Act.9-249 開幕! ULTIMATE EIGHT!! 第二回戦第三試合 scene.1
<三人称全知視点>
二回戦第三試合――ラインヴェルドとオニキスの戦いは剣と魔法、どちらの分野でも天賦の才を持つラインヴェルド側に軍配が上がるのではないかと思われていた……が。
「てめぇ、切札を隠していやがったな! オニキス!!」
戦闘開始からずっとオニキス側が一方的に主導権を握る状態が続いている。
その原因となっているのは一回戦第一試合でアクア相手に使わなかったオニキスの切り札の存在だ。
「本来はもっと先の戦いで使いたいと思っていたとっておきですが、俺はアクアに敗北したので優勝の可能性は潰えましたから。……もう優勝できないならこれ以上順位を落とさないように切り札も遠慮なく切っていこうと方針を変えました」
優勝を目指すのであれば隠し球を多く持っておいた方がいいが、一戦でも敗北して優勝の芽が無くなったのであれば切り札を後生大事にしておくメリットは薄くなる。それよりも順位を落とさないためにあらゆる手を尽くす方針へと転換したのだろう。
「……たく、魂魄の霸気《真・漆黒修羅騎士》だったか? 本当に厄介な魂魄の霸気だぜ」
オニキスの有していた魂魄の霸気《漆黒騎士団》を更に【再解釈】することで誕生した《真・漆黒修羅騎士》。
これまで《漆黒騎士団》が有していた正の強化《昇華》以外の負の強化《弱体化》の二つの効果を有する《強化》、漆黒騎士団のメンバーを模した漆黒の騎士団を作り出す《騎士団》に加え、武装に闇属性を付加し、攻撃力と敏捷の上昇、更には次回の攻撃技威力上昇の効果を有する《修羅舞昇》、空間にヒビを入れるほどの振動を操る《震撃波》、最大七つまで付与することができる印をつけた場所へ瞬時に転移することが可能となる《印転移》を獲得している。
これまで時空魔法やラインヴェルドの魂魄の霸気に頼っていた転移能力の自力取得と攻撃面の大幅な強化がこの【再々解釈】によって行われており、基本の戦闘スタイルの長所を伸ばしつつ弱点の一つを補填したバランスがいい強化に仕上がっている。……まあ、それでもオニキスは魔法をほとんど使わないため相変わらず剣に偏った戦闘スタイルではあるのだが。
ラインヴェルドは序盤でいつも通り魂魄の霸気《転移》のナイフをばら撒いて戦闘の準備を整え、開始早々霸王の霸気を纏わせた剣を構えて《蒼穹の門》を使ってオニキスの死角に転移し、奇襲攻撃を仕掛けるも、オニキスは裏武装闘気で創り出した短剣に《印転移》を付与してラインヴェルドのいる方向とは反対方向に投げてから《印転移》を発動して一度目の奇襲を回避――その後もラインヴェルドとの直接対決を避けてバトルフィールドを逃げながら魂魄の霸気《修羅舞昇》と魂魄の霸気《昇華》を組み合わせて発動し続けることで攻撃力と敏捷、次回の攻撃技威力上昇のバフを蓄積し続けた。
今では神速闘気を纏わない素の速度で神速闘気を纏ったラインヴェルドと互角か、ほんの少しだけ速いレベルまで達している。
流石に際限なく魂魄の霸気《修羅舞昇》によってバフを蓄積できるなどということは無い筈だが、魂魄の霸気《修羅舞昇》の限界がどこにあるのか、そもそもこの魂魄の霸気自体初見であるラインヴェルドには想像もつかない。
このままバフを積みまくられてしまったら敗北もあり得ると流石のラインヴェルドも焦りを見せ始めた。
「《蒼穹の門・飛閃神威》」
高速転移を繰り返しながらオニキスを狙って斬撃を浴びせていくラインヴェルドだったが、裏武装闘気で創り出した短剣に《印転移》を付与して絶妙な投擲で転移先を上書きしていくオニキスに翻弄され続ける。
そして遂にラインヴェルドが恐れていた最悪の事態が起こった。二十四度目の魂魄の霸気《修羅舞昇》を使った直後から、オニキスは逃げに徹することをやめて再び戦う構えを見せたのである。
それが意味するのは魂魄の霸気《修羅舞昇》を積み終わったということ――ラインヴェルドを撃破する準備が整ってしまったということだ。
逃げに徹されてしまえばラインヴェルドがオニキスを撃破するのは至難の業だ。
オニキス側から仕掛けてくるのであれば、その攻撃を真っ向から打ち破って反撃すればいい……と言葉にしてみればそれだけだ。
しかし、ただでさえ高い戦闘力と敏捷が上昇している状況に、更に求道神や覇王神による追加強化が行われる可能性があるとなれば、その言葉を実行に移すのは流石のラインヴェルドといえど困難を極める。まあ、困難を極めたとしても実行する以外にラインヴェルドに残された手は残されていないのだが。
「ああ、俺、追い詰められているな。かつてないくらいに追い詰められている。だけど、何故なんだろうな? 今、凄いワクワクしているぜ!」
「我流――お借りします、オルパタータダ陛下! 圓さん」
フォルトナ王国の王室で代々継承されてきた剣技である「王家伝剣」と圓式基礎剣術の融合。
