Act.9-263 ペドレリーア大陸・ラスパーツィ大陸臨時班派遣再始動〜図書館の幽霊〜 scene.2
<三人称全知視点>
「エイリーンさんにエルシーさん、フィリイスにマリアまで……珍しい組み合わせですわね?」
「フィリィス様とマリア様に図書館で偶然お会いしまして、良さそうな天気なので外で一緒に昼食を取るのはどうかとお誘いしたのですわ。ご一緒させてもらえないかしら?」
あの恐ろしい圓の申し出を断れる勇気がミレーユにある筈もなく、ミレーユはエイリーン達の同席を許可した。
手早く敷物を敷き、手作りのサンドイッチの入った籠を丁度四人の中心辺りに置いた後、エイリーンはにっこりとミレーユに微笑み掛けた。ドSな性格のエイリーンの満面の笑みを見て思わず顔が引き攣ってしまったミレーユだった。
「お初にお目に掛かりますわ。私、エイリーン=グラリオーサと申します。こちらは妹のエルシー=グラリオーサです。以後お見知り置きくださいませ」
「お二人はフォルトナ=フィートランド連合王国からの留学生ですわ。グラリオーサ辺境伯とグラリオーサ宮中伯の二つの爵位を持つ貴族のご令嬢で、エイリーンさんの方は王宮への城勤め経験もあるのですわよね?」
「えぇ、慣習の行儀見習いで入城し、そこでの力を認めて頂く幸運に預かり、侍女として働かせて頂いておりましたわ。フォルトナ=フィートランド連合王国とオルレアン神教会が敵対していないことをアピールすることを目的の一つとして……まあ、表向きは文化交流を目的にしているのですが、留学生派遣の話が持ち上がった際に我が国の国王陛下より留学を命じられ、留学生の一人として妹と共に参りました」
この虚実ない交ぜになったもっともらしいエイリーンとエルシーの経歴は事前にミレーユ達に伝えられているものだ。
流石にローザとしての経歴は話せないので嘘が巧妙に混ぜられているが、役職が家庭教師だったとはいえフォルトナ王国での宮仕え経験はあるので概ね間違っていなかったりする。
「ミレーユ様はお二人と面識があるのですか?」
「えっ、ええ。わたくしとエイリーン様には共通の友人が居て、お二人のことはその友人からお話を聞いていましたわ。実際にお会いしたのは入学式の時でしたわね。正直、あまり初めてお会いした気はしませんでしたわ」
「えぇ、私もです。『帝国の深遠なる叡智姫』のお噂は海を隔てた大陸にも届いておりましたから」
仮面を被ったやり取りをしながら、ミレーユは「本当に胡散臭い方ですわよね。なんでこう口から出任せを息をするように並び立てることができるのかしら?」などと思っていた。
ミレーユの友人でオルレアン神教会から賓客として招かれている留学生達であるならば敵対する必要がないとルーナドーラ達も警戒を解く。
そして、ミレーユにとっては最悪のことではあるが、挨拶が終わったところで話はルーナドーラ達が始めた怪談へと戻っていった。
「さて、幽霊が実際いるのかいないのかという話ですわねぇ。マリア様とフィリイス様はどのようにお考えでしょうか?」
「私は幽霊についてはちょっと分からないんですけど……でも、悪魔憑きは、領内によく出るから知ってます」
「なるほど、悪魔憑きですか。確かにそういった現象がこの大陸にはあると聞いておりますわ。……まあ、実際に目に見えない悪魔や悪霊が憑依するという訳ではなく、多くの場合がトランス及び憑依障害と呼ばれる病を患っているだけなのですけどねぇ」
「……トランス及び憑依障害ですか?」
「フィリイス様、こちらの話です。まあ、悪魔は確かに実在していますが、少なくともこの大陸には存在していないと理解して頂ければ良いと思いますわ。……魔力が満ち溢れているにも拘らず、この大陸には魔物も発生していません。悪魔がもし魔物的な存在であるとすれば、それ以外の魔物が存在しないのも不自然。そういった超常現象を疑うよりも科学的見地に基づいた方が良いと私は考えています。まあ、オルレアン神教会の枠外の異端的な考え方ですわ。まあ、そういう考えもあるのだと流して頂いて構いません。……ところで、マリア様。悪魔憑きと幽霊はどのように結びつくとお考えなのでしょうか?」
