とも紅茶で良かったですか? それとお茶菓子はクッキーを用意しましたが、ご希望があればケーキなどもご用意致しますよ」


「まあ! ケーキ!?」


 圓手製のショートケーキを二人分用意してもらってからいよいよ話が始まった。


「それで、お話とはなにかしら?」


「ええ……その」


 ミレーユはわざとらしく言い淀んで見せてから、紅茶を一口含む。口の中に広がるのは甘い花の香りだった。

 気分を落ち着けるように……そう見えるように、ミレーユはほうっとため息を吐いてから「実はこの子は、わたくしの、その……妹ですの」と用意していた答えを口にする。


 さも言いにくいことを言うかのような様子で……あまり深く触れてくれるな、と言外に主張するように。


「え? だけど、ダイアモンド帝国の皇女は確か」


 首を傾げるリズフィーナに、意味深に頷いて見せて、ミレーユは答える。


「ええ、わたくし一人、ということになっておりますわ。公式には……」


 公式も非公式もなく、実際、この時代の皇帝の血を引くのはリズフィーナの記憶通りミレーユ一人だけだが……。


 ――申し訳ありません、お父様。少しだけ泥を被って頂きますわ。


 心の中で父親に「ごめんなさい」と呟いてから再びのアピールする。

 突っ込まれればボロが出る話題――言いにくいことなのでそっとしておいて、と全力でアピールするミレーユである。


 そんなミレーユの祈りは天に通じた。リズフィーナは全てを察した様子で頷く。


「まぁ、国を統べる者としては当然のことね。お世継ぎがミレーユさん一人では何かあった時に大変でしょうし……」


 それから、リズフィーナはミラーナの方に目を向けた。


「なるほど、確かによく見るとミレーユさんに似てるわね。それで、ミレーユさんの妹さんの……えーっと」


「あ、ご挨拶が遅れました。ミラーナ・ブラン・ダイアモンドです。よろしくお願いします、リズフィーナ司教て……いたっ!」


 ミラーナの足を隣で踏んづけてから、ミレーユは「おほほ」と笑みを浮かべた。

 それで誤魔化すことができたとホッと一息吐こうとして、ミラーナの言葉に何故か表情が少し曇ったリズフィーナに嫌な予感がしたミレーユは「どうなさったのですか? リズフィーナ様?」と気遣いの言葉を掛ける。


「いえ、『司教帝』ね。……トーマス先生が仰っていたことを思い出したの。……私も俄には信じ難かったのだけど、『断罪王』と『司教帝』の話。あの時、トーマス先生は『未来のこの大陸は二人の愚物に支配されることになる。一人は『断罪王』と呼ばれたリオンナハト、そしてもう一人は『司教帝』と称され、恐れられることになるリズフィーナ』……つまり私であると仰った。『断罪王』に関しては分からないのだけど、蛇に踊らされた私は邪教結社『這い寄る混沌の蛇』との戦いを訴え、近隣国に義勇兵を募り、そうして集まった兵で聖司教軍を作り上げると、この国を神聖オルレアン帝国へと移行し、周囲の国々に恭順を求め、徹底した管理体制による破壊活動の防止を行い、司教帝の手足となって動く聖司教軍を用いて、潜んだ邪教徒の掃滅を行おうとするそうよ。その結果としてこの大陸の秩序は崩壊し、蛇の手の中で踊らされ暗黒時代に突入する……あの時、私には何故そのようなことをしたのか理解できなかったから何も言い返せなかった。でも、ミレーユさんとミラーナさんは何か知っているんじゃないかな?」


「リズフィーナ様、そこまでですよ。……トーマス先生はペラペラと色々話してしまいましたが、本来この問題は貴方達自身の手で解決すべき問題です。答えを焦ってはいけない。過程をすっ飛ばして手に入れた結論には意味はないのですからね。寧ろ、その答えに至る過程――道こそに意味があるのですよ」


 鋭い眼光でリズフィーナを睨め付け、追及を斥けた圓は「ふぅ」と一息吐くと柔和な笑みを浮かべた。


「正直、この先起こることを全て知っているボクが全部解決しちゃった方が早いに決まっています。しかし、それでは意味がありません。そうやって全部取り上げたらミレーユ様達の成長の機会を奪ってしまう……ボクはそれが嫌なのですよ。だから、最低限のサポートと皆様では解決できない諸問題の解決のためだけにボクは動くつもりでいます。その方針を変えるつもりは……まあ、無かったのですが、これからは多少の例外は出てきそうですねぇ。さて、ボクの方から答えられる範囲で疑問には答えましょう。まず、トーマス先生の仰ったことは事実です。起こり得る未来の一つというところでしょうか? 当然、世界は枝分かれしていきますから、そのどこかにその未来に行き着く切っ掛けはあります。幸い、『断罪王』のルートはほとんど潰れているに等しい状況です。あともう一押しというところですが、まあ、その辺りはその時期になったらまたミレーユ様に頑張って頂きましょう。今回、重要なのは『司教帝』ルートですねぇ……勿論、話してしまえば意味が無くなるためその直接的な切っ掛けについてはミレーユ様にもミラーナ様にもリズフィーナ様にもお伝えできません」