相棒の剣技と親友の剣技――どちらもあまりにも見慣れた剣故に、見気でその動きを捉えることも通常であれば可能……なのだが、魂魄の霸気《修羅舞昇》によって斬撃の速度が更に増したことで見気で捕捉することがほぼ不可能となった。更に攻撃力と次回の攻撃技威力上昇も厄介で、特に次回の攻撃技威力上昇の効果が乗ったオニキスの一度目の斬撃はラインヴェルドであっても受けきれないほど強烈なものであった。
見気でもついていけない神速の戦いにラインヴェルドがついていけているのは、「王家伝剣」の動きを完全に熟知したラインヴェルドが先手を打ち続けるからに過ぎない。
見気で攻撃を先読みするよりも先に動いて剣を受け止めることができるからこそ、ラインヴェルドはオニキスの怒涛の攻撃を受け止めることができている。まさに薄氷の上を履むような戦い――その均衡はあまりにもギリギリのところで保たれている。それ故に、もしほんの僅かでも歯車の狂いが生じれば一瞬にして瓦解してしまうだろう。
「魂魄の霸気《弱体化》!」
「こいつはまずい! 追いつけねぇ!! これはもう相手が剣士だから剣だけで相手するとか、もうそんなことを言っていられる状況じゃねぇな! 晩鐘の断光壁! 燦く星の流星群! 魂霊崩壊」
オニキスが魂魄の霸気《弱体化》を使った瞬間、ラインヴェルドは次のオニキスの懺悔には受け止めきれないと即断して剣士として戦うことを放棄した。
光の分布を強制的に偏らせることで光が存在する座標を自身の前に設定し、いかなるものも消滅させる壁を作り出す「晩鐘の断光壁」を展開してオニキスの斬撃を阻止――オニキスも剣に求道神レベルの求道の霸気を纏わせていたため単一宇宙並みの強度と求道の霸気に込めた「絶対に剣先を消滅させない」という頑なな意志で光による消滅の阻止には成功したが、上空からは 光条の命中先に有機物・無機物、硬度、可塑性、耐熱性、弾力性を問わず対象物に光が通り抜けられる穴を穿つ光条を解き放つ恒星が出現し、足元からは光の速度で光の奔流が発生し、相手の防御も回避も許すことなく、細胞から魂までを完全消滅させる神聖魔法の光が放たれようとしている。
特に「魂霊崩壊」によってもたらされる消滅の光は例え求道神レベルまで強化した求道の霸気で身体を覆っても数秒延命するのが限界という厄介な代物で、直撃すればオニキスであっても当然消滅は免れない。
当然、オニキスは一時撤退を選択し、魂魄の霸気《印転移》を発動する。
「――ッ! 逃すかよ! 焔王の破壊狙連帯爆・全方位無差別掃射!」
再び逃げに徹されてしまえば戦いがさらに泥沼化すると判断したラインヴェルドは「焔王の破壊狙連撃」を大幅に強化し、百発を超える対物アンチマテリアルライフルの12.7x99mm弾クラスの威力を秘めた火弾を速度を維持したままガトリング砲の如く放つ「焔王の破壊狙連帯爆」を部屋を埋め尽くす勢いで全方位に向けて放ち始めた。
流石にその全てに覇王の霸気を込めれば消耗が激しくなるため武装闘気を纏わせるだけに留めているが、それでも武装闘気によって強化された火弾の貫通力は尋常ではない。
求道の霸気を防御に回せば耐え切ることも可能ではあるが、オニキスに残された霸気もごく僅か……いつまでも求道の霸気で防御を固めて逃げ続けるのは得策ではない。
「我流――借りるぞ」
低く構えを取り、剣を担いだオニキスは「求道の霸気最終領域・求道神」と「覇王の霸気最終領域・覇王神」を併用――オニキスの残る霸気を七秒ほどで全て消費してしまうレベルの強化を愛刀に込めたオニキスは俊身を駆使してラインヴェルドに迫る。
「いいぜ! そっちがその気なら俺も真っ向から潰してやる! 求道の霸気最終領域・求道神! 覇王の霸気最終領域・覇王神! 俺の霸気、全部持っていきやがれェ!!」
圓式基礎剣術も加え、圧倒的な速度と威力を乗せた薙ぎ払いの一撃を放つオニキスと獰猛な笑みを浮かべながら残る全ての力を込めて振り下ろしを放ったラインヴェルド――両者の霸気の衝突によって空間そのものが二分化されたと錯覚するように歪み、歪みの圧力で無数の亀裂が走った。
時空間に歪みが生じて時空の裂け目と呼ぶべきものが生じ、尋常ならざる衝撃波と黒稲妻が戦場を駆け巡っていることなど一切気にせず力をぶつけ合うラインヴェルドとオニキス――二人の暴力的なまでの力の鬩ぎ合いは、三分以上続き、突如として幕を閉じることとなった。
押し切られたのはラインヴェルド、霸気の量はオニキスより僅かに上回る蓄積があったが、魂魄の霸気《修羅舞昇》による能力の上昇が明暗を分けたようだ。
胴のところで真っ二つとなったラインヴェルドは斬撃の衝撃で壁に打ち付けられ、その衝撃でポリゴンの多量流出による消滅を待つことなく無数のポリゴンと化して消滅した。
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