Act.9-271 ペドレリーア大陸・ラスパーツィ大陸臨時班派遣再始動〜動き出すラスパーツィ大陸の臨時班〜 scene.2
<三人称全知視点>
「護衛の騎士を倒し、ここまで侵入したのか? ……何が目的だ?」
「ああ、俺達はただの付き添いだ。しっかし弱いなぁ、この国の騎士。全然張り合いが無かったぞ? なぁ、オルパタータダ」
「ああ、クソつまんなかったぜ。本当に大丈夫かよ、こんな警備で」
「貴方達のような凄まじい霸気の使い手なんて想定している訳ないでしょう!!」
ラインヴェルドとオルパタータダが本来敬うべき王族であることなど思考の彼方に放り投げ、「ぜーはーぜーはー」言いながら円華は全力でラインヴェルド達に突っ込みを入れた。
「イリオット=フィクスシュテルン皇太子殿下ですね。私達は遠い海を隔てた先にあるベーシックヘイム大陸より参りました。こちらのお二人はその大陸にあるブライトネス王国とフォルトナ=フィートランド連合王国のラインヴェルド=ブライトネス国王陛下と、オルパタータダ=フォルトナ国王陛下です。そして、私はアクア=テネーブル、こちらはブライトネス王国で大臣をしているディラン・ヴァルグファウトス・テネーブルです。私達四人はこちらの四季円華様の付き添いとして参りました」
「……海を隔てた国の者達、それも王族や大臣が何故我が国の皇城に襲撃を……その理由がその四季円華という女にあるというのか? しかし……」
「疑問をお持ちになるのも当然ですわね。殿下と私は初対面です。……正直、ここまでの被害を出すことは想定していませんでした。怪我人はいないとはいえ昏倒させてしまった方は騎士を中心に大勢います。本当に申し訳ございませんでした」
「おいおい、それじゃあ俺達が悪い奴みたいじゃねぇか!」
「絶対にラインヴェルド陛下達が悪いです! って、きっとこの場に圓様がいらっしゃったらそう仰ると思いますわ」
「アハハハ! 絶対に親友ならそういうぜ!」
「お嬢様なら青筋立てながら鉄拳制裁をしそうですよね。関係ない俺やディランにまで」
「何関係ないみたいな顔をしているんですか! 止めなかったお二人も同罪ですわよ!! ……と、そんなことをしている暇はありませんわ。話を戻しますわね。私はイリオット=フィクスシュテルン皇太子殿下にお伝えすることがあって参りました。確たる証拠もありませんが、イリオット皇太子殿下――貴方様の命が狙われている可能性があります」
◆
イリオットは目の前の少女の口から飛び出した言葉に衝撃を隠せなかった。
皇城を守護する騎士達を突破し、ここまでやってきた目的……てっきり身代金か? それとも婚約者の座か? 途轍もない要求をされると思いきや、飛び出したのはイリオットへの忠告。
命が狙われる可能性というだけで、円華と名乗った少女自身確証がある訳ではないようだが、彼女の表情は真剣そのものでとても混乱を引き起こそうという人物のものとは思えない。
「……私の命を狙っているのは何者なのだ?」
だから、イリオットは問うことにした。
「イリオット様です」
どこかの貴族の雇った暗殺者のような答えを想像していたイリオットにとってその問いの答えはあまりにも予想外過ぎた。
「……貴女は一体、何を言っているのか?」
「ああ、円華様。それじゃあ信じてもらえないですよ。……もっと分かりやすく説明しないと。まずは貴女が何者なのかを明かすところから始めたらどうでしょうか?」
あまりにも気持ちが先走り過ぎて様々なものを吹っ飛ばして結論だけ述べてしまったことを恥ずかしく思いながら、円華はアカウントを切り替え、セレンティナの姿となった。
「私は四季円華、セレンティナ=フリューリングの記憶を持つ転生者です」
「……確かに少しだけ大人びているが、セレンティナ=フリューリング、私の婚約者だ。……しかし、どういうことだ? 私の婚約者は今――」
「皇城の一室で皇妃教育を受けているのですわよね? 承知しておりますわ。先程も述べた通り私は転生者です。そう遠くない未来、セレンティナは命を落とします。そして、その記憶を受け継ぎ、幾度となく新たな人生を送るのですわ。そして、五度目の姿が四季円華――つまり私です」
状況が飲み込めないイリオットに円華はこの世界が三十のゲームを基にした世界であることと共に自分が経験した五度の人生について掻い摘んで説明した。
「私がセレンティナと婚約破棄し、暴君と成り果てて三度目の人生を生きるセレンティナ――ラスヴェート=アウトゥンノ男爵令嬢によって討伐される……だと? 意味が分からない……私がセレンティナとの婚約を破棄する筈がないし、皇帝に即位して暴君と成り果てるのも意味が分からないし、挙句セレンティナに私が討たれる……セレンティナの言葉だとしても何をどう信じればいいのか分からないんだが」
「あっ、そういえばお嬢様からこれを預かってきました」
アクアが取り出したのは五冊の分厚い本だった。
美しい装丁の本には 『蛇の海〜絆縁奇譚巻ノ一〜』、『妖魔斬刀〜絆縁奇譚巻ノ二〜』、『日蝕〜絆縁奇譚巻ノ三〜』、『氷の伯爵と二輪の花〜絆縁奇譚巻ノ四〜』、『滅存の認識者〜絆縁奇譚巻ノ五〜』という円華には馴染み深い題名が記されている。
「……これは?」