「えっ……そんな難しいことじゃなくて、悪魔みたいな目に見えない怪物がいるんだったら、幽霊だっていてもおかしくないんじゃないかな、って思いまして」
「なるほどなるほど。妖怪がいるなら幽霊もいる、そういった考え方ですわね。確かに一理あると思いますわ。では、続いてフィリィス様、お考えをお聞かせ頂いてもよろしいでしょうか?」
マリアの言葉は完全に盲点をついていてミレーユを怯え上がらせるのに十分だったのだが、ここで話を切り上げることなく圓はフィリイスにまで話を振った。
「これは私の持っている本なのですが、東の島国に伝わる妖怪図版集と言って……えーっと怖い怪物の絵を集めたものなんです」
首がやたらと長い何かや、目玉が三つある何かや、人間を丸飲みにしている何か……フィリイスの持っていた本には得体の知れない者達が描かれており……ミレーユは恐怖のあまり倒れそうになった。
慌てた様子でマリアが抱き留める。ミレーユは真っ青な顔で、小さく首を振った。
「だっ、だっ、大丈夫、ですわ。ちょ、ちょっと、眩暈がしただけ……。すぐによくなりますわ」
フィリイスの持っていた本を見て気分が悪くなったミレーユを眩い光が包み込む。
その瞬間、どんよりとしていた気分が少し落ち着いた。
ミレーユだけが気づくようにウィンクする圓に「きっとあの方が何かをしたのですわね」と察する。……まあ、ああいった超常現象は魔法の使える圓か魔法のある大陸からやってきたソフィスにしかできないので、必然的に容疑者はどちらかに絞られるのだが。
「なるほど……まあ、確かに妖怪も幽霊に含まれると言えば含まれますねぇ。……私の認識だと幽霊と妖怪はまた別のものなのですが」
「先程からお話を聞いていると、エイリーン様はまるで幽霊というものが存在しているとお考えのようですわね」
「そうですわねぇ。ルーナドーラ様、私は幽霊も妖怪も悪魔も実在していることを前提に話していますわ。まあ、今回の件に悪魔や妖怪は関係ありませんので割愛しますが、皆が一般的に想像する幽霊は確かに実在している筈です……実はこちらに来てから実際に見たことはないのですが。まずは、幽霊と密接に関係する魂というものについて考えなくてはなりませんねぇ。魂が存在するか、それとも存在しないのか、オルレアン神教会の中でも意見が割れて長きに渡って議論されている内容だと思われますが、結論から申しますと魂は実在します。魂を持つ生物は全て神々の世界で管理されている輪廻の輪と呼ばれるものから転送された魂を持って生まれ、死によって魂は輪廻の輪に戻っていくという循環の中で生きています」
「あの……もしそれが事実なら幽霊は存在しないことになるのではありませんか? 全ての魂は死と共にこの世から去ってしまうのですから」
「えぇ、魂に関してはこの世から去ってしまいます。フィリイス様の仰る通りです。しかし、人の魂は魂魄とも呼ばれます。どちらも魂を示す言葉ですわ。天からやってくる魂とは違い、人の魂の半分にはそれぞれの世界に存在し、生命の誕生と共に魂と融合する魄と呼ばれるものがあります。死後、魂は天へと還りますが、魄は地上で分解され、再び新たな魂魄の素材となります。しかし、強い未練などが染み付いてしまった場合、元の素材に戻らずに世間一般で幽霊と呼ばれるものに変化してしまう場合があるのですわ。……妖怪にも様々あるように、幽霊にも色々な形があります。個人の強力な意志が魄を変質させた幽霊、特定の場所に滞留した強い意志が魄を変質させた幽霊……もし、興味がありましたらそういった幽霊を纏めた本がありますのでお貸し致しますわ」
どこからともなく取り出したミレーユにとっては確実に地雷な本を嬉々として掲げる圓に「やっぱりこの人性格が悪いですわ!」と心の中で叫ぶミレーユだった。
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