「……でも、そこに生徒会は関係するのは間違いないのよね?」


「……まあ、あれだけトーマス先生が反応すれば誰でも分かりますよねぇ? えぇ、その通りです。間接的な要因の一つではあります。単刀直入に申し上げますが、リズフィーナ様――今の貴女は生徒会長に相応しくない」


 底冷えするような冷たい視線をリズフィーナに向けながら放ったその一言はオルレアンの権威に真っ向から対立するもので……ミレーユには理解し難い危険なものだった。


「トーマス先生風に言えば、リズフィーナ様、貴女は肝心なことを何も理解していない莫迦なのですよ。まあ、流石にこれはちょっと言い過ぎだと思いますけどねぇ。……生徒会長戦に出馬するかどうか、まだミレーユ様は決められていないと思いますから、もう一度熟考して答えを出してもらいたいですが、もし、出馬するのであればトーマス先生のご依頼通りご協力させて頂きます。ただし、その場合は条件がありますけどねぇ」


「……条件、とは一体どのようなものなのかしら?」


「まず、これはリズフィーナ様にも関係することだけどボクは生徒会に入るつもりはない。王女宮筆頭侍女に、商会経営に、領地経営に、後臨時班関連の仕事もあるからねぇ。まあ、できないことはないけど流石にオーバーワーク過ぎるからやめておきたいなぁって思っている。まあ、商会と領地の方は優秀な幹部達が頑張ってくれているから随分と楽をさせてもらっているんだけどねぇ」


「……はぁ」


 侍女の仕事に商会の経営に領地の運営に今回の臨時班での学院潜入……この人一人で何役こなしているんだろう? と過労死待ったなしのブラックスケジュールにミレーユ、ミラーナ、リズフィーナは苦笑いを浮かべた。


「三千世界の烏を殺し……時空魔法があるとはいえ、ボクにできることは限られている。別にボクは万能でも天才でもないただの凡人だからねぇ。努力で補える部分にも限界があるし、餅は餅屋というじゃない。本当にそういう人がいっぱい味方に居てくれているから何とかなっている部分もあるんだよ」


 「優秀な部下か居ていいでしょう?」っていう自慢なのかな? と圓の話を聞いて思うミレーユとリズフィーナ。この一聞無駄に聞こえる自慢話が実はリズフィーナに足りない点を示す最大のヒントであることにミレーユとリズフィーナが気づくことは無かった。


「もう一つだけど、流石にミレーユさんに無条件で協力っていう訳にはいかないからねぇ。手伝う代わりにボクのお願いも一つ聞いてもらいたい。大丈夫、悪いようにはしないよ」


「……はぁ。わ、分かりましたわ」


 目の前のドSな性格の圓を信じ切れないが、ニコニコと人のいい笑みを浮かべる圓に流石に信じられないとは言い出せず、ミレーユは怯えながらも圓の提案を飲んだ。

 ……まあ、まだ選挙に出ると決まった訳ではないが。


 ……とはいえ、今回の生徒会選挙に出馬しなければならないのは間違いないのですわよね。


 生徒会選挙の話題が出た後、嫌な予感がしたミレーユはミラーナに生徒会選挙について問い、未来のルードヴァッハが「ミレーユお姉様が選挙に出て、リズフィーナ司教帝を負かしたなら、きっとその後の歴史の流れは変わっていただろう」と言っていたという話を聞いた。


 そして、圓はミレーユの生徒会選挙出馬を当選のように受け入れているだけでなく、あのリズフィーナに勝利することすら当然のことと捉えているようだった。……あのリズフィーナにミレーユが勝てるとは思えない。恐らく、何かしらの仕掛けがありそうだが、ミレーユにはそれが何なのか全く思いつかない。


 ……それに、そもそもその方法も使えない可能性が高いのですわよね。


 トーマスの依頼は完膚なきまでリズフィーナを叩き潰せということだった。つまり正面から小細工抜きにリズフィーナを突破しろということである。

 そこから逆算すればリズフィーナは何らかの小細工かミラクルによって生徒会選挙で落選したことが分かるが、今回はその手法が使えない。


 ……正直、勝てる見込みが全くありませんわ!


 唯一の勝利方法(ミレーユはまだその方法が具体的に何なのか知らない)を封じられ、ハードモードが確定した生徒会選挙に放り込まれることが色々な意味で確定したミレーユは憂いの表情で溜息を零した。

 お読みくださり、ありがとうございます。

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 もし何かお読みになる中でふと感じたことがありましたら遠慮なく感想欄で呟いてください。私はできる限り返信させて頂きます。また、感想欄は覗くだけでも新たな発見があるかもしれない場所ですので、創作の種を探している方も是非一度お立ち寄りくださいませ。……本当は感想投稿者同士の絡みがあると面白いのですが、難しいですよね。


 それでは、改めまして。カオスファンタジーシリーズ第二弾を今後ともよろしくお願い致します。


※本作はコラボ企画対象のテクストとなります。もし、コラボしたい! という方がいらっしゃいましたら、メッセージか感想欄でお声掛けください。

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