「お嬢様がこの世界の基となったゲームを発売し終えた後、小説に再編集して発売した作品です。セレンティナ=フリューリング、夏江朔那、ラスヴェート=アウトゥンノ、ニコル=アヴァランチ・ウィンター、四季円華――円華様の五つの人生をそれぞれ一冊にしたもので、圓様はこれをボクは正史として出版したと仰っていました。こちらをイリオット殿下に差し上げます」
アクアから手渡された五冊の本をイリオットは受け取ると机に置いた。
「セレンティナの五度の人生だ……圧縮されているとはいえ、長いのは当然だな。しかし、私はこれを読まねばならない。私がセレンティナにいかなる仕打ちをしたのか、何故、私は愛する人によって滅ぼされなければならなかったのか、知る義務がある。……そうすれば、未来の私が、暴君と成り果てたイリオットが私を殺しにやってくる理由も分かるのだろう?」
「私は未来のイリオット様の心情を考えてそう結論付けました。確証がないのはそのためですが、きっとイリオット様も同じ結論に至ると思います。……ラインヴェルド陛下、魂魄の霸気をお貸し頂けますか?」
「ん? ああ、いいぜ?」
ラインヴェルドはイリオットに白い羽の意匠が施されたナイフを手渡した。
「そのナイフを持ち、《蒼穹の門》と唱えれば転移することができます。御身に危機が迫りましたらお使いください。それでは、私達は失礼します」
「――待ってくれ! セレンティナやギィーサムには会っていかないのか!!」
「……元々私はこの世界はこの世界の者達のものだと思っていました。私は既に世界の枠から外れた身です。……この世界でセレンティナが断罪されるのも運命、致し方ないことだと思っていました。……だけど、私と戦った未来のギィーサムにこの世界のギィーサムに同じ思いをさせないで欲しいって遺言をされてしまったの。……私はギィーサムとイリオット殿下が苦しい思いをしなければそれで十分だわ。こちらから無理に会おうとは思わない……もし機会があれば会うことになると思うわ。それでは、失礼致します」
円華の姿に戻ったセレンティナはラインヴェルド、オルパタータダ、アクア、ディランと手を繋いで『管理者権限・全移動』を発動する。
「――殿下、ご無事ですか!」
ようやく目を覚ました護衛の騎士に怪我がないことを伝えた後、イリオットは五冊の本を携え、皇帝のもとへと向かった。
◆
イリオットはフィクスシュテルン皇国皇帝ラポワント一世に襲撃者の目的について説明し、その後、皇帝の命を受けてイリオットは襲撃者の持ち込んだ五冊の本を読み解いて襲撃者が予言したイリオットの暗殺に関する情報を集めることになった。
その物語はあまりにも壮絶で、孤独となったセレンティナの心の痛みが克明に刻まれていて……特に壮絶な戦いの末に海洋民族ティ=ア=マットを滅ぼし、風邪気味の中、海で死闘を繰り広げたことで肺炎を拗らせ……それでも皇帝と皇太子に海洋民族ティ=ア=マットを滅ぼしたことを伝えるため謁見しようと皇城を訪れるも平民の娘は皇宮に入る資格なしと騎士に追い払われ、失意のまま死去する場面や、生まれ変わったセレンティナがギィーサムが自殺をしたことを知って墓の前で泣き崩れる場面、葛藤しながらも民の平穏を取り戻すために暴君と化したイリオットを討伐する決断を下す場面は涙せずには読むことができず……それ故に、その後の二人の貴族令嬢の間で右往左往するセレンティナの物語は少しだけ拍子抜けで……幾度となく嫉妬に駆られたが、最終章で唐突に始まってしまった円華と繁松に転生したギィーサムの壮絶な戦いを読み進めていくと胸が締め付けられる思いがした。
(イリオット的にはある一部を除いて)壮絶な人生を送ることになったセレンティナ。
そのセレンティナが再び繁松と戦い、彼からギィーサムの救済を託された――その意味を最終章を全て読み終えた時、ようやくイリオットは理解することができた。
「……あの最悪な未来を現実のものにしてはならない」
全てはジェルエナ=コーツハートから始まった。
当然、ジェルエナに対しては何かしらの対策を講じなければならない……が。
「例え、ジェルエナ=コーツハートに操られていてもセレンティナを傷つけたのはこの私とギィーサムだ」
皇帝となったイリオットは誰よりもイリオット自身を恨んでいた筈だ。
彼はセレンティナを失ったことで壊れてしまったのだから。
「……私を殺せばセレンティナを断罪する者はいなくなる、確かにそう考えるかもしれないな」
セレンティナはイリオットの死で傷つくだろうか? 例えそうだとしても断罪されて失意のままに死ぬよりはマシだと考えてもおかしくない。
「……いや、最早そのようなことを考えられるような状況でもないのかもしれないな」
イリオットへの恨み、怒り――負の感情で埋め尽くされた未来の『暴君』が襲ってくるかもしれない。
そんな状況に置かれても自分の命を心配する気持ちは僅かも生まれなかった。それよりも、もし自分が死んだらセレンティナが傷ついてしまうかもしれないという不安の方が大きく、それだけが心配だった。
お読みくださり、ありがとうございます。
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