Act.9-261 ペドレリーア大陸・ラスパーツィ大陸臨時班派遣再始動〜学院都市セントピュセルの四人の留学生〜 scene.3
<一人称視点・エイリーン=グラリオーサ>
生徒会室での説明が終わった後、ボクはミレーユと共に《蒼穹の門》でボクの管理している屋敷の一つに転移した。
転移の経験がないミレーユはいきなり転移させられたことも相まって思考の限界に達したのだろう。完全に固まってしまっている。
「まずは突然拉致ったことを謝罪しておくよ。まあ、あっちはソフィスさんが説明してくれるだろうし、さっき転移した直後の時間に後で戻してあげるから心配しなくていい」
「……な、ななな、何が起きたんですの!?」
「《蒼穹の門》という力でミレーユ姫を空間転移させたんだ。ここはボクの保有している屋敷――学院都市セントピュセルのあるペドレリーア大陸とは異なる大陸にあるどこか……とざっくり認識してもらえばいいんじゃないかな? まあ、ここがどこかなんてことは些細な話だよ」
「さ、些細!? 一体どこがですの!? わたくし、攫われたのですよ!!」
「別に危害を加えようって訳じゃないよ。ミレーユ姫には他の面子とは違うカリキュラムを受けてもらう必要があった。あっちはあっちでソフィスさんから初日の修行をつけてもらっているけど、ミレーユ姫って可能であるならすぐに逃げようとするでしょう? だから先手を打って逃げ道を塞がせてもらった」
「き、鬼畜ですの!!」
「まず、やらなければならないことは三つある。じゃあ早速始めて行こうか? 陰陽術・読心封殺!」
陰陽五行エネルギーを込めた「霊符」を取り出してミレーユに翳し、込められていたエネルギーをミレーユに浴びせる。
「い、いい、いきなり何をするのですの!?」
「今、ミレーユ姫に掛けたのは『読心封殺』という呪……まあ、呪いみたいなものだよ。でも、別に危険なものではなくてねぇ。これを掛けられると他者に心の中を読まれることが無くなるんだ。悪鬼や怨霊の中には相手の心を読み、欲望につけ込んでくる輩も居てねぇ、そういった奴らに対処するために開発された技の一つだ。今後、リオンナハト殿下達は心の中を読むことができる力を手に入れる。そうなると、『帝国の深遠なる叡智姫』の鍍金が粉砕されかねない。ミレーユ姫が実は小心者で自分ファーストだってバレたらボクも君もまずいからねぇ。今のタイミングでその対策をさせてもらったって訳。ここまではいい?」
「ぜ、全然ついていけないですの……」
「まあ、この辺りはそこまで深く考えなくていいよ。重要なのはここからだから。闘気や八技――リオンナハト殿下達はこれから二系統の技術を学んでいく。でも、勉強嫌いなミレーユ姫はそんなに沢山のものを学んでも理解できないよねぇ?」
「……本当にわたくしのこと、よく理解しているのですね」
「まあ、多分君以上に君を理解していると思うよ。……さて、ミレーユ姫に習得してもらうのはたった一種類の力だ。実際のところはそこから大きく三……場合によっては四区分に分かれるんだけど、それぞれの使い方は進捗を見て順次学んでいこうか?」
「……なんだか大変そうですわね」
学友やルードヴァッハにはあまり弱みを見せないけど、ボク相手には結構弱みをみせてくれるんだねぇ、ミレーユ。色々と知られているから隠しても無駄って思われているのかな?
「まだまだボクもこの力に関しては模索している最中なんだ。まあ、応用に関しては一旦忘れてもらっていい。ミレーユ姫、君に習得してもらいたいのは霸者の気と呼ばれる力だ。闘気と呼ばれる力に含まれるものではあるのだけど、その中でも『王の資質』という選ばれし者だけが有する資質が使用するためには必須となる」
「『王の資質』……ですの?」
「君の周りだとアモン殿下、リズフィーナ様、リオンナハト殿下、マリアさん、ディオンさんが有している才能だねぇ」
「……王族に多い資質なのかしら? でも、マリアさんは王族ではありませんわよね?」
「確かに王族が『王の資質』を持っていることは非常に多い……というか、持っていないことの方が珍しい。要するに『王の資質』っていうのは王と呼ばれるに相応しい者の持つ資質ってことだからねぇ。マリアさんに関してはちょっと不思議に思っているようだけど、ミレーユ姫は前の時間軸で実感している筈だよ? リオンナハト殿下の助力を得てダイアモンド帝国に革命を起こしたのが一体誰だったか忘れた訳じゃないよねぇ? 『王の資質』っていうのは上に立つ者の資質であり、カリスマ性と言い換えることもできる。まあ、でも一番しっくりくる表現は人を惹きつける才能かな? 『王の資質』を持つ者には人が集まってくる。中には『王の資質』を持つ者すらも自らの周りに集めてしまうほどの才能を持った存在もいる。……ボクはミレーユ姫もそういう存在であると確信しているんだ」
「わ、わたくし、ですの? そんなまさか……」
「『王の資質』は鍛えることによって制御できるようにはなるものの強化することはできない才能で、本人の成長によってのみ強化されていく。……まあ、例外もあるようだけど。先ほど述べた中でレベルの高い『王の資質』を持つのはリズフィーナ様とリオンナハト殿下、次点でアモン殿下という感じなんだけど、ミレーユ姫はリズフィーナ様の倍くらいの資質がある」
「は、倍ですの!?」
「本当に凄まじいよねぇ。このレベルの『王の資質』を持つのは真白雪菜さんや刻曜黒華さん、四季円華さん辺り……まあ、鍛えれば猛者にすらなれる素質を持っているんだよ。まあ、個人的にミレーユ姫にはそのままでいて欲しいんだけどねぇ。……とりあえず、ミレーユ姫には霸気の最も基礎的な使い方である霸気の発散――威圧を会得してもらいたいと思う。覇王の霸気と呼ばれる外側に霸気を向ける技術の基礎中の基礎だ。結果として威圧されることによって相手を気絶、無力化させることができることもあるんだけど、この力を浴びたものは戦うまでもないくらい実力差があると威圧感により気絶してしまうという方が正しい。……この実力差は霸気の強さが関係しているから、別にミレーユ姫が戦う術を持たずとも気絶させることはできるよ。とりあえず、まずはこの威圧の技術をしっかり会得してもらい、そこから応用編に入っていく。まずはお手本を見せよう」
ミレーユを連れて屋敷の外に出る。この屋敷はブライトネス王国の外れにある比較的弱めの魔物が生息している森の一角にあって、あんまり人が来ないから霸気の威力を試すにはもってこいなんだよねぇ。
早速ウヨウヨと湧いてきたのはフラジャイル・スライム。そこそこ高い物理耐性と脆過ぎる魔法耐性、そして極めて低い攻撃力を持つ魔物だ。
「な、なんなんですの!?」
「ああ、魔物を見たことが無かったっけ。こっちの大陸には普通に生息している生物みたいなものだよ。じゃあいくよ! 覇王の霸気!」
ミレーユを威圧しないように避けて集まってきたフラジャイル・スライムに纏めて覇王の霸気をぶつける。
霸気を浴びた瞬間、フラジャイル・スライムは一斉に固まってドロドロと溶け始めた。……別に死んだ訳じゃなくて、気絶して形を保てなくなったからドロドロに溶けたんだよ。まあ、この状態で内部にある核を砕けば死亡するんだけどねぇ。
「イメージは全身から威圧感や殺気を発散させる感じ――感情を荒げてそのエネルギーをぶつける感じかな? まあ、習うより慣れろだよ。ほら、スライム達が集まってきたし、早速トライ!」
「ま、待って……まだ、わたくし、全然分かってなくて……」
そこからの修行は難航に次ぐ難航だった。イメージを掴めれば簡単なんだけど、それがなかなか難しい。
フラジャイル・スライムに勢いよく飛び掛かられた拍子に転び、ドレスもボロボロに……ミレーユの精神もボロボロに。
追い詰められ、泣きべそをかきながらその後も必死にやったけど威圧することはできず。
で、最終手段として「ギロチンの恐怖を思い出してみたら?」とアドバイスして、「もう一度あの生々しい感触を味わいたい?」と質問して「もう二度とあんな思いはごめんですわ!!」という意志の発散を引き起こすことに成功した。……いや、長かった。長過ぎたよ。
「終わった……終わりましたわ。できましたわ……長かったですわ。ドレスもボロボロ……最悪な気分ですわ」
「ドレスと傷は時空魔法で修復しておくよ。とりあえず、感覚は掴めた?」
「えっ……ええ、多分大丈夫ですわ」
「……本当かな?」
「ほ、本当ですわ!! ……そういえば、後一つわたくしにして欲しいことがあるのですわよね?」
「あっ、ああ、そうだったねぇ。ディオンさんへの手紙を一筆認めて欲しいんだ。ディオンさんにも闘気と八技を会得してもらっておきたいからねぇ。ボクが担当するからその修行を受けてもらいたい旨と、ディオンさんの判断でその技術を必要だと思った人に広めてもらいたい旨を書いてもらいたい」
「てっきりもっと大変なことをお願いされるのかと思いましたわ」
「……ボクってそんなに鬼畜に見える?」
「……鬼畜以外の一体何者なのかしら? 分かりましたわ、ディオンに手紙を書いておきますわ」
「ありがとうねぇ。それじゃあ、そろそろ生徒会室に戻ろうか? そうそう、修行は明日以降も授業終わりの夕刻に行うからねぇ。期間は霸気をある程度扱えるようになるまでの間――ということで、しばらくよろしくねぇ」
「よろしくしたくありませんが、するしかないのですわよね。……よろしくお願いしますわ、圓様」
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それでは、改めまして。カオスファンタジーシリーズ第二弾を今後ともよろしくお願い致します。